業界動向
  • 公開日:2023.05.11

『心不全療養指導士』とは?を5分で解説【薬剤師の資格入門】

『心不全療養指導士』とは?を5分で解説【薬剤師の資格入門】

「心不全療養指導士」は高齢化に伴い増加する心不全患者へ対応するために、2021年に新設された認定資格です。受験資格や取得方法を解説するとともに、薬剤師が心不全療養指導士を取得するメリットを紹介します。

心不全療養指導士とは?

心不全療養指導士は、心不全の発症・重症化予防のための療養指導に必要な基本的知識や技能などの資質向上を目的として、日本循環器学会が主体となって創設されました。

2021年度に新設されたばかりで、療養指導をする医療専門職が取得できる認定資格となっています。

米国の65歳以上の心不全発症率は100人に1人。人種差はあるものの、日本の65歳以上の人口(約3600万人/2022年9月時点)に当てはめると年間約36万人の高齢者が心不全を発症することになります。今後予測される心不全患者の増加に備え、高齢者への早期の心不全対策が不可欠となっています。

心不全の療養指導では、発症・進行・再発に対する「予防」が非常に重要なポイント。それぞれのフェーズに合わせた服薬指導や栄養管理、運動管理などの幅広い対応が必要になるため、心不全の知識に精通し、包括的に指導できる人材が求められています。

心不全療養指導士を取得すれば、患者さまのケアに関する基本的な知識がある証明になります。適切な療養指導ができるのはもちろん、予防の啓発活動への参画や心不全に関する地域医療への貢献も可能です。

薬剤師が心不全療養指導士を取得するメリットとは

columnimg_z_230401_a_resize_800_457.png

心不全の療養指導のニーズに応える人材になれる

日本は現在、世界の中でも超高齢社会となっており、団塊世代ジュニアが高齢者になる2030年が近づくにつれて高齢者はさらに増加傾向にあります。

また、米国のフラミンガム研究によると、心不全の発症率は60歳代の男性で1.3%、女性で0.7%なのに対し、80歳以上ではそれぞれ8.3%と7.8%になると報告されていることから高齢化に伴い心不全患者も増加傾向となっており、こうした心不全患者の爆発的な増加は「心不全パンデミック」ともよばれています。

心不全パンデミックによって、入院患者数が増えて病床が不足したり莫大な医療費がかかったりすることが懸念されており、それを回避するには病床数が不足する前に心不全を日常的に予防する必要があります。また、心不全は憎悪による再入院が多い疾患なので、退院後のセルフケアを指導して悪化を予防する必要もあります。

このような背景から、心不全療養指導ができる人材へのニーズが高まっているのです。

在宅医療が増えていく中で、患者さまが薬を飲むのを怠ったり、服用を誤ったりすることも起こり得るでしょう。心不全の領域でも薬物の効果が出ているか・副作用はないかなどを見抜き、適切な指導ができる「心不全患者の在宅医療を実践できる薬剤師」の価値は当然高まっており、さらに増えていくことが期待されています。

地域医療・チーム医療への貢献度が増し、差別化につながる

入退院を繰り返す心不全患者さまの増加を防ぐためには、退院後も入院中と同様の在宅指導を受けられる環境が求められます。心不全療養指導士はその指導環境づくりの要となり、他の医療専門職と連携して地域の在宅医療・チーム医療の推進に貢献することが可能です。

心不全療養指導士の資格を持つ薬剤師は、病院との連携や、看護師や介護福祉士など他の医療専門職の方への療養指導という新しい職域を増やすことができます。心不全予防の啓発のためにチラシや冊子を作成したり講演会を行ったりといった形で仕事の幅が広がっていくうえ、高い専門性を持った薬剤師として認知され、キャリアアップにもつながるでしょう。

心不全療養指導士の受験資格・費用・合格率は?

columnimg_z_230401_e.jpg.jpg

心不全療養指導士の受験資格と受験料

心不全療養指導士を受験するには6つの条件を満たしている必要があります。それぞれの条件を詳しく紹介します。

(1)特定の国家資格を有している

対象となる資格は現在10種類あります。

  • 看護師
  • 保健師
  • 理学療法士
  • 作業療法士
  • 薬剤師
  • 管理栄養士
  • 公認心理師
  • 臨床工学技士
  • 歯科衛生士
  • 社会福祉士
  • 医師は受験することができません。また、医療専門職の国家資格保有者で上記に当てはまらない方が受験する場合、学会専門医の推薦が必要です。

    (2)日本循環器学会会員である

    会員には正会員と準会員があり、どちらでも受験可能です。所属年数は問われず、試験を受ける年度の4月1日以降の入会でも問題ありません。ただし、年会費を納めていることが条件になっています。

    日本循環器学会の入会金は一律2,000円、正会員の年会費は15,000円、準会員は8,000円です。

    (3)現在、心不全療養指導に従事していること

    患者さまが退院後に塩分制限・服薬・運動などの自己管理ができるよう、心不全療養指導に従事している必要があります。

    (4)受験者用eラーニング講習を受講し、修了証を取得していること

    日本循環器学会の会員専用研修システムで「eラーニング講習」の受講が必要です。受講料として5,000円(税込)がかかります。

    (5)症例報告書5例を不備なく記載し提出していること

    「心不全療養指導に従事していること」を証明するため、国家資格取得後に経験した異なる患者の症例を5例提出する必要があります。さらに、5例すべて同じテーマは認められず、テーマごとの記載基準に沿って、2テーマ以上作成しなければいけません。

    症例報告書に記載する項目は下記のとおりです。

  • 患者背景(身体的な側面以外の、心理・社会的側面に関する情報を整理する)
  • 心不全の病態(心機能を中心とした、身体的な側面の情報を整理する)
  • 心不全治療(心疾患・心不全(予防も含む)に対して、最善の治療が提供されているか)
  • セルフケアの状況(心不全の指導状況と、セルフケア能力の査定(サポート状況)・疾病管理の状況)
  • 症例テーマや各項目に記載すべき情報の詳細は、日本循環器学会のホームページを確認してください。

    (6)申請書類を不備なく記載・提出し、受験料を納めていること

    申請書類はオンラインで登録できます。受験料は15,000円(税込)、支払方法は銀行振り込みのみなので注意してください。

    心不全療養指導士は難関資格?合格率を紹介!

    日本循環器学会のホームページによると、心不全療養指導士の合格率は2020年度:89.49%、2021年度:86.15%、2022年度:91.76% と記載されています。心不全療養指導に従事しながらの資格取得率としては比較的高めの数値だといえるでしょう。

    心不全療養指導士の取得までの流れ

    受験申込から資格取得の流れ

    2022年度の情報を参考に記載しています。2023年度に取得を希望する方は、最新の情報を確認の上で、指定された期日に間に合うように手続きを進めてください。

    (1)日本循環器学会へ入会する

    入会する際、複数の支払い方法があり、それぞれ会員番号の取得にかかる時間の日数が異なります。

    支払いが完了し、入金が確認されると、会員番号がメールで届きます。

    (2)eラーニングを受講する

    eラーニングは受験申込までに受講完了する必要があります。eラーニング講習は4月1日から筆記試験日まで視聴が可能。視聴時間は約7時間です。

    受講に際しては「心不全療養指導士認定ガイドブック(最新版)」(2023年3月時点の最新版は「改訂第2版」3,960円)が必要なため、受講前に購入しておく必要があります。

    動画の視聴は途中で中断しても続きからいつでも視聴することができるため、ご自身の予定に合わせて受講が可能です

    (3)オンライン申請をする

    申込はまずオンラインで申請しますが、オンライン申請後に同じ内容の書類を郵送で提出する必要があるので注意してください。

    オンライン申請時には、「心不全療養指導士受験申請書」「症例報告書5例」についての情報を入力します。

    オンライン申請が完了すると受験料振り込み案内のメールが届くので、案内に従って受験料を振り込みましょう。2022年度では、期限内による登録内容の変更は、無制限で可能となっていました。

    (4)書類を発送し、受験審査料を振り込む

    オンライン申請登録後、同じ内容の書類を印刷します。オンラインシステムにある印刷ボタンから印刷可能です。

    印刷後は、心不全療養指導士申請書には写真の添付と押印、症例報告書には5例すべてに循環器科医・所属長・部門長などの確認印の押印をします。

    印刷した書類以外には、以下の提出が必要です。

  • チェックシート
  • 国家資格の免許証のコピー(受験資格のあるもの)
  • eラーニング修了証
  • 受験料の振り込みが確認できる書類
  • 書類の提出期限はオンライン申請の後となっています

    (5)書類審査

    提出された書類に不備がないか確認された後、症例報告書5例の査読が行われます。合否の発表はメールで届きます。

    書類審査に合格すると認定試験受験資格を得られます。

    (6)認定試験を受験する

    試験はマークシート形式で、試験時間は2時間です。試験日は毎年12月に予定されています。

    2022年度では、試験会場は感染症対策のため47都道府県各地に設置されました。2023年以降は変更になる可能性があるので、最新の情報を確認するようにしましょう。

    (7)認定試験の合格発表・資格取得

    試験翌年の3月上旬に合格発表があります。合否はオンラインシステムで確認可能です。

    合格した場合は資格認定証とピンバッジが送付され、同意された方のみ所属や氏名がHPに掲載されます。

    心不全療養指導士の取得後は更新が必要?

    資格の有効期間は5年間で、更新審査料は10,000円です。有効期間後は更新が必要となりますが、更新には以下の4つの条件があります。

  • 日本循環器学会会員を資格有効期間中継続し、年会費を完納している
  • 日本循環器学会学術集会に5年間の中で1回以上参加している
  • 5年間で50単位以上取得している
  • 症例報告5例の提出
  • なお、単位の対象となる学会やセミナーは4種類あります。

  • 日本循環器学会学術集会
    ※2023年4月1より日本循環器学会の地方会が新たに単位付与の対象となりました。
  • 日本循環器学会コメディカルセミナー
  • 日本心不全学会学術集会
  • 日本心不全学会教育セミナー
  • 取得できる単位数や上限はそれぞれ違うので、詳しくは日本循環器学会のホームページを参照ください。

    ファルマラボ編集部

    「業界ニュース」「薬剤師QUIZ」 「全国の薬局紹介」 「転職成功のノウハウ」「薬剤師あるあるマンガ」「管理栄養士監修レシピ」など多様な情報を発信することで、薬剤師・薬学生を応援しております。ぜひ、定期的にチェックして、情報収集にお役立てください。

    記事掲載日: 2023/05/11

    あわせて読まれている記事