- 公開日:2023.03.01
おくすり相談シートとは―薬剤師が知っておきたい、在宅医療現場が抱える課題―
在宅医療で患者さまに使用されるおくすり相談シート。かかりつけ薬剤師が知っておきたい活用方法や現場が抱える課題について解説します。
おくすり相談シートとは
「おくすり相談シート」とは、地域包括ケアシステムの中で在宅医療などを受けている患者さまが正しく医薬品を使用できるように作られたシートのこと。地域包括ケアに関わる訪問看護師や介護スタッフが、患者さまの服薬に関する相談を薬剤師に伝えるために用いられます。
記載される項目は、要介護度・かかりつけの医療機関・主治医・病名・生活環境・薬の管理情報といった患者さまの基本的な情報。加えて、在宅医療の中で患者さまが服用する医薬品についての困ったことや気づいたことを詳しく記入する項目などがあります。
おくすり相談シートの目的・メリット
おくすり相談シートは、医薬品の服薬状況不良を早期に発見し、在宅で医療ケアを受ける患者さまが正しい服薬を行えるようにするためのツールです。
在宅医療では一人の患者さまに対して、医師をはじめ介護支援専門員や介護士、リハビリ職や訪問看護師、薬剤師などさまざまな専門職が関わっています。服薬指導については薬剤師が専門ですが、近くでケアをする看護師や介護士のほうが普段の患者さまの様子を知っていることでしょう。それぞれの専門性を発揮して最大限のケアをするためには、いかに連携するかが重要なポイントになります。
おくすり相談シートによって現場と薬剤師との連携がスムーズになれば情報共有が早くなり、患者さまに合わせた服薬指導が可能なのです。
おくすり相談シートが関わる「地域包括ケアシステム」と「薬剤師」の関係
地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステムとは、要介護状態になっても住み慣れた街で自分らしい生活が最期まで送れるようにする、地域の包括的支援と提供体制を指します。
住まい、医療、介護、予防、生活支援が包括的・一体的に提供される体制の構築を目指しており、関わる職種は自治体職員や包括職員、介護支援専門員や介護事業者、リハビリ職、医師や看護師、薬剤師などの医療従事者などさまざま。これらの人たちがコミュニケーションをとり、協働して問題を解決していきます。
その中で薬剤師の役割は、かかりつけ薬局・薬剤師として自宅で療養する患者さまと関わり、医薬品に関する問題について提案や支援をしていくことになります。
地域医療の中で薬剤師が担う役割
地域医療では、医療・介護に関わるスタッフがチームとして連携することが重要です。その中で薬剤師が担う役割は具体的に以下のようなものになります。
・剤形提案 ・相互作用や副作用のチェック ・減薬相談 ・残薬調整や用量の確認 ・管理方法の提案 ・医療用麻薬や輸液の取扱い ・医療・介護用品の調達 ・患者さまのご家族へ薬剤の説明
これらの役割を果たすためには、地域医療のさまざまな現場に参加することが必要です。次に、薬剤師による地域医療への参画について一例をご紹介します。
地域ケア会議への参加ケアマネジメントの質向上のための地域ケア会議に、「アドバイザー」として参加。自宅で療養する患者さまの服薬リスクの管理、医薬品に関する日常生活での問題解決。適切な服薬指導に関するアドバイスなどケアプランの点検をします。
退院前カンファレンスへの参加医療機関で行われる退院前カンファレンスに参加し、病院薬剤師・医師・看護師から患者さまの病状の経過や内服薬の状況を聞き、服薬上の問題点を把握します。 患者さまが自宅療養に切り替わった際は、カンファレンスなどで得た情報を活用することで、患者さまにあった服薬指導をスムーズに実施していきます。
また、患者さまに服薬に関する問題が生じたときは、他の地域包括ケアに関わるスタッフとともに対応します。対応しきれない場合は医療機関へ連絡をしますが、その際に薬剤師は、医療機関の病院薬剤師に状況を報告し連携します。
おくすり相談シートはどう使われるべき?活用方法・活用例
ケアに関わるスタッフが患者さま宅を訪問した際、多数の残薬を見つけたり、薬の副作用が疑われたり、何かしらの薬に関する問題を発見した場合は薬剤師に相談が必要になるでしょう。特に高齢者は多剤服用をしていることが多く、ふらつきや転倒などの有害事象を起こす場合があります。
服用薬の種類やタイミング、残薬の理由など原因把握のために薬剤師に伝えるべき情報はさまざま。これらは口頭やメールでも伝えられますが、「おくすり相談シート」を活用すれば、必要な情報が漏れてしまうことを防げます。的確な情報伝達があれば、相談を受けた薬剤師が個別で確認する手間を省け、円滑な支援ができるでしょう。また、おくすり相談シートを通じてアドバイスや指導が主治医にも伝わるため、適切な治療への助けにもなります。
このように、おくすり相談シートを中心にした関係者の連携こそ、シートを活用する大きなメリットなのです。
おくすり相談シートの普及率から見る、在宅医療の課題
おくすり相談シートは各自治体や薬剤師会などで制作され、インターネット上で確認・ダウンロードができるようになっています。各団体は普及の促進に努めていますが、実際のところあまり活用されていないのが現状です。
おくすり相談シートはなぜ活用されていないのか
「おくすり相談シート」が活用されていない理由は、他職種との関係構築ができていないことが考えられます。
近年、コロナウイルス感染症が広まったことにより、会議や合同研修会といった医療関係者同士がリアルで関われる場が激減。他職種で知り合いがいない、そもそもどんな方が地域医療に関わっているのか見えにくい、といった理由から職種間での関係性が希薄になってしまいました。便利なツールであっても、その土台となる連帯感やチーム感がなければ「活用しよう」と考える機会そのものがなく、結果としてなかなか活用されていないというわけです。解決するには、オンライン上で顔合わせができるような会議の実施、チャットツールの活用など積極的にコミュニケーションがとりやすい場を増やしていくことが必要です。オンラインフォームでおくすり相談シートの記入や送信ができるようなシステムを構築することも、活用のきっかけになるでしょう。
薬剤師がおくすり相談シートを普及促進すべき理由
在宅で医療ケアを受ける患者さまは年々増加しています。国も地域包括ケアを推進しているため、自宅で療養する患者さまは今後も増加していくでしょう。この在宅医療のニーズの高まりに、薬剤師も対応していく必要があります。
在宅医療における薬剤師の仕事は、医薬品の配達と管理、服薬方法の指導など。病院等で担う役割と変わりないように思えますが、在宅で療養する患者さまの生活スタイルを考えたうえでの対応が必要になるという点が大きな違いです。家族構成・家族の誰が薬の管理をするのか・生活のリズムといった点を把握したうえで服薬指導をしなければなりません。情報をもとに自宅で療養する患者さまの個別性を考えた医薬品の対応をするためには、状況を客観的に分析する能力が必要になります。
また、在宅医療はチーム医療ですから、他職種との協働が必須。患者さまの情報を共有し、それぞれの知見からベストなプランを出すためには、基本的なコミュニケーション能力も求められるでしょう。
在宅医療のニーズが高まっていくとなれば、対応できる薬局やスキルを持つ薬剤師の不足が課題になる可能性もあります。より多くのニーズに応えるためには、スムーズな連携を可能にして効率化することが必要。そのための一つの手段となる「おくすり相談シート」の普及は、より重要度が高まっていくでしょう。
求められ続ける薬剤師になるために、在宅医療の経験を積もう
地域包括ケアの推進により自宅で療養する患者さまが増加していく中で、これからの薬剤師は今までと同じ業務を行っているだけでは続けていくことが難しくなるでしょう。今後は、在宅医療に対応した薬局で経験を積み、これからも求められる薬剤師になれるようスキルを磨くことが大切です。
ファルマスタッフは、医療業界人材に特化した転職サポートのプロフェッショナル。全国の調剤薬局・病院・ドラッグストア・企業といった勤務先の中から、医療業界専任のコンサルタントがあなたの希望に合った職場をご提案します。
患者さま1人に対して処方箋を発行する医療機関が1ヵ所だけなら問題はありませんが、患者さまが高齢であるほど複数の医療機関にかかっているケースが。そうした高齢者は、利便性と薬剤の在庫の問題などから、それぞれの門前薬局で薬を受け取る場合があります。
求人情報の中から、在宅医療に対応している職場を絞り込んで検索することも可能。どんな勤務地候補があるのか、勤務条件がどういったものなのかなど、ぜひ確認してみてください。
執筆者:石川 美和子さん(医療系ライター)
1985年に薬剤師資格取得後、約40年近くキャリアを重ねてきたベテラン薬剤師。
大学病院・調剤薬局・国立病院にそれぞれ約2年ずつ勤務したのち、配偶者の転勤に伴って各地の調剤薬局やドラッグストアで経験を積み、卸の管理薬剤師や在宅医療も経験している。現在はその経験と知識を活かして医療系ライターとしても活躍中。