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  • 公開日:2024.05.17

2型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病の3つの適応症を有するジャディアンスとは?

2型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病の3つの適応症を有するジャディアンスとは?

ジャディアンス(一般名;エンパグリフロジン)は主に2型糖尿病の治療薬として用いられてきました。ジャディアンス錠の適応には慢性心不全もありますが、2024年2月9日に効能・効果として慢性腎臓病が追加されたことにより、適応症が3つとなりました。

これにより、ジャディアンスの処方はさらに増加すると想定されます。今回は薬剤師の方に向けてジャディアンス錠の効能効果などの基本情報の解説から、服薬指導のポイントまで解説していきます。

3つの適応症を持つジャディアンスとは

ジャディアンスは、SGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)阻害薬です。糖尿病治療薬として開発された同薬ですが、2021年に慢性心不全に対する効能・効果の追加承認を取得しています。さらに、冒頭でもご紹介したように、2024年2月9日付で慢性腎臓病に対する効能・効果の追加承認を取得しました。

まずは作用機序や投薬対象者をおさらいしていきましょう。

作用機序

ジャディアンスはSGLT2阻害薬であり、腎臓におけるグルコースの再吸収を阻害することで、尿中へのグルコースの排泄を促進し血糖値を下げる効果が期待されています。この作用から、主に2型糖尿病患者さまの血糖コントロールに用いられています。

さらに、ジャディアンスには利尿作用もあることから体の不要な水分を排出し、血圧を低下させる効果も期待されています。この点から、慢性心不全の患者さまにおいても使用される場合がある薬です。実際、糖尿病を有しているか否かに関わらず、心不全患者さまにジャディアスを投与することで、心臓病による死亡率や心不全による入院リスクを低下させることが報告されています。

また、腎機能の低下を遅らせる腎保護作用も報告されており、腎機能低下を抑制したり、重篤な合併症である心疾患の発生を防いだりする効果も期待されています。ジャディアンスは治療で使用されていくなかで、患者さまの生活の質の向上や病気の進行の抑制に貢献することが期待されています。

もともとジャディアンスは2型糖尿病の治療において、ほかの治療法と組み合わせることで血糖コントロールをより効果的に行えるとされているため、多くの患者さまにとって選ばれやすい治療選択肢でした。

慢性腎臓病に対する適応が追加されたことで、医療現場におけるジャディアンスの注目度は高まっていくと考えられます。

投薬対象者

ジャディアンスの投薬対象者は、主に2型糖尿病の患者さまであり、食事療法や運動療法だけでは血糖コントロールが不十分な場合に使用されます。さらに、慢性心不全や慢性腎臓病を持つ患者さまにおいても、その治療の一環として処方される場合があります。

ただし、慢性心不全の場合は、標準的な治療を受けている患者さまが対象となり、慢性腎臓病に関しては、末期腎不全や透析施行中の方を除いた患者さまが対象となっているなど、疾患である全ての方が投薬対象者となるわけではありません。

ジャディアンスの用法用量

ジャディアンスの用法用量

次に、ジャディアンスの用法用量を解説していきます。

2型糖尿病・慢性心臓病・慢性腎臓病の方

前述したとおり、ジャディアンスは2型糖尿病・慢性心不全・慢性腎臓病の3つの疾患の患者さまが対象です。しかし、末期腎不全や透析を受けている方では、同薬による腎保護の作用が十分に得られない可能性があり、投薬対象とならない場合があります。

一般的にeGFRが20mL/min/1.73m2未満の方は、ジャディアンスによる腎保護作用が期待できない可能性があるため、投与の是非は主治医によって慎重に判断されます。

成人

通常では、朝食前か朝食後に10mgを1回内服します。

2型糖尿病の方は効果が足りなければ、経過を観察しつつ、1日25mgまで増量可能です。

ただし、慢性心不全と慢性腎臓病の方に用いる場合では、10mg以外の用量に対する安全性や有効性が確認されておらず、血糖値のコントロールを目的とする場合を除き、10㎎以上の高用量で使用できません。

小児や妊婦・授乳婦

小児等を対象とした有効性と安全性を指標とした臨床試験は未実施です。

また、ジャディアンスは胎児への移行が見られ、胎児の腎盂および尿細管の拡張が報告されている点からも妊婦・授乳婦ともに使用できません。

妊婦や授乳婦の方は使用せずに、血糖コントロールの際はインスリン製剤の使用が基本の治療となります。

ジャディアンスの禁忌・副作用・使用上の注意

ここでは、ジャディアンスの禁忌や副作用、使用上の注意について解説していきます。

禁忌

下記の場合は禁忌となっています。

1.ジャディアンスに過敏症のある方

2.重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡の患者さま

3.重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者さま

2と3は、どちらもジャディアンスではなく輸液やインスリン治療が最優先となるため、禁忌という扱いとなっています。

また、ジャディアンスは2型糖尿病に適応のある薬剤であり、1型糖尿病の方は使用できません。なお、慢性心不全や慢性腎臓病を有する1型糖尿病の患者さまが同薬を使用した場合、ケトアシドーシスの発生に注意が必要です。

併用注意

併用禁忌を除く併用注意は、下記のとおりです。

  • 低血糖を起こしやすい基礎疾患のある方
  • 脱水を起こしやすい方
  • 尿路感染や性器感染のある方
  • 高度腎機能障害のある方
  • 高度肝機能障害の方
  • 次の副作用の章で解説しますが、ジャディアンスは糖尿病にも適応がある通り、血糖値を低下させ、低血糖を起こすリスクもある薬です。

    そのため、脳下垂体機能不全や副腎機能不全、また不規則な食生活などによって慢性的な栄養不足の方など、低血糖を起こしやすい方は内服に注意が必要です。

    また、前述の通りジャディアンスには利尿作用がある点から、血糖コントロールが不良な方や高齢の方は、脱水による糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群などのリスクも高まります。

    ほかにも、尿路感染や性器感染のある方では、ジャディアンスの尿中グルコース排泄作用により症状悪化のリスクがあるため、状況を見たうえで主治医による処方の判断が必要です。

    副作用

    ジャディアンスにおける副作用は主に下記のようなものが挙げられます。

    副作用添付文書情報に基づく発現頻度
    低血糖1.4%
    脱水(口渇、頻尿、多尿など)0.3%
    腎盂腎炎0.1%未満
    ケトアシドーシス0.1%未満
    外陰部及び会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)0.1%未満

    前述のようにジャディアンスはその作用機序からも、低血糖の副作用が起こる可能性があります。

    特に、スルホニルウレア剤やインスリン製剤を使用している方では、低血糖のリスクに十分な配慮が必要です。

    また、ジャディアンスのようなSGLT2阻害薬の特徴的な副作用として、ケトアシドーシスが起こることがあります。その発現頻度は低いものの、同薬によって脂肪酸代謝が亢進し、血糖コントロールが良好であってもケトーシスが現れやすいと考えられています。

    低血糖の次に起こりやすいと考えられる副作用は脱水症状です。脱水が起こると、ケトアシドーシスが現れやすくなる可能性もあり、ジャディアンスを内服される方に対して、脱水の初期症状(口渇、頻尿、多尿など)を分かりやすく情報提供することも重要です。

    なお、服薬指導のポイントについては後述します。

    ジャディアンスが慢性腎臓病患者さまへの適応となった背景

    ジャディアンスが慢性腎臓病患者さまへの適応となった背景

    前述のようにジャディアンスは2024年2月9日付で、日本ベーリンガーインゲルハイム社が慢性腎臓病に係る医薬品製造販売承認事項の一部変更・承認を厚生労働省より取得したため、慢性腎臓病の患者さまにも使用可能となりました。

    この背景に行われた研究や、その成果について解説します。

    ジャディアンス慢性腎臓病への適応を認められた研究背景

    ジャディアンスが、慢性腎臓病患者さまに対する適応症を新たに得られた根拠として、EMPA-KIDNEY試験の結果が重要です。

    この試験は、糖尿病の有無やアルブミン尿の有無に関わらず、慢性腎臓病を有する6,609人の患者さまが被験者となりました。

    被験者は、エンパグリフロジン10mg投与群、もしくはプラセボ投与群にランダムに振り分けられ、腎臓病の進行〔末期腎不全,推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:eGFR)の10mL/分/1.73m2未満への持続低下、eGFRの40%以上の持続低下、腎死亡〕および、心臓病による死亡が比較されました

    その結果、慢性腎臓病の進行および心臓病による死亡のリスクは、プラセボ投与群と比べて、ジャディアンス投与群で28%、統計学的にも有意に低下することが示されています。

    本研究の結果により、ジャディアンスは2型糖尿病や慢性心不全だけでなく、慢性腎臓病の治療においても新たな治療選択肢としての位置づけを確立しました。

    ジャディアンスを内服される慢性腎臓病の患者さまへの服薬指導のポイント

    ジャディアンスの適応症が増えたことで、同薬の処方を受ける患者さまは、増加していくと予想されます。

    薬剤師として、ジャディアンスの服薬指導のポイントを抑えておきましょう。ここではジャディアンスの服薬指導を行う際に注意すべきポイントを解説していきます。

    低血糖の出現のリスクがある点を伝える

    ジャディアンスはその作用機序から、低血糖の出現リスクがある薬です。そのため脱力感・発汗・震えといったような低血糖の症状について説明し、低血糖が起きた場合の対処法も伝えておく必要があります。

    糖尿病の治療歴がある方では、低血糖の対処法について主治医などから指導を受けているケースが多いでしょう。しかし、新たに適応症に追加された慢性腎臓病の方の場合で、糖尿病治療薬の服薬経験がない患者さまでは、低血糖の対処法を知らない場合があるかもしれません。

    ブドウ糖を含むものを摂取するというような低血糖の対処法を、服薬指導の際に伝えていくようにしましょう。

    一時的に腎機能を示す検査値が悪化する場合があることを伝える

    ジャディアンスを内服すると、一時的にeGFRの低下や血清クレアチニンの上昇が見られることがあるため、定期的に血液検査を受けるなかで不安を感じる方もいるかもしれません。

    薬剤を新規で交付する際には「腎機能を示す検査値が一時的に変動する場合もある」と説明しておくと、万が一検査値が悪化しても患者さまも納得・安心できるのではないでしょうか。長い目で見た時に、腎機能の低下を防ぐことが重要なことを伝えましょう。

    脱水の症状に注意するように伝える

    ジャディアンスは、体の水分排泄を促すため、脱水のリスクを高めます。喉の渇きや尿量の減少、倦怠感などの脱水の兆候に加え、喉が乾く前にこまめに摂取するなど、脱水にならないための水分摂取のタイミングも伝えていきましょう。ただし、水分の摂取量について、主治医の指示が別途ある場合には、医師の指示通りに対応するよう説明します。

    ケトアシドーシスの出現の可能性について伝える

    前述したように、ジャディアンスの副作用として、ケトアシドーシスが出現する可能性があります。その発生頻度は稀ですが、必要に応じてケトアシドーシスの初期兆候、すなわち吐き気、嘔吐、疲労などの症状について情報提供できると良いように思います。これらの症状が現れた場合には、速やかな医療機関の受診がすすめられます。

    また、風邪を引いたり体調を崩したりして、食事や水分がうまく取れなくなる患者さまもいるかもしれません。薬剤師は服薬指導の際に食事や水分摂取の状況についても患者さまへ確認し、必要に応じて主治医と連携する必要もあるでしょう。

    ジャディアンスの服薬指導が正しくできるようになろう

    記事内ではジャディアンスについて、新たに適応となった背景も含めて効能効果、作用機序や副作用などを改めて紹介しました。

    2型糖尿病や心不全の治療薬として使われていたジャディアンスは、慢性腎臓病の患者さまにも使用されていくことでしょう。

    服薬指導のポイントを参考に、慢性腎臓病の患者さまにも安心・安全にジャディアンスが使用できるように指導していきましょう。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2024/05/17

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