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キャリア&スキルアップ
  • 公開日:2024.04.30

「ドラッグ・ラグ」とは?薬剤師が把握しておくべき現状と問題を解説

「ドラッグ・ラグ」とは?薬剤師が把握しておくべき現状と問題を解説

医療情報に関するメディアや、医薬品業界の話題を報じたニュース記事で、ドラッグ・ラグという言葉を目にする機会も多いと思います。薬を専門に扱う薬剤師として、ドラッグ・ラグの現状を学んでおくことはとても大切です。

今回は、ドラッグ・ラグに関する基本的な情報を整理したうえで、ドラック・ラグをめぐる現状の課題や問題点、薬剤師が把握しておきたい内容について解説します。ぜひ参考にしてください。

ドラッグ・ラグとは?

まずはドラッグ・ラグとは何か、その定義や問題の背景などを解説します。

ドラッグ・ラグの定義

ドラッグ・ラグとは、新しい医薬品が開発されてから、実際に患者さまに処方されるまでの時間差を指す言葉です。日本においては、海外で使用されている医薬品が、日本で承認されて使用できるようになるまでの時間差を意味する言葉として用いられることが一般的です。

ドラック・ラグは、日本で医薬品を承認するために必要な臨床試験の実施や薬価の決定など、医薬品の安全かつ安定的な供給を実施する上で、欠くことができない期間でもあります。

ドラッグ・ラグ発生の背景

日本におけるドラッグ・ラグは、大きく2つの要因が背景となって生じています。

1つ目は、海外では承認されている医薬品が日本では承認されていない、つまり「未承認薬」が存在する場合、2つ目は海外で承認されいる医薬品が、日本で承認されるまでに大幅な時間(遅延)を要する場合です。

前述のとおり、医薬品の開発や承認におけるプロセスは、患者さまの安全を確保するために重要な過程です。しかしその過程は長期にわたってしまうため、新しい治療薬が患者さまに届くまでに時間がかかってしまいます。

また、新薬の承認にあたり、厳しい承認審査がハードルとなり、世界では標準的に使用されている医薬品であっても、日本では未承認薬となっている現状があるのです。

ドラッグ・ラグについて現状の課題や議論

次にドラッグ・ラグの現状について触れながら、生じている課題や議論について解説していきます。

ドラッグラグの現状

医薬産業政策研究所が2010年から2020年までの国内未承認薬数の推移を調査した結果、2014年から2016年にかけて、国内未承認薬の数や割合はやや減少傾向にありました。しかし、2020年にかけて未承認薬の数は再び増加し、2020年末には欧米新有効成分含有医薬品(New Molecular Entity:NME)の72%程度が国内で未承認となっています。

未承認薬が再び増加に転じた理由として、新薬の承認に関わる制度上の変化が指摘されています。2000年代の後半から2010年代の初頭にかけて、国際共同臨床試験の実施を促す施策や、日本での審査期間の短縮、薬価に対する制度上の配慮などを行うことで対応してきました。

しかし2018年〜2021年にかけて薬価制度の見直しや、承認審査に対する製薬企業のインセンティブ低下など、医薬品の承認をめぐる環境に変化が生じたことから、ドラッグ・ラグの再燃が懸念されています。

国際比較と日本の状況

ドラッグ・ラグの状況は、世界各国で異なります。世界で初めて発売された薬がほかの国で使われ始めるまでの期間は、アメリカでは0.9年、イギリスでは1.2年、ドイツでは1.3年であるのに比べて、日本では4.7年と諸外国と比較して長くなっています。つまり、日本は世界的に見ても新薬の発売までに要する期間が長いといえるでしょう。

ドラッグ・ラグを解消するためにも規制の簡素化、承認プロセスの加速、国際的な規制調和の促進などが提案されていますが、別の懸念も生じているのが現状です。

ドラッグ・ロスの懸念が生じている

日本では、欧米と比較して医薬品の承認が遅れるドラッグ・ラグに加え、海外企業が日本で薬の開発を行わない「ドラッグ・ロス」と呼ばれる問題も生じています。

ドラッグ・ロスが生じる背景には、薬価制度の不透明さや薬価の引き下げや日本の医薬品市場に対する成長懸念が挙げられ、外資系の製薬企業が日本で新薬の販売をためらう理由となっています。

とくに希少疾患や小児疾患、難病を対象とした医薬品は、市場規模が小さいため日本市場で安定した売上を見込むのが難しいと捉えられる傾向にあります。そのため、これら医薬品の承認や開発は難航している状況にあるといえるでしょう。

ドラッグ・ラグが引き起こす問題

ドラッグ・ラグが引き起こす問題点

ドラッグ・ラグが引き起こす問題は大きく3つあります。

  • 患者さまに対する治療薬提供の遅延
  • 経済的負担の増加
  • 医療技術の進歩に対する影響
  • それぞれ詳しく解説していきます。

    患者さまに対する治療薬提供の遅延

    新しい治療薬の承認にラグ(遅延)が生じることにより、最適な治療を迅速に提供できない可能性が高まります。

    とくに、生命を脅かすような疾患において、治療薬の選択肢が少ない場合には、副作用が強い従来治療を続けなければならないケースも起こり得ます。

    経済的負担の増加

    ドラッグ・ラグが原因で、既存の治療法に対する依存度が高くなると、費用対効果という観点から、医療経済的な負担(再入院等に係るコストなど)の増加が懸念されます。一般的に、古くから使われている医薬品は、薬価が低かったとしても、得られる治療上のメリットも小さく、薬剤コストに見合う経済的利益が得られないことがあります。

    もちろん、新薬が導入されたとしても、薬価による患者さまへの負担も懸念されます。

    しかし、より効果的で副作用が少ない医薬品であれば、薬剤コスト以上に、治療上のメリットが得られるケースも多く、医療に関わる総コストが低下し、医療経済的な負担が軽減される可能性も高まります。

    医療の進歩への影響

    ドラッグ・ラグは、医療技術の進歩や、新しい治療・医療技術の普及速度にも悪影響を及ぼします。

    新薬の導入が遅れることで、最新の治療法が医師や医療機関に広く認知されるまでの期間が長くなり、医療技術の効率的な進展を阻害する要因となり得るからです。

    ドラッグ・ラグの縮小に向けて進めている取り組み

    ドラッグ・ラグの縮小を目的とした取り組みについて解説していきます。

    PMDAの審査員の数を増加

    PMDA(医薬品医療機器総合機構)の審査員を増員し、医薬品の審査のスピードをあげる取り組みがされています。人員の増加により、ドラッグ・ラグを短縮し、患者さまに早く新薬を届けることが期待されます。

    実際に2004年に審査部門の人数は154名だったのに対し、2009年には350名となっています。その結果として、2004年には米国とのドラッグラグは30ヶ月(2.5年)発生していたものの、2009年には24ヶ月(2年)に縮まっています。

    古い調査結果であるものの、審査員を増員して審査スピードを上げることは、ドラッグラグを縮める取り組みの1つとして期待できるでしょう。

    治験DXの促進

    海外と比較すると、日本は病院の規模が小さい傾向にあります。そのため、臨床試験の実施には多くの病院や施設の症例を集める必要があり、データ収集においても非効率な状況は否めません。

    しかし、現在は少しでも効率的に治験(臨床試験)データを収集できるように、国をあげて治験・臨床研究ネットワーク体制を整えています。その一例として、DCT(Decentralized Clinical Trial:オンライン治験)を活用した治験DXの促進が挙げられ、治験実施プロセスの効率化が期待されています。

    治験薬製造のためのCMOやCDMOの育成・支援

    国は治験薬の製造を進めるため、医薬品の製造を製薬会社から受託・代行している企業であるCMO(※1)や、CDMO(※2)のような治験薬の開発も行える機関の育成・支援を行うことを検討しています。

    製薬会社に集約していた業務を、受託・代行して行える企業が増えると、臨床開発が効率的に進むと考えられています。

    ※1.Contract Manufacturing Organization:医薬品製造受託機関

    ※2.Contract Development and Manufacturing Organization:医薬品開発製造受託機関

    ドラッグ・ラグを知ったうえで薬剤師にできることとは

    ドラッグ・ラグを知ったうえで薬剤師にできることとは

    薬剤師が直接的にドラッグ・ラグを解消するのは難しいでしょう。しかし、薬剤師はこれらの背景や問題を知ったうえで、自分たちに何ができるかを考えることが重要です。ここでは薬剤師にできることを解説していきます。

    最新の医薬品情報を収集し、患者さまの服薬指導へ生かす

    まずは、薬剤師として最新の医薬品情報をすぐにキャッチできるようにしておくことです。

    実際に長い承認のプロセスを経て新薬が取り扱えるようになった場合でも、患者さまは期待と共に強い不安を抱えていることもあるでしょう。患者さまが新薬に対する不安を抱えすぎないよう、薬剤師は新薬についての知識を深め、適切な服薬指導を行う必要があります。

    また、現場の薬剤師が適切に新薬のリスクやベネフィットを評価ができることは、製薬企業が安心して薬の開発を行える後ろ盾となるでしょう。

    副作用などの有害事象の声を確実に拾い上げる

    患者さまの中には、軽度の副作用であれば我慢して飲み続けていたり、薬剤師に伝えなかったりするケースもあります。しかし、有害事象に関する報告を収集することは、医薬品の安全性の確保や臨床開発の観点でも非常に重要です。

    薬剤師は、患者さまに起きた有害事象を拾い上げる窓口となるべき存在です。積極的に患者さまへ関わり、副作用の発生はもちろん、健康面で気になることが生じていないか、十分なフォローアップが必要です。

    話題やニュースに関心を持ち、学びを深めていきましょう

    記事内ではドラッグ・ラグの定義などの基本情報から、ドラッグ・ラグの現状や議論、問題点、そしてドラッグ・ラグ縮小に向けて進めている取り組みや薬剤師として行うべきことを紹介しました。

    医薬品の安定供給に関わっている薬剤師にとって、ドラッグ・ラグの現状について積極的に関心を持ち、その背景を学んでいくことは大切です。ドラッグ・ラグに関する最新の情報を追いながら、薬剤師にできることを考えて日々の業務で実践していきましょう。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2024/04/30

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