- 公開日:2022.04.18
患者さまの残薬および薬局のデッドストックの処分や対策を紹介
病院や薬局で薬を処方されたものの、処方薬が手元に余ってしまい残薬となる患者さまがしばしば見受けられます。このような場合、その余った薬の対処をどのようにしたらよいか、悩まれている患者さまも少なくありません。実際に薬局で、患者さまから「薬が余ったのだけど、どうすれば良い?」と相談を受けることも多いのではないでしょうか。
一方、薬局側でもお薬が過剰在庫となって、デッドストックになるという薬局内の残薬問題もあります。
今回は患者さま、薬局内における残薬、デッドストックの対処法について解説します。
患者さまの残薬およびデッドストックとは?
病院や薬局で受け取る薬ですが、自宅にある薬箱を見てみると、気づかないうちに色んな薬が残薬となり溜まっている、という患者さまは少なくありません。中には不要になったお薬を「いつか使えるかもしれない」などと、あえて保管しておく方もいらっしゃいます。せっかく処方された薬ですから、すぐに使わないとはいえ、廃棄するのはもったいないと考えるのも無理はありません。
しかし、保管していた残薬を自己判断で服用することはオススメできません。例えばお薬の「使用期限」「効果又は効能」「用法用量」「飲み合わせ」などを間違えて服用すると、思わぬ危険を招く可能性があるからです。また、残薬の使用は、病気の早期受診、早期発見治療を遅らせる可能性もあります。そのため、残薬は基本的に後から使用しないこと、そして可能な限り薬を余らせないように患者さまに指導することが大切です。
一方、薬が余るのは患者側だけではありません。薬局側でも過剰在庫がデッドストックとして問題となるケースが少なくありません。過剰在庫は「処方が止まったが、開封して返品ができない」「後発品のメーカーを切り替えたため、変更前の薬が使えない」「後発品に切り替えたので、先発品の交付が止まってしまった」「規格が変わってしまった」「包装変更により、返品ができなくなった」など、様々な理由で生じます。
薬剤師法では、処方箋を持参した患者さまの調剤を拒否することができないと定められており、一般に在庫を多く保有する傾向があります。たとえ在庫がなくても、その患者さまのため薬を用意しなければなりません。そのため、どうしても残薬としてデッドストックは生じてしまいます。
なぜ患者さまの手元に残薬が生じてしまうのか
通常、薬は治療までの期間を踏まえて必要な量だけ処方されます。それが、なぜ患者さまの手元に残薬として余ってしまうのでしょうか。薬剤師は残薬が生じてしまった理由を明らかにして対策を立てる必要があります。その理由には、次のようなアドヒアランスの低下などが考えられます。
飲み忘れ
最も多いのが、飲み忘れです。
例えば朝寝坊して、忙しく薬を飲まずに出かけてしまう。あるいは昼に飲む薬を家に忘れて出かけてしまったり、夜に薬を飲まずそのまま眠ってしまったりすることもあるでしょう。そうした飲み忘れによって、少しずつ薬が余ってしまうことがあります。
飲み間違え
1日3回服用すべき薬を、1日2回だと勘違いしてしまう。あるいは処方された日から服用すべきところを翌日から服用開始するなど、服用方法を誤ったことで薬が余ることもあります。
飲めないタイミング
基本的に決められた服用方法を守っているものの、どうしても薬が飲めないタイミングがあるかもしれません。例えば仕事の会議が長引いてランチタイムを逃し、これによって昼に服用すべき薬が飲めないなど。そうした、やむを得ない事情で薬が余ることも考えられます。
自己判断での服薬中止
基本的に、お薬は治療に必要な分しか処方されません。しかしながら、服薬しているうちに、「症状が良くなった、治った」「薬が効かない」「副作用が出た」などと、自己判断で服薬を中止してしまう患者さまもなかにはいらっしゃいます。その結果、残薬が生じてしまうことがあるのです。
残薬およびデッドストックの処理方法は?
では実際に薬が余ってしまった場合、その残薬、デッドストックはどのように処理すれば良いのか。患者側と薬局側、双方での方法をご紹介しましょう。
患者さま側の残薬の処理は大きく、「処分する」と「(再)利用する」に分けられます。
処分する場合
一般に処方薬は「可燃ごみ」として捨てられることを患者さまに伝えます。錠剤、粉、カプセルなどの内服薬は新聞紙や封筒にくるんで捨てるとよいでしょう。外用薬では、目薬や液剤は中身を布や紙に吸収させた後、空にして捨てられます。また、スプレー、噴霧剤は、ガス抜きをして不燃ごみとしててられます。
注射針などの処分については、処方してもらった病院や、お薬を受け取った薬局に相談するよう伝えましょう。また、薬局で処分可能の薬であれば、患者さまの代わりに処分することができることを伝え、残薬を持ってきてもらいましょう。
(再)利用する場合
前述の通り、患者さまの自己判断での残薬の使用は良くありません。残薬の使用については、まず、薬を調剤してもらった薬局の薬剤師に相談して、使用できるか否かを必ず確認するよう指導しましょう。
一方、薬剤師は、慢性疾患等の治療で、定期薬として再利用できそうであれば、残薬調節(ブラウンバック運動など)を行います。また、患者さまの自宅にある薬剤の使用は、薬歴を確認し、使用期限、使用用途、用法用量などの確認を行い、使用可能であるか確認しましょう。
薬局における過剰在庫への対応
薬局の過剰在庫は使用期限が一定以上あれば、直接に他の薬局に連絡して販売または薬価に基づいた薬の交換などが行われています。
近年では、ネット上のサービスを利用することで、他の薬局や、病院に販売することもできるようになりました。この販売サービスに取り組んでいる代表の一つに、「リバイバルドラッグ」というインターネットサービスがあります。調剤薬局や病院などの医療機関が、不要になった医療用医薬品を出品・購入できるサービスです。医療用医薬品の取り扱いのため、会員は医療機関に限定されており、出品されるすべての医薬品は「リバイバルドラッグ社」が検品、配送するという管理体制になっています。2021年3月時点で、取り扱った品目数は550,000以上に及びます。このようなサービスを利用することにより、薬局の過剰在庫となった残薬のデッドストックを減らすことが可能でしょう。
患者さまの残薬処理の注意点
残薬を処理する際には、患者さまとトラブルにならないよう事前に確認しておくよう注意する点があります。
処分する場合の薬代は戻ってこない
患者さまには残薬を薬局で処分してもらっても、薬代が返金されるわけでは無いことを事前に確認しておく必要があります。あくまで、処分するのであって、再利用ではないことを説明しましょう。
なお、残薬調整で再利用できる薬剤があれば、重複投与等防止加算による残薬調整で、残薬の再利用を行い、その分お薬代が安くなることを説明しましょう。
他人への譲渡・売却は厳禁
処方された薬を余ったからと他人に譲渡あるいは売却してはいけません。あくまで患者さま本人に対して処方された薬ですので、他人が服用すると効果が得られないだけでなく、かえって健康面に悪影響を与えてしまう可能性が考えられます。これは法律上も禁止されており、懲役や罰金が科されることがありますので、絶対に避けるよう説明しましょう。
患者さまの薬を余らせないために
患者さまにとって、処方されたお薬は、きちんと用法用量通り、処方された日数で飲み切ることが大切です。しかしながら、残薬が生じるということは、上で述べたような原因が背景にあると考えられます。そのため、患者さまからの残薬処理の申し出がある場合は、今一度、服薬アドヒアランスを確認する必要があります。以下のように原因を突き詰め、対策を立てることが大切です。
【対策指導例】
<飲み忘れ・飲み間違えが多い場合>
●生活習慣やライフスタイルが、処方薬の用法と適しているかを確認・患者さまの服薬状況と問題点をアセスメントし適した用法を医師へ提案するなどを行う。 ●処方薬の種類、数が多くて飲めていないのではないか確認
・一包化の提案などを行う。 ●他科受診し、薬の種類、数が多くなっている場合
・お薬の一元管理を提案する。
<自己判断で服薬中止、調節している場合>
●調子が良くなり、自己判断で服薬を中止する患者さま・自己判断で薬の服用を中止してしまえば、病状が元に戻り、さらに悪化してしまう可能性を説明し、服薬アドヒアランスを向上させる。 ●「薬が効かないから」と自己判断で服薬を中止する患者さま
・薬はすぐに効くこともあれば、効くまでにしばらく時間がかかることもあることを説明し、しばらくは医師の指示に従って服用を続けるよう指導する。
・お薬を服用しているから、現在の病状が抑えられていることを説明する。もし効かないと感じても、自己判断での中止は、病状の悪化、進行に繋がる恐れがあるため、医師の指示を守って服用を続けるよう説明する。 ●副作用が出たため、と自己判断で服薬を中止したと訴える患者さま
・まず、薬の副作用は薬剤師によって判断されるため、副作用症状が出たと考えられた場合、速やかに医師や薬剤師に相談するよう説明する。その際、薬剤師は症状の発現状況に関して詳細に確認し、副作用として推測された場合には処方医に相談する。勝手な中止は適した治療効果が得られないことや、治療遅延につながることを説明する。
まとめ
余った薬である患者さまの残薬および薬局内のデッドストックの処理方法について詳しくご紹介しました。患者さまの残薬は時間が経って後から服用すると、思わぬ危険を招く可能性があります。また、処方薬の他人への譲渡・売却は法律で禁止された行為なので、絶対に行ってはいけません。
余った薬のもっとも望ましい処理方法は、薬局で回収して処分するか、再利用できるかを判断してもらうことです。そのため、まずは薬局に相談するよう促すことも大切です。
一方、薬局のデッドストックでは、ネット上のサービスを利用することで他の薬局へ販売することも可能となってきました。もちろんデッドストックにならないように対策を立てながら、これらのサービスを上手に活用して薬が無駄にならないよう取り組みましょう。
監修者:嶋本 豊(しまもと・ゆたか)さん
有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)管理薬剤師。主に臨床薬物相互作用を専門とし、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)、「調剤と報酬」などの共同及び単独執筆に加え、学会シンポジウム発表など幅広く活動している。