- 公開日:2024.02.16
【薬剤師向け】保険適用になった肥満治療薬「ウゴービ」とは?効能効果、服用方法なども解説
2023年11月22日に、肥満症の新たな治療薬としてウゴービ皮下注(以下、ウゴービ)が保険適用となりました。
肥満症の治療薬としては、実に30年ぶりの新薬となるため、医療者のみならず、一般の方からも広く注目を集めています。
今回は、ウゴービがどのような場合に保険適用になるのか、効能効果や服用方法について、薬学的な解説をしていきます。
肥満治療薬のウゴービとは
新たに保険適用になった肥満治療薬の「ウゴービ」について、まずは効能効果や作用機序をそれぞれおさらいします。
効能効果
ウゴービは、持続性GLP-1受容体作動薬のセマグルチド(遺伝子組換え)を主成分とする肥満症の治療薬です。
保険適用上の効能効果は肥満症ですが、BMIの制限等を含むいくつかの使用条件が設定されています。
作用機序
前述のようにウゴービはGLP-1受容体作動薬であり、すでに2型糖尿病治療薬として使用されているオゼンピック皮下注と同じ、セマグルチドを主成分としています。
食事の摂取に応じてインスリン応答を調節するホルモンをインクレチンと呼び、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1(glucagon-like peptide-1)はインクレチンの一つとして知られています。
内因性のインクレチンはDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)と呼ばれる酵素によって急速に分解されてしまいます。そのため、2型糖尿病の治療薬として用いられているGLP-1受容体作動薬は、化学的な修飾を行うことでDPP4に対する安定性を高めており、現在では週1回投与を可能とした長時間作用型製剤が主流です。
セマグルチドをはじめとするGLP-1受容体作動薬は、膵臓のβ細胞上に存在するGLP-1受容体に選択的に結合し、ATPからcAMPの産生を促進させます。増加したcAMPを介してインスリンの分泌を促すとともに、グルカゴン分泌を抑制します。このため、GLP-1受容体作動薬は糖尿病の患者さまにおける血糖値のコントロールを目的に使用されてきました。
一方で、内因性のGLP-1は食後に血中濃度が上昇し、満腹感を増加させたり、食事からのエネルギー摂取量を減らす可能性も知られていました。また、複数の臨床試験において、GLP-1受容体作動薬による体重減少効果も報告されています。そのため、GLP-1受容体作動薬は、肥満症の患者さまに対する減量効果も期待されていたのです。
投薬対象者
ウゴービが適用となる患者さまには、一定の条件が設定されており、前提として高血圧や脂質異常症、もしくは2型糖尿病を有しているという方が対象となります。
また、食事療法や運動用法の効果が認められず、BMIも下記のどちらかの範囲の方でなければ使用できません。
最適使用推進ガイドライン(案)セマグルチド(遺伝子組換え)|厚生労働省
ウゴービ皮下注射 添付文書|ノボ ノルディスクファーマ株式会社
ウゴービ皮下注射 薬価基準収載のご案内|ノボ ノルディスクファーマ株式会社
最適使用推進ガイドライン(医薬品)|pmda
用法用量や小児・高齢者に対する注意点
2023年11月に公的医療保険の適用となったウゴービの使い方には、多くの注意点があります。
ここからは、ウゴービの用法用量を解説していきます。
用法用量上の注意
ウゴービを使用する際は、一般的に週1回の0.25mgの皮下注射から開始します。
以降は4週間の間隔で、0.5mg、1.0mg、1.7mg、2.4mgと増量していき、最終的に2.4mgを週1回投与していく流れです。
保険上の適用は「成人」
ウゴービは添付文書上、「成人」のみに対する用法用量の設定がなされており、小児に対する用法用量の設定はなされていません。※なお、添付文書上の成人とは15歳以上を指します。
ただし、ウゴービの有効性を検証した国際的な臨床試験では、18歳以上の成人が被験者となっており、このうち日本人の被験者は20歳以上でした。
注意が必要な患者さま
妊娠中の方や、妊娠の可能性がある方では、動物試験において胎児毒性が認められているため、ウゴービを投与しないこととされています。授乳中の方では、治療上の有益性や母乳栄養の有益性を考慮したうえで、授乳の継続又は中止を検討。2ヵ月以内に妊娠を予定する女性ではウゴービの投与を中止します。
高齢者の方においては、適用条件を満たした場合には投与が可能です。しかし、高齢者では身体機能や生理機能が低下していることも多く、副作用の出現には一層気をつける必要があります。
小児への適用
小児(15歳未満)等を対象とした臨床試験は行われていません。そのため、有効性や安全性に関する質の高い研究データは限られています。また、保険上も、小児に対する適用はありません。
ウゴービは、ダイエット(痩身効果)を目的として、若い世代の方の関心も高い薬品です。不適切使用に繋がらないよう、その取り扱いには注意を払う必要があります。薬剤師の方も服薬指導の際に当事者以外は使用しない、他者に譲らない点などを必ず伝えなければいけません。
詳しくは服薬指導の段落で解説していきます。
最適使用推進ガイドライン(案)セマグルチド(遺伝子組換え)|厚生労働省
ウゴービ皮下注射 添付文書|ノボ ノルディスクファーマ株式会社
ウゴービ皮下注射 薬価基準収載のご案内|ノボ ノルディスクファーマ株式会社
最適使用推進ガイドライン(医薬品)|pmda
ウゴービの禁忌・副作用・使用上の注意
ここでは、ウゴービの禁忌や副作用、使用上の注意についてそれぞれ解説していきます。
禁忌
ウゴービの禁忌は下記の3つです。
引用:ウゴービ皮下注0.25mg SD|ノボ ノルディスク株式会社
糖尿病性ケトアシドーシスや昏睡の方、また重症感染症や手術前などの緊急時には、ウゴービでなくインスリン製剤を用いた血糖管理が必要のため、ウゴービ皮下注の使用は禁忌です。
併用注意
前述の併用禁忌を除く併用注意の薬剤は下記の通りです。
薬剤・薬剤の種類 | リスクの詳細 | 措置方法 |
糖尿病薬(ビグアナイド系薬剤・スルホニルウレア剤・速効型インスリン分泌促進剤・α-グルコシダーゼ阻害剤・チアゾリジン系薬剤・DPP-4阻害剤・SGLT2阻害剤・インスリン製剤等) | 血糖降下作用が増加するため低血糖の発現のリスクが高まる | 定期的な血糖測定と必要に応じた薬剤調整を行う |
併用注意の薬剤やリスクについて、細かく知りたい場合は添付文書等をご覧ください。
副作用
ウゴービの使用において懸念すべき副作用は、主に下記のものがあります。
急性膵炎が疑われる激しい腹痛や嘔吐、低血糖症状が見られた場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。また下痢や何らかの腹部の不快感が見られた場合でも、早めに医療機関へ相談する必要があるでしょう。
糖尿病薬との併用リスクや副作用については続く段落で詳しく解説していきます。
最適使用推進ガイドライン(案)セマグルチド(遺伝子組換え)|厚生労働省
ウゴービ皮下注射 添付文書|ノボ ノルディスクファーマ株式会社
ウゴービ皮下注射 薬価基準収載のご案内|ノボ ノルディスクファーマ株式会社
最適使用推進ガイドライン(医薬品)|pmda
ウゴービの使用で気をつけておきたい糖尿病薬との併用リスク
ウゴービは糖尿病の方が適用となるケースが多いものの、糖尿病薬との併用による低血糖のリスクが高い薬でもあります。
2型糖尿病の方はウゴービ以外にも糖尿病治療薬を摂取している可能性が高く、事前に使用している薬を確認し、患者さま自身に低血糖症状に気をつけてもらうよう指導しなければなりません。
また、ウゴービを使用して急激に血糖値が改善すると、一時的に糖尿病網膜症が憎悪する可能性も指摘されており、既に網膜症を発症している方では注意が必要です。
何らかの症状が見られたらすぐに医療機関に相談するよう、患者さまに伝えておく必要があるでしょう。
ウゴービの服薬指導のポイント
ウゴービの服薬指導を行う際は、主に以下のポイントに注意しましょう。
決して他の人へ渡さない
処方された本人以外へ渡さないようにして、必ず処方された当事者に使用してほしいと伝えましょう。
薬剤師としては当たり前と思う方もいるかもしれませんが、美容や痩身目的でウゴービの処方を望んだりする声があるのも事実です。実際は適用条件の厳しい肥満症の治療薬であることを入念に伝えておく必要があります。
規則正しい食生活を送る
ウゴービの添付文書でも記載のように、不規則な食事摂取や食事制限をしていると低血糖のリスクが高くなると考えられています。
ウゴービは合わせて規則正しい生活習慣を送ることで症状の改善が期待できる薬です。ウゴービを使用しているからと安心せずに、規則正しい食生活を送る必要があります。
2~8°Cの冷所で保管する
ウゴービは2~8°Cの冷所で保管しなければならない薬です。さらに遮光する必要があり、冷凍も避けなければならないので、薬の管理について詳しく伝えなければいけません。具体的には冷蔵庫での保管を勧めるのが良いでしょう。
前回の注射箇所から2~3cmは離れた場所に注射する
皮膚の硬結を防ぐためにも、前回の注射箇所から2~3cmは離れた場所に注射するようにします。
一般的な皮下注射に共通する注意点となりますが、他の皮下注射を使用したことのある方でも必ず伝えるようにしましょう。
ウゴービの使用方法や服薬指導ができるようになろう
この記事ではウゴービについて、使用前に必要な情報や、ウゴービ皮下注の効能効果や作用機序、副作用などを紹介しました。
ウゴービ皮の保険適用は肥満症に悩む方にとって喜ばしいニュースですが、薬の適用には厳しい条件があります。
また、最適使用推進ガイドラインの対象品目でもあるため、薬剤師も保険適用にあたって服薬指導のポイントを抑えておく必要があります。
この記事で解説したポイントを参考に、患者さまが安心・安全に使用できるようにしましょう。
監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん
2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。
主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』