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  • 公開日:2019.02.01

切り絵がコミュニケーションを磨く手段に。石賀直之さんインタビュー【薬剤師+切り絵師】

切り絵がコミュニケーションを磨く手段に。石賀直之さんインタビュー【薬剤師+切り絵師】

薬剤師としてのお仕事以外でも活躍をされている方にお話をお聞きする、インタビュー連載企画。第2弾となる今回は、薬局薬剤師の仕事をしながら「切り絵師」としてご活躍し、奈良県知事賞を受賞されている【石賀直之さん】にお聞きしました。

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薬剤師と切り絵師。まったく違う活動が、両立の原動力に

切り絵をする石賀直之さん

石賀さんは現在、薬剤師の仕事をしながら切り絵の活動もされていますね。そもそも、切り絵を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

幼少期は仏像彫刻などの美術をしていた祖父と一緒に過ごすことが多く、絵や彫刻に囲まれた生活をしていました。その影響が強く、小さい頃から遊びといったら絵を描いたり、祖父のもとで物を作ったりしていたんですよ。

切り絵の原点は、小学校の時にたまたまアートナイフをもらったことです。最初は紙を細く切ってみるところから始めて、次は紙の後ろにセロファンを貼ってみよう、自分の好きな絵を描いて切ってみようと、自分で作品を工夫していくのが楽しくて。

そうやって遊びの一環として続けていくうちに、紙を切ることでできる表現の幅に魅力を感じていきました。切り絵以外にも、油絵や水彩画、彫刻など、幼少期からずっと何らかの形で美術を続けてきましたが、この面白さに気づいて、切り絵をやっていこうと決めました。

私にとっては昔から「何かを作る」のが日常であり、その延長上に切り絵があったという感じなんです。切り絵の活動をしている今も、特別なことをしている感覚はないですね。

幼少期からずっと美術がお好きだったのですね。美術の仕事を本業にせず、薬剤師を選んだのはなぜでしょうか?

薬剤師になった理由は大きく2つあります。1つ目は、薬剤師の仕事であれば帰宅後のプライベートの時間を確保でき、自分が好きなことをできると思ったからです。

これはSL運転手として働きながら仏像彫刻をしていた祖父の影響が強く、「本業をしながら別の活動をする」という働き方を素直におもしろそうだと思っていたんです。薬科大学に進学する前から、働くことに対するポジティブなイメージを持っていましたね。

2つ目は、看護師として働いていた祖母の影響もあり、医療に関わる仕事の専門性の高さに魅力を感じていました。大学で学んだことが仕事に直結しますし、資格は取得すれば一生活かせるものなので。

医療に関わる職種といってもいろいろありますが、薬剤師は勉強した知識をお話しすることで、患者さまの役に立てる仕事ですよね。私は人と話すことが好きなので、薬剤師の仕事であればやりがいを持って働けると考えました。

薬剤師であれば、やりたいことをやりながらも楽しく働くことができると思って、薬科大学への進学を決めたんです。

大学に進学する前からすでにパラレルキャリアを考えていたのですね。実際に働き始めて、切り絵の活動との両立が大変だと思ったことはありますか?

薬剤師と切り絵の活動において大変だと思ったことはありません。むしろ、薬剤師の仕事があるからこそ、切り絵の活動が成り立っていると思います。

ライフスタイルの面では、薬剤師の仕事が切り絵の活動の良いブレーキになっていると言えます。もし切り絵の活動だけであれば、ずっと切り絵に熱中して生活リズムが崩れてしまうと思うので。朝9時に出勤して夜7-8時に薬剤師の仕事が終わり、帰宅してから切り絵を制作するという一定のリズムによって、体調を崩すこともありません。

2016年からは管理薬剤師として働いていますが、生活リズムもそれまでと変わらないです。薬局をまとめる立場となったことで、以前より気を引き締めて働けるようになり、仕事にやりがいを感じながら毎日を過ごしています。

また切り絵の活動に使える時間が毎日限られているので、次はもっと頑張りたいという原動力にもなっていますね。

予定のない休日はない!?土日は個展やワークショップに奔走

石賀直之さん作品

仕事の後に切り絵をされているとのことでしたが、実際にどのような作品を制作しているのでしょうか?

私が作っているのは、花や鳥など季節を感じるものを表現した切り絵です。今でも幼少期に祖父母と庭で見た光景を、自然と切り絵のデザインとして描いています。

大まかな手順としては、コピー用紙にシャープペンシルで絵を描いて、アートナイフで空白のパーツを抜き、スプレーで色付けをして完成になります。

線を描くときはデザインを特に決めることもなく、消しゴムも使わずに、その時々にできた線を大切にしています。作品を仕上げる上で失敗を恐れることはありません。できるかできないかはやってから初めて分かることなので、とにかくやってみようと思っているんです。

石賀直之さんの作品を透かしている様子

こんなに緻密な作品なんですね...!制作に結構時間がかかりそうですが、個展やワークショップなどの活動もされてますよね?

そうですね。ナイフを走らせている時は集中していて特に何も感じないのですが、仕上がりを見るとやはり細かいと思います。仕事から帰ってきた後の時間と休日を制作に充てて、A4用紙を切り抜くのに10日ほどかかってしまいますね。

休日には制作以外に自宅やイベントでのワークショップ、交流会や個展の開催といった活動もしています。予定の立て方としては、前もって分かる交流会や展示会などがある日は休みにするなどうまく調整し、薬局のシフトが出たら自分からどんどんワークショップなどの予定を入れていきます。

最近は何も予定がない休日はないですね。ワークショップや個展では、画家など普段薬局では出会えないような方とも関わるので、刺激や学びがありとても楽しいです。自分が知らなかった知識や今までにない考え方をお客さまから教えていただくことが多いので。

また毎日やりたいことを追いかけて熱中しているからなのか、仕事や日常でうまくいかない時でもすぐに切り替えられるようになりました。

お客さまとの「対話」が薬剤師としての仕事にも活きてくる

石賀直之さん作品

切り絵の活動によって得た刺激や学びがあるとのことですが、ご自身で成長したと思うことはありますか?

切り絵の活動によって様々な人と関わり、一つひとつのコミュニケーションを大切にするようになりました。

例えば、切り絵の個展に来てくださった方の様子を見て、「静かにゆっくり作品を見たいのかな」「説明を聞きたそうにしているな」と想像し、説明を聞きたそうな方には自分から声をかけています。さらに聞いた感想をもとに、お客さんにもっと喜んでもらえる作品を考えていきます。

個展はお客さまの生の声を聞けますし、対話を通して新しい発想をいただくこともあるので、極力足を運ぶようにしているんです。

「一つひとつのコミュニケーションを大切にする」というのは薬剤師にも共通するスキルですよね。患者さまへの対応で心がけていることはありますか?

そうですね、薬剤師の仕事に活きていると実感しています。薬局では「親しげに話した方が喜んでくださるかな」「薬の知識を詳しく知りたいのかな」など、患者さまのちょっとしたしぐさや表情、会話している時の様子などを察して、聞き方や話し方を変えていっています。

ニーズを察することができ、患者さまが「ありがとう」と言って帰られると嬉しいです。そして次はこういう知識を得たらもっと喜んでくださるかな、と今後の勉強に繋げられています。漢方や薬膳について自分で勉強をしたのも、患者さまにもっと喜んでもらいたいという思いがあったからです。

切り絵の活動で得たことは薬剤師の仕事にも活きているんですね。お客さまとの「対話」を強みとすることで、将来的にどんな薬剤師になりたいと考えていますか?

患者さまにまた相談したいと思ってもらえるような薬剤師になりたいと考えています。患者さまは体調が優れない中で薬局にいらっしゃっているので、薬の知識を増やすのはもちろん、気持ちの面を支えることも大切なんですよね。

そのためにも、切り絵の活動は頑張らなければと思います。世代や人種を越えてもっと多くの人に作品を見ていただくことで、コミュニケーションスキルを高めたり、自分自身の物の見方や切り絵の作風の幅を広げていきたいです。

また様々な価値観に触れることで今はまだ見えていない自分の可能性も発見し、やりたいことが出てきたら切り絵に限らずどんどん挑戦していきたいと思っています。

「忙しいからできない」から、5分でも時間を作る生活に

石賀直之さん作品

最後に、今後のキャリアを悩む薬剤師に向けて一言お願いします。

薬局や病院など働いている職場によって状況は違いますが、自分が何かをしたいと思っているのであれば、とにかくやってみて欲しいと思います。

よく「忙しいからできない」という言葉を聞きますが、忙しいことを理由に自分の可能性を狭めてしまうのはもったいないですよね。5分でもいいから時間を確保する、そういうスケジュールを立てるところから始めると良いと思います。

そして自分がやりたいことを実現させるための方法はいくらでもあるんです。すでに挑戦されている方のお話を聞いてみる、本を読んでみる、ネットで情報を探すなど。普段からいろいろなところに目を向けていると、実現する方法は意外と多いことに気づきます。

一歩踏み出せば、そこからまた出会いがあったり、チャンスがあったり、自分の可能性がもっと広がります。またプライベートが充実すれば、本業のモチベーションを高めることにも繋がるのではないでしょうか。

若手薬剤師の方々には、「まずはやってみる」ことを心がけ、その先の可能性もどんどん広げていって欲しいと思います。

石賀直之さん写真
  • 石賀直之(いしがなおゆき)さん

2007年に大阪薬科大学卒業。薬剤師として調剤薬局に勤務しながら、切り絵の活動を行う。2013年の国際切り絵コンクールin身延ジャパンにて入選後、個展やワークショップ、海外展示会など活動の幅を広げる。Heart Art in Fukuoka新感覚展最優秀賞、関西扇面芸術展奈良県知事賞受賞。奈良地域デザイン研究所会員。

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記事掲載日: 2019/02/01

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