- 公開日:2022.11.17
薬剤師は不足している?業界の現状と傾向について解説
薬剤師の数は増加傾向にありますが、将来的に供給が需要を上回り、薬剤師が過剰になると予想されています。一方で、薬剤師の勤務先には業態や地域の偏在があり、深刻な課題として取り上げられているのも事実。
この記事では、薬剤師数の推移や今後の動向、地域偏在などの課題について取り上げ、薬剤師不足の現状について解説していきます。
薬剤師数の推移や今後の動向
厚生労働省の調査によると、令和2年12月31日時点における全国の届出「薬剤師数」は321,982人(男性:124,242人、女性:197,740人)であり、平成30年に行われた前回調査から10,693人増加しました。薬剤師数が増加傾向にある要因の一つに、薬学部の6年制が始まる前後に薬学部・薬科大学の新設が相次いだことがあげられます。4年制当時と比較すると、入学定員数は平成14年度の8,200人から令和2年度の11,602人へ、約1.4倍まで増加しているのです。
「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」のとりまとめ(令和3年6月30日公表)では、今後の薬剤師の需要と供給のバランスについて以下のように述べています。
概ね今後10年間は、需要と供給は同程度で推移するが、将来的には、需要が業務充実により増加すると仮定したとしても、供給が需要を上回り、薬剤師が過剰になる。薬剤師業務の充実と資質向上に向けた取組が行われない場合は需要が減少し、供給数との差が一層広がることになると考えられる。
引用:厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」
薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ(提言概要)|厚生労働省
薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 とりまとめ|厚生労働省
厚生労働省「3 薬剤師」|厚生労働省
薬剤師の「地域偏在」が大きな課題に
▲引用:都道府県(従業地)別にみた薬局・医療施設に従事する人口10万対薬剤師数
将来的に薬剤師数は過剰になることが予想されているものの、すでに薬剤師数の需給バランスが崩れている地域も少なくありません。薬局・医療施設に従事する人口10万あたりの薬剤師数は、全国平均で198.6人となっていますが、徳島県(238.6人)や東京都(234.9人)のように薬剤師が過剰となっている地域もあれば、沖縄県(148.3人)や福井県(157.0人)のように薬剤師が不足している地域もあります。また、業種間の偏在も問題の一つになっており、とくに病院薬剤師の確保は早急に解決しなければならない課題です。
「地域偏在」を無くすための対策
ここでは薬剤師の地域偏在への対策について解説していきます。国が行なっている対策や地方が取り組む課題および対策、現在検討中の対策についてそれぞれみていきましょう。
国の対策(地域医療介護総合確保基金)
令和3年に実施された「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」では、将来的に薬剤師が過剰となる一方で、地域偏在により薬剤師確保が困難な地域が出てくることが指摘されました。これを受けて厚生労働省は令和3年12月、地域医療介護総合確保基金を活用した薬剤師修学資金貸与事業の取り扱いに関する通知を発出しています。
これによると、都道府県が修学資金を貸与した薬剤師は、当該都道府県内の医療機関に一定期間(原則として貸与期間の1.5倍以上)就業することを条件に、修学資金の返済義務が免除される予定です。
【厚労省】都道府県で薬剤師確保策‐薬学生に修学資金貸与|薬事日報ウェブサイト
地方の対策
①長野県
【課題】令和2年度の長野県内における薬剤師は、人口10万人当たり189.2人と、全国平均(同198.6人)を下回っています。県内に薬学部がない長野県では県外での就職者が多いことや、資格保有者の約6割が女性であることから、結婚・出産による未就業状態などもあり、とくに病院や薬局での人員不足が課題です。
【対策】薬剤師の確保・育成に向けた主な事業として、中高生を対象とした薬剤師セミナーの開催や訪問薬剤管理指導推進のための知識・技能習得研修を実施。また、薬学生、U・Iターン希望者、県外に住む未就業薬剤師をターゲットにした就職・復職説明会を東京・銀座、埼玉・大宮、愛知・名古屋、北陸やWEBにて開催しています。
薬剤師の確保・育成について|長野県
②宮城県
【課題】宮城県においても、 令和2年度の人口10万人当たりの薬剤師数は194.3人と、全国平均の198.6人を下回っています。一方で、宮城県の中でも仙台市では237.2人と高い水準であることから、都市部に薬剤師が集中している現状もうかがえます。薬剤師確保においては絶対数の不足だけでなく、県内における薬剤師偏在も課題です。
【対策】宮城県の地域医療について理解を深めることを目的に、とくに宮城県内の地方で働きたいと考えている薬学部の学生に対して、被災地バスツアーや地域医療における薬剤師業務体験実習などを実施しています。また、子育てなどの理由で離職した女性や医療機関での経験がない有資格者を対象に実務研修の実施、薬学への進路選択を小中高生に考えてもらうため、大学薬学部での教育内容や薬剤師の業務を紹介するセミナー、体験学習などを行っています。
薬剤師確保対策事業|厚生労働省宮城県公式ウェブサイト
③鳥取県
【課題】鳥取県では人口10万人あたりの薬剤師数が182.2人と平均を下回っている一方で、人口に占める65歳以上の割合が全国平均を大きく上回っています。今後、県内全域で急速に高齢化が進むとみられており、薬剤師の早急な確保が求められています。また、県内だけでなく隣県の島根県にも薬学部がないことから、山陰地方全体として薬剤師の絶対数が少ないことも課題の一つです。
【対策】出身地を問わず、鳥取県内で新たに就業する薬剤師を対象に奨学金の返還額の一部を助成する制度が導入されています。また、薬学生向けのインターンシップとして鳥取県内の病院、薬局、行政機関で薬剤師の業務や就業環境などを体験できる「薬学生サマーセミナーinとっとり」の実施、高校生向けに県内で働く若手薬剤師の体験談を聞いたり、薬科大学のカリキュラムや授業・就職状況などを知れるセミナー、就職支援協定を結ぶ大阪薬科大学オープンキャンパスへの無料送迎バス運行なども行われています。
現在検討中の対策
薬剤師の地域偏在の問題が深刻化するなかで、厚生労働省では「診療報酬上の評価」や「給与格差の見直し」といった金銭的な対応策の検討に乗り出しています。とくに不足感の強い、病院で勤務する薬剤師を増やすための対策としては、「施設基準への薬剤師の追加」や「薬剤師の体制整備に係る評価の拡充」などが提案されており、今後、さらに議論がすすめられていくと考えられています。
第12回薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会|厚生労働省
地方で働くメリットと注意点
薬剤師の地域偏在を解消するために、国や都道府県はさまざまな対策を打ち出しています。都市部で働きながらも「地方で働くこと」に興味をもつ薬剤師も増えており、実際にUターン・Iターン転職で働く環境を変えた方もみられるようになりました。
地方で働くメリットの一つに、比較的都市部より年収が高いことがあげられます。大手チェーンなどが進出していないエリアでは、中小企業が高待遇で薬剤師を採用しているなどの事情があるのです。そのほかにも、薬剤師が不足する地域で勤務することのやりがいや地域医療に貢献している実感をもてること、生活の面でも都市部に比べ物価が安く生活費が抑えられること、通勤時間の軽減などさまざまなものがあります。休日にはアウトドアやレジャーなどの地方ならではの環境を楽しめることも魅力です。
一方で、地方で働く注意点としては、人口の少なさから人間関係がある程度固定されてしまうことや、生活の利便性が低下してしまうことなどがあるでしょう。また、移動に車が必要な地域では、運転免許や自家用車の有無が問題となる場合もあります。
薬剤師が地方で働くメリット・デメリットについてさらに詳しく知りたい方は以下の記事で解説しているので、確認してみてください。
「地方で働く」という選択肢も考えておく
薬剤師数が過剰になると言われる一方で地域偏在が問題となり、国や地方ではさまざまな対策が検討・導入されています。最近のコロナ禍の風潮も後押しし、最近ではUターン・Iターン転職を検討する方も増えています。
しかし、都心と地方の求人では働き方や環境が大きく変わるため、事前にそれぞれのメリットや注意点をしっかりと理解しておくことが大切です。地方への転職を視野に入れる際は、そうした事前調査がスムーズに行える薬剤師専門の転職コンサルタントを上手に活用すると良いでしょう。
ファルマラボ編集部
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