- 公開日:2021.01.18
「薬剤耐性菌」とは?現状と薬剤師に求められる役割
人類の歴史のなかでワクチンや抗菌薬の開発により、多くの感染症の治療が可能となりました。しかし、近年では抗菌薬に対する薬剤耐性を有した細菌が増加するようになり、世界的に問題となっています。
国内でも、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が取りまとめられるなど、耐性菌の発生を遅らせ拡大を防ぐことを目的とした様々な取り組みが行われています。
この記事では、薬剤耐性菌の概要や日本における現状、薬剤師ができることについて解説していきます。
「薬剤耐性菌」とは?
まず細菌やウイルスなどが原因で引き起こされる感染症に有効なのが、抗菌薬(抗生物質および合成抗菌薬)とよばれる薬剤です。この抗菌薬の登場により、様々な感染症の治療が可能となりましたが、1980年以降になってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの従来の抗菌薬が効きにくい、または効かなくなる「薬剤耐性(Antimicrobial Resistance:AMR)」を有する菌(=薬剤耐性菌)が世界中で増えるようになりました。
薬剤耐性菌が増えるとどうなる?
薬剤耐性菌が増えると抗菌薬が効かなくなることから、これまで治療可能とされていた感染症の治療が難しくなると想定されます。これらの薬剤耐性菌に感染してしまうと、治療が長引くほか、既存の抗菌薬を使えず治療の手立てがなくなってしまう場合も考えられます。さらに、病院内などで薬剤耐性菌が増えることで、大規模な集団感染が発生したケースも報告されています。
薬剤耐性菌が、健康な人に影響を及ぼすことはそれほど多くありません。ところが高齢者や、合併症により体力が低下している患者さまが薬剤耐性菌に感染してしまうと、予後が不良となり最悪の場合死に至るケースも考えられます。これらを踏まえて、院内における薬剤耐性菌の拡大防止が強く求められているのです。
日本における薬剤耐性の現状
薬剤耐性(AMR)は世界的にも問題となっており、米国では年間3.5万人以上、欧州では年間3.3万人が死亡していると推定されています。わが国においても、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などの薬剤耐性グラム陽性球菌や、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)などが問題となっています。
これまで日本国内の死亡数は明らかになっていませんでしたが、2019年12月5日、国立国際医療研究センターは、薬剤耐性菌のなかでも頻度が高いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)について、日本国内における死亡数の推計が約8,000人であることを発表しました。
※全国の医療機関のJANIS参加率から、国内におけるそれぞれの菌種による血液検体由来の分離件数を推計し、さらに死亡率を乗じて死亡数を推計 ※耐性菌ではない場合と比較した超過死亡数ではなく、MRSAならびにフルオロキノロン耐性大腸菌による死亡数
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日本での薬剤耐性(AMR)による深刻な被害を調査
「薬剤耐性菌の増加を防ぐためには?
薬剤耐性菌が出現する原因は様々ですが、必要のない抗菌薬を服用することや処方された抗菌薬の服用を途中で中止するなど、自己判断で服用方法を変更してしまうと、残った細菌から耐性菌が出現する可能性が高くなります。薬剤耐性菌の増加を防ぐためには、医師や薬剤師の指示を守って、必要なときに適切な量を服用してもらうことがポイントです。
また、抗菌薬の適正使用と同時に、薬剤耐性菌の拡大を防ぐことも重要です。感染を予防するためには、日ごろから正しい手洗い・うがいを徹底し、アルコール消毒やマスクの着用などを心がけましょう。日々の生活や食事、休養などに配慮して、健康を意識することも大切です。
近年では院内の抗菌薬適正使用支援チーム(AST)における取り組みも注目されており、2018年度診療報酬改定では抗菌薬の適正使用を支援する体制を評価した「抗菌薬適正使用支援加算(100点/入院初日)」が新設されました。小児科外来診療料及び小児かかりつけ診療料において、抗菌薬の適正使用に関する患者・家族の理解向上に資する診療を評価した、「小児抗菌薬適正使用支援加算(80点)」も新設されています。
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AST 活動に薬剤師の力が求められている
適正な抗菌薬使用のために薬剤師ができること
薬剤耐性菌の増加を防ぐためには、適正な抗菌薬使用(AMR対策)が重要です。2016年には「AMR(Antimicrobial Resistance)対策アクションプラ ン」が策定されるなど、わが国においてもさまざまな取り組みがすすめられています。前述の「抗菌薬適正使用支援加算」においては、算定要件の専従職種のなかに薬剤師がはじめて明記されるなど、薬剤師における役割も期待されています。
実際にAST の一員として感染症診療支援を行うためには、感染症学や感染制御学、抗菌化学療法学、微生物学など、幅広い分野における知識が必要となります。予防を含めた感染制御と抗菌化学療法が求められるなかで、「感染制御専門薬剤師」や「抗菌化学療法認定薬剤師」などの資格を取得して、感染症や薬剤耐性に関する知識を身につけることも重要です。
さらに、日々の服薬指導において、患者さま一人ひとりが抗菌薬を適切に使用できるようにサポートを行うことも求められています。たとえば「この薬は毎日夕食後、3日間必ず飲み切ってくださいね」と用法用量を指導するだけでなく、抗菌薬を服用することの意義や、服薬を中止した場合のリスクについても説明することがポイントです。
薬の専門家である薬剤師に期待される、薬剤耐性対策の推進
この記事では、薬剤耐性菌の概要や日本における現状、薬剤師ができることについて解説していきました。薬剤耐性対策の推進や、抗菌薬の適正使用推進が注目されるなかで、薬物療法の専門家である薬剤師における役割も期待されています。
院内の抗菌薬適正使用支援チーム(AST)においても、感染症や感染対策を専門とする医師(インフェクションコントロールドクター)や看護師(感染管理看護師)などに加えて、薬剤師(感染制御専門薬剤師)が協働することが求められています。病院で働く薬剤師は、これらの資格の取得なども検討してみてはいかがでしょうか。
ファルマラボ編集部
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