- 公開日:2020.03.30
【薬剤師向け】花粉症治療薬「ゾレア」とは?効果や副作用、薬価などを解説
気管支喘息や慢性蕁麻疹の治療薬として使用されていた「ゾレア(一般名:オマリズマブ)」は、2019年12月に「季節性アレルギー性鼻炎」の適応が追加されました。花粉症に対する抗体医薬は世界初であることから、専門家の間でも注目を集めています。
この記事では、【ゾレアの効果/副作用や薬価/服薬指導のポイント】などを解説します。
「ゾレア」とは?重症花粉症の治療薬として期待大
ゾレア(一般名:オマリズマブ)は、米国Genentech,Inc.によって創作された、ヒト化抗ヒトIgEモノクローナル抗体です。 血清中の遊離IgEにはたらきかけ、IgE抗体と肥満細胞との結合を阻害することにより、肥満細胞からアレルギーの原因となるヒスタミンなどの化学物質の放出を抑制すると考えられています。
従来用いられていた季節性アレルギー性鼻炎治療薬は、肥満細胞から放出されたヒスタミンやロイコトリエンなどのはたらきを阻害することで効果を発揮していましたが、ゾレアは肥満細胞の活性化を調節することにより、ヒスタミンそのものの放出を抑制します。季節性アレルギー性鼻炎はIgEが関与するⅠ型アレルギー疾患であることが知られており、作用点が異なることから、従来薬にない効果が期待されています。
しかしながら、ゾレアは厚生労働省が定めた最適使用推進ガイドラインによって対象患者が絞り込まれているため、一部の患者さまにのみ使用されると考えられています。製造販売元のノバルティス社によると、推定患者数は年間1万人程度と推定されていますが、使用成績や薬価の見直しによって、使用が拡大されることも予測されています。
ゾレアの効能又は効果/副作用/使用方法
効能又は効果とは?
ゾレアの効能又は効果は、「気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)」および「特発性の慢性蕁麻疹(既存治療で効果不十分な患者に限る)」の2つとされてきました。しかし、2019年12月には、「季節性アレルギー性鼻炎(既存治療で効果不十分な重症または最重症患者に限る)」の適応が追加されたのです。
いずれの適応においても、効果不十分例や重症例に限り使用が認められているため、ほかの薬剤や治療方法では有効性が認められない場合に使用が検討されます。
ゾレアの副作用は?
添付文書によると、特発性の慢性蕁麻疹患者を対象として実施された国際共同臨床試験において、本剤を投与した144例(日本人69例含む)中13例(9.0%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められました。主な臨床症状は、頭痛3例(2.1%)、鼻咽頭炎2例(1.4%)等で、日本人患者では69例中9例(13.0%)に副作用が認められています(効能または効果の一変承認時までの集計) 。
また、ゾレアの重大な副作用に、「ショック、アナフィラキシー」が報告されています。気管支痙攣、呼吸困難、血圧低下、失神、蕁麻疹、舌浮腫、口唇浮腫及び咽・喉頭浮腫などの発現に注意しながら、とくに投与後2時間は十分な観察求められています。
注意すべき使用方法
ゾレアは適応によって使用方法が異なります。季節性アレルギー性鼻炎では、通常、成人及び12歳以上の小児にはオマリズマブとして1回75~600mgを2または4週間毎に皮下に注射して用いられます。1回あたりの投与量並びに投与間隔は、初回投与前血清中総IgE濃度及び体重に基づき、投与量換算表によって設定されます。
また、ゾレアを使用するためには、一定の基準を満たした医師が治療の責任者として配置されていることに加えて、対象の患者さまが以下の要件を満たしていなければなりません。
・鼻アレルギー診療ガイドラインを参考に、スギ花粉による季節性アレルギー性鼻炎の確定診断がなされている
・本剤初回投与前のスギ花粉抗原に対する血清特異的IgE抗体がクラス3以上(FEIA法で3.5UA/mL以上又はCLEIA法で13.5ルミカウント以上)である
・過去にスギ花粉抗原の除去と回避を行った上で、医療機関において鼻アレルギー診療ガイドラインに基づき、鼻噴霧用ステロイド薬及びケミカルメディエーター受容体拮抗薬による治療を受けたものの、コントロール不十分な鼻症状が1週間以上持続したことが診療録、問診等で確認できる
・12歳以上で、体重及び初回投与前血清中総IgE 濃度が投与量換算表で定義される基準を満たす
・投与開始時点において、季節性アレルギー性鼻炎とそれ以外の疾患が鑑別され、本剤の投与が適切な季節性アレルギー性鼻炎であると診断されている
▼引用元はコチラ>厚生労働省「最適使用推進ガイドライン」
また、投与期間はスギ花粉抗原の飛散時期(おおむね 2~5月)を考慮しながら、季節性アレルギー性鼻炎の症状発現初期に投与を開始することが求められています。加えて、日本人を対象とした臨床試験において、本剤の12週以降の使用経験はないため、12週以降も継続して投与する場合は、患者さまの状態を考慮し、必要性を慎重に判断しなければなりません。
抗体医薬・ゾレアの気になる薬価について
抗体医薬であるゾレアは、ゾレア皮下注用75mg 1瓶当たり<23,556円>、ゾレア皮下注用150mg1瓶当たり<46,422円>と、薬価が高額に設定されています。1回当たり600mgを2週間ごと投与すると1か月でおよそ37万円、花粉の多く飛ぶ2-5月に同量を使用した場合ではおよそ150万円と、国民医療費への影響が懸念されています。
ただし、2020年度薬価制度改革で新設される、効能変化再算定の特例の適用により薬価が引き下げられます。これは、季節性アレルギー性鼻炎への適応拡大により、「対象患者が現在の最大で10倍以上、最大で5万人以上」や「1日薬価が、変更後の主たる効能・効果に係る参照薬の10倍以上」などの要件に該当すると判断されたことによるものです。
また添付文書は、効能と用法及び用量の変更により、2019年12月に改訂されています。
ゾレアを使用する患者さまへの服薬指導のポイント
ゾレアは従来の季節性アレルギー性鼻炎治療薬とは異なり、医療機関にて皮下注射により投与されます。治療は本剤について十分な知識を有し、季節性アレルギー性鼻炎の病態、診断及び治療に精通する医師のもとで行われるため、服薬指導は医師との連携が大切です。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬と併用することも多いため、医師と十分に話し合ったうえで、服用方法を患者さまに共有します。投与中に、めまい、疲労、失神、傾眠があらわれることがあるため、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事する場合は十分に注意するよう指導しましょう。IgEは寄生虫感染に対する防御機能に関与すると考えられていることから、患者さまが寄生虫感染のリスクが高い地域に旅行する場合にも、注意が必要です。
また、季節性アレルギー性鼻炎の治療においては、患者さま自身による原因の除去と回避も重要であるため、生活習慣や環境について聞き取ることも大切です。本剤を含む薬物療法は対症療法ですが、アレルゲン免疫療法(減感作療法)などの長期寛解を期待できる治療も、選択肢のひとつにあります。患者さまが長期展望に立った治療法を選択できるよう、季節性アレルギー性鼻炎の治療選択肢について患者に十分に説明しましょう。
ゾレアの普及で、患者さまの選択肢は大きく広がる
日本人の約4人に1人が発症している ともいわれる花粉症は、多くの患者さまを悩ませる国民病となっています。今シーズンは、薬事申請の不備で供給停止を余儀なくされていた「デザレックス」が供給を再開し、抗体医薬である「ゾレア」も使用可能となったことで、患者さまの選択肢は大きく広がりました。
ゾレアを使用する施設および患者さまは限られるため、従来の花粉症治療が大きく変わることは考えにくいですが、今後に注目しながら薬剤師として情報収集を行っていきましょう。
ファルマラボ編集部
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