- 公開日:2019.07.02
患者さまの情報収集に欠かせない思考法「POS」とは?適切な服薬指導のために知っておきたい考え方
薬剤師として患者さまの薬物治療をサポートするには綿密な服薬指導が欠かせません。服薬指導では、患者さまから情報を収集し、適切に解釈して判断することが求められています。
服薬指導では膨大な情報を受け取り、適切に解釈して判断しなくてはなりませんが、必要な情報を患者さまからうまく得られないという方や、得た情報をどのようにして活用して良いかわからないという方もみられます。そんなときには、「POS(問題志向型システム)」を意識することがおすすめです。
この記事では、【『POS(問題志向型システム)』の概要や活用方法】などを解説。2019年2月17日に行われた、メディカルリソース主催『第1回 実践ファーマシーセミナー』の内容を参考にしています。POSをご存じの方も、改めて確認することで理解を深めれば、さらなるスキルアップに繋がるかもしれません。
『POS(問題志向型システム)』とは?
『POS』とは、Problem Oriented Systemの略称で、日本語では「問題志向型システム」を意味する言葉です。
1968年のアメリカで、L.L.Weed氏によって提唱され、L.Willis Hurst氏によって広められました。日本では、1973年に聖路加国際病院の日野原重明先生が、『POS~医療と医学教育の革新のための新しいシステム』という著作で紹介したことにより普及していきました。
『POS』は患者さまの健康問題を合理的・系統的に解決する方法です。具体的には、「①情報収集」→「②問題の明確化」→「③解決のための計画立案」→「④計画の実施」という4つのプロセスを繰り返し、患者さまが抱える問題を適した方法で解決することを目指します。
この方法は、服薬指導の場だけではなく、医師や看護師をはじめコ・メディカルが参画するチーム医療の場でも求められます。患者さまとご家族が抱える問題の解決に向けて、質の高い診療やケアを提供するために、POSに基づき情報収集や仮説検証する必要があるのです。
利用事例(日常の事例・医療現場の事例)
実際に、POSはどのように活用すれば良いのでしょうか。ここでは日常生活での事例と医療現場での事例の2つを見ていきましょう。
<日常での事例>懐中電灯が点かない場合の解決策
たとえば、懐中電灯が点かない場合、POSを利用して解決を目指すなら、どのようなプロセスを踏んでいくべきでしょうか?
1.情報収集
「懐中電灯が点かない」という問題が発見されます。
2.問題の明確化
電球切れや接触不良など想定される原因を挙げていきましょう。その中でも、「電池切れ」という可能性が高いものから仮説を立てていきます。
3.解決のための計画立案
電池切れと仮定したのであれば、「電池交換により懐中電灯は点く」など、原因を解決するための計画を考えていきます。
4.計画の実施
実際に電池を交換することで、解決を目指します。
計画を実施した後は、「①情報収集」に立ち返って、懐中電灯が点くようになったか情報収集を行います。もし、懐中電灯が点かなければ、「②問題の明確化」で他の原因を疑い、「③解決のための計画立案」と「④計画の実施」を行いましょう。そうすれば、問題は解決に導かれていくのです。
<医療現場での事例>飲み忘れが多い場合の解決策
次に、より実務に近い事例を見ていきましょう。たとえば、飲み忘れが多い患者さまの場合、POSを利用した解決を目指すにはどうすべきでしょうか?
1.情報収集
患者さまからお話を伺い、「飲み忘れが多い」という問題が見つかりました。
2.問題の明確化
医療現場における注意点として、「患者さまの問題点は一つとは限らない」ということがあります。飲み忘れの原因が複数ある場合も多いので、一つひとつの問題点に向き合った指導をしなくてはなりません。
ここでは、「自覚症状がない」「外出時の飲み忘れが多い」点を検討します。
3.解決のための計画立案
自覚症状がない場合には、服薬継続の意義を理解してもらうということに努めましょう。また、外出時の飲み忘れが多い場合には、外出時でも飲み忘れないように工夫することを検討します。
このように、それぞれの原因に適した解決のための計画を考えていきましょう。
4.計画の実施
服薬指導の意義を理解してもらうため、服用中止によるデメリットをお伝えします。外出時でも飲み忘れないように、ピルケースの利用をすすめるなど、それぞれの原因と計画に沿った提案をします。
次の来局時は「①情報収集」を改めて行い、問題が解決されたか確認しましょう。
同じ患者情報でも薬剤師により受け取り方はさまざまです。正解は一つとは限らないので、いろいろな角度から考えていきましょう。
『POS』と『SOAP』を併用しましょう
『POS』は、医師や看護師をはじめコ・メディカルなどにも広く用いられています。チーム医療に取り組む上でも、監査やコミュニケーションが円滑に進むことから、病院や調剤薬局など幅広い領域で活用されているのです。
そうしたチーム医療において、患者さまの薬物治療をサポートする役割を持つのが薬剤師です。服薬に関する問題を抱えた患者さまは後を絶ちません。POSは、効率的に問題を解決できるため、薬剤師の業務に役立つでしょう。
POSを通して得た情報はしっかりと薬歴に落とし込みましょう。
薬歴の代表的な記録方法『SOAP』は、「S:患者さまの主観的情報」「O:薬剤師がみた患者さまの客観的情報」「A:SとOの解釈・分析・統合の過程」「P:計画」を表しています。これは、プロセスを正確に記録できる優れた方法として評価されているのです。
SOAPは、主観的情報や客観的情報だけでなく、薬剤師がどのように解釈し判断したのかを明確にすることができます。POSとも非常に相性が良いので、POSで導いた問題と解決方法を、SOAPを活用して細かく記載することで、適切な服薬指導を行うことができるでしょう。
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【SOAPを使った薬歴の書き方】や【服薬指導】については、下記の記事で詳しく解説しています。合わせてチェックしてくださいね。
▼SOAPを使った薬歴の書き方についてはこちら
【SOAP薬歴の記入事例】薬歴を速くわかりやすく書く方法を徹底解説
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この記事では、【『POS(問題志向型システム)』の概要や活用方法】などについて解説していきました。
薬剤師のメイン業務である服薬指導において、患者さまのプロフィールや処方箋などの情報から、"患者さまの問題点"を明確にすることは最も大切な仕事の一つです。腕の見せ所でもあるので、情報収集やコミュニケーションのスキルを磨くことが求められています。
なかでも、『POS』は問題解決の優れた手法であり、『SOAP』とも相性が良いことが知られています。いずれも服薬指導や薬歴に活かせるので、この機会に身につけられるよう取り組んでみてはいかがでしょうか。さらなるスキルアップにも繋がるはずです。
ファルマラボ編集部
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