- 公開日:2019.07.30
自然災害発生時における医薬品供給の対応と課題とは?薬剤師の役割などを徹底解説
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、我が国にとって未曽有の出来事でした。もとより、地震や津波などの自然災害リスクが高い国ではありましたが、より有事に備えることの重要性を再認識した方が多いと思います。
当時の体験から、医薬品供給においても様々な課題が報告されています。被災地で過不足のない医薬品供給を行うためにも、薬剤師には大きな役割が期待されています。
そこでこの記事では、【自然災害発生時時における医薬品供給の対応と課題】について解説します。各地で話題の、『災害薬事コーディネーター」についても見ていきましょう。
自然災害時における医薬品供給<概要>
日本医薬品卸売業連合会の国際委員会報告書によれば、World Risk Reportのリスク推計(1970年~2005 年の被災データから推定)によると、自然災害の被災可能性は【日本39.6%】【米国12.0%】【英国11.6%】。日本の自然災害の被災可能性は、先進国の中でも飛び抜けて高いことが報告されています。
特に、津波や地震など「予見できない災害」の対応は難しく、国土が狭いことから災害が及ぼす国全体への影響度は極めて大きいと考えられています。そうした中で、東日本大震災などの大規模災害時の体験から、医薬品供給における様々な課題が明らかになりました。
医薬品の供給を司る医薬品卸には、災害時に医療機関や薬局とネットワークを維持し、供給体制をとることが求められています。現在、多くの医薬品卸が都道府県との協定等により災害時に備えた医薬品備蓄を流通在庫の形で確保しています。万が一、大規模災害が発生した際は、医薬品の供給において一定の役割を果たすことが期待できるでしょう。
地域の医療提供において重要な役割を担う薬局においても、自然災害時は医薬品供給を行うよう求められています。それだけでなく、薬剤師の派遣や外部への支援要請など様々な役割が期待されているのです。おくすり手帳等を介して患者さまの服用している医薬品の確認や、他の医療従事者に対する情報提供も、重要な業務と言えるでしょう。
自然災害時における医薬品供給<課題>
東日本大震災や熊本地震をはじめとした大規模災害の教訓や、専門家による自然災害発生時における研究から、様々な医薬品供給の課題が明らかにされています。
たとえば、東日本大震災は震災発生直後に、医薬品卸の社屋や物流センターにて、損壊・浸水・停電等の被害が発生しました。これにより一時的に医薬品が供給できない状況に。薬局も、停電や浸水に加えて、薬を求めて被災者が殺到して大きな混乱に繋がったと言います。
ほかにも、「避難所への医薬品供給」においては、全国から大量の医薬品が提供されましたが、仕分けに多くの労力を要したり需要とのミスマッチが多かったりといった問題が。こうした理由から、余剰医薬品が発生したことが課題として挙げられました。
「製薬企業から医薬品卸への医薬品供給」の課題は、工場などの製造拠点や配送センターなどの物流拠点の集中。リスク分散や代替策の確保が求められるようになりました。
「各自治体同士の連携」にも課題が多くあります。これら課題の解決には、国や地方自治体との連携が不可欠であることから、総合的な体制づくりが必要と考えられています。
災害時に薬剤師が求められる役割
災害時、薬剤師に求められる役割は様々です。
「近隣医療機関への連絡・連携」においては、近隣医療機関の被害状況や診療状況、または再開状況などを確認。収集した情報は、患者さまや各種機関に対して提供することが求められています。「取引医薬品卸への連絡」においては、被災地における医薬品の不足状況や供給ルートの回復状況を確認することが必要です。
また、重大な被害を受けた地域では、「医薬品集積所における医薬品等の仕分けや品質管理」や「医療救護所や仮設診療所等における調剤及び服薬説明」、「医薬品使用に関する医師や看護師等への情報提供」なども重大な責務です。
さらに、避難所での感染症対策や害虫駆除など衛生管理および防疫対策への協力などを通じた「公衆衛生活動」も大切な役割です。手洗いやうがいの指導や、塩素系漂白剤での靴裏の消毒等の呼びかけを行うこともあります。
以上、有事の際は様々な役割を求められることとなる薬剤師。被災地の医療救護所において、限られた医薬品で最良の処方・治療が出来るよう、医薬品の専門家としての力を発揮することが期待されていると言えるでしょう。
『災害薬事コーディネーター』とは
災害時に医薬品や薬剤師を地域に配置したり調整したりする役割に、『災害薬事コーディネーター」があります。
2011年に発生した東日本大震災は、必要な場所に必要な医薬品が届かなかったり、余った医薬品が放置されたりする状況があったそうです。これらを教訓に、都道府県の災害時医薬品等供給調整業務を補完すべく、『災害薬事コーディネーター』の養成がはじまりました。
全国的な制度ではありませんが、一部の都道府県薬剤師会では災害薬事に精通した会員の養成を進めています。現在のところ、北海道、群馬県、東京都、静岡県、愛知県、広島県、徳島県、高知県、大分県および熊本県などの多くの地域において、制度化されています。
2016年の熊本地震では、被災者に提供する医薬品の優先順位を付けたり、代替薬を提案したりするなどして活躍したことも話題となりました。『災害薬事コーディネーター』の資格を持っていれば、薬剤師として有事の際にも活躍できるはずです。
日頃から薬剤師として有事の備えを
【自然災害発生時時における医薬品供給の対応と課題】について解説していきました。
自然災害リスクの高い日本は、地震や津波のみならず台風や豪雨による被害も深刻です。だからこそ、有事の備えとして、医薬品供給体制の合理化や専門家の育成などが課題として明らかにされています。
薬剤師の職責として、"災害時における医薬品の供給活動"が求められるのも頷けるでしょう。いざという時がいつ訪れるかは分かりません。だからこそ、日頃から知識やスキルを身につけることが何よりも備えなのではないでしょうか。
ファルマラボ編集部
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