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  • 公開日:2021.07.12

フォーミュラリーとは?策定のポイントや運用方法、薬剤師の役割を解説

フォーミュラリーとは?策定のポイントや運用方法、薬剤師の役割を解説

医薬品に関する安全性や有効性、経済性などを評価して策定された、医薬品の使用方針である「フォーミュラリー」。医療現場においては、その作成を薬剤師が担うことが一般的です。しかし、いざフォーミュラリーを策定する場面になると何から手をつけて良いのかわからないという薬剤師も少なくないでしょう。

今回はフォーミュラリーとはどのようなものなのか、策定のポイントや運用方法などについて解説します。本記事を参考に、フォーミュラリー策定の準備を進めていきましょう。

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フォーミュラリーとは?

フォーミュラリーとは?

米国病院薬剤師会での定義を日本語訳すると、フォーミュラリーは「疾患の診断、予防、治療や健康増進に対して、医師を始めとする薬剤師・ほかの医療従事者による臨床的な判断を表すために必要な、継続的にアップデートされる薬のリストと関連情報」とされています(Am J Health-Syst Pharm. 2008; 65:1272-83)。つまり患者さまに対してもっとも有効で安全、そして経済的な医薬品の使用方針と言えるでしょう。

フォーミュラリーは2016年と2017年の経済財政諮問会議、そして2019 年の中央社会保険医療協議会でも取り上げられ、国内においてその重要性に注目が集まっています。医療現場では、医薬品のスペシャリストである薬剤師がフォーミュラリー策定の役割を担うケースが一般的です。フォーミュラリーは、医師の臨床判断を助けるだけでなく、患者さまにとっても医薬品の適正使用や医療費削減などで生活の質向上に繋がります

フォーミュラリーの策定に取り組むべき理由

フォーミュラリーの策定に取り組むべき理由

ここではフォーミュラリーの策定に取り組むべき理由について、得られるメリットを解説します。

標準薬物治療の推進

臨床的に最も適切な選択肢が可視化されるため、院内全体で薬物治療の標準化が進みます。とくに専門外の医師による処方薬の選択で大きな助けとなるでしょう。

医薬品費の削減

有効性や安全性はもちろん、経済的な面からも適切な医薬品が選定されるため、医薬品費の削減につながります。また、扱う医薬品の種類が減ることで管理コストも削減でき、期限切れなどを起こす可能性も低下するでしょう。

処方にかかる工数の削減

フォーミュラリーは効率的な薬剤の選択をサポートするため、処方時の医薬品選択にかかる手間を減らせます。そのぶん診療に時間をかけられるようになるため医療の質向上につながるでしょう。

医薬品情報の充実

フォーミュラリーによって院内での採用薬が必要最低限に絞られるため、一つひとつの医薬品情報についてより深く理解することが可能になります。

医療事故の防止

前述の通り採用薬が必要最低限になることで、薬剤の管理が容易になります。そのため薬剤師にとっても服薬指導に時間をかけられるようになるほか、医薬品の取り違えなどの事故防止にもつながるのです。

フォーミュラリーの策定手順とポイント

フォーミュラリーの策定手順とポイント

日本赤十字社の導入手順書を参考に、フォーミュラリーの策定手順を確認しておきましょう。

1.規程を作成して医療施設の承認を得たのち、薬事委員会などでフォーミュラリーの実施について院内へ周知します。

2.対象とする薬効群を選定し、医薬品の選定理由等を明確にしたうえでフォーミュラリーを立案します。

3.該当薬品の使用量調査などに加え、使用頻度の高い診療科の医師や薬事委員などへも相談しから合意を得ておきましょう。このとき、フォーミュラリー以外の医薬品を使用する場合の条件や申請方法なども決めます。また、フォーミュラリーは1種類でなく、第2・第3の推奨医薬品も検討し、選択可能にしておくと良いでしょう。

4.薬事委員会などで最終承認を行います。

5.医師にフォーミュラリー医薬品を周知したり、フォーミュラリーの登録情報等を更新したりといった対応を行います。日本赤十字社では、以下のような周知方法を勧めています。

  • イントラネットの情報共有ツール使用やDIなどでの発信
  • 推奨医薬品以外を選択した際は、電子カルテ上にアラートを表示
  • ホームページを通じて、院外の調剤薬局や医療機関に向けフォーミュラリーを公表
  • 薬薬連携で地域の医療機関や医師会への周知協力を依頼

  • 参考資料:日本赤十字社 使用ガイド付きの医薬品集(フォーミュラリー)導入手順書

    上記のようにほかの調剤薬局や医療機関と連携することで、院内フォーミュラリーだけでなく地域フォーミュラリー策定につながっていくでしょう。

    フォーミュラリー策定のポイント

    フォーミュラリーの策定では、新薬の評価が重要です。論文を中立的な立場で評価できるスキルが求められます。たとえば代替薬の有無、臨床上の必要性の程度、既存薬を上回る効果の有無などを、エビデンスを確認したうえで検証しなければなりません。

    院内で新薬を評価する際の具体的な指標を作成し、有効性や安全性、経済性など様々な側面から評価を行ったうえで最終的なフォーミュラリー策定を行いましょう

    また、フォーミュラリーの策定によって処方権を侵害されるのではないかと考える医師も少なくありません。まずはフォーミュラリー策定の目的を院内の関係者へしっかりと説明したうえで、推奨薬の検討においては各科の医師と密にコミュニケーションを取りながら進めるようにしましょう。

    【事例】東北医薬大病院薬剤部におけるフォーミュラリー導入

    【事例】東北医薬大病院薬剤部におけるフォーミュラリー導入

    最後に、東北医薬大病院薬剤部におけるフォーミュラリーの導入事例をご紹介します。

    導入背景

    東北医薬大病院では入院患者さまを対象に、2018年4月から院内フォーミュラリーを導入しました。同院では後発医薬品のシェアがすでに8割を超えており、後発医薬品の使用促進のみでこれ以上の医療費抑制は難しいと判断。使用する医薬品に優先順位をつけるフォーミュラリーの導入を決めました。

    導入内容と結果

    同院でフォーミュラリー策定の第一弾として選定されたのが、骨粗鬆症治療に用いられるビスホスホネート製剤です。策定においては薬剤部が主導し、当初は経済性を優先させて後発医薬品を第1推奨薬に置いていました。しかし整形外科の医師から「患者さまのアドヒアランスを考慮すべき」との意見があがり、最終的には後発医薬品の「アレンドロン酸錠35mg」とあわせて、先発医薬品である「アクトネル錠75mg」を第1推奨薬としました。さらに第2・第3推奨薬も定め、医師が第1推奨薬以外を処方した場合は警告文を出し注意喚起を行っています。

    結果的にフォーミュラリー導入前後で、整形外科医以外の医師による「アレンドロン酸錠35mg」の処方が0から40.8%と大幅に増加しました。反対に、第2・第3推奨薬の処方は減少し、院内フォーミュラリーが専門医以外の医師の処方にも役立つことがわかりました

    東北医薬大病院薬剤部では、2021年1月までに8の薬効群でフォーミュラリーを策定。将来的には院外処方箋を応需する保険薬局と連携し地域フォーミュラリーの策定も考えています。

    ポイントを押さえてフォーミュラリー策定に対応できる準備を

    医師の処方選択を助け、医薬品の適正使用や医療費削減など、患者さまの生活の質の向上にも繋がるフォーミュラリー。その注目度は年々増しており、今後フォーミュラリーを導入する医療機関はさらに増えていくことが予想されるでしょう。

    策定の手順やポイント、またメリットなどについては薬剤師ならぜひ頭に入れておきたい知識です。実際にフォーミュラリー導入が決定した際、慌てないよう準備しておきましょう。

    ファルマラボ編集部

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    記事掲載日: 2021/07/12

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