- 公開日:2024.12.19
【薬剤師向け】婦人科疾患で処方される漢方薬とは?処方せんを見て疾患を推測できるようになろう
婦人科疾患の治療には、エストロゲン製剤や低用量ピルなどが用いられます。また、ホルモンバランスの乱れを整える観点から、漢方薬が処方されるケースも少なくありません。
漢方薬が用いられる疾患は幅広い一方で、婦人科疾患を抱える患者さまの中には、薬剤師から疾患名を聞かれることに、抵抗を覚える人も多いでしょう。
薬剤師にとって、患者さまの疾患名を把握することは、適切な服薬指導を行ううえでも重要です。そのため、処方されている漢方薬から、疾患名や症状を推測できるスキルを身につけたいと考えている薬剤師も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、婦人科疾患で処方される主な漢方薬の効果や副作用、服薬指導のポイントなどを解説します。処方されている漢方薬から疾患名や症状を推測する上で役立つ情報もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
- 婦人科疾患と漢方薬の関係性
- 婦人科で処方される漢方薬の種類と特徴
- 漢方薬は不妊症の治療にも用いられる?
- 患者さまが気になる!漢方薬の副作用や使用上の注意点
- 婦人科の疾患・症状に処方される漢方薬の服薬指導を行う際のポイント
婦人科疾患と漢方薬の関係性
まずは婦人科疾患と漢方薬の関係について、おさらいします。
漢方薬の作用機序と女性ホルモンへの影響
漢方薬は婦人科疾患にどのような効果があるのか、漢方薬がもたらす女性ホルモンへの影響について解説していきます。
婦人科疾患に利用される漢方薬について、理解を深めるための前提知識として知っておきましょう。
東洋医学における「気血水」とは
漢方薬は、東洋医学における治療方法の一つとして位置づけることができます。東洋医学には「気血水」という理論があり、体内のエネルギー(気)、赤い血液(血)、そして体液(水)のバランスが健康を左右すると考えられています。
この理論は、特に女性ホルモンの調整や月経周期の正常化に応用できると考えられており、婦人科疾患の治療においても漢方薬が用いられます。
女性ホルモンに対する漢方薬の影響
漢方薬の中には、女性ホルモンと類似の作用を示す薬剤があります。
漢方薬の効き方は西洋薬よりも緩やかではあるのは事実です。体への負担を抑えつつ女性ホルモンのバランスを緩やかに調整することで、PMS(月経前症候群)や更年期障害の症状を緩和する効果が期待できると考えられています。
婦人科で処方される漢方薬の種類と特徴
漢方薬が処方される代表的な婦人科の疾患・症状として、生理痛・月経不順・更年期障害を挙げることができます。それぞれの疾患・症状について、処方頻度の高い漢方薬を解説します。
なお、臨床現場で用いられる漢方薬の種類は多く、患者さまの状態に応じて、処方される薬剤は異なります。また、婦人科系の症状は似たものもあるので、病状を明確に区別できないことも少なくありません。下記で紹介する疾患名と漢方薬の対応は、あくまでも一般的な処方例です。
下記の表に記載した漢方薬は、個人の症状や医師の判断により、生理痛・月経不順・更年期障害など、幅広く婦人科の疾患・症状に用いられるものです。
構成生薬 | 処方される疾患・症状 | 処方される理由 | |
桂枝茯苓丸 | ケイヒ / シャクヤク / トウニン / ブクリョウ / ボタンピ | ・月経痛 ・子宮筋腫 ・子宮内膜症 ・更年期障害など | 骨盤内の組織や臓器の血行を促進し婦人科疾患における痛みを和らげる効果が期待できる |
当帰芍薬 | トウキ / センキュウ / ブクリョウ / ビャクジュツ / タクシャ / シャクヤク | ・月経痛 ・月経不順 ・月経異常 ・更年期障害 ・産前産後あるいは流産による障害など | 血の巡りを改善し、ホルモンバランスを整え、生理痛の軽減が期待できる |
加味逍遙 | サイコ / シャクヤク / ソウジュツ / トウキ / ブクリョウ / サンシシ / ボタンピ / カンゾウ / ショウキョウ / ハッカ | ・月経痛 ・月経不順 ・月経異常 ・更年期障害など | 月経や更年期に伴うイライラや不安感、不眠症などのような主に精神症状の改善が期待できる |
温経湯 | バクモンドウ / ハンゲ / トウキ / カンゾウ / ケイヒ / シャクヤク / センキュウ /ニンジン / ボタンピ / ゴシュユ / ショウキョウ / アキョウ | ・月経不順 ・月経困難症 ・更年期障害など | 体の冷えと血の停滞を解消することで月経周期を正常化する効果が期待できる |
四物湯 | ジオウ / シャクヤク / センキュウ / トウキ | ・月経不順 ・産前産後あるいは流産による障害など | 血を補い、生理周期のバランスを整える効果が期待できる |
柴胡加竜骨牡蛎湯 | サイコ / ハンゲ / ブクリョウ / ケイヒ / オウゴン / タイソウ / ニンジン / リュウコツ / ボレイ / ダイオウ / ショウキョウ | ・更年期障害(更年期神経症)など | 不安や不眠など更年期に伴う精神症状に対して改善の効果が期待できる |
加味帰脾湯 | オウギ / サイコ / サンソウニン / ソウジュツ / ニンジン / ブクリョウ / リュウガンニク / オンジ / サンシシ / タイソウ / トウキ / カンゾウ / ショウキョウ / モッコウ | ・更年期障害による諸症状など | 不安感や悲しみなどの精神症状を改善する効果が期待できる、また熱を抑える作用からイライラやほてりなどの更年期の症状の改善も期待できる |
※構成生薬はメーカーにより異なる場合があります。
漢方薬は不妊症の治療にも用いられる?
不妊症の治療に対する漢方薬の位置付けや、治療方針に関する明確な指針は存在しませんが、標準的な不妊症の治療に加えて、加味逍遥散や当帰芍薬散を併用することもあります。とはいえ、不妊症の治療に対する漢方薬の有効性や安全性を検討した質の高い研究報告は限られています。妊娠に対する漢方薬の有効性ついては不明な部分も多く、不妊症の治療に漢方薬を単独で用いることはほとんどありません。
患者さまが気になる!漢方薬の副作用や使用上の注意点
婦人科で処方される頻度が高い漢方薬について、その副作用が気になっている患者さまもいるでしょう。ここでは、漢方薬の副作用と使用上の注意について解説していきます。
漢方薬の主な副作用
漢方薬は安全性が高く、その副作用は基本的には軽微なものと考えられています。しかし、個々の体質や健康状態によっては副作用と捉えられる反応が現れる場合があるでしょう。
例えば、一部の漢方薬には消化器系の副作用(胃腸の不快感、下痢、便秘など)やアレルギー反応(発疹、かゆみなど)が報告されています。
また、重篤な副作用として、肺障害や肝障害、偽アルドステロン症などが知られています。副作用の種類や発生頻度は、構成されている生薬や作用機序によって異なります。服薬指導を行う際には、個々の漢方薬の特性を踏まえて、副作用の発生頻度や重篤度に関する情報を丁寧に説明する必要があるでしょう。
漢方薬を使用する上での注意点
漢方薬は、OTC医薬品としても販売されています。とはいえ、漢方薬を安全かつ効果的に使用するためにも、医師や薬剤師が正しく服薬指導を行う必要性があります。
漢方薬は西洋薬と異なり、体質や症状によってその効果が大きく異なるため、個々の体質や健康状態に合わせて適切な薬剤を選択する必要があります。
妊娠中や授乳期の女性、または他の薬剤を併用している場合には特に注意が必要であり、使用前に医師や薬剤師などの専門家と相談することが望ましいと考えられます。漢方薬は複数の医療機関や診療科で処方される機会も多いため、薬剤師は、重複投薬や相互作用の有無を含めたリスク管理を適切に行う必要があります。
婦人科の疾患・症状に処方される漢方薬の服薬指導を行う際のポイント
婦人科系の疾患の患者さまは、デリケートな話をしたくないという方も多く、自身の病状について、詳しく話をしたくないと感じている場合も多いでしょう。
患者さまから疾患名を聴取できない場合、処方された漢方薬から疾患名を推測して、適切な服薬指導を行う必要があります。
最後に、婦人科の疾患・症状に処方される漢方薬の服薬指導を行う際のポイントを解説していきます。
漢方薬の効能と期待される効果が出るまで時間がかかることを説明する
漢方薬の多くは、有効性を期待するために、長期的な服用が前提となる場合が多いです。したがって、患者さまには漢方薬の効果が現れるまでの期間と、その効果について適切に説明する必要があるでしょう。例えば、生理痛や月経不順に対する漢方薬の効果は、長期的な服用が前提になるものもあります。患者さまのご希望を伺いながら誠実にご対応していきましょう。
漢方薬に対して即効性を期待する患者さまも少なくないため、効果の発現タイミングに関する情報を伝えることは大切です。
患者さまの生活習慣や体質に合わせた服用方法の調整が必要な場合もある
漢方薬の効果は、患者さまの体質や生活習慣に影響を受けると考えられており、これらの要因を考慮した用法の調整が必要な場合もあります。
例えば、体が冷えやすい患者さまには、温かい飲み物で漢方薬を服用してもらうことや、夜に冷えを感じやすい患者さまには夕方に服用を推奨する等の服薬指導も考慮できるかと思います。
漢方薬の服用タイミングや、用法・用量の調整について、服薬指導する際には、医師が指示した内容を踏まえることが前提となります。
他の薬との併用における注意点について伝える
漢方薬の中には、他の医薬品と併用することによって副作用のリスクが高まることもあります。例えば、甘草が含まれる漢方薬を使用する場合、同じく甘草が含まれる漢方薬との併用は、偽アルドステロン症が起こる可能性があるため、注意が必要です。
偽アルドステロン症とは、甘草に含まれるグリチルリチン酸の作用によって、腎局所において不活化が阻害されたコルチゾールが過剰となり、ミネラルコルチコイド作用を呈することを指します。
また、甘草が含まれる漢方薬を使用する際にはもう1点注意が必要なことがあります。該当する漢方薬は、低カリウムの排泄を促す効果があり、利尿薬との併用で低カリウム血症のリスクが高まると考えられます。
安全性が高いと認識されがちな漢方薬ですが、患者さまが併用している薬剤を把握し、相互作用のリスクが疑われる場合には、必要に応じて医師と連携を取ることが重要です。
症状の変化に応じた漢方薬の見直しが必要になる場合もある
漢方薬は長期的に服用することが多いため、定期的に症状の変化を確認する必要があります。場合によっては、漢方薬の種類や服用量の調整を考慮しなければならないこともあるでしょう。患者さまの体調不良や治療中の症状が改善された場合は、処方内容を見直し、必要に応じて処方医と情報共有を行うようにしましょう。
患者さまの疾患を初回の調剤時に把握することができなくても、漢方薬の継続的な治療経過の中で、症状の変化や副作用の有無など、患者さまの情報を少しずつ収集していくことが肝要です。
今さら聞けない漢方診療を始めるコツ|公益社団法人 日本産婦人科医会
女性疾患と漢方治療 日本病院総合診療医学会雑誌|J-STAGE
注意しておきたい漢方診療上の副作用|J-STAGE
婦人科で使用する漢方薬について知識を深めて患者さまに合わせた服薬指導ができるようになろう
本記事では婦人科疾患と漢方薬について、よく処方される漢方薬や、使用上の注意点や服薬指導のポイントなどを紹介しました。
不妊症の治療や症状緩和など、婦人科疾患で漢方薬を処方されている患者さまは、心配りが必要な状況にある場合が少なくありません。患者さまの置かれた状況に配慮をしながら、適切な服薬指導ができるようにしましょう。
監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん
2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。
主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』