- 公開日:2022.04.05
薬局で進むDXとは?具体的な取り組み事例や薬剤師に求められる変化
昨今は業界を問わず、数多くの企業においてDXが進んでいます。これは医療業界、つまり薬局も例外ではありません。しかし「DXとは?」と問われて、その意味を理解できていない薬剤師も少なくないでしょう。
DXによって自身の働く薬局で何が変わるのか、そして薬剤師として活躍するために何が求められるのかは、今後のキャリアを踏まえても知っておくべきでしょう。ここでは実際の事例も取り上げながら解説しますので、ぜひ参考にしてください。
DXとは?
DXは「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略語です。英語圏では「Trans」を「X」と表記する慣習があるためDXと略されます。
デジタルとは「人間が行っていたアナログ情報をコンピューターでできるようにすること」、またトランスフォーメーション(変革)とは「これまでの業界の常識などを破壊すること」です。つまりDXは、進化したデジタル技術を浸透させることで、仕事のやり方を根本的に作り変える、あるいは新しい発想でビジネスを捉え直すといった変革を行い、人々の生活をより豊かにするという概念です。
経済産業省では「デジタルトランスフォーメーションを推進するための ガイドライン (DX 推進ガイドライン) Ver.1.0(2018)」においてDXを定義していますが、簡単な言葉で言い換えるならば、「DXとはビジネス環境(顧客や競争相手)の変化に適応し、デジタル技術を活用して自社の組織や仕組み、サービスなどを変革することにより、差別化・競争優位を確立すること」であるといえます。
また、DXはIT化と混同されやすいですが、厳密には異なります。IT化はペーパーレス化をはじめ、既存業務にデジタルを導入するものである一方、DXはデジタル技術により、既存の業務工程そのものを見直すなど革新的な変化を目的とします。つまり、IT化はDXの「手段」であり、DXはIT化の先にある「目的」であるといえるでしょう。
国内においてDXが広まった背景には、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」があります。これによれば、既存システムのままでは潜在的課題が顕在化し、2025年以降に年間12兆円にもおよぶ経済損失を伴う可能性があるとされているのです。
そのためDXは政府主体でも推進されており、業界を問わず多くの企業が取り組みを進めています。
薬局におけるDXとは
現状、薬局業界では以下のような課題を抱えています。
①診療報酬や薬価改定による売り上げ減少
日本では少子高齢化が進んでおり、65歳以上の人口が全人口の21%以上を占める超高齢社会です。これに伴う医療費拡大を抑えるために診療報酬や薬価の引き下げが今後続くことが予想され、人件費の削減などが必要となるでしょう。
②薬剤師不足
薬剤師の人数自体は年々増加傾向にありますが、医薬分業や高齢化が進んだことから薬局やドラッグストアの店舗数も増加しており、薬剤師不足に悩む薬局も少なくありません。
また、薬剤師は女性比率の高い職種であり、結婚や出産などのライフイベントを機に休職や時短勤務を余儀なくされる女性薬剤師が少なくないことも薬剤師不足の原因の一つといえるでしょう。
③「かかりつけ薬局」として求められるサービスの多様化
高齢化の進展に備え、政府は病気の予防や健康サポートを担う「かかりつけ薬局」としての機能を薬局に求めています。具体的な業務内容としては服薬情報の一元的・継続的把握、24時間対応・在宅対応、医療機関をはじめとする関係機関との連携などがあります。「かかりつけ薬局」としての機能を果たすためには対物業務の自動化などにより薬剤師の業務を軽減し、対物から対人へとシフトしてく必要があります。
これらのような課題を解決するために薬局のDXが進められています。また、コロナ禍では薬局に来局するのが難しい患者さまに対するオンライン服薬指導などにおいてもDXが必要でしょう。
薬局におけるDXの事例
DXが遅れているといわれる医療業界のなかでも、すでにDXへ取り組んでいる企業、あるいはこれを支援するサービスが多くあります。ここでは、具体的な事例を見ていきましょう。
クオール社がDIサービス「Domo」(ドーモ社)導入によりDX推進
全国で保険薬局を運営するクオールホールディングス株式会社は、ドーモ株式会社が運営するクラウド型Modern BI「Domo」を導入しました。クオールでは「Domo」導入以前、手作業によるデータ収集・集計、スプレッドシートによるレポート作成を月数回行っていたため、膨大な時間とマンパワーを要していましたが、データ収集・加工が「Domo」によって自動化されたことにより、レポート作成に要していた工数が大幅に削減されました。
また、調剤薬局で受け付けた処方箋や調剤内容などの情報をクラウド上で一元管理し、データの集計・分析に活用。現状のみならず過去の売上まで自動算出することにより、売上の予測など経営戦略に役立てています。
クオールが挑戦する薬局DXをDomoが支援
日本調剤社がDX認定取得事業者に認定
2021年12月1日、全国で調剤薬局を運営する日本調剤株式会社が調剤専業企業として初めて「DX認定取得事業者」に認定されました。これは経済産業省によって定められているDX認定制度で、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった経営者に求められる対応を取りまとめた「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項をもとに、DX推進の準備が整っている事業者に対して認定されるものです。
具体的に同社では2021年8月にDX戦略を策定・公表しており、DXの取り組みに医療業界内では先立って取り組んできました。「スマート医療の提供」「新たな顧客体験の創出」「顧客満足度向上と治療効果の最大化」「付加価値情報の提供」「業務の効率化・対人業務時間の創出」という5つのDX戦略を掲げ、加速的にDX戦略を推進しています。
薬歴システム「Musubi」(カケハシ社)
株式会社カケハシの「Musubi」は服薬指導しながらの薬歴作成で、薬局の働き方改革と患者さまの満足度向上を目的とした薬歴システムです。さらに「Musubi」では薬歴だけではなく在宅医療での計画書・報告書作成の効率化や、フォローアップが必要な患者さまへの自動対応、さらに在庫管理や経営数値の分析なども行える特徴があります。
一都三県と茨城県に薬局を展開する田辺薬局は、以前よりiPadを利用した薬歴システムを導入していましたが、「使える薬歴」を作るための活用までには至らず、内容も薬剤師によってバラつきが出るなど課題がありました。
しかし、「Musubi」の導入によって薬歴の質が高まり、患者さまへの適切な服薬指導やコミュニケーションの活性化に活かされています。
そのほか、石川県を中心に薬局を展開するてまりグループでは、薬歴の記載が効率化されたことで処方医に情報提供するトレーシングレポートの枚数を増やしが増えた結果、患者さまの減薬に繋がりました。
Musubi(ムスビ)選ばれ続ける薬局を実現、薬局の経営改善をサポート
かかりつけ薬局化支援サービス「kakari」(メドピア社)
メドピア株式会社の「kakari」はスマートフォンアプリを利用したかかりつけ薬局化支援サービスです。患者さまはアプリを通じてあらかじめかかりつけ薬局に処方せんを送信しておくことで、薬局での待ち時間の短縮が可能です。また薬局は患者さまの服薬情報の管理から服薬期間中のフォロー、さらにはオンライン服薬指導を行うことができます。
本サービスを導入した株式会社トラストファーマシーでは、薬に関する相談や問い合わせにチャット機能で対応し、薬局外でも患者さまのサポートが実現できています。今後は在宅医療においてオンライン服薬指導の実績を増やしていく予定です。
また栃木県に店舗を展開する株式会社ハーモニー薬局では、kakariアプリの案内が患者さまと接点をもつきっかけにもなりました。処方薬が変更になった患者さまには、後日サービスを通じてフォローの連絡を入れるなど、継続的なサポートを行っています。
Kakari|いつもの薬局を、あなたの「かかりつけ薬局」に
DXによって薬局勤務の薬剤師に求められるもの
薬局のDXが進むことで、薬剤師に求められるものにも変化が見られます。様々なシステムが導入されるため、薬剤師にもITリテラシー(ITを適切に理解、解釈、活用する力)が求められるでしょう。
また、より高いコミュニケーション能力も必要です。DXによって薬剤師の業務は対物から対人へとシフトしていくため、患者さまとの服薬指導を介したコミュニケーションはより中心的な業務になるでしょう。
さらにオンライン服薬指導など、これまでと違った形でコミュニケーションを取る機会も増えると考えられます。もちろん医師などとの医療連携も必要であり、患者さま以外とのコミュニケーションを円滑に行うことも求められるでしょう。
事例を参考に、薬局のDXを検討しましょう
薬局におけるDXについて、事例を踏まえながら解説しました。高齢化を背景とした医療費拡大、薬剤師不足などの問題も深刻化しつつあり、薬局でも業務効率化や薬剤師業務の変革のためDXが求められています。薬歴管理や患者さまフォローなど様々な業務を支援するシステムも登場し、すでにいくつもの薬局が取り組みを始めています。
DXによって薬剤師にもITリテラシーが求められるなど、薬剤師を取り巻く環境も大きく変化するでしょう。今後のキャリアのためにも、そうした変化に柔軟に対応していきましょう。
監修者:松田 宏則(まつだ・ひろのり)さん
有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)勤務。主に薬物相互作用を専門とするが、服薬指導、健康運動指導などにも精通した新進気鋭の薬剤師である。書籍「薬の相互作用としくみ」「服薬指導のツボ 虎の巻」、また薬学雑誌「日経DI誌(プレミアム)」「調剤と報酬」などの執筆も行う。