- 公開日:2022.06.06
新型コロナ治療薬の「パキロビッドパック(ニルマトレルビル錠/リトナビル錠)」を解説!
2022年2月10日に、軽度から中等度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する経口治療薬として、アメリカのファイザー社が開発したパキロビッドパック(一般名:ニルマトレルビル/リトナビル)が厚生労働省の特例承認をうけました。重症化リスク因子を有する成人および小児(12歳以上かつ体重40kg以上)が治療の対象となっています。
この記事では、新型コロナウイルス感染症の最新動向やパキロビッドパックの概要、服用方法、併用禁忌などの注意点について解説していきます。
- 新型コロナウイルス感染症の最新動向
- パキロビッドパック(ニルマトレルビル錠/リトナビル錠)とは?
- パキロビッドパック(ニルマトレルビル錠/リトナビル錠)の服用方法
- パキロビッドパック(ニルマトレルビル錠/リトナビル錠)服用の際の注意点
- 新型コロナウイルス感染症に対して薬剤師がすべきこと
新型コロナウイルス感染症の最新動向
全国の新規感染者はオミクロン株への置き換わりとともに急増しましたが、現在はピークを過ぎ、感染者数は徐々に減少傾向にあります。オミクロン株はデルタ株に比べ、世代時間(感染してから、他の人に移すまでの時間)が約2日(デルタ株では約5日)と短いことから、感染拡大が非常に速く、家庭や学校、職場、医療機関、介護福祉施設などでの感染が進んだと考えられています。
2021年12月より、新型コロナワクチンの追加接種(3回目接種)がはじまり、2回目接種を完了した日から一定の期間が経過した方は、1・2回目と同様に無料で接種を受けられるようになりました。
治療薬の開発も各国ですすめられており、国内ではベクルリー点滴静注用(一般名:レムデシビル)、ロナプリーブ注射液(一般名:カシリビマブ/イムデビマブ)やゼビュディ点滴静注(一般名:ソトロビマブ)などや、経口薬ではラゲブリオカプセル(一般名:モルヌピラビル)に続いて、パキロビッドパック(一般名:ニルマトレルビル/リトナビル)が特例承認を取得しています。
パキロビッドパック(ニルマトレルビル錠/リトナビル錠)とは?
ニルマトレルビル錠とリトナビル錠がパックになったパキロビッドパックは、アメリカのファイザー社が開発した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)に対する経口治療薬です。米国では2021年12月にEmergency Use Authorization(緊急使用許可)を取得しています。国内でも2022年2月10日に特例承認をうけています。
本邦では「本剤は特例承認されたものであり、承認時において有効性、安全性、品質に係る情報は限られており、引き続き情報を収集中であるため、本剤の使用に当っては、あらかじめ患者さまにその旨並びに有効性及び安全性に関する情報を十分に説明し、文書による同意を得てから投与すること」とされています。
有効成分ニルマトレルビルは、SARS-CoV-2のメインプロテアーゼ(3C様プロテアーゼ:ウイルスの増殖に必要な酵素)を選択的に阻害することにより、ウイルスの増殖を抑制すると考えられています。また、リトナビル錠は、SARS-CoV-2に対する直接的な抗ウイルス作用は有していませんが、CYP3A阻害作用により、ニルマトレルビルのCYP3Aでの代謝を抑制することにより、抗ウイルス作用に必要なニルマトレルビルの血中濃度を維持する働きがあります(ブースター)。
パキロビッドパック(ニルマトレルビル錠/リトナビル錠)の服用方法
パキロビッドパックは、軽度から中等度のSARS-CoV-2による感染症に用いられる薬剤です。診断後すぐに服薬を開始することが必要です(症状発現から5日以内)。通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児に対して、ニルマトレルビル1回300mg(2錠)およびリトナビル1回100mg(1錠)を同時に1日2回、5日間経口投与します。もし、服薬を忘れた場合、いつも飲んでいる時間から8時間以内の場合はすぐに服用しましょう。ただし、8時間以上経過している場合はその分は服用せずにスキップします。
ニルマトレルビルはリトナビルとの併用時には主に腎から排泄されるため、中等度の腎機能障害患者(eGFR[推算糸球体ろ過量]30mL/min以上60mL/min未満)には、ニルマトレルビルを減量して1回150mg(1錠)とし、リトナビルとして1回100mg(1錠)を同時に1日2回、5日間経口投与します。重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は情報不足のため推奨されていません。
パキロビッドパック(ニルマトレルビル錠/リトナビル錠)服用の際の注意点
パキロビッドパックは多くの薬剤と相互作用を起こし、併用禁忌となる薬剤も少なくありません(以下参照)。つまり、投与前には服用中のすべての薬を確認し、新たに他の薬剤を服用する前には事前に相談するように患者さまに指導する必要があります。
相互作用のおもな発現機序は、リトナビルおよびニルマトレルビルによるCYP3Aの競合的阻害に起因しています。つまり、CYP3Aで代謝される薬剤(併用薬)の血中濃度が上昇して、薬効増強や副作用が発現することが報告されています。CYP3Aで代謝される併用禁忌の薬には、オキシカム系NSAIDs、エレトリプタン、アゼルニジピン、抗不整脈薬、リバーロキサバン、ブロナンセリン、ルラシドン、エルゴタミン製剤、PDE5阻害薬、BZP系薬、カルバマゼピンなどがあり注意が必要です。
一方、リファンピシン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、セントジョーンズワート含有食品などのCYP3Aを強力に誘導する薬剤と併用する場合は、CYP3Aで代謝されるニルマトレルビルおよびリトナビルの血中濃度が低下する結果、抗ウイルス効果の減弱や、耐性ウイルスが出現する可能性もあります(併用禁忌)。
その他、リトナビルにはトランスポーター(BCRP、P-gpなど)、他のCYP450(2D6、2B6など)の阻害やCYP450(1A2、2C9、2C19など)、グルクロン酸抱合の誘導などの作用もあります。ボリコナゾールとの併用では、リトナビルのCYP450(2C9、2C19)誘導作用により、ボリコナゾールの代謝が促進するため禁忌となっています。
なお、他の薬剤との相互作用は、可能なすべての組み合わせについて検討されているわけではないため、併用する際には用量に留意して慎重に投与する必要があります。
●本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
●次の薬剤を投与中の患者
・中濃度が著しく上昇し、不整脈、血液障害、血管れん縮、鎮静、呼吸抑制など過度の副作用が起こすおそれがある薬剤:アンピロキシカム、ピロキシカム、エレトリプタン臭化水素酸塩、アゼルニジピン、オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン、アミオダロン塩酸塩、ベプリジル塩酸塩水和物、フレカイニド酢酸塩、プロパフェノン塩酸塩、キニジン硫酸塩水和物、リバーロキサバン、リファブチン、ブロナンセリン、ルラシドン塩酸塩、ピモジド、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン、エルゴメトリンマレイン酸塩、ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、シルデナフィルクエン酸塩(レバチオ)、タダラフィル(アドシルカ)、バルデナフィル塩酸塩水和物、ロミタピドメシル酸塩、ベネトクラクス〈再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期〉、ジアゼパム、クロラゼプ酸二カリウム、エスタゾラム、フルラゼパム塩酸塩、トリアゾラム、ミダゾラム、リオシグアト
・ニルマトレルビル・リトナビルの血中濃度を低下させる薬剤:アパルタミド、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、ホスフェニトインナトリウム水和物、リファンピシン、セイヨウオトギリソウ(St. John's Wort、セントジョーンズワート)含有食品[10.1参照]
・血中濃度が低下する恐れのある薬剤:ボリコナゾール
●腎機能又は肝機能障害のある患者で、コルヒチンを投与中の患者(リトナビルのCYP3A阻害によりコルヒチンの血中濃度が上昇するおそれ)
その他の使用の注意点として以下があげられます。
新型コロナウイルス感染症に対して薬剤師がすべきこと
新型コロナウイルス感染症の拡大が続く中で、薬剤師は薬の専門家としてはもちろんのこと、医療従事者としての大きな役割が期待されています。病院薬剤師には注射剤を含めた新型コロナウイルスの治療薬を調剤することはもちろんですが、院内の感染制御や入院患者の支援などが求められています。
一方で薬局薬剤師は、一部の調剤薬局においては新型コロナウイルスの経口治療薬の調剤や服薬指導が求められます。また、患者さんや一般市民の方に対して、感染対策や検査、ワクチン接種などの情報提供や啓発活動が求められています。
感染対策の専門的知識を身につけるだけでなく、疾患や治療薬についての最新の動向について、正確な情報を集めることも必要です。特例承認を取得している治療薬は、海外で既に対象の治療に用いられていることから、国内だけでなく海外の情報について触れることも重要です。PMDA(医薬品医療機器総合機構)が提供している「医薬品リスク管理計画書:RMP」や「審査報告書」などを活用しましょう。
また、患者さんはメディアやSNSなどの多くの媒体を通して、様々な情報に触れることができるため、誤った情報を受け取ってしまう場合もあります。混乱している患者さまにわかりやすく説明できるように準備しておきましょう。
引き続き感染防止対策をしましょう
この記事では、新型コロナウイルス感染症の最新動向やパキロビッドパックの概要、服用方法、注意点について解説していきました。
オミクロン株の流行により、新型コロナウイルス感染陽性者や濃厚接触者が多くの地域で増加しています。ワクチン接種や治療薬の開発も進んでいますが、基本的な感染防止対策の強化と徹底も重要です。薬局内の感染防止対策などをしっかりと行うことはもちろんですが、医療従事者として、地域医療に貢献していくことが求められています。
監修者:前原 雅樹(まえはら・まさき)さん
有限会社杉山薬局小郡店(福岡県小郡市)勤務。主に精神科医療に従事し、服薬ノンアドヒアランス、有害事象、多剤併用(ポリファーマシー)などの問題に積極的に介入している。
2019年、英国グラスゴー大学大学院臨床薬理学コースに留学(翌年、同コース卒業)。日本病院薬剤師会精神科専門薬剤師、日本精神薬学会認定薬剤師。
そのほか、大学非常勤講師の兼任、書籍(服薬指導のツボ 虎の巻、薬の相互作用としくみ[日経BP社])や連載雑誌(日経DIプレミアム)の共同執筆に加え、調剤薬局における臨床研究、学会発表、学術論文の発表など幅広く活動している。