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  • 公開日:2024.02.28

市販薬のオーバードーズを防止しよう!注意すべき6成分について薬学的に解説

市販薬のオーバードーズを防止しよう!注意すべき6成分について薬学的に解説

市販薬によるオーバードーズ(過剰摂取)が社会問題となっています。オーバードーズを防止するために、どのような薬の成分が問題となっているのか、薬剤師として理解を深めておくことが重要です。

 

この記事では、平成26年の厚生労働省告示第252号において指定された「濫用等のおそれのある医薬品」の6成分について、どのような効能効果があるのかを薬学的に解説するとともに、オーバードーズを防ぐために薬剤師としてできることを紹介していきます。

市販薬のオーバードーズとは

市販薬のオーバードーズとは、薬局やドラッグストアで購入できる風邪薬や咳止めなどを過剰に服用することです。

市販薬は未成年でも容易に手に入る点や、大麻のような違法薬物と異なり、過剰に使用すること自体に違法性がない点に問題があります。

市販薬のオーバードーズにおける背景

公益財団法人仙台市医療センターで行われた研究によれば、医薬品のオーバードーズによって救急外来を受診する人は、2010年(年間111人)から2019年(年間20人)にかけて減少傾向にありました。しかし、2020年には1.8倍(年間36人)に増加しており、原因となった薬剤は市販の解熱鎮痛薬および総合感冒薬が最多でした。

この研究の年齢別の分析によれば、オーバードーズによる救急外来受診は20~29歳が最多で30.7%を占めました。ただし、10~19歳の若年層も少なからず存在し、全体の7.6%を占めました。オーバードーズをしてしまう背景には、学校生活におけるいじめや孤立、家庭内での虐待など、深刻な問題が潜んでいる場合もあります。

市販薬のオーバードーズによる副作用

オーバードーズによる副作用には、呼吸困難や発作、幻覚、めまいなどがあげられます。さらに、肝障害が起こったり、最悪の場合は心肺停止で死亡したりするケースも報告されています。

オーバードーズを続けることで薬物依存になってしまった場合、自力ではやめられなくなることもあるでしょう。

市販薬の販売規制強化

厚生労働省は2023年12月18日、乱用のおそれがある市販薬の販売規制を強化する方針を固めました。20歳未満の方に対する規制内容は以下のとおりであり、2025年以降の法改正を目指す方針とされています。

<20歳未満の方に対する規制内容>

  • 大容量の製品や複数の販売を認めず、小容量の製品1個のみに限る。
  • 対面または映像と音声によるオンライン購入を原則とし、薬剤師などが氏名や年齢を確認する。
  • 購入者の氏名や年齢など、販売記録の保管も店側に求められる。
  • 20歳未満の方に市販薬を安全に服用していただけるよう、規制内容について正しく認識しておきましょう。

    また20歳以上の方についても、複数の薬を購入する場合は理由を確認し、必要最低限の数のみを販売することが大切です。

    市販薬のオーバードーズの対象成分6種

    市販薬のオーバードーズの対象成分6種

    ここでは「濫用等のおそれのある医薬品」の対象となる6成分について、薬学的に解説します。

    <濫用等のおそれのある医薬品の成分6種>

  • エフェドリン
  • コデイン
  • ジヒドロコデイン
  • ブロムワレリル尿素
  • プソイドエフェドリン
  • メチルエフェドリン
  • それぞれの成分の効果や、どのような市販薬に含まれるのか、オーバードーズによる影響について解説します。

    エフェドリン

    エフェドリンの特徴を以下にまとめます。

    含有される市販薬の例点眼薬、外用痔疾患治療薬、殺菌消毒薬
    効果・下記疾患に伴う咳気管支喘息、風邪、急性気管支炎、慢性気管支炎、上気道炎(咽喉頭炎、鼻炎)
    薬効・薬理・気管支拡張作用:気管支平滑筋をゆるめて気管支を拡張する。・鎮咳作用:気管支を拡張することで咳を抑える。・血管収縮作用:中枢神経興奮による血管収縮作用により、鼻粘膜の充血を緩和する。
    オーバードーズによる影響吐き気、嘔吐、寒気、発汗、発熱、けいれん、瞳孔の散大、興奮、神経過敏、自殺行動など

    エフェドリンは交感神経を興奮させる成分であり、α受容体とβ受容体の刺激によって血管収縮作用や気管支拡張作用を示します。

    コデイン

    コデインの特徴を以下にまとめます。

    含有される市販薬の例鎮咳去痰薬
    効果各種呼吸器疾患における鎮咳、鎮静・疼痛時における鎮痛・激しい下痢症状の改善
    薬効・薬理オピオイド受容体に作用することで、中枢神経および消化器系に対する作用を示す。
    オーバードーズによる影響連用により薬物依存、呼吸抑制、錯乱などを生じることがある。

    コデイン、および次項で紹介するジヒドロコデイン等を含むコデイン製剤は、オーバードーズの原因となる市販薬の約7割を占めます。

    ジヒドロコデイン

    ジヒドロコデインの特徴を以下にまとめます。

    含有される市販薬の例風邪薬、鎮咳去痰薬
    効果・各種呼吸器疾患における鎮咳、鎮静・疼痛時における鎮痛・激しい下痢症状の改善
    薬効・薬理オピオイド受容体に作用することで、中枢神経および消化器系に対する作用を示す。
    オーバードーズによる影響連用により薬物依存、呼吸抑制、錯乱などを生じることがある。

    ジヒドロコデインは、コデインより強い鎮咳作用をもつ成分です。また、モルヒネより弱いものの、コデインより強い鎮痛作用をもっています。

    (成分の強さ:モルヒネ>ジヒドロコデイン>コデイン)

    ブロムワレリル尿素

    ブロムワレリル尿素の特徴を以下にまとめます。

    含有される市販薬の例解熱鎮痛薬、鎮うん薬(めまいを改善する薬)、催眠鎮静薬
    効果不眠症、不安緊張状態の鎮静
    薬効・薬理体内でブロムワレリル尿素のBr-が遊離し、神経細胞の興奮性を抑制することにより、鎮静・催眠作用と抗けいれん作用を示す。
    オーバードーズによる影響・連用により薬物依存を生じることがある・大量投与又は連用中の急な減薬、中止により、けいれん発作やせん妄、振戦、不安などの禁断症状があらわれる場合がある。

    ブロムワレリル尿素は睡眠の改善や、気分を落ちつかせる効果が期待でき、市販薬にも配合されています。作用の発現が早く、効果の持続時間が短い特徴があります。

    プソイドエフェドリン

    プソイドエフェドリンの特徴を以下にまとめます。

    含有される市販薬の例鼻炎用内服薬、風邪薬
    効果鼻詰まりの改善
    薬効・薬理α受容体を刺激して鼻粘膜の血管平滑筋を収縮させ、血流を減少させる。鼻粘膜の充血や腫れを抑え、鼻詰まりの改善効果を示す。
    オーバードーズによる影響交感神経刺激作用により、めまいや頭痛、悪心、嘔吐、発汗、口渇、頻脈、前胸部痛、動悸、高血圧、排尿困難、筋力低下及び筋緊張、不安、落ち着きのなさ、不眠症、妄想や幻覚を伴う中毒性精神病、不整脈、けいれん、昏睡、呼吸不全がみられることもある。

    プソイドエフェドリンは風邪薬や鼻炎薬によく含まれる成分です。オーバードーズをすると、動悸や不眠などの交感神経刺激作用による症状がみられる場合があります。

    メチルエフェドリン

    メチルエフェドリンの特徴を以下にまとめます。

    含有される市販薬の例風邪薬、鎮咳去痰薬、鼻炎用内服薬、外用痔疾患治療薬、抗ヒスタミン薬主薬製剤、鎮痛・鎮痒・消炎薬、殺菌消毒薬、解熱鎮痛薬
    効果・下記疾患に伴う咳気管支喘息、風邪、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻炎)・蕁麻疹、湿疹
    薬効・薬理・気管支拡張作用:気管支平滑筋をゆるめて気管支を拡張する。・鎮咳作用:気管支を拡張することで咳を抑える。・抗アレルギー作用
    オーバードーズによる影響過度に使用を続けた場合、不整脈、場合によっては心停止を起こすおそれがある。

    メチルエフェドリンは耐性形成が早いため、使用量が増加しやすい傾向にあります。

    市販薬のオーバードーズを防ぐために薬剤師ができること

    市販薬のオーバードーズを防ぐために薬剤師ができること

    市販薬のオーバードーズを防ぐために薬剤師ができることとしては、市販薬の成分に対する理解を深めることや、学校薬剤師による市販薬乱用の啓蒙活動などがあげられます。

    市販薬の成分に対する理解を深める

    市販薬について、どの製品にどのような成分が含まれるのかを細かく把握している薬剤師は多くはありません。

    しかし「濫用等のおそれがある医薬品」の6成分を含む医薬品はすべて規制対象となったため、販売する医薬品が該当しないかきちんと把握する必要があります。

    適正な市販薬の購入であるかの確認を徹底する

    該当する市販薬を販売する際には、適正な使用を目的とする購入かどうかを判断するために、必要事項の確認の徹底が大切です。

    原則1人1包装までの販売とし、複数の購入希望があった場合には理由や使用状況などを確認し、問題のない場合にのみ販売しましょう。

    学校薬剤師による市販薬乱用の啓蒙活動

    市販薬のオーバードーズが問題になっている若い世代への啓蒙活動をおこなうために、学校での予防教育にも力を入れるべきだと考えられます。

    これまでは、学校における予防教育の中心は飲酒や喫煙、違法薬物でした。しかし、これからは学校薬剤師が、市販薬のオーバードーズによる健康被害や依存症のリスクを伝えていくことが重要です。

    市販薬のオーバードーズを防止しよう

    厚生労働省が市販薬の販売規制を行うなど、社会問題となっているオーバードーズ。

    薬剤師には、規制対象となる成分を含む市販薬の把握や、学校における市販薬乱用の防止活動などが求められます。

    乱用防止に関する医薬品成分への知識を深め、薬剤師として市販薬のオーバードーズを防止しましょう。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2024/02/28

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