業界動向
  • 公開日:2021.07.02

OTC医薬品に詳しい薬剤師が増えることが、最終的に患者さまの利益につながる<鈴木伸悟インタビュー第2回>

OTC医薬品に詳しい薬剤師が増えることが、最終的に患者さまの利益につながる<鈴木伸悟インタビュー第2回>

近年、とくに若手薬剤師の間で調剤併設型ドラッグストアの人気が高まるなど、医療用医薬品もOTC医薬品も扱いたいと考える方が増えてきています。一方で実際の現場に出てみると、OTC医薬品のすすめ方がわからなかったり、希望の業務に就けなかったりするケースも少なくありません。そのような悩みには、どう向き合っていけば良いのでしょうか。

今回お話を伺ったのは、有限会社ウインファーマセルフメディケーション推進室室長の鈴木伸悟(すずき・しんご)さん。保険薬局「ウイン調剤薬局横浜西口店」に勤めながら、日経DIプレミアムでOTC医薬品に関する連載を担当されているほか、薬局でのOTC医薬品販売について記した書籍を出版されます。

連載第2回では、OTC医薬品に携わる際のマインドやスキル、販売のコツといった実践的なお話や、今後の薬剤師に求められるもの、2021年6月に発売される書籍『薬局OTC販売マニュアル 臨床知識から商品選びまでわかる』の内容などについてお話を聞きました。

医療用医薬品とOTC医薬品。薬剤師に求められる役割の違いと、両方扱えることで感じた強み

医療用医薬品とOTC医薬品。薬剤師に求められる役割の違いと、両方扱えることで感じた強み

処方箋を元に調剤する医療用医薬品、患者さまのニーズを捉えて販売するOTC医薬品、それぞれ対応方法は異なりますが意識されていることはありますか?

処方箋の場合は、ドクターが書いた処方を患者さまにわかりやすく伝え、適切に薬を飲んでもらえるようにするのが薬剤師の役割だと考えています。患者さまが正しく薬を飲まないと、効果がないどころか副作用が出てしまう可能性もあるので。いかに患者さまが納得して、安全に正しく薬を飲んでもらえるよう導くか。これが薬剤師に求められますね。

一方でOTC医薬品は、患者さまにとって一番良いものをこちらで選ばなければなりません。だからこそ、きめ細やかにヒアリングしないといけないですね。たとえば簡単なところで言うと、「車の運転はしますか」など。

処方箋調剤であれば眠気が出やすい成分などが処方された場合には、患者さまへ「車の運転はしないでください」と注意喚起が必要ですが、OTC医薬品の場合は、患者さまの回答によってすすめる薬が変わります。いつも運転する方には眠気成分がないものを選びますし、たまに運転する方には「Aだと効き目は良い反面、眠気が出やすく運転できません。Bは眠気の注意がなく運転可能ですが、効き目はAよりマイルドです。いかがしますか?」といったように選択肢を提示する対応が必要になります。

医療用医薬品とOTC医薬品どちらも扱えることで感じた強みを教えてください。

やはり一元的に薬の管理ができるところではないでしょうか。実際に当薬局に処方箋を持ってきてくれる患者さまで、血圧の薬を服用している方がいて。ある日その方が、いつも飲んでいるという市販の鼻炎薬を買いに来てくれました。ただ、選んでいた鼻炎薬は効果が高いものの交感神経を興奮させる塩酸プソイドエフェドリンが含まれており、血圧をあげてしまう可能性があったんですね。

いつもその方の処方箋を扱っているのですぐに気づき、「〇〇さん、いつも血圧の薬飲んでいるじゃないですか。この鼻炎薬は血圧を上げる可能性があるので、ひどい症状でなければ、血圧に影響しない他の成分のものが良いですよ」と説明したんです。

その方はこちらでおすすめした薬を買ってくれて、後日「これで全然問題なかったよ。むしろ、血圧も前使っていた鼻炎薬が原因で上がっていたかもしれない」と言ってくれて。それからずっと、処方箋も市販薬購入も当薬局に来てくれています。

また、最近だとコロナ禍で受診を控えたいからと市販薬を買う方もいらっしゃいますが、当薬局で薬歴を管理していればより最適なお薬を提案できるので、そういう点で処方薬も市販薬も扱っていて良かったと思いますね

OTC医薬品に本気で携わる気持ちがあれば、スキルは後からついてくる

OTC医薬品に本気で携わる気持ちがあれば、スキルは後からついてくる

近年、とくに若手薬剤師のなかで、OTC医薬品も医療用医薬品も扱える調剤併設型ドラッグストアの人気が高まっています。鈴木さんのようになるためには、どのようなスキルやマインドが必要でしょうか?

大学ではOTC医薬品について、数ある製品から適切なものを選択するための詳しい教育はされていないようなので、やはり薬剤師になってからの現場経験が一番の学びになると思います。最初が肝心なので、OTC医薬品だけ処方薬だけではなく、在宅医療を含めた地域連携や薬薬連携などトータルで学べる職場を選ぶと良いのではないでしょうか。さらに欲を言うと、経営や数字管理の部分もできるようになれば、企業にも患者さまにも必要とされる薬剤師になれると思いますね。

そういう意味では、調剤併設型ドラッグストアは様々なことがトータルで学べます。しかし企業によっては、OTC医薬品販売業務と調剤業務で完全に分離されており、どちらかにしか関われない場合もありますよね。

もし私がその立場で、たとえばOTC医薬品が店舗にありながらも調剤しかできなかったら。調剤業務を終えた後、30分とか1時間フロアに出てOTC医薬品の販売に携わりますね。自分の勉強なので勤務時間外になりますし、現代に即したやり方ではないですが...。要は気持ちの問題で、学ぶ気があれば時間はいくらでもあると思うのです。

本気で患者さまのために役立ちたいとか、自分の実績を上げようと思うのであれば、働く場所は関係ありません。どこに行っても学べることはたくさんありますし、強い気持ちがあれば仮に失敗しても必ずリカバリーできます。「この職場は学ぶことがない」と言う前に、自分が本当に学ぼうとしているか振り返ってみると良いかもしれませんね。

スキルを身に着ける前に、まず気の持ちようが大切なんですね。

そうですね。私も転職したばかりのころはOTC医薬品に比べると調剤に弱かったので、休憩時間・就業後の勉強や、素早く正確な調剤ができるように訓練していました。また、現場で疑問に思ったことはその日のうちに解決して、次回のアウトプットに生かしていましたね。気持ちがあれば、ひとつひとつの現場経験も無駄にせず学びにできます。それがいずれスキルになっていくんです。

製品の特徴を捉えておくことは大前提。必要に応じて適切な受診勧奨を

必要なマインドを持ったうえで、実際にOTC医薬品を適切に販売するコツはありますか?

まずOTC医薬品に関しては、製品の特徴をしっかり捉えることが重要です。たとえば製品ごとの使用可能年齢や副作用、ほかの成分との相互作用などを確実に頭に入れておく。そうすると、「絶対に確認しないといけないポイント」がわかるので、患者さまにも要点をしぼった質問ができますよね。情報を聞き出そうと何でも聞いて、接客に20分・30分もかかったら、手軽に購入できるOTC医薬品の良さが薄れてしまいますし。それなら受診したほうが良いと思う方もいるでしょう。

それから服用方法についても、わかりやすく説明するためには自分が製品のことをしっかり理解していないといけません。たとえば口内炎の貼るタイプの薬などは、しっかりと貼り方を説明しないとすぐにはがれてしまいます。患者さまから必要な情報を的確に引き出し、わかりやすく説明する。この流れを作るために、製品の特徴を捉えるのがまず大前提のコツかなと思いますね。

ありがとうございます。ほかにも薬の選定やPOPなどで、ドラッグストアとの差別化を図るために工夫されている点を教えてください。

まずPOPですが、とくにドラッグストアでは「休めないあなたに」や「つらいかぜにオススメ」といったコマーシャルなどの販促物を利用した、売り込むような内容が多い印象です。一方で、当薬局は保険薬局ということもあり持病がある方も多く来局するので、「勝手な判断は禁物」「持病がある方はご相談ください」というように、まず薬剤師に相談してくださいと促す内容にしています。また、無理に売ろうとしていないので、「この症状は市販薬での対応は危険 受診しましょう」といったことを記載したPOPもありますね。

それから薬の配列についても、成分をベースに配列し、限られた商品数で幅広い相談に対応できるように工夫しています。置く薬を選ぶ際も、第一に患者さまにとって有益かどうかで判断するので、新商品や知名度などに左右されないのもドラッグストアとの違いです。

製品の特徴を捉えておくことは大前提。必要に応じて適切な受診勧奨を

「ウイン調剤薬局横浜西口店」POP

▲「ウイン調剤薬局横浜西口店」POP

受診すべき症状がテキストでまとめられているので理解しやすいです。実際に患者さまへの受診勧奨はどのようにされるのでしょうか?

受診すべき症状が一覧で見られる「受診勧奨シート」を活用することがあります。風邪、頭痛、生理痛など症状別に分けて、文献や近隣のドクターの話を参考にしながら作りました。シートは、OTC医薬品の販売経験が少ない薬剤師や新人薬剤師などが適切な受診勧奨ができるように作成しました

たとえば頭痛の場合、今までに経験したことのない痛みや吐き気、めまいを伴うのであれば、生命に関わるような二次性頭痛の可能性があります。そうしたときは、シートを見せながら「ただの頭痛ではなく大きな病気が隠れている可能性がありますので、すぐに病院を受診してください」と説明します。

患者さまのなかには、受診勧奨したあとにわざわざ遠回りして当薬局に処方箋を持ってきてくれる方もいて。「今までずっと市販薬でだましだまし抑えてきたけど、病院に行くきっかけになってよかった」と言ってもらえるのはうれしいですね。

受診勧奨シートのイメージ

▲受診勧奨シートのイメージ

患者さまの役に立てる薬剤師になるために必要なこととは

患者さまの役に立てる薬剤師になるために必要なこととは

これまでの鈴木さんのご経験が一冊にまとまった書籍「薬局OTC販売マニュアル 臨床知識から商品選びまでわかる」が2021年6月に発売されます。どのような内容になっているのか教えてください。

基礎的かつ細かいところまで、OTC医薬品の選び方を通して臨床知識を学べる一冊です。OTC医薬品をスペースの少ない薬局に置くことを想定したアドバイスなど販売戦略にも触れています。それから、高齢者や高血圧・糖尿病など持病がある方への薬のすすめ方や、厳選したOTC医薬品について詳細に解説しているので、先程の「商品の特徴を捉える」際にも役立つのではないでしょうか。

また、単にOTC医薬品を販売できるようになるだけでなく、最終的には患者さまの利益につながるようにと思いこの本を書きました。ですので、OTC医薬品の特徴や販売のコツだけでなく受診すべき症状のポイントを解説しており、先ほどお話しした「受診勧奨シート」も掲載しています

この本をきっかけに薬剤師や医薬品登録販売者がOTC医薬品に詳しくなることで、一人でも多くの患者さまの役に立てれば良いなと思いますね。

今後必要とされる薬剤師像について、お考えをお聞かせください。

理想は、本気で地域のため、患者さまのために行動でき、かつ利益を出せる薬剤師ですね。いくら患者さまのために良いことをしても利益が出なかったら会社は存続できないので、その両立は自分のモットーにしています。

処方箋調剤に特化しているだけで利益が出せるのであれば、それが一番効率が良いのかもしれません。しかし今後は地域連携や在宅医療など、地域の輪にしっかりと加わっていける薬剤師がいっそう求められますし、自分もそうありたいですね。当薬局で言えばOTC医薬品を武器に、地域に溶け込んでいきたいと思います。

また目の前の患者さまのために行動するのはもちろんですが、たとえば国の課題に対して薬剤師としてかかわれる部分は徹底的に協力できる方が求められますね。たとえばジェネリック医薬品の推進などは、医療費削減という課題に薬剤師も貢献できますよね。国が求めることには点数がつくわけで、そのような大きな方針に積極的に協力していくのも薬剤師の役割だと考えています。

最後に、これからキャリアを積んでいく若手薬剤師に向けてメッセージをお願いします。

まずは、誰よりも努力したと胸を張って言えるようになりましょう。私で言えば、日々の薬局業務を大切にしながら、学会や論文など初めての経験にも果敢にチャレンジしたことが今につながったと思っています。私は、自分に厳しく結果を追い求める性格なので...。

結果の出る努力をするためには「こうなりたい」と思える理想の薬剤師を見つけると良いと思います。私自身、尊敬できる先輩薬剤師を見て頑張ってきた部分があるので。理想の薬剤師を見つけたら、その方に話を聞いて頑張る方向を定めます。あとは感謝の気持ちを忘れずに誰よりも努力する。そうすれば、おのずと結果はついてくると思いますよ

まとめ

「患者さまのために行動すること」と「利益を出すこと」は一見相反するように感じますが、実は両立できるもの。重要なのは、本気で「患者さまのために」と考える気持ちです。その気持ちがあれば、スキルも利益も後からついてきます。反対に、気持ちがなければ何をしてもうまくいきません。

本記事をきっかけに、自分のマインド部分を改めて振り返った方も多いのではないでしょうか。鈴木さんのお話を参考に、今日より明日、明日より明後日と少しずつ成長し、患者さまに求められる薬剤師として地域貢献を目指しましょう。

薬局OTC販売マニュアル 臨床知識から商品選びまで分かる

薬局OTC販売マニュアル 臨床知識から商品選びまで分かる
  • 著 者:鈴木 伸悟
  • 出版社:株式会社日経BP
  • 発行年:2021年

薬局ならではの強みを生かしたOTC薬の相談・販売のノウハウを徹底解説。来局者の病態や症状、ニーズに応じた適切なOTC薬の選び方とともに、薬効分類別に著者が厳選したOTC薬計約80製品を紹介するほか、「受診勧奨シート 」を活用した適切な受診勧奨のポイントなどをレクチャー。充実した症例から学ぶケーススタディーも追加しました。日経ドラッグインフォメーションの好評連載 「ケースで学ぶOTC薬のすすめ方」を再編集したほか、書き下ろしも多数収載しています。

「調剤薬局にOTC薬を置いていてもニーズがない」「相談されたときに多くの製品から何を薦めればいいのか分からない」ーー。そんな現場のお悩みを解決します。

鈴木 伸悟さんの写真
鈴木 伸悟(すずき・しんご)さん
有限会社ウインファーマ セルフメディケーション推進室室長。過去に勤めていた大手ドラッグストアでは特定のOTC医薬品販売で全国首位を獲得した経歴を持ち、自身でもSNSを通して薬剤師・登録販売者向けにOTC医薬品の役立つ情報発信を行う。日経DIプレミアムではコラムの連載を持つなど多方面に活躍している。

▼▼ 鈴木伸悟さんのインタビュー一覧


第1回 OTC医薬品は「患者さまとのコミュニケーションツール」
第2回 OTC医薬品に詳しい薬剤師が増えることが、最終的に患者さまの利益につながる
記事掲載日: 2021/07/02

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