- 公開日:2020.03.03
「アンチ・ドーピング」とは?基礎知識と薬剤師に求められるサポート
最近ニュースなどで取り上げられることが多くなった、スポーツ選手のドーピングによる失格やメダル剥奪などの話題。その中で、スポーツ選手本人が意図せずにドーピング行為をしてしまう話もよく耳にします。
ドーピング行為を反対する「アンチ・ドーピング」は国内でも活発になり、薬の専門家である薬剤師の活躍が期待されています。今回は、【アンチ・ドーピングについての理解を深めるとともに、ドーピング行為を防ぐための薬剤師の対応など】について解説していきます。
アンチ・ドーピングとは?
ドーピングは、競技能力や運動能力を増幅させる可能性のある医薬品や技術を不正に使用したり、その使用を隠す行為です。本来、身体能力を最大限に発揮して行うべきであるにもかかわらず、その行為はフェアプレー精神に反するとしてスポーツ界で禁止されています。
アンチ・ドーピングは、ドーピングをanti(アンチ)するという言葉のとおり、そうしたドーピング行為に反対・対抗する活動です。本来あるべき公平なスポーツ競技として成り立たせるために、教育や啓発活動・検査などが実施されています。
1999年に設立された「世界アンチ・ドーピング機構(WADA)」は、国際的な共通ルールとしてアンチ・ドーピング規則で示されています。
1. 採取した尿や血液に禁止物質が存在すること
2. 禁止物質・禁止方法の使用または使用を企てること
3. ドーピング検査を拒否または避けること
4. ドーピングコントロールを妨害または妨害しようとすること
5. 居場所情報関連の義務を果たさないこと
6. 正当な理由なく禁止物質・禁止方法を持っていること
7. 禁止物質・禁止方法を不正に取引し、入手しようとすること
8. アスリートに対して禁止物質・禁止方法を使用または使用を企てること
9. アンチ・ドーピング規則違反を手伝い、促し、共謀し、関与すること
10. アンチ・ドーピング規則違反に関与していた人とスポーツの場で関係を持つこと
▼引用元はコチラ:アンチ・ドーピングとは/TOKYO2020
また、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が定める「禁止表国際基準(年1回/1月1日更新)」では、禁止物質や方法について記載しています。
ドーピングがスポーツ選手に与える影響
筋肉増強や持久力増強などを目的に、常用量をはるかに超えた用量の医薬品を服用すると、選手に健康被害があられたり、後遺症に苦しんだりする場合もあります。最悪のケースでは命を落とす選手もいるなど、安易に手を染めることは非常に危険な行為です。
また、検査によってドーピングの使用が認められれば、選手生命にも影響が出るでしょう。過去にも、ドーピングにより社会的信用を失い、現役を続けることが難しくなった選手も多く存在します。自分自身のこれまでの努力が水の泡となるばかりか、チームメイトからの信頼や応援するファンの期待を裏切ることになり、すべてを失うことになってしまうのです。
「日本アンチ・ドーピング機構(JADA)」の役割
日本でも、アンチ・ドーピングに対する公的な組織として、「日本アンチ・ドーピング機構(JADA)」が2001年に設立されました。JADAでは主に次の2本柱で活動を行っています。
必ずしもJADAのアンチ・ドーピングの目的は、不当にドーピングを行う選手を一掃排除することではありません。ドーピングのリスクや正しい予防知識の普及活動を行うことで、選手をドーピングから守り、スポーツ競技に際する「フェアネス」を維持するのが目的です。
また、スポーツ界で問題となっているのが、本人が意図せずドーピング使用と判定されてしまう「うっかりドーピング」。体調不良で購入した風邪薬や漢方薬などに含まれている成分で、ドーピング検査の陽性反応と判定される事例が多数報告されているのです。これは、興奮薬としてその使用が禁止されている「メチルエフェドリン」を含むか、主成分とする「麻黄」を含む薬を使用した場合などに起こり得ます。
うっかりドーピングは、決して選手だけの責任ではなく、周囲のバックアップ体制や市販薬購入時のフォロー不足にも問題があります。社会全体でスポーツ選手をバックアップし、薬の専門家である薬剤師が主体となってスポーツの価値を守っていく必要があるでしょう。
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▼参考記事はコチラ
うっかりドーピングを防止しよう
薬局や地域薬剤師に求められる対応
アンチ・ドーピングを推進するにあたり、地域の薬局と薬剤師が担う役割は思っている以上に大きなものです。薬剤師として果たすべき意識を高め、適切な対応ができるようアンチ・ドーピング活動に取り組む必要があります。
2019年に発刊された「薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック2019年版」は、薬剤師が店頭で選手から問い合わせを受けた場合の対応手順についてまとめています。
<問い合わせがあった場合の流れ>
↓
一覧に掲載が「ある」・「ない」のいずれかを確認 ・「ある」場合は、該当ページを確認して使用の可を回答する
・「ない」場合は、WADAの禁止薬物に該当するか「2020年禁止表国際基準」より確認
↓
不明な場合は、グローバルDROを検索するなどして確認
※それでも不明な場合は、薬剤師会、都道府県薬剤師会、日本薬剤師会などにもエスカレートさせて確認する手順が定められています。
地域の薬局などに勤める薬剤師も、スポーツ選手が処方箋を持参した場合などを想定し、「アンチ・ドーピング」に対する意識を強くもっておくことが重要です。薬剤師は、上記の手順についても熟知しておきましょう。
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▼参考記事はコチラ
『薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック 2019年版』について
公認スポーツファーマシスト認定制度とは?
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)ではアンチ・ドーピング推進のため、2009年4月に「公認スポーツファーマシスト認定制度」を設置しました。たび重なるうっかりドーピングを防ぐために、スポーツファーマシストへの関心と期待が高まっています。
スポーツファーマシストとは?
公認スポーツファーマシストは、最新のアンチ・ドーピング規則に関する知識を有する薬剤師として、JADAが認定した者が与えられる資格です。薬剤師の資格を有した者が、(公財)日本アンチ・ドーピング機構が定める所定の課程(アンチ・ドーピングに関する内容)を修了後に認定される資格制度となっています。
スポーツファーマシストの仕事
JADAにおけるスポーツファーマシストの活動は主に以下の通りです。
具体的な活動としては、ドーピングコントロール(ドーピングを抑止するための検査)や薬の相談、講演などに応じるほか、スポーツ医科学委員・日本薬剤師会の担当委員として、アンチ・ドーピングの推進・普及活動を行います。
薬剤師は薬局や病院に所属し、店頭や電話などで選手やスポーツ関連組織からの相談にあたるケースが多くあります。また、必要に応じてスポーツ大会や競技会の現場でスポーツファーマシストとして仕事を依頼される場合もあるでしょう。
スポーツファーマシストになる方法
スポーツファーマシストになるには、基礎講習会と実務講習の2種類の講習を受講したあと、知識到達度確認試験を受験して合格した受講者に対し、JADAから認定証が発行されます。毎年1回応募する機会があり、例年3月ごろに募集が開始されます。 募集人数には制限があり、定員を超えた場合は抽選となります。必ずしも希望する年に資格取得できるとは限らないことを念頭に入れておきましょう。
アンチ・ドーピング活動を、薬剤師の立場から支える
スポーツへの関心が高まるなか、薬剤師によるアンチ・ドーピング活動に期待が寄せられています。直接的に関わる機会はあまりないかもしれませんが、一人ひとりの薬剤師がアンチ・ドーピングの意識を持って日々の業務に取り組むことで、防げる問題もあるはずです。
アンチ・ドーピング活動の中心とも言えるスポーツファーマシストは、今後も活躍の幅を広げていくでしょう。ただし、資格を取得しただけで活用できなければ意味がありません。
スポーツファーマシストとして活躍できる職場探しについては、転職コンサルタントに相談するなど情報収集をしてみるのもいいでしょう。資格取得に協力的な職場も増えているので、この機会にぜひアンチ・ドーピングについて考えてみてはいかがでしょうか。
ファルマラボ編集部
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