- 公開日:2020.02.13
「2022年危機」とは?基礎知識と薬剤師がもつべき心構え
「2022年危機」をご存知でしょうか。2022年は、団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者に到達しはじめる最初の年。医療費や介護費など社会保障費の急増が懸念されるといった問題を、2022年危機と言います。医療の一翼を担う薬剤師にとっては重要な問題です。直面する課題をはじめ懸念要素などをしっかり認識しておく必要があるでしょう。
そこでこの記事では、【2022年危機の概要や薬剤師ができること】などを解説します。
「2022年危機」とは?
「2022年危機」とは、第一次ベビーブームが起きた時期に生まれた団塊の世代が後期高齢者になることで引き起こる財政危機です。団塊の世代が後期高齢者に到達しはじめる2022年度から、団塊の世代の全員が後期高齢者となる2025年度にかけて、後期高齢者医療費を含めた国民医療費の増大が予想されているのです。
2019年9月9日には健康保険組合連合会より、「今、必要な医療保険の重点施策 -2022年危機に向けた健保連の提案-」「平成30年度健保組合決算見込の概要」が公表されました。主に大企業の会社員の健康保険を管掌する健康保険組合は、現役世代の拠出金負担が高齢者医療の増大に合わせて急増することを危惧しています。
現役世代の負担増加に
「2022年危機」を迎えると同時に、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となると推計されており、さまざまな課題に直面すると予想されています。国民皆保険制度を維持していくなかで、急激な高齢化と現役世代の減少によって、医療保険制度を通じた現役世代から高齢世代への所得移転が進行するでしょう。一人当たりの医療費が高額になれば、世代内の給付と負担のアンバランスさも顕著になることが見込めます。
現役世代の拠出金負担が高齢者医療の増大に合わせて急増すれば、医療保険制度全体の財政悪化が進むことも大きな課題です。健康保険組合連合会の試算によると、健保組合の平均保険料率・介護保険料率・年金保険料率の合計保険料率が、2019年度は29.091%だったもののが2022年度には30.1%に、さらに2025年度には31.0%となる「保険料率30%時代」が目前に迫っているのです。
2022年危機に向けた、健保連(健康保険組合連合会)の提案
2022年危機に向けて、健康保険組合連合会では、国民医療費の抑制に向けたさまざまな提案がされました。順に見ていきましょう。
後期高齢者の2割負担
「後期高齢者医療制度」は、75歳以上の方が加入する独立した医療制度です。所得区分に応じて、窓口負担額は1~3割と規定されています。一部の現役並み所得者を除き、窓口負担額は1割が一般的ですが、今後は医療費を抑制していくために低所得者に配慮しつつ、75歳に到達した方から順次2割負担としていく提案がされています。また、現在1割負担の方も段階的に2割負担にすべきことや、年齢に関わらず負担能力に応じた患者負担割合を定めるべきなど、さらなる見直しに向けて検討すべきことが示されました。
後期高齢者の現役並み所得者への公費投入
後期高齢者医療制度の財源構成は、本来は公費が50%です。しかし、現役並み所得者の給付費には公費が投入されないため、現役世代の負担が増加しています。金額にすると約4,500億円と試算されており、現役並み所得の対象者を現在の6.7%(121万人) から7.7%(139万人)に拡大すると、現役世代の拠出金負担が約670億円も増えると報告されています。このため、現役並み所得者の給付費にも公費を投入すべきという提案や、現役並み所得者の基準を見直す場合は公費負担の減少分が現役世代に影響しないことが求められているのです。
保険給付範囲の見直し
抗がん剤や分子標的医薬品などの高額な医薬品が続々と登場する今日、薬剤費は年々増加し続けています。国民皆保険制度を維持していくためにも、一般用医薬品に同成分や同薬効の製品をもつ「市販品類似薬」は、 保険給付の範囲から除外したり償還率を変更したりするべきと提案されているのです。湿布薬、ビタミン剤、保湿剤、花粉症治療薬などが検討されています。また、対象疾患の重症度や診療上の有効性などから医薬品の償還率に差を設定しているフランスの制度を参考に、医薬品の保険償還率のあり方の再考も検討されています。
「2022年危機」に向けて薬剤師ができること
2022年危機を目前に控え、全世代で支え合う医療保険制度への改革を進めることが求められています。そのためには、国はもとより全ての関係者がそれぞれの役割を果たし、努力を続けていく必要があるでしょう。薬剤師の役割は、ジェネリック医薬品の促進や適切な疑義照会により、保険給付の適正化に貢献すること。そして、充実した服薬指導により医薬品の適正使用を啓発し、薬物治療の効果を最大限に発揮させることが重要となると考えられます。
また、保健事業の取り組みを通じて、「支える側」になれる健康な高齢者を増やすのも大切な役割です。健康サポート薬局やかかりつけ薬局では、疾病の早期発見や健康維持サポートを担う医療施設として、患者さまの相談を受け付ける対応なども期待されています。患者さまをしっかりフォローすて、QOLを高めるサービスの提供が求められているのです。
2022年以降も制度を持続していくために
この記事では、2022年危機の概要や直面する課題、薬剤師ができることについて解説しました。2022年以降も続く高齢化や現役世代の急激な減少等といった見通しを踏まえ、国民皆保険制度を持続可能にするための改革に継続的に取り組んでいく必要があります。
政府は、来年の骨太方針2020において、給付と負担の見直しを含む、改革に向けた重点政策をとりまとめる方針を掲げています。薬剤師にもさまざまな役割が求められるため、今後の動向に注目しましょう。
ファルマラボ編集部
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