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  • 公開日:2020.09.30

零売薬局とは?処方箋なしで医薬品の一部を販売できるその概要と事例を紹介

零売薬局とは?処方箋なしで医薬品の一部を販売できるその概要と事例を紹介

薬剤師として調剤薬局で勤務している際に、処方箋を持たない患者さまから「前と同じ薬を売って欲しい」と頼まれた経験のある方もいるのではないでしょうか。ほとんどの場合、処方箋なしでの販売はしていません。しかし、処方箋なしで医療用医薬品の一部を購入することのできる「零売(れいばい)薬局」があるのをご存知でしょうか。

この記事では、【零売薬局の概要/3つのメリット/考えるべき問題点】を解説します。

零売とは?

医薬品の販売形態のひとつである「零売」とは、処方箋を持たない患者さまに対して、医薬品販売を行うことを言います。

処方箋に基づき医療用医薬品を提供する「調剤」、一般用医薬品を販売する「OTC販売」とは区別されます。零売自体は以前から存在していますが、一般的な薬局ではあまり行われておらず、利用者からも認知されていませんでした。しかし、近年の医療費増大や顧客からの要請を背景に、健康増進や利便性向上を目指した零売薬局が注目されているのです。

調剤薬局で扱う医療用医薬品は、「処方箋医薬品」と「非処方箋医薬品」の2つに分類されていますが、零売が可能なのは非処方箋医薬品であることが原則です。非処方箋医薬品には、使用経験が豊富なものや副作用リスクが少ないものなど、比較的安全性が高い医薬品が分類。現在約15,000種類ある医療用医薬品の半分は、この非処方箋薬品にあたります。

零売を行う3つのメリット

零売薬局のメリット

処方箋がなくても医療用医薬品を購入できる零売には、さまざまなメリットがあります。ここでは、代表的な3つのメリットをご紹介します。

時間を節約できる

零売のメリットの一つに、時間の節約があります。医療用医薬品を入手するためには、医療機関を受診して医師の診察を受け、処方箋の交付を受けなくてはなりません。さらに、処方箋を調剤薬局に持ち込んで調剤してもらい、服薬指導を受けてからようやく薬を手にできます。医療機関や薬局が混み合っていれば、何時間も待たなくてはなりません。欲しい薬がある程度決まっている場合、零売薬局を利用すれば待ち時間がなくなるので、双方にとってメリットと言えるでしょう。

受診費用や調剤料を節約できる

零売では、公的保険の利用はできませんが、医薬品の数や種類によっては医療機関を受診するよりも安価となる場合もあります。通常の保険調剤では、医療機関の診察代や検査代、調剤薬局の基本料や薬学管理料が薬剤費に上乗せされます。そのため、薬価が安い医薬品や希望する医薬品が少量である場合には、零売薬局を利用するのがおすすめです。医療費を安価に抑えられる場合であっても、医薬品の専門家である薬剤師の相談を受けられるのもメリットのひとつだと言えそうです。

納得した上で医薬品を購入できる

通常の保険調剤では、処方される医薬品の種類や数量は処方医によって決められます。利用者が希望する医薬品があったとしても、保険適用上の問題で処方できない場合や、処方量に制限がある場合もあるでしょう。零売では、販売できる医薬品に制限があるものの、利用者が直接相談して納得したうえで購入が可能です。これは、医薬品の交付後に「思っていた薬と違った」というミスマッチを防ぐことにもつながります。

零売で考えられうる問題点

零売薬局の問題点

さまざまなメリットある零売ですが、問題点も多いため零売を行う薬局は国内でも数えるほどしかないのが現状です。ここでは、具体的な問題点について、解説していきます。

安全性の確保に課題がある

零売における問題点のひとつに、安全性に関する課題があります。それは、医師の診察を受けないために、重大な疾病を見落としてしまう可能性があるということ。それから、大きな副作用が発生した際の責任の所在や救済方法が不十分なことも問題です。通常の保険調剤であれば、正しい方法で薬を服用した際の副作用は「医薬品副作用被害救済制度」の補償対象となり、健康被害を受けたり障害が残ったりした場合に、医療手当や障害年金などが給付されます。しかし、零売が原因の副作用は、給付を受けられない可能性があるのです。

利益につながりにくい

一般的な保険調剤薬局では、近隣の医療機関からの処方箋がある程度見込めたり、調剤基本料や薬学管理料によって調剤報酬が担保されていたりすることから、一定の利益を確保できます。しかし、零売薬局ではこれらの処方箋による収益は見込めないため、薬価差益や相談料などで利益を上げなくてはなりません。公的保険も利用できないため、高額の医薬品購入が少ないので、利益につながりにくいと考えられます。また、医療用医薬品は管理が煩雑なので、人件費やシステム利用費などのコストがかかるので注意が必要です。

近隣の医療機関との関係性に注意

零売薬局の問題点のひとつに、医師の処方権との兼ね合いがあります。処方箋を介さずに医療用医薬品を交付すれば、医療機関の受診抑制にもつながります。そのため、医療機関の収益が減少し、医師会や保健所を通じたクレームを受ける可能性もあるのです。また、調剤薬局やドラッグストアにとっても、零売薬局は看過できない存在です。近隣の医療機関の状況を確認しておかなければ、対立関係になってしまう場合も考えられるでしょう。

日本初の零売薬局チェーンの事例

利用者や薬剤師にとってメリットの多い零売薬局ですが、実際に営業しているのは国内でも数店舗にとどまります。そうしたなかで、日本で初めてとなる零売薬局チェーン「セルフケア薬局 雷門店」が2019年8月31日にオープン。運営元のSDC株式会社は、2016年に東京23区初となる零売薬局「池袋セルフメディケーション」(現:セルフケア薬局 池袋店)を開局し、話題となりました

こちらの企業では2016年より実証試験を開始し、管轄保健所との協議のうえ、管理のシステム化や薬剤師の教育、マニュアル構築、業務手順の徹底を実施。こうしてさまざまな問題を解決することで、医薬品の零売を可能にしました。これまでの利用者は延べ8,000人を超えており、今後3年以内(2022年まで)に都内で100店舗以上のチェーン展開、そしてセルフケア薬局の全国チェーン展開を目指していると言います。

零売薬局の正しい知識を身につけよう

この記事では、零売薬局の概要やメリット、問題点について解説しました。超高齢化社会をむかえ、患者さまの負担金増大への対策も検討されるなか、セルフメディケーションも大きな注目を集めています。

零売が普及するには課題も多く、まだまだ身近な存在とはいえません。しかし、今後は零売という販売方法が普及していく可能性も十分考えられます。薬剤師として、零売という仕組みの正しい知識を身につけておきましょう。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2020/09/30

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