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  • 公開日:2023.04.14

服薬管理ができない認知症患者への対応方法は?薬剤師にできることを考える

服薬管理ができない認知症患者への対応方法は?薬剤師にできることを考える

「薬を飲み忘れてしまう」、「どのように服薬を管理したら良いのか教えてほしい」......。

認知症になると、様々な要因から服薬管理が難しくなってしまいます。服薬指導の際に、患者さまやそのご家族から、このような相談を受けることもあるのではないでしょうか。

認知症患者さまの服薬アドヒアランスを向上するためには様々な工夫が必要になります。今回は、認知症の方やその家族が抱えている服薬管理のトラブルやその解消方法、アイデアなどを有限会社杉山薬局の松田さんに薬剤師の立場よりご紹介いただきます。

認知症の方が抱えている服薬管理トラブル

認知症の方が抱えている服薬管理トラブル

認知症とは、後天的な脳の障害により認知機能が低下することで、日常生活に支障が出ている状態を指します。

認知症の進行具合によっては、自己管理が非常に困難なケースもあるでしょう。

患者さまが抱えやすい服薬管理のトラブルとしては、下記のものが挙げられます。

薬の用法用量を守って服用できない

認知症により、薬の用法用量を守ることが困難になってしまうケースがあります。薬剤師がゆっくり分かりやすく説明したつもりでも、話の内容が理解できず、処方通りに服用することが難しいのです。また、認知症の方は新しいことを覚えるのを苦手とする傾向もあるため、指示通りに薬を飲むのが困難なケースも多くみられます。

服薬したことを忘れて何度も飲もうとする

認知症になると、服薬した事実を忘れてしまうことがあります。患者さま自身はまだ服薬していないと思いこんでいるため、同じ薬を何度も飲もうとしてしまうのです。

嚥下機能が低下して薬が飲み込みづらくなっている

認知症になると、嚥下機能が低下することがあります。とくにレビー小体型認知症では、身体機能が低下することが多いため、薬を飲み込む動作が難しくなってしまうのです。

服薬を拒否する

服薬の必要性を理解できないため、「必要ないものは飲みたくない」と服薬を拒否する方もいます。認知症でない方でも、必要がない薬は飲みたくないと思うのは自然なことではないでしょうか。しかし、認知症が進行した患者さまのなかには、重度の記憶障害があるため自分が病気であることを理解しておらず、服薬の必要がないと考えているケースがあります。

また認知症になると、「自分に危害を加えようとしている」と考えてしまうことから服薬を拒否される患者さまもいるでしょう。

記憶障害が進行すると「何度も同じことを聞く」、「約束事を忘れる」といったことを繰り返すようになり、同居する家族や介護者が患者さまに辛く当たってしまうため、患者さまが「周囲の人が信頼できない」と感じていることがあります。その結果、家族や介護者の服薬のサポートを拒否するケースもあります(介護拒否)。

さらに、周りを疑いの目で見てしまうのと同様に、服薬指導を担当する薬剤師のことを信用できず薬を飲みたがらない患者さまもいます。信用できない人から貰った薬を口に入れたくないと思うのは、認知症の方だけではないはずです。

認知症の方はなぜ服薬管理が難しくなるの?

認知症の方はなぜ服薬管理が難しくなるの?

認知症の症状は大きく「中核症状」と「周辺症状」に分けられます

中核症状とは脳神経の損傷によって起きる症状であり、主な症状は記憶障害、つまり「物忘れ」が代表的な症状です。記憶自体が完全に消えているため、体験や経験を丸ごと忘れてしまいます。

一方で周辺症状とは中核症状、生活要因、身体要因、心理要因などが相互作用することによって生じる症状です。代表的なものに「妄想」、「うつ状態」、「興奮」、「徘徊」、「介護拒否(服薬拒否など)」といった精神症状や行動障害が挙げられます。

また、認知症患者に多く見られる嚥下障害は、認知症の種類によって大きく異なることが知られています。

これら中核症状、周辺症状や嚥下障害によって、服薬が難しくなってしまいます。

薬剤師ができる認知症の方への服薬管理指導

薬剤師ができる認知症の方への服薬管理指導

では、服薬管理が難しい認知症の患者さまがスムーズに薬を飲んでくれるようにするために、薬剤師には何ができるのでしょうか。ここでは5つの対応策を紹介します。

服薬が必要な理由を患者さまに説明する

認知症かどうかにかかわらず、服薬アドヒアランスの向上に努める必要があります。正しく服薬してもらうためには、「なぜ薬を飲む必要があるのか」を患者さまにしっかり説明しましょう。認知症の方に理解してもらうのは難しいかもしれませんが、ゆっくりと分かりやすく同じ内容であっても理解できるまで何度も繰り返し説明するよう心がけてみてください。

他科受診がある場合ではまとめて一包化する

他科受診がある場合では服用薬が多く、服薬管理が困難になっているケースがあります。その場合は薬局に服用中の薬を全て持参してもらい、全ての薬をまとめて一包化することにより、服用管理がしやすくなるでしょう。

飲みにくい剤形がないか確認する

薬をしっかり服薬する能力はあっても、飲みにくいことが理由で服薬したがらない方もいます。「錠剤が大きくて喉に引っかかる」「粉薬だとむせてしまう」など、詳しく聞いてみると理由を話してくれるかもしれません。

OD錠にしたり剤形に工夫がされているジェネリック医薬品にしたりすることでこれらの悩みを解決できることがあるので、飲みにくい剤形がないかはその都度確認するようにしましょう。

残薬を整理する

認知症の患者さまは服用忘れなどにより残薬が溜まってしまい、現在自分が服用すべき薬がわからなくなっているケースが多くあります。そのような場合では、残薬を全て薬局に持参してもらい、残薬調整や不要な薬は破棄するなどの対応をしましょう。

患者さまに信頼されるように努める

認知症の方は、周辺症状により精神状態が不安定になっているケースが少なくありません。服薬指導では笑顔で対応し、まずは患者さまの不安を軽減するよう努めることが大切です。

認知症患者の服薬管理は周囲からの協力も重要

認知症患者の服薬管理は周囲の方からの協力も重要

認知症の患者さまのなかには、少し工夫するだけで服薬がスムーズに行えるようになる方もいます。ご家族や介護者の協力も得ながら、服薬管理がしやすいようにサポートしていきましょう。

なお、認知症の重症度にもよりますが、ご家族や介護者の方の協力は必須です。ご家族の方が正しく認知症を理解して、患者さまに接することができるように指導しましょう

食卓に薬を一緒に置くクセをつけるようご家族に伝える

食事と一緒に薬を置いておくと、忘れずに服用できるようになることもあります。認知症の方が自分で食卓に薬を置くのは難しいケースもあるため、ご家族や介護者に頼んで一緒に置いてもらうようにしましょう。

服薬カレンダーを活用してもらう

服薬カレンダーは、いつ・どの薬を飲めば良いのかがひと目で分かるようになるため有効です。飲み忘れている場合も、すぐに気付くことができます。

ご自身で服薬カレンダーにセットできるようであれば、自分で行ってもらいましょう。難しい場合はご家族や介護者にセットを頼むか、薬剤師が服薬カレンダーにセットしたものをお渡しするようにします。

服薬したことをカレンダーに記録してもらう

通常のカレンダーで構いませんので、薬を服用したらシールを貼ったり書き込んだりするのも効果的です。「カレンダーにチェックを入れていくと、飲み忘れしにくくなりますよ」と患者さまに伝え、カレンダーの活用を促します。

無理やり飲ませないよう注意喚起を行う

薬をきちんと飲んでくれず苛立ってしまうこともあるでしょう。しかし、無理やり飲ませようとするのは逆効果です。嫌がっているときは無理に飲ませず、飲む理由を丁寧に説明するようご家族や介護者に伝えましょう。

薬剤師として患者さまの服薬管理をサポートしていきましょう

ますます進む高齢化。今後は地域包括ケアシステムの実現に向けて、かかりつけ薬剤師や在宅薬剤師として認知症を患う患者さまやそのご家族を対応することも今後増えてくるでしょう。

認知症の進行によって薬を正しく服用するのが難しい患者さまがいます。そうした患者さまやご家族に薬剤師が介入することで、さまざまな問題を解決することができるでしょう。

松田宏則さんの写真

監修者:松田 宏則(まつだ・ひろのり)さん

有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)勤務。主に薬物相互作用を専門とするが、服薬指導、健康運動指導などにも精通した新進気鋭の薬剤師である。書籍「薬の相互作用としくみ」「服薬指導のツボ 虎の巻」、また薬学雑誌「日経DI誌(プレミアム)」「調剤と報酬」などの執筆も行う。

記事掲載日: 2023/04/14

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