- 公開日:2023.12.27
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の薬、ケレンディア錠
2型糖尿病に伴う慢性腎臓病の治療に使われるケレンディア錠(一般名:フィネレノン)。2023年6月で発売から1年が経過し、処方制限が撤廃となりました。
今回は、ケレンディア錠の有効性や安全性について、基本情報からおさらいしながら、患者さまへの服薬指導のポイントを解説します。新薬の知見を深めたいと考えている薬剤師の方々は、適切な情報提供や服薬指導のためにも、ぜひご覧ください。
ケレンディア錠とは
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の薬の治療薬として用いられるケレンディア錠について、まずは効能効果や作用機序、適用する患者さまをそれぞれおさらいしていきます。
効能効果
ケレンディア錠は2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の患者さまが対象の薬です。ただし、末期腎不全、又は透析施行中の患者さまを除きます。
非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体(以下、MRと表記)拮抗薬として作用する薬であり、MRの過剰な活性化を抑え、慢性腎臓病(以下、CKDと表記)の進行や、心血管疾患のリスクを低下させる効果が期待できます。
アメリカを含む欧州など、複数の国でもCKDへの適応が取得されている薬です。
作用機序
MRが過剰に活性化する理由として、慢性的な高血糖状態や塩分の過剰摂取、アルドステロンの影響が挙げられます。これらの要因がMRを過剰に活性化し、腎臓の炎症や繊維化を引き起こしている病態がCKDです。
ケレンディア錠は、非ステロイド型選択的MR拮抗薬と呼ばれるように、MR受容体に対する親和性が、従来のステロイド型MR拮抗薬(スピロノラクトンやエプレレノン)と比べて高いことが知られています。
投薬期間制限解除のお知らせ<2023年6月1日より>|バイエル薬品株式会社
ケレンディア錠 添付文書|バイエル薬品株式会社
ケレンディア錠®適正使用ガイド|バイエル薬品株式会社
医学と医療の最前線 腎臓病とミネラロコルチコイド受容体|J-STAGE
ケレンディア錠の用法用量
次にケレンディア錠の用法用量についておさらいしていきます。
薬価に収載されているケレンディア錠の規格は下記の2つです。
10mgと20mgの2種類の錠剤がありますが、この2つは生物学的同等性が示されていないため、20mgを投与する場合には、10mg錠を2錠で投与すべきではありません。
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病<末期腎不全、又は透析施行中の患者さまを除く>の方が対象
ここでは成人が使用する際の用法用量に合わせて、小児や授乳中の方、妊婦の方は使用できるのかどうかについても解説していきます。
成人
ケレンディア錠は、1日1回の経口投与が基本の使用方法ですが、患者さまの血清カリウム値やeGFRを観察しながら投与する必要があります。
eGFRが60mL/min/1.73m2以上:20mg
eGFRが60mL/min/1.73m2未満:10mg から投与開始
投与開始後、血清カリウム値やeGFRを定期的に検査しながら、投与開始4週間後を目安に20mgへ増量していきます。
小児や授乳中の方、妊婦
小児を対象とした臨床実験はされておらず、現在小児の腎臓病治療には用いられていません。小児以外にも授乳中の方にも推奨されておらず、動物実験では乳汁中への子供への移動から有害作用が見られています。
妊婦の方の場合も、治療における有益性と乳児に与える危険性との総合的な判断から、投薬を検討しなければなりません。
ケレンディア錠の禁忌・副作用・使用上の注意
ケレンディア錠は販売から1年が経過し、2023年6月に投薬期間制限解除となりましたが、使用には多くの注意点があります。ここでは、ケレンディア錠の禁忌や副作用、使用上の注意について解説していきます。
禁忌
ケレンディア錠の禁忌は下記の5つです。
・成分に対し過敏症の既往歴がある
・イトラコナゾール、リトナビルを含有する製剤、アタザナビル、ダルナビル、ホスアンプレナビル、コビシスタットを含有する製剤、クラリスロマイシンを投与中の方
・投与開始時に血清カリウム値が5.5mEq/Lを超えている方
・重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)のある方
・アジソン病を患っている
重度の肝機能障害だけではなく中等度の肝機能障害の方でも、ケレンディア錠の血中濃度が上昇するおそれがあり、高カリウム血症のリスクが高まるため、頻回な数値の検査が必要です。また、ケレンディア錠の投与によりeGFRが低下する可能性があるため、eGFRが25mL/min/1.73m2未満の方への使用も気をつける必要があります。
併用注意
併用禁忌を除く併用注意の薬剤は、下記のものが一例です。
薬剤・薬剤の種類 | リスクの詳細 | 措置方法 |
CYP3A阻害剤、グレープフルーツ含有食品 | ケレンディア錠の血中濃度が上昇するリスクがある | 頻回なカリウム値など数値の検査を行う |
CYP3A誘導剤やセイヨウオトギリソウ(St.John's Wort、セント・ジョーン ズ・ワート)含有食品等 | ケレンディア錠の血中濃度が低下し効果が低下する可能性がある | CYP3A誘導作用が少ないか、作用のないものに変える |
スピロノラクトン、トリアムテレン、スルファメトキサゾール・トリメトプリム、カリウム製剤類など | 血清カリウム値が上がり、高カリウム血症になるリスクが上がる | 血清カリウム値を頻回に測定する |
リチウム製剤 | 明確な機序は明らかになっていないが、リチウム中毒になる可能性がある | 血中のリチウム濃度を測定する |
非ステロイド性消炎鎮痛薬 | 明確な機序は明らかになっていないが、腎機能障害のある方の場合、高カリウム血症になる可能性がある | 血清カリウム値の頻回な測定をする |
ミトタン | 明確な機序は明らかになっていないが、ミトタンの作用を阻害する恐れがある | 類薬(スピロ ノラクトン)の併用を避ける |
上記以外でも併用注意の薬剤はあるため、細かく知りたい場合は添付文書等をご覧ください。
副作用
ケレンディア錠の内服によって起こりうる副作用は下記のものがあります。
前の併用注意の段落でも掲載していますが、ケレンディア錠は高カリウム血症のリスクがある薬で、血清カリウム値の検査が非常に重要です。
次の章で詳しく解説していきます。
ケレンディア錠の使用で特に気をつけるべき高カリウム血症
ケレンディア錠の内服による高カリウム血症を防ぐために、事前の血清カリウム値とeGFR値の測定が必要です。測定後に内服用量を設定して内服開始しますが、4週間後に検査を行っていく必要があり、血清カリウム値が5.5mEq/Lを超えると内服を中断しなければなりません。
内服容量の維持、中止の判断は下記の通りです。
血清カリウム値(mEq/L) | 用量 |
4.8以下 | ・20mg1日1回の場合:維持
・10mg1日1回の場合:20mg1日1回に増量 ※ただし、eGFRが前回の測定から30%を超えて低下していない場合に限る |
4.8〜5.5以下 | 維持 |
5.5〜 | 中止 |
引用:ケレンディア錠®適正使用ガイド|バイエル薬品株式会社)
投与を中断してから血清カリウム値が5.0mEq/L以下まで下がった後、ケレンディア錠10mgを1日1回の投与から再開が可能です。
高カリウム血症は軽度の場合ほとんど症状が見られない方が多く、気づきにくいのが特徴です。しかし重症化すると心臓に大きな負荷がかかってしまうため、定期的な血液検査を行い、早期にカリウム値の上昇を把握する必要があります。
ケレンディア錠の服薬指導のポイント
最後にケレンディア錠を使用する方に向けて薬剤師が服薬指導を行う際のポイントを解説していきます。
ケレンディア錠の服薬指導を行う際は、主に以下の点に注意しましょう。
それぞれ理由とともに解説していきます。
脱力感や筋痙攣のような症状がみられたら医師や薬剤師に相談
高カリウム血症は軽度のうちはほとんど症状が見られず、症状が見られても軽い筋力低下のみです。しかしながら、高カリウム血症の症状の兆候を知っておくことで、高カリウム血症の早期発見に繋がる場合もあるでしょう。もし脱力感や筋痙攣、吐き気のような高カリウム血症の症状がみられたら、すぐに医師や薬剤師に相談するよう伝えましょう。
水分補給をこまめにするよう伝える
高カリウム血症の予防やミネラルバランスを維持するために、こまめに水分補給をするよう伝えましょう。
また、カリウムは便からも排出されるといわれており、便秘を予防するためにも水分補給はおすすめです。
グレープフルーツやグレープフルーツジュースは摂取しないよう伝える
グレープフルーツやグレープフルーツジュースの摂取は、ケレンディア錠の血中濃度が上昇するリスクがあります。
そのためグレープフルーツやグレープフルーツジュースを摂取しないように伝えましょう。
「定期的な採血が必要な薬」と説明しておく
ケレンディア錠の内服には定期的な血清カリウム値やeGFR値など、血液検査が欠かせません。
説明もないままに頻回な受診と採血を求められると、不安になる方もいるかもしれません。
そのためケレンディア錠を内服していく場合には、薬を安全に使用するためにも、定期的な採血が必要だと説明しておくと良いでしょう。
ケレンディア錠の服薬指導が正しくできるようになろう
この記事ではケレンディア錠について、使用前に知っておきたい効能・効果や作用機序、副作用などを改めて紹介しました。
ケレンディア錠は定期的な血液検査等が必須な薬で、その分患者さまへ負担をかけることになります。
患者さまに不安を与えすぎずに内服上のリスクを説明し、定期的な検査が必要だというのを理解してもらう必要があるでしょう。
服薬指導のポイントを参考に、患者さまが安心・安全に使用できるように指導していきましょう。
監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん
2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。
主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』