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  • 公開日:2021.12.15

Do処方が続く際の服薬指導のポイント 〜不適切なDo処方を見逃すな〜

Do処方が続く際の服薬指導のポイント 〜不適切なDo処方を見逃すな〜

慢性疾患をかかえる患者さまは、一般的に、体調、病状が安定しているため、前回と同じ内容の処方が行われることも珍しくはありません。これは「Do処方」とよばれ、薬局でも少なからず目にする機会がありますが、「服薬指導や薬歴記載内容がいつも同じようになってしまう」と悩む薬剤師も多いのではないでしょうか。

この記事では、Do処方が続く際の注意点、服薬指導のポイントについて、解説していきます。

Do処方の注意点

Do処方のDoとは、「前回に同じ」という意味のラテン語である「Ditto」の略語です。同じ患者さまで前回と処方内容に変更がないとき、その処方のことをDo処方とよびますが、なかには、本来であれば処方が変更されるべきものがDo処方として続いてしまうケースが増えて問題となっています。このような「不適切なDo処方」を見逃さないようにするには、薬剤師の早期介入が重要です。

不適切なDo処方例とその問題点

不適切なDo処方例とその問題点

「不適切なDo処方」には以下のような例があります。

  • 症状が改善しているにもかかわらず消炎鎮痛剤、抗菌薬、下剤などが漫然投与されている(漫然投与)
  • 新たにほかの専門病院(例として泌尿器科など)を受診しその疾患に対する薬が処方されているのにもかかわらず、同様の薬が処方されている(重複投与)
  • 副作用*1が生じているのにもかかわらず、その原因と考えられる薬が処方されている
  • 病状が悪化している(たとえば血圧の上昇など)にもかかわらず、適切な処置がなされていない
  • 腎機能、肝機能が低下したため用量がオーバーしている

また、「不適切なDo処方」はポリファーマシーの原因になることが知られています。ポリファーマシーは、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」にて「単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象*2のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態」と説明されています。

薬による有害事象は併用する薬剤数にほぼ比例して増加し、6種類以上でとくに発現しやすいとのデータもあり注意が必要です。さらに、薬物有害事象が新たな病状と誤診され、それに対して処方がさらに追加されて薬が増える「処方カスケード」と呼ばれる悪循環に陥ることもあります。

処方の決定権はあくまでも医師にありますが、近年、「不適切なDo処方」と密接に関連するポリファーマシーは医療界全体の問題としてとらえられ、薬剤師にも大きな役割が期待されています。つまり、薬による有害事象の多くは、投与量、相互作用、服薬アドヒアランスに関連する場合が多いため、薬剤師が適切に薬学的管理を実施することにより、未然に回避したり、重篤化を防いだりできるのです。

また、不適切な処方(漫然投与や多剤併用など)に対する薬剤師の介入は、有害事象や医療費の抑制につながることも知られています。

なお、薬剤との因果関係が疑われるまたは関連が否定できないものを「副作用*1」、薬剤の使用後に発現する有害な症状であり、薬剤との因果関係の有無を問わないものを「薬物有害事象*2」と呼びます。

不適切なDo処方が行われる理由とは

「不適切なDo処方」が行われる理由として以下のような例があげられます。

1.医師の多忙さゆえに患者さまへの対応が流れ作業のようになってしまった

2.医師がオンライン診療を行った際に患者さまの体調変化に気がつかなかった

3.患者さまが副作用、残薬があることや、病状が改善されていることを医師に伝えずに、処方薬の変更や減薬に抵抗を示し、Do処方を希望した

4.体調変化や気になる点はあったが、患者さまが医師に相談しなかった

いくつかの原因が考えられますが、「不適切なDo処方」が行われた理由が3や4などであった場合は、薬剤師の介入により早期に解決できると考えられます。

Do処方が続く場合の服薬指導と薬歴の記載はどうする?

Do処方が続く場合の服薬指導と薬歴の記載はどうする?

適切な服薬指導による薬剤師の介入により、「不適切なDo処方」を早期に発見できます。保険薬剤師が患者さまに確認すべき事項である「服薬状況」、「残薬状況」、「体調変化」、「他科受診の有無」、「副作用の有無」、「併用薬(重複投与)の情報」などについて常に確認し、薬歴に記載しましょう。また、苦い、飲みにくいなどの薬の問題についても尋ねることが必要です。

一度の服薬指導ですべてを確認することができない場合は、次回に確認します。その結果、Do処方に疑問が生じた場合には、処方医に疑義照会や服薬情報提供を実施します。患者さまが気軽になんでも相談できるような雰囲気で服薬指導を心掛けることが大切です。

とくに高齢者では、多剤併用に加えて認知機能低下によって飲み忘れなどの服薬管理能力が低下し、服薬アドヒアランスが低下しやすいことが知られています。

したがって、服薬指導では①服薬する薬剤の数、②服薬回数、③服薬のタイミング、④剤形などに関して問題はないかを確認して薬歴に記録しておくことも重要です。飲み忘れ、苦い・飲みにくいといった薬の問題、認知機能の低下などがある場合には、一包化や剤形変更の提案などそれぞれの理由にあった対応を行います。

以下で、さらにDo処方が続く場合の服薬指導についてポイントをあげていきます。

薬剤師の立場からアセスメントを行う

服薬指導により得た様々な情報を詳細に整理、分析した結果を薬歴に記載し、適切な対処を行うことが不可欠です。近年では、薬剤師によるアセスメント(評価)が「不適切なDo処方」の防止において重要視されています

患者さまが良好な状態を維持しているのは喜ばしいですが、現在服用中の薬が本当に有効で必要なものであるかどうかについて、薬物療法の専門家としての立場からアセスメントした結果を処方医に連絡しましょう。

服薬指導で時間が取れない場合には、日を改めて現在の服薬状況についてのヒアリングや電話カウンセリングも重要です。薬剤師による定期的な電話カウンセリングは、服薬アドヒアランスを改善させ、死亡率を低下させることも示されています。一方的な聞き取りや説明ではなく対話を重視しましょう。

異なる視点からのアプローチを行う

Do処方が続く場合では、服薬指導や薬歴はどうしても同じ内容になりがちです。患者さまのなかには毎回のように同じ内容について聞かれたのでは、服薬指導の意義を感じることができなくなる方もいるかもしれません。

このようなときは、異なる視点からのアプローチを行ってみましょう。たとえば、医薬品安全対策情報(DSU)などを活用し、新しい情報の提供を心がけます。患者さまの病気の説明やなぜ薬を服用するのかの説明、また薬の効果や副作用について話すだけでなく、薬の名前、服薬に対して何か不安はないかの確認や、健康維持のための運動や睡眠、食事、嗜好品、生活環境の変化、生活習慣などの日常生活について触れるのもおすすめです。

適切な薬物治療のためにアプローチの幅を広げましょう

この記事では、「不適切なDo処方」が増える背景や起こりうる問題、Do処方が続く場合の服薬指導と薬歴の記載方法などについて、解説していきました。

薬局で働いていると数多くの処方せんを取り扱いますが、慢性疾患を多く扱う診療科ではDo処方の割合は高くなりやすい傾向にあります。処方変更がない場合でも、「何に着目して、どのようなことを確認して問題がなかったか」を、きちんと評価して薬歴に残しておくことが、適切な薬物治療を継続するために重要です。

松田宏則さんの写真

監修者:松田宏則(まつだ・ひろのり)さん

有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)勤務。主に薬物相互作用を専門とするが、服薬指導、健康運動指導などにも精通した新進気鋭の薬剤師である。書籍「薬の相互作用としくみ」「服薬指導のツボ 虎の巻」、また薬学雑誌「日経DI誌(プレミアム)」「調剤と報酬」などの執筆も行う。

記事掲載日: 2021/12/15

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