- 公開日:2022.11.28
調剤の外部委託が解禁?薬局に与える影響とは
薬機法では、「薬局開設者は、その薬局で調剤に従事する薬剤師でない者に販売又は授与の目的で調剤させてはならない。」と規定されています。しかし、現在この規定の見直しがすすんでおり、処方箋を受け付けた薬局が調剤業務の一部を外部の薬局に委託することが可能になる見通しとなっています。
この記事では、「調剤業務の外部委託」に関して、その目的や背景、現場に与える影響、今後検討される事項について解説します。
調剤業務の外部委託の概要
「調剤業務の外部委託」は2021年4月20日、規制改革推進会議の「医療・介護ワーキング・グループ(当時)」において「調剤業務の効率化」が取り上げられたことをきっかけに2022年から本格的に議論が開始されました。
まず、2022年1月18日、日本経済団体連合会(経団連)は、内閣府の特命担当大臣(規制改革担当)に提出した「Society 5.0時代のヘルスケアIII」(※1)のなかで、一包化を含む調剤業務の外部委託を容認するように申請しました。また、厚生労働省は本件の規制緩和を検討した結果、2022年1月19日に開催された「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」において、調剤に関する責任の所在、安全性の懸念、薬を受け取るまでのタイムラグなどの問題点の議論は必要としながらも、調剤の外部委託に前向きな姿勢を示しました。
一方、これに対して日本薬剤師会は、責任の所在が不明瞭になることを理由に反対の姿勢を示しましたが、議論を重ねた結果、2022年6月7日に閣議決定・公表された規制改革実施計画のなかで「調剤業務の外部委託を解禁すること」が明記されました。
さらに2022年7月11日、厚生労働省は同年2月から計7回開催された「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」のとりまとめを発表しました。すなわち、「調剤業務の外部委託」の解禁が及ぼす影響が不明瞭なことから、当面の間は委託可能な業務は一包化(直ちに必要とするもの、散剤の一包化を除く)に限定すること、委託先は同一の三次医療圏内(※2)とすることとし、外部委託の実施が可能となった後に必要に応じて対象の拡大の検討を行うことが示されたのです。
※1...日本が世界に提示する新たな社会「Society 5.0」のコンセプトと、その実現を主導する日本の変革の方向性について、経済界の考えをまとめたもの
※2...外部委託サービスの提供が期待でき、かつ、地域医療への影響が大きくなりすぎない程度の集約化が想定できる地理的範囲として設定
「国が薬局・薬剤師に期待していること」と「調剤業務の外部委託の目的」
現在日本には約6.1万の薬局があり、そこでは約19万人の薬剤師が勤務しています。人口あたりの薬剤師数は10万人あたり約190人で、OECD加盟国(EU加盟国とその他16カ国)で最も多くなっており、地域包括ケアシステムのなかで重要な役割を果たすことが期待されています。その政策のひとつが「調剤業務の外部委託」です。ここでは薬局・薬剤師に期待されていることと外部委託の目的を解説します。
厚生労働省が薬局・薬剤師に期待していること
厚生労働省の「患者のための薬局ビジョン」では、「2025年までに、すべての薬局はかかりつけ薬局としての機能を持つことを目指す」ことが期待されています。しかし、現在までの調査結果ではその目標は達成できているとは言い難い状況となっています。
また、「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」のとりまとめの中で、薬剤師が地域で活躍するためのアクションプランとして、処方箋受付時以外の対人業務(調剤後のフォローアップ、医療計画における5疾病、薬剤レビュー、リフィル処方箋への対応など)の推進や、地域医療における薬剤師の役割として、他職種や病院薬剤師との連携、健康サポート業務の推進、薬局間の連携などが期待されています。
「調剤業務の外部委託」の目的とは
上述したように、薬剤師が専門性を地域医療に活かして行くことが期待されており、対物業務から対人業務へと重心をシフトしていく必要があります。一方で、高齢化が進むなか、一包化のニーズも増してきており薬剤師が対物業務に多くの時間を取られてしまう薬局も多いと考えられています。
近年では対物業務の効率化を目的とした薬局薬剤師DX(Digital Transformation)が推進されているほか、全自動分包機や自動監査機などが登場しています。しかし、導入コストや人材の問題等から、とくに中小薬局等では対物業務の効率化が進められないケースも少なくありません。
そこで提案されたのが「調剤業務の外部委託」の解禁です。機械化等による対物業務の効率化が難しい薬局が、調剤業務を外部の薬局に委託することによって、薬剤師が対人業務に専念できるようになるでしょう(以下参照)。
調剤業務の外部委託によって起きる変化
「調剤業務の外部委託」が導入されるとどのような変化が起こるでしょうか? 順に見ていきましょう。
対人業務を充実させることができる
上述のように、対物業務の効率化が達成されるため、委託元の薬局薬剤師はより対人業務を充実させることが可能になります。たとえば調剤後のフォローアップやリフィル処方箋への対応の強化を進めたり、勉強会・症例検討会に参加・開催したり、各種手引き書の作成や周知を行ったりと、薬剤師としての経験や知識を増やすための時間が確保できます。また、対人業務の充実は薬局がかかりつけ薬局として機能するためにも欠かせません。さらには薬局薬剤師DXの準備段階であるIT化・デジタル化の推進も可能になるでしょう。
薬剤師が応需できる処方箋枚数が見直される
対物業務の負担が減ることで、処方箋1枚当たりの負担が軽減されるため、薬剤師1人あたりが応需できる処方箋の規制、いわゆる「40枚規制」に関する見直しが行われる可能性があります。実際、「40枚規制」については「調剤業務の外部委託」とあわせて議論されており、薬局薬剤師DXが進む過程や現在の法制度、業務内容などを考慮して見直しが行われる予定です。
対物業務の機能や能力が失われる
変化は良いものばかりとは限りません。たとえば「調剤業務の外部委託」が進んでいくと、委託先の薬局が集約され調剤業務に特化した対物業務専門の大規模な薬局が生まれる可能性があります。また、外部委託が進み過ぎると委託元である個々の薬局における医薬品の種類や備蓄が減ってしまい、対物業務に関する機能・能力が失われてしまう可能性があります。つまり、緊急時の患者さまへの対応ができなくなり、自然災害発生時などでも必要な医薬品の供給が滞ってしまう恐れもあります。
このように「調剤業務の外部委託」は単純な負担軽減だけでなく、業界全体に大きな変化をもたらす可能性があるため慎重に議論されています。
そのほかの検討事項
「調剤業務の外部委託」については2022年度中に検討・結論を出す方向で進められますが、慎重に議論しなければならない検討事項は多く残されています。
責任所在の明確化
処方箋調剤である以上、受付薬局である委託元が責任を持つことが基本となりますが、外部で行われる調剤をすべて確認できるわけではありません。そのため、調剤過誤などの問題が発生した場合、その責任は委託元と委託先のどちらがどこまで負うのかを明確にする必要があります。したがって、委託契約のなかでどのような規定を定めるべきか議論が必要になるでしょう。委託元は、外部委託による調剤後の監査を行うのみならず、委託先での医薬品の品質管理や調剤業務などを監視する体制も必要になる可能性があります。
安全性の確保
「調剤業務の外部委託」を容認するうえでの大前提となる「安全性」の問題です。「調剤業務の外部委託」が導入されることで、これまで一つの薬局で行っていた受付、調剤、監査、服薬指導の流れが分断されます。そのような状況で、これまで通りに調剤過誤などを防ぎ安全性を保てるのかを検証する必要があります。
コストの精査
外部委託を行う場合、委託元と委託先の情報共有や医薬品の配送などにどれほどのコストがかかるのかを検討する必要があります。そもそも外部委託解禁の目的の一つは対人業務の効率化に要する薬局の負担の軽減ですが、逆にコストが増してしまうことも考えられます。
さまざまな影響がある「調剤業務の外部委託」、今後の動向に注目
「処方箋を受け付けた薬局で調剤を行う」という、これまで当たり前だったことが、近い将来、変わるかもしれません。オンライン服薬指導を行う場合など、処方箋受付後すぐに調剤を必要としないケースでも「調剤業務の外部委託」の活用が想定されています。
処方箋受付薬局では処方内容の確認と服薬指導を実施し、その後、委託先の薬局が調剤したものを患者さまに配送するといった形の薬局が今後増えていくかもしれません。「調剤業務の外部委託」についてはさまざまな意見がありますが、実際の業務にどのような変化を与えるかは未知数です。今後の動向に注目しましょう。
執筆者:ぺんぎん薬剤師 さん
4年制薬学部を卒業後、大学院の研究で特許を取得。その経験を患者さんの身近な場所で活かしたいと考え薬局に就職。薬局では通常の薬局業務に加え、学会発表、研修講師、市民講座など、様々な形で「伝えること」を経験。自分の得た知識を文章にし、伝えていくことの難しさと楽しさを学ぶ。 薬局での仕事が忙しくなる中、後輩に教える時間がなくなり、伝える場としてブログ「薬剤師の脳みそ」の運営を開始。その後はX(旧Twitter)、Facebook、Instagramなどの各種SNSも開始し、現在では複数のメディアで連載を行っています。
監修者:松田 宏則(まつだ・ひろのり)さん
有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)勤務。主に薬物相互作用を専門とするが、服薬指導、健康運動指導などにも精通した新進気鋭の薬剤師である。書籍「薬の相互作用としくみ」「服薬指導のツボ 虎の巻」、また薬学雑誌「日経DI誌(プレミアム)」「調剤と報酬」などの執筆も行う。
日本経済団体連合会 - Society 5.0時代のヘルスケアⅢ~オンラインの活用で広がるヘルスケアの選択肢~
内閣府 - 規制改革推進会議 会議情報
内閣府 - 規制改革 公表資料 「規制改革実施計画」等
厚生労働省 - 薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ
「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」の「とりまとめ」~薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン~を公表します
厚生労働省 - 「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました
薬局で進むDXとは?具体的な取り組み事例や薬剤師に求められる変化