業界動向
  • 公開日:2021.06.25

OTC医薬品は「患者さまとのコミュニケーションツール」<鈴木伸悟インタビュー第1回>

OTC医薬品は「患者さまとのコミュニケーションツール」<鈴木伸悟インタビュー第1回>

進む高齢化によって、医療費が増加の一途をたどる日本。国をあげてセルフメディケーションの推進が叫ばれるなど、自分の健康は自分で守る意識が高まっています。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で受診を控える方も増加し、処方箋の減少によって打撃を受けた調剤薬局は少なくありません。門前薬局であれば安心、処方箋の応需のみで利益を出せる...そのような時代は今や過去になろうとしています。

今回お話を伺ったのは、有限会社ウインファーマセルフメディケーション推進室室長の鈴木伸悟(すずき・しんご)さん。保険薬局「ウイン調剤薬局横浜西口店」に勤めながら、日経DIプレミアムでOTC医薬品に関する連載を担当されているほか、2021年6月に「薬局OTC販売マニュアル 臨床知識から商品選びまで分かる」を出版されます。連載1回目は、薬局がOTC医薬品を扱う意義や重要性、患者さまとの信頼関係構築のための工夫などについてお話を伺いました。

薬局薬剤師がOTC医薬品へ積極的にかかわるべき理由

薬局薬剤師がOTC医薬品へ積極的にかかわるべき理由

調剤薬局で、積極的なOTC医薬品の販売が行われない背景には何があるのでしょうか?

OTC医薬品と処方箋調剤の利益を比べると、処方箋を調剤したほうが圧倒的に収益性は高いんですね。とくに薬局では、利益の出るOTC医薬品でも4〜5割程度で、数少ないと思います。

さらに、世間的にもOTC医薬品はドラッグストアで買うイメージが定着しているなかで、 いわゆる調剤薬局にOTC医薬品を置いたところで買ってもらえるのだろうかと不安視する薬局経営者も少なくありません。また、OTC医薬品を配置するスペースが十分にない、処方箋調剤で手一杯でOTC医薬品の接客をする余裕がないといった薬局もあるでしょう。

置いても利益が低く、売れなかったら不良在庫になり、置くことで効率が悪くなる可能性もある...このような懸念点から、「OTC医薬品を置く意味はない」と考える方はどうしてもいらっしゃると思うんです。

そのような現状のなか、鈴木さんの勤める「ウイン調剤薬局横浜西口店」では豊富なOTC医薬品を扱っています。その理由を教えてください。

私は、OTC医薬品は患者さまとの大事なコミュニケーションツールだと考えていて。OTC医薬品の相談や販売によって薬局機能を向上させることが、何よりも薬局の利益や薬剤師としてのやりがいにつながると思っています。

当薬局は横浜駅前の立地ですが、薬局が入るビルを含め近くに医療機関はなく、面で処方せんを応需しています。それで開局当初は月に70枚しか処方箋がこなかったんです。1日1枚という日もありましたね。このような状況のなかで、自らが得意分野とするOTC医薬品を呼び水に処方箋を集めようと考えるようになりました。

前職のドラッグストアの経験も生かしながら、薬局でOTC医薬品を売る強みや差別化を徹底的に意識して、ほかにはない戦略を立てていきました。たとえば当時は売れ筋のOTC医薬品である「アレグラFX」などがまだ第1類医薬品だったので、薬剤師がいつもいる薬局で購入できるのは差別化になると考え、花粉症の時期、店外に工夫したポスターを貼ったんです。すると通りがかった方が次々と店に入ってきてくれるようになりました。

そうして来局してくださった方に、一番合ったOTC医薬品を選択できるようきめ細やかなカウンセリングを実施し、受診勧奨などにも力をいれました。薬局でも演出や工夫によって、処方箋がなくてもお客さまが健康相談やOTC医薬品の購入に来てくれるんだと感じた瞬間でしたね

「ウイン調剤薬局横浜西口店」外観。定期的ポスターの入れ替えを行う

▲「ウイン調剤薬局横浜西口店」外観。定期的にポスターの入れ替えを行う

狙い通りの結果になったんですね。ほかに、OTC医薬品を置きはじめてどのような変化がありましたか?

とくに嬉しかったのは、はじめは比較的年齢層の高い来局者が多かったなかで、20代や30代の若い年代の方がOTC医薬品を求めて来局してくれるようになったことです。もっと上の世代は町の薬局に市販薬があることに慣れている方も多いのですが、20代、30代だと市販薬はドラッグストアで買うものとイメージしている方が大半なので。

そこで、「薬局でOTC医薬品の販売を調剤と同じくらい取り組むこの方針は間違っていない」と確信しましたね。OTC医薬品の取り扱いは継続しつつ、処方箋で来てくれた方も一人ひとり大事にしようとコツコツ6年間続け、医療機関との連携にも力を入れることで月70枚だった処方箋が先月は1300枚になりました

18倍以上...すごいです。

たとえば当薬局をOTC医薬品やヘルスケア商品の購入で知った方が、「この薬局そんなに混んでないから、今度は処方箋をもってこよう」と覚えてくれたり、その方がさらに知人、友人へ広めてくれたりといった流れでどんどん広がり、年々来局者が増加しています。また、連携できる医師も少しずつ増えてきました。

OTC医薬品の売上と処方箋枚数は相乗効果で伸びるものだと実感しましたね。OTC医薬品はお客さま、患者さまに薬局を知ってもらうためのコミュニケーションツールだと意識し、なにより患者さまファーストの対応を続けたことで今につながっていると考えています。

モチベーションは、「患者さまに一番合った薬を選んであげたい」という思い

モチベーションは、「患者さまに一番合った薬を選んであげたい」という思い

薬剤師になる前から、OTC医薬品に積極的にかかわっていきたいというお考えはあったのでしょうか?

いやいや、実は違って(笑)。学生時代はとにかく薬剤師国家試験に受かることしか考えておらず、その後のことはイメージしていなかったですね。ただ小さい頃から、体調を崩すと親に言われて商店街にある薬局に相談に行っていたので、薬局はすごく身近な存在だったんです。そういう地域の人たちに頼りにされるような薬局が理想だったので、まずはOTC医薬品に携わりお客様に一番合った薬を選んであげたいと思い、ドラッグストアに就職しました。

ドラッグストアでは、小売業のノウハウや売上、利益の出し方などを学び、店舗の売上を出すためがむしゃらに結果がでるまで努力しましたね。しかしある時から、「売上を伸ばすだけではなく、より適切な受診勧奨やOTC医薬品を販売する方法がほかにもあるのでは?」と疑問を抱くようになりました。ただ同時に、自分の考えを会社で提案し、さらに反映させるためには、とにかく実績を出すしかないとも思って。それからよりいっそうOTC医薬品と日々向き合い販売戦略を立て、周りのスタッフも巻き込めるように自分自身でまず行動しました。

「やり方を変えるには実績を出すしかない」その思いで、実際に全国トップクラスまで上り詰めたのですね。

日々の販売実績等が評価され、トップクラスの販売をした薬剤師として、当時あるOTC医薬品のCMキャラクターだった有名女優さんから直筆サインをプレゼントしていただいたこともありました。

しかしやり方を変えたいという思いは実績を出すだけでは認めてもらえず、入社3年目だった私には目標の達成が困難であることがわかってきて、大きな壁となりました。そんななかで縁もあり、処方箋調剤を主とする保険薬局にフィールドを変え、新しいことにチャレンジしようと決意し、現職への入社に至ります。

OTC医薬品と医療用医薬品どちらも扱うことで膨大な知識が必要になると思いますが、「患者さまに一番合った薬を選びたい」という気持ちが継続的な知識習得へのモチベーションになっているのでしょうか?

そうですね。私はもともと大学の定期試験でもいつもギリギリで劣等生だったので、自分が覚えるのに苦労したぶん、覚えたことはわかりやすく伝えたいという気持ちが強くあって。患者さまに対しても、薬や成分の説明をどう言えばわかりやすく伝わり、納得して服用してくれるかなといつも考えています。それで、わかりやすく伝えるためにはしっかりと自分が勉強しなければならないと思っているので、「患者さまにわかりやすく伝えたい」気持ちがモチベーションになっていますね。わかりやすく説得力のある説明がOTC医薬品の売上にもつながっていると思います。

変化に対応しながら地域の役に立てる薬局・薬剤師が選ばれる時代へ

変化に対応しながら地域の役に立てる薬局・薬剤師が選ばれる時代へ

鈴木さんから見て、薬剤師業界や薬剤師業務は今後どのように変わっていくと思われますか?

現状の薬局は、病院の目の前に薬局を建て、ある程度の処方箋を応需すれば収益が出せる仕組みになっています。ただ、とくにコロナ禍では受診を控える方が増え処方箋の枚数が減ったり、地域連携薬局や健康サポート薬局など国をあげて様々な薬局の形が示されたりするなかで、やはり処方箋を応需しているだけでは淘汰されていくんだろうなとは思っていて。

薬局は立地がすべてという時代はもう終わってきています。これからは、様々な医療機関の処方箋を面で受けたり在宅医療に関わったりと、「変化に対応しながら地域の役に立てる薬局や薬剤師」が求められますし生き残っていけると感じています

かかりつけ薬局・薬剤師、健康サポート薬局、地域連携薬局など、薬局と患者さまの関わりの深さや長さがますます求められていますが、患者さまとの結びつきを深めるためにどのような対応や工夫をされていますか?

信頼していただくために患者さまのニーズをつかむことですね。とくに当薬局のようなターミナル駅前は、会社員や学生さんなど、年代でいうと20代から50代くらいの若い方が多いのが特徴で、「薬を早く出してほしい」というニーズがあります。

ですので服薬指導や対応時は、患者さまに伝えないといけないことの優先順位を頭のなかで組み立てたうえで行っています。患者さまと話しながら薬を袋に入れたりレジを打ったり、ロスタイムをなるべく作らないように徹底していますね。患者さまによってはのんびりとお話を伺ったりしますが、基本は迅速で親切丁寧な対応を心がけています

そうすると、「この薬剤師、なにか違うぞ」と思ってもらえて、信頼していただけるんです。一度信頼してもらえると、とにかくスピードを求めていた患者さまのほうから、「今日血圧高かったよ」とか「この薬とこの薬は一緒に飲める?」と聞いてきてくれるようになります。結果的に、適切な服薬指導につながるようになりました。患者さまが薬剤師に対して何を求めているのか、的確に把握して対応することが重要ですね

まとめ

OTC医薬品の取り扱いをきっかけに、処方箋の応需も相乗効果的に増えたことは、多くの薬剤師にとって新しい発見だったのではないでしょうか。ただし、単にOTC医薬品を置くだけで同じ結果になることはありません。重要なのは薬剤師のマインド部分。大前提に「患者さまに適した医療を提供する」という思いを持っていることが何より重要と言えるでしょう。

次回、第2回目では、OTC医薬品を販売するコツやスキルについて、より実践的なお話を伺います。

薬局OTC販売マニュアル 臨床知識から商品選びまで分かる

薬局OTC販売マニュアル 臨床知識から商品選びまで分かる
  • 著 者:鈴木 伸悟
  • 出版社:株式会社日経BP
  • 発行年:2021年

薬局ならではの強みを生かしたOTC薬の相談・販売のノウハウを徹底解説。来局者の病態や症状、ニーズに応じた適切なOTC薬の選び方とともに、薬効分類別に著者が厳選したOTC薬計約80製品を紹介するほか、「受診勧奨シート 」を活用した適切な受診勧奨のポイントなどをレクチャー。充実した症例から学ぶケーススタディーも追加しました。日経ドラッグインフォメーションの好評連載 「ケースで学ぶOTC薬のすすめ方」を再編集したほか、書き下ろしも多数収載しています。

「調剤薬局にOTC薬を置いていてもニーズがない」「相談されたときに多くの製品から何を薦めればいいのか分からない」ーー。そんな現場のお悩みを解決します。

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鈴木 伸悟(すずき・しんご)さん
有限会社ウインファーマ セルフメディケーション推進室室長。過去に勤めていた大手ドラッグストアでは特定のOTC医薬品販売で全国首位を獲得した経歴を持ち、自身でもSNSを通して薬剤師・登録販売者向けにOTC医薬品の役立つ情報発信を行う。日経DIプレミアムではコラムの連載を持つなど多方面に活躍している。

▼▼ 鈴木伸悟さんのインタビュー一覧


第1回 OTC医薬品は「患者さまとのコミュニケーションツール」
第2回 OTC医薬品に詳しい薬剤師が増えることが、最終的に患者さまの利益につながる
記事掲載日: 2021/06/25

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