- 公開日:2021.10.28
重要性を増す薬局での24時間対応。課題や転職する際の注意点を解説
ライフスタイルの多様化によるニーズの変化や法改正に伴い、近年24時間対応の薬局が増加しています。自身に適した働き方を模索するなかで、このような薬局へ転職を考えている方もいるのではないでしょうか。
今回は24時間対応の薬局が増えている背景や、働くことで得られるメリット、転職時の注意点などを見ていきます。
薬局での24時間対応とは?
24時間対応の薬局には、大きく分けて次の2つがあります。
24時間対応が重要性を増す背景
24時間対応の薬局が広がりをみせる背景には、かかりつけ薬剤師指導料や地域支援体制加算の要件として、薬局の24時間対応が明文化された影響があります。
かかりつけ薬剤師指導料は、対物から対人業務(患者さま本位)への体系見直しが議論された結果、2016年度の調剤報酬改定から始まりました。地域包括ケアシステムにおいて、より薬局や薬剤師が地域密着型へのシフトを目的に推進されています。
そして地域支援体制加算は、薬局・薬剤師が地域医療へさらに貢献することを目的として2018年度に新設され、2020年度の調剤報酬改定では、提供した医療の実績によって加算されるしくみに変更となりました。
いずれも薬局や薬剤師に患者さま本位の業務を期待するものとなり、算定するためには、24時間体制で相談に応じることが要件とされています。
また、かかりつけ薬局・薬剤師として患者さまに選ばれるためには、処方箋が来るのを待つ受け身の対応では不十分です。患者さまの多様化するニーズに対応し、近隣の薬局と差別化を図る必要があるでしょう。
このような背景から、24時間対応の薬局が徐々に増えつつあるのです。
24時間対応のメリット
薬局が24時間体制で対応することは、薬局の経営者にとっても薬剤師にとっても簡単なものではありません。しかし、薬局の収益増加や患者さまからの信頼獲得などを期待できるなど大きなメリットもあります。
経営者側のメリット
■薬局の収益増加が期待できる
24時間対応に加え所定の条件を満たせば、かかりつけ薬剤師指導料や地域支援体制加算を算定可能です。
令和2年度診療報酬改定では、かかりつけ薬剤師指導料は76点、地域支援体制加算は38点となっており、プラスの収益が見込めるでしょう。
薬剤師側のメリット
■個人への手当がつく
薬局によって内訳や金額は様々ですが、夜間の対応を行うと手当がつく場合があります。たとえば夜間に調剤のため薬局へ出向いた場合の手当、深夜に店舗に常駐する場合の手当などが考えられるでしょう。
また、そもそも24時間常駐の薬局で働こうとする薬剤師は少ないため、最初から給与が高めに設定されていることもあります。
■スキルアップや後々のキャリアアップにつながる
昨今の転職市場では、かかりつけ薬剤師や在宅医療の経験が高く評価される傾向があります。さらに、人手の少ない夜間帯に患者さまの対応を任せられる薬剤師は、どの職場でも重宝されるでしょう。スキルアップ、転職やキャリアアップを考えた際に有利になる経験と考えられます。
■患者さまからの信頼を得られる
24時間いつでも相談に対応してくれる薬局があることは、患者さまにとって大きな安心感につながります。信頼獲得ができればかかりつけ薬剤師として、患者さまの継続的な健康サポートに寄与できるため、薬剤師としてやりがいを感じられる経験となるでしょう。
24時間対応の課題
薬剤師が24時間対応できる薬局は、薬局の経営にとっても患者さまにとっても様々なメリットがありますが、一方でコストや人材確保の面などで課題はないのでしょうか。具体的にみていきましょう。
経営者側の課題
■人材確保が難しい
24時間常駐のためには、当然ながらそのぶん多くの薬剤師を採用しなければなりません。また電話対応でも緊急対応が必要な患者さまに対しすぐに動けるかどうかも重要です。
しかし、なかなか条件に合う薬剤師が確保できず、マンパワー不足に陥っている薬局も少なくありません。とくに薬剤師が不足している地域では、24時間常駐対応を検討しても人員確保が課題で実現できないことも考えられます。
■一定のコストがかかる
夜間は賃金の割り増しや手当の加算などで、通常よりも多くの人件費が必要になります。また、24時間常駐の場合、夜間に安心して店舗を開けておくために、2人以上の勤務(事務員も含む)や強化ガラスの窓への変更、警備員の配置などセキュリティの強化も検討する必要があるでしょう。
薬剤師側の課題
■特定の薬剤師に業務負担が集中する可能性がある
夜間に薬剤師を何人も薬局に常駐待機させるのは、人件費の関係から現実的ではありません。このような場合には、基本的には薬剤師は1人か多くても2人で、事務員不在で対応することにもなるでしょう。そのため薬剤師としての通常業務はもちろん、普段は調剤事務が担当するレセコンの入力なども行う必要があります。
また夜間の電話対応は1人の薬剤師が担当するのが普通であり、患者さまの様々な要望、問い合わせなどに対して迅速かつ的確に対応する経験や能力が求められます。担当薬剤師の判断によっては、夜間対応医療機関の受診勧告や調剤のためなどで薬局へ出向くことも必要となるでしょう。
すなわち、調剤事務を含めてすべてを問題なくこなせる経験やスキルのある薬剤師に夜間業務が集中してしまう可能性があると考えられます。
また、患者さまの相談に対しては昼夜を問わずかかりつけ薬剤師のみが対応すると思われています。ただし、かかりつけ薬剤師以外が夜間の相談に応じる場合があることをあらかじめ患者さまに説明し、代わりの薬剤師の連絡先を伝えておけば、かかりつけ薬剤師でなくても対応可能です。しかしながら、かかりつけ薬剤師になっている方に夜間対応の負担がかかるケースも少なくないでしょう。
■近隣の医療機関との連携
緊急時にもすぐに必要な対応が取れるよう、患者さまの服用薬や、現在どのような状態なのかを把握しておくべきでしょう。また、緊急時には夜間でもスムーズに受診を促せる体制を整える必要があります。
そのためには、普段から近隣の医療機関との連携が欠かせません。地域一体でチームとなり、患者さまを守っていく意識が今後ますます重要になるでしょう。
24時間対応の薬局へ転職する際に確認すべきポイント
前述のとおり、24時間対応の薬局にはメリットデメリットがあります。自身にとって働きやすい環境の薬局に転職できるよう、事前に確認しておくべきポイントについてみていきましょう。
マニュアルなど体制構築の環境が整っているか確認
24時間対応薬局のマニュアルに対するガイドラインは、残念ながら公表されていません。しかし、どのような体制で夜間対応を行っているのか、たとえば以下のようなルールがしっかりとマニュアル化されている薬局であるのかを、事前に確認しておくとよいでしょう。
そのほかにも鍵の扱いや防犯対策など、夜間には普段とは異なるイレギュラーな対応が多くなるため注意が必要です。
手当について確認する
例えば、夜間に自宅から薬局まで出向き調剤を行った場合に手当があるかなど、各種手当の有無や内訳は事前に確認しておくとよいでしょう。また薬局に常駐する場合は、深夜割り増し手当のほか夜間対応の手当が出る薬局もあります。
もし自分で調べてもわからない場合は、転職コンサルタントを利用し、相談してみるのもひとつの方法です。
同僚となる薬剤師の人数や経験年数を確認
夜間の対応やかかりつけ薬剤師となるには、基本的に3年以上の経験が必要です。
そのため勤務経験が浅い薬剤師が多い職場の場合、自身が3年以上の経験者であれば業務負荷が大きくなる可能性があります。
可能な限り店舗見学を行い、薬剤師の人数や勤務経験年数を確認してみることをおすすめします。また、転職コンサルタントに薬局の状況を確認してみるのもよいでしょう。
24時間営業の場合、休憩できるスペースがあるか確認
夜間は集中力も低下しやすく、そのまま業務にあたると患者さまを危険にさらす恐れもあります。必要な場合は仮眠が取れるスペースがあるかなども事前に確認できると安心です。
24時間対応の薬局は今後ますます重要になる
かかりつけ薬剤師指導料や地域支援体制加算を算定するため、そして患者さまの多様化するニーズに応えるために、近年では24時間対応できる薬局の需要が高まっています。このような環境で働くと、手当がついたりスキルアップやキャリアアップにつながったりと、多くのメリットを享受できるでしょう。
一方で薬局は人材確保が困難であることや、人件費やセキュリティ対策などのコストがかかるなどの課題があります。また、薬剤師の経験やスキルなどによって、業務に偏りが生まれる可能性もあるでしょう。
24時間対応の薬局へ転職を考えている方は、メリットデメリットを把握したうえで、働きやすい環境に身を置けるよう、マニュアルの有無や支給される手当、同僚となる薬剤師の人数や経験などをしっかり確認しておきましょう。
監修者:前原雅樹(まえはら・まさき)さん
有限会社杉山薬局小郡店(福岡県小郡市)勤務。主に精神科医療に従事し、服薬ノンアドヒアランス、有害事象、多剤併用(ポリファーマシー)などの問題に積極的に介入している。
2019年、英国グラスゴー大学大学院臨床薬理学コースに留学(翌年、同コース卒業)。日本病院薬剤師会精神科薬物療法認定薬剤師、日本精神薬学会認定薬剤師。
そのほか、大学非常勤講師の兼任、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)の共同執筆に加え、調剤薬局における臨床研究、学会発表、学術論文の発表など幅広く活動している。