業界動向
  • 公開日:2020.09.09

【現役医師に聞く】「Withコロナ」でデータヘルス推進へ。処方箋はどう変わる?

【現役医師に聞く】「Withコロナ」でデータヘルス推進へ。処方箋はどう変わる?

2019年末から世界を震撼させている新型コロナウイルス。日本国内でも日ごろから徹底した感染防止対策が求められるようになり、私たちの生活は新型コロナウイルスの出現によって大きく変わりました。そんななか、「Withコロナ」時代に向けた様々な改革が進められようとしています。

今回は「Withコロナ」に対応すべく進められている変革のなかで、医療業界に関わる「データヘルスの推進」について詳しく解説します。

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データヘルス推進!2年間の集中改革方針

新型コロナウイルスは私たちの生活様式だけでなく、経済や医療などの分野にも影響を与えています。Withコロナ時代を生き抜くため、政府はこれまでとは異なるさまざまな改革案を示しています。

そのなかでも、厚生労働省が7月に示したデータヘルスの推進は、今後の医療の在り方を大きく変える可能性があるとして注目を集めています。具体的にどのような改革が行われようとしているのか詳しく見てみましょう。

そもそも「データヘルス」とは...?

データヘルスとは、特定健診やレセプトから得られる医療情報を電子化して管理し、医療保険者が加入者の健康状態などを分析その傾向に即した効果的・効率的な保健事業を実施することです。2008年以降、特定健診やレセプトなどから得られる医療情報はデジタル化し管理されています。それらの情報を分析し、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)というサイクルを繰り返すことで内容をブラッシュアップし、よりよい保健事業を実施していくのが一般的なデータヘルスの流れです。

こうしてひとつの地域や職種の医療保険者が、加入者に特化した健康問題解決への対策を講じることで、より効果的・効率的に加入者の健康寿命の延伸や疾病予防を支援することができると考えられています。

どうして今、「データヘルス」なのか?

データヘルスは効果的・効率的に健康問題を解決していく手段のひとつ。そのため、世界ではデータヘルスが盛んに進められています。しかし、日本では保健医療データの利活用は進んでおらず、このままでは医療の水準を維持できなくなるのではないかとの懸念の声も少なくありません。そこで厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症が拡大したことを契機に、新しい社会に適したデータヘルスの集中改革プランを急速に進めようとしているのです。

▼参考記事はコチラから
厚生労働省 データヘルス計画の背景とねらい

データヘルス改革プランは具体的にどのような内容?

薬剤師のイメージ

現在、厚生労働省が示している「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」の大きな柱は3つ。「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」、「電子処方箋の仕組みの構築」、「自身の保健医療情報を活用できる仕組みの拡大」です。計画ではこれらの実現に向けて2年間で様々なシステムを整備していくとのこと。

具体的には、2020年度中にマイナンバーや保険証から自身が登録している医療保険を確認することができる「オンライン資格確認等システム」の運用など要件整理を実施。2021年度には医療機関や薬局のシステム改修を行って運用を目指すことが計画されています。そして、2022年には3つの柱として推進しているシステムの運用が開始される予定となっています。3つの柱は具体的にどのような目的で行われるのか詳しく見てみましょう。

全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大

現状では、治療歴や服用中の薬剤などの医療情報は、患者さまがかかる医療機関だけでしか確認することができません。そのため、複数の医療機関を受診する患者さまは重複した薬の処方が行われていることもしばしば。また、常時と異なる医療機関にかかる際には、医療情報がゼロの状態から検査や治療をはじめなければなりません。このような問題を解決するため、治療歴や服用中の薬剤などをどこでも確認できるシステムの構築が進められています

電子処方箋の仕組みの構築

新型コロナウイルス対策として時限的に通信機器を用いての診療や服薬指導が可能になっているとはいえ、薬局は患者さまが医療機関から受け取った処方箋、医療機関からファックスで送られた処方箋を元に調剤と服薬指導を行います。複数の医療機関を受診している場合などは重複処方の可能性もあり、今回の改革では処方箋情報を電子化することでリアルタイムな情報の共有を可能にする方針が示されています。患者自身が薬局に出向く必要がなくなるため、患者さまの利便性がアップするだけでなく、現在急速に普及しているオンライン診療の円滑な実施にも役立つと考えられています。

自身の保健医療情報を利活用できる仕組み

現在、健康診断結果や治療歴などの医療情報を患者さまが電子化して管理する仕組みはありません。そのため、紙データの紛失なども多く、必要なときにデータが得られないことも多くありました。今回の改革では、国民がマイナポータルなどを通して自分自身の医療情報をパソコンやスマートフォンで閲覧し、新たな医療機関の受診時などに活用することができるシステムづくりが進められています

電子処方箋にデメリットはあるの?

薬剤師のイメージ

今回、厚生労働省が示した改革のなかで、薬剤師として最も気になるのは「電子処方箋」についてでしょう。確かに電子処方箋は、重複処方の回避だけでなく紙の処方箋内容をレセプトに入力する際の手間やミスを省くことができる利便性の高いシステムだと考えられます。

また、他院での医療情報を含めた「患者さまのすべて」を知ることができるため、服薬指導が行いやすいといったメリットもあります。また、医療機関とのやり取りもオンライン化することで疑義照会なども現状よりスムーズになるかもしれません。

しかし一方で、患者さまからはマイナンバーカードの活用に抵抗感があるとの意見があるのも事実。医療機関や薬局からもインフラ整備に多大な費用が掛かること、処方箋の二重受け取りなど不正を予防するための対策はどうするのかなど、様々な疑念も上がっています。

また、薬剤師と患者さまが対面する機会が減ることで、これまで「最後の砦」であった薬剤師によって、患者さまの症状や訴えの見落としなどが生まれるリスクもあるでしょう。電子処方箋は上述したようにメリットも大きいですが、様々なリスクも伴います。

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まとめ

Withコロナの日常に向け、厚生労働省はデータヘルス改革を進めています。そのなかには電子処方箋のシステム構築も含まれており、2022年には運用が開始される予定とのこと。

電子処方箋は、患者さまや医療機関、薬局にとって利便性が高く、現状の重複処方や入力ミスなどのトラブルを解決してくれることが期待されています。一方で、薬剤師と患者さまとの対面機会が少なくなるなどさまざまな問題点があるのも事実。

2年後、実際に電子処方箋が運用されることに備え、適正な処方箋の取り扱いや患者さま関わり方など、デメリットを最小限に抑える方針を決めておくとよいかもしれませんね。

成田亜希子先生の写真

    医師ライター
    成田亜希子

一般内科医として幅広い分野の診療を行っている。保健所勤務経験もあり、感染症や母子保健などにも精通している。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会、日本健康教育学会所属。

記事掲載日: 2020/09/09

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