- 公開日:2025.01.27
手足口病に対しての服薬指導とは?病気の特徴や対応方法、処方される薬を解説
手足口病は5歳以下の乳幼児が罹患しやすい感染症の一つであるため、ご家族から相談を受けることも多いでしょう。また、手足口病の治療は対処療法が基本となることから、お子さまとの向き合い方や、幼稚園は休むべきかなど、薬に関する知識以外のアドバイスを求められることが多いです。
本記事では、手足口病の基本的な特徴や服薬指導で重要なポイント、処方される薬について解説します。服薬指導のスキルを向上させたい薬剤師の方は、ぜひ参考にしてください。
- 手足口病の症状とは?基本の病態をおさらい
- 手足口病の治療方法は?治療で用いられる薬
- 手足口病の患者さまとご家族が安全に過ごすための服薬指導のポイント
- 患者さまが手足口病の治療を安心して受けられるように理解を深めておこう
手足口病の症状とは?基本の病態をおさらい
まずは、手足口病の症状や感染経路などの基本についておさらいしていきましょう。
手足口病とはどんな病気?
手足口病は、5歳以下の乳幼児を中心に主に夏季に流行する感染症であり、2歳以下が半数を占めますが、小学生でも流行的発生がみられることがあります。また、成人を含めた小学生以上の大半は、すでにウイルスの感染(不顕性感染も含む)を受けている場合が多いため、成人での発症はあまり多くありません。
手足口病の原因となる主なウイルスはコクサッキーウイルスA6(CA6)、CA16、CA10、エンテロウイルス71(EV71)などです。
手足口病の主な症状
手足口病でみられる主な症状は下記の通りです。
発熱は発症者の約3分の1にみられますが軽度であり、38℃以下のことがほとんどです。症状は発症後、通常3〜7日の経過で消退し、水疱が痂皮(かさぶた)を形成することはありません。
しかしながら、ごく稀に髄膜炎や小脳失調症、脳炎といった中枢神経系の合併症のほか、心筋炎や神経原性肺水腫、急性弛緩性麻痺などの重篤な合併症を伴うことがあります。特にEV71による手足口病は、他のウイルスによる手足口病と比べて中枢神経系の合併症を引き起こす割合が高いことが知られています。また、手足口病の典型的な症状はみられずに重症化する場合もあるため、注意が必要です。
以上を踏まえ、薬剤師は手足口病に関する正確な知識を持ち、適切な服薬指導を通じて合併症予防と適切な治療に貢献することが求められます。
手足口病の感染経路とは
手足口病の主な感染経路は、飛沫感染や、接触感染、糞口感染です。
特に、幼稚園や保育施設など、子ども同士の生活距離が近くなる場所では手足口病の集団感染が起こりやすくなります。また、乳幼児は手足口病の原因となるウイルスに感染したことがなく、そのウイルスの免疫を持っていない場合が多いため、感染すると発病する可能性が高くなります。
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▼参考資料はコチラ
Zhu P, et al. Current status of hand-foot-and-mouth disease. J Biomed Sci. 2023 Feb 24;30(1):15.|PubMed
手足口病とは|NIID国立感染症研究所
手足口病の治療方法は?治療で用いられる薬
手足口病に罹患した際に行われる治療や、用いられる薬について解説します。
手足口病の治療は対症療法が基本
手足口病の治療は対症療法が基本であり、特異的な治療方法はありません。
手足口病で出現する水疱性発疹は痛みを伴うことがあり、痛みで食事が困難になる場合は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどを含む解熱鎮痛薬を処方することがあります。
ただし、解熱鎮痛薬のうちアスピリンが含まれるものは、脳の炎症や肝機能の低下をもたらすライ症候群の発症リスクがあるため、15歳未満の小児への使用は避けるべきです。
なお、手足口病を引き起こすウイルスに対して、有効なワクチンや予防薬は現時点ではありません。
手足口病は周囲への感染を防ぐのが重要
手足口病は、患者さま本人に対する治療と同時に、周囲に対する感染リスクに配慮することが重要です。手足口病は感染力が強く、家族に感染が広がることも珍しくありません。また、主症状から回復した後もウイルスは長期にわたって排泄されることがあるため、治癒したとご家族が判断して幼稚園や保育園に登園させた結果、集団感染が発生するケースもあります。
ただし、手足口病は学校で予防すべき伝染病1~3種に含まれていないため、登校登園停止の期間の基準は設けられていません。
発熱やのどの痛み、下痢がみられる場合や食べ物が食べられない場合には登校登園を控えてもらい、本人の全身状態が安定してから登校登園を再開してもらうよう伝えましょう。
また、感染予防のために、排便後やおむつ交換後の手洗いを徹底することが推奨されているため、患者さまやご家族の方に対して手指衛生の重要性をご理解いただくことが重要です。
手足口病の患者さまとご家族が安全に過ごすための服薬指導のポイント
手足口病の患者さまとそのご家族が来局されたときに、薬剤師として伝えるべき服薬指導のポイントや、療養中の過ごし方を詳しく解説します。
水分不足に気をつける
手足口病に罹患すると、口の中に水疱性発疹が出現することが多く、水疱の痛みによって食事や水分の摂取が難しくなり、水分不足に陥ることがあります。そのため、熱いものや味の濃いものは避け、口内への刺激の少ない食べ物で栄養と水分を摂るように、ご家族に伝えましょう。
薬局でほかの患者さまとの接触を避ける
小児の患者さまが多く来局する薬局では、手足口病などの感染症対策が必要であり、患者間の接触を最小限に抑えることが重要になります。
可能であれば患者さまのご家族に状況を説明し、同意を得たうえで別室や個室で服薬指導を行うようにしましょう。
吐き気や頭痛などの症状が出現したら再度受診するように伝える
手足口病は、1週間程度で病状が改善していく病気です。しかし、もし患者さまに吐き気や頭痛などの症状が見られたら、髄膜炎や脳炎といった中枢神経系の合併症や、心筋炎などの合併症の可能性も考えられます。
合併症の出現は稀ではありますが、絶対に発生しない訳ではありません。また、手足口病の治療は基本的に自宅での療養が中心となりますが、以下の症状が出現した場合には、再度受診するように伝えましょう。
家庭の中で同じタオルを使わない
手足口病は、成人や小学生以上の子どもが感染することは稀ですが、成人が感染した場合には、症状が重篤化することもあるため、家庭内での感染予防が重要です。
同居家族が手足口病に罹患している場合は、手洗いを十分に行い、家庭内でのタオルの共用は避けるように指導しましょう。
水疱性発疹の痒みは我慢せずに相談するように伝える
通常、水疱性発疹には痛みや痒みはありませんが、治癒の過程で稀に痒みが出現することがあります。
痒みを感じた際、子どもは我慢できずに掻いてしまうことがありますが、掻くことで皮膚症状が悪化してしまう可能性があります。
水疱性発疹の痒みには、アレルギー反応を抑えるために抗ヒスタミン薬を塗布することがあるため、患者さまのご家族に情報を共有しておくとよいでしょう。(通常は外用薬として副腎皮質ステロイド剤は用いられません)
また、状況に応じて医療機関の受診をすすめましょう。
患者さまが手足口病の治療を安心して受けられるように理解を深めておこう
本記事では、手足口病の病態から治療方法の解説、服薬指導や療養中の過ごし方に関する留意点をご紹介しました。 手足口病の治療は対症療法が基本となるものの、薬剤師として服薬指導を行う際には、患者さまやそのご家族に伝えておきたい生活上のポイントもあります。
また、療養するうえで必要な注意事項のすべてについて、医師から説明を受けていない(あるいは患者さまやご家族が理解していない)可能性もあります。
そのため、薬剤師としても手足口病に対する適切な服薬指導や、生活上の留意点を十分に理解し、患者さまやご家族に対して適切な情報を提供することが重要です。周囲への感染拡大を防ぎつつ、手足口病の患者さまが安心して治療を受けられるよう、質の高い服薬指導を心がけましょう。
監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん
2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。
主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』