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  • 公開日:2024.12.02

【薬剤師向け】降圧薬の第一選択薬とは?代表的な成分や作用機序を解説

【薬剤師向け】降圧薬の第一選択薬とは?代表的な成分や作用機序を解説

降圧薬の種類はさまざまですが、第一選択薬として考慮できる薬剤の種類は、大きく5種類あります。精度の高い服薬指導を行うためにも、各薬剤の作用機序を整理することが大切です。

経験の浅い薬剤師はもちろん、降圧薬の取り扱いに慣れた薬剤師であっても、降圧薬に関する最新情報を学び続ける必要があるでしょう。

本記事では、降圧薬の第一選択として考慮されることが多い5種類について、代表的な有効成分や作用機序について解説します。また、高血圧治療の基本的な考え方と、降圧薬の治療における今後の展望をご紹介します。降圧薬について学びを深めたい薬剤師の方は、ぜひ参考にしてください。

高血圧治療の重要性と降圧薬の役割

高血圧は、心血管疾患や脳血管疾患の危険因子です。そのため適切な降圧薬の使用は、血圧を下げる役割はもちろんのこと、他の疾患の発症リスクを管理する上でも重要です。

まずは、高血圧がもたらす健康リスクや、身体への影響をおさらいしながら高血圧に対する治療の重要性を確認しつつ、降圧薬がどのようにして血圧を下げるのかについて解説していきます。

高血圧がもたらす健康リスク

高血圧は、心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患、あるいは心不全や腎不全など、重篤な合併症リスクを高めることが知られています。

血圧の高い状態が続くと、血管壁の弾力性が失われ動脈硬化が進行します。それゆえ、心血管疾患や脳血管疾患などの合併症リスクが高まるのです。このような合併症リスクを低減させるためにも、早期の降圧治療と、血圧の管理が重要だと考えられています。

降圧薬の基本的な役割

降圧薬は、血圧を下げることで動脈硬化の進行を防ぎ、心血管疾患や脳血管疾患などの合併症リスクを低下させる効果が期待できます。降圧薬にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる作用機序を持っています。薬剤によって異なる作用機序を持つため、個々の患者さまの病態や体質に合わせた適切な降圧薬の選択が重要です。

降圧薬の第一選択薬とは?主に選択される5つの降圧薬とその作用機序

降圧薬の第一選択薬とは?主に選択される5つの降圧薬とその作用機序

降圧薬には複数のクラス(種類)があり、それぞれ異なるメカニズムで降圧効果をもたらします。

患者さまの病態や体質によって、積極的に選択できる降圧薬は変わります。下記では、第一選択薬として考慮されやすい薬剤の作用機序について解説していきます。

第一選択薬として考慮されることが多い降圧薬は、下記の5種類です。

  • カルシウム拮抗薬
  • アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
  • アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
  • サイアザイド系利尿薬
  • β遮断薬
  • それぞれ期待できる効果と作用機序をみていきましょう。

    カルシウム拮抗薬

    カルシウム拮抗薬は、血管の平滑筋に作用してカルシウムイオンの流入を阻害し、血管を拡張させることで血圧を下げる効果が期待できる薬剤です。

    代表的な薬剤として、アムロジピンベシル酸塩ニフェジピンを挙げることができます。これらの薬剤は、高い降圧効果と長時間にわたる効果の持続が期待でき、アンジオテンシンII受容体拮抗薬と並んで、第一選択薬として考慮されやすい薬剤です。

    カルシウム拮抗薬は、主に CYP3A4 という酵素によって代謝されます。そのため、CYP3A4 によって代謝される薬剤と併用すると、相互作用を起こす可能性があります。

    また、薬剤のみならず、グレープフルーツとの同時摂取によって、カルシウム拮抗薬の代謝が遅延し、過度の降圧が生じる可能性に留意しなくてはなりません。とはいえ、カルシウム拮抗薬の安全性は総じて高く、高血圧を有する患者さまの多くが内服している薬剤の1つです。

    アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)

    ARBは、アンジオテンシンIIの作用部位であるアンジオテンシンII受容体を阻害する薬剤です。アンジオテンシンII は強力な血管収縮作用、体液貯留作用、交感神経活性作用を持つため、ARBはこれらの作用を抑制することで降圧効果を発揮します。

    代表的な薬剤として、ロサルタンカリウムカンデサルタン シレキセチルを挙げることができます。ARBには、腎機能の維持に関する有効性が報告されていることから、慢性腎臓病や糖尿病性腎症を有する高血圧の第一選択薬として考慮されます。

    ただし、ARBは、妊婦や授乳婦、重度の肝機能障害がある方への投与は禁忌となっています。また、高齢者への投与や慢性腎臓病の中でもeGFR値が低値にある腎不全の方に対する投与は慎重に行う必要があります。薬剤を安全かつ効果的に使用するためにも、患者さまの病状を適切に把握する必要があります。

    アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬

    ACE阻害薬は、アンジオテンシン変換酵素を阻害することでアンジオテンシンIIの生成を減少させ、血圧の低下をもたらす薬剤です。また、ACE阻害薬は降圧作用をもたらすカリクレイン-キニン、プロスタグランジン系を増強することも知られています。

    代表的な薬剤にはエナラプリルリシノプリル水和物が挙げられ、心不全や心筋梗塞後の治療にも使用されることもあります。

    基本的な副作用や注意点はARBと変わりません。ただし、ACE阻害薬の特徴的な副作用として、空咳を挙げることができます。ACE阻害薬による空咳は、欧米人と比較するとアジア人で発生しやすい可能性が指摘されています。

    サイアザイド系利尿薬

    サイアザイド系利尿薬は、腎臓でのナトリウムと水の再吸収を抑制し、尿量を増やすことで血圧を下げる効果が期待される薬剤です。代表的な薬剤として、ヒドロクロロチアジドトリクロルメチアジドを挙げることができます。利尿薬は、とくに高齢者や塩分摂取過多の患者さまに対して効果が期待できる薬剤で、食事療法と併用しながらも、食事での塩分制限が難しい患者さまにも用いられます。患者さまの食習慣を把握することで、より的確な服薬指導が可能になるでしょう。

    β遮断薬

    β遮断薬は、交感神経系を抑制し、心拍数と心拍出量を低下させることで血圧を下げる効果が期待できる薬剤です。代表的な薬剤として、アテノロールメトプロロール酒石酸塩を挙げることができます。β遮断薬は、心不全や狭心症など、心疾患の治療に用いられる場合が多い薬剤です。ただし、心筋梗塞後の降圧や、甲状腺機能亢進症などを合併している場合には、積極的に考慮できる薬剤です。なお、気管支喘息や一部の心疾患など、β遮断薬の禁忌項目は多岐にわたるため、その詳細について正確に把握しておく必要があるでしょう。

    降圧薬の第一選択薬とその処方基準

    降圧薬は、患者さまの病態や合併症の危険因子に応じて選択することが基本です。ここでは、第一選択となり得る降圧薬の選定理由について詳しく解説していきます。

    第一選択薬としてのカルシウム拮抗薬とARB

    前述のようにカルシウム拮抗薬とARBは、第一選択薬として考慮される機会が多い降圧薬です。これらの薬剤が選ばれる理由として、高い降圧効果が得られること、長時間にわたる効果の持続が期待できること、副作用が少ないこと、高血圧を有する多くの患者さまの病態に使いやすいことなどが挙げられます。

    降圧効果はもちろん、降圧薬において効果の持続は重要な要素です。降圧効果が長期的に持続し、安定的な血圧を維持できることは、合併症リスクの低減に効果的だと考えられているからです。

    病態や体質に合わせた選択

    降圧薬の第一選択薬は、患者さまの病態や体質によって異なります。

    たとえば、狭心症を有する患者さまには、冠動脈の血流維持が期待される観点から、カルシウム拮抗薬が考慮できます。一方で、糖尿病の患者さまには腎保護作用の観点からARBが考慮できます。

    このように、薬剤が持つ特性と、患者さま個々の病態に応じた適切な薬剤選択が重要です。

    配合剤の使用

    降圧作用を強化するために、複数の降圧薬を組み合わせた配合剤が使用されることもあります。配合剤は、複数の降圧薬による強い降圧作用のみならず、単一の降圧薬を高用量で用いる場合と比べて、副作用のリスク低下が期待できます。

    一方で、降圧薬の中には併用が適切ではない薬剤もあります。そのため、各降圧薬の作用機序を適切に理解し、併用に伴う有害事象のリスクを把握しておかなければなりません。

    たとえば、直接的レニン阻害薬(DRI)のアリスキレンフマル酸塩は、ARBやACE阻害薬と併用禁忌もしくは併用注意となっています。また、利尿薬とβ遮断薬の併用は糖や脂質代謝に影響することから、高齢者や糖尿病、耐糖能異常などの病態を合併する患者さまでは、その使用に注意を要します。

    降圧薬の使用における注意点と禁忌

    降圧薬の使用における注意点と禁忌

    配合剤の章でも触れましたが、降圧薬の使用にはいくつかの注意点や禁忌があります。各薬剤の注意点や禁忌項目に対する知識を深めることは、安全かつ効果的な服薬指導に必須です。

    ここでは、降圧薬の使用における注意点と禁忌について解説します。

    降圧薬の主な副作用

    降圧薬の種類によって副作用はさまざまですが、代表的な降圧薬の副作用として、低血圧や電解質異常を挙げることができます。これらの副作用を早期に発見し、適切に対処することが重要です。

    たとえば、利尿薬による低カリウム血症は、早期の発見によって重症化を予防することができます。患者さまには、気になる体調不良や副作用を疑う症状が出現した際には、薬を飲んでいるから仕方ないと認識するのではなく、直ちに医師や薬剤師へ相談する旨を伝えるようにしましょう。

    禁忌と慎重投与

    特定の基礎疾患を有している場合や、併用している薬剤によっては、降圧薬の使用が禁忌となることがあります。たとえば、妊婦・授乳婦の女性にはARBやACE阻害薬の使用が禁忌とされています。

    また、重篤な腎機能障害を有する患者さまには、利尿薬などの使用が適さない場合もあるため、患者さまの身体状態の確認が重要です。

    降圧治療の基本的な考え方と今後の展望

    高血圧の治療は日々進展しており、新しい治療法や新薬の臨床応用が行われています。薬剤師として学びを深めていくためにも、ここでは降圧治療の基本的な考え方と、今後の展望について解説していきます。

    今後の治療や薬剤について理解を深めて、薬剤師としての知識をアップデートしておきましょう。

    降圧治療に求められる理想的な降圧薬とは?

    持続する高血圧は、動脈硬化の進行と、それに伴う心血管疾患や脳血管疾患の発症リスクを高めます。それゆえ、長時間にわたって安定的な降圧効果を持つ薬剤が理想的といえるでしょう。

    また、高齢化が進む中で、フレイルや認知症の方が増加する一方、生活が自立した高齢者も増加すると予測されます。患者さま個々の日常生活動作に合わせた薬剤の選択も重要だと考えられます。

    災害時循環器リスク予防(DCAP)ネットワークシステムを必要な場面で活用する

    災害時循環器リスク予防(DCAP)ネットワークシステムは、ICT機器を用いた血圧管理システムの実用例の1つです。実際、東日本大震災が発生した際には、このDCAPネットワークシステムを活用して、被災者の血圧コントロールを行った事例もあります。このようなICT機器を活用した血圧管理は、震災などの災害時だけでなく、より厳密な血圧管理を目的とした日常診療でも導入される可能性があります。

    降圧薬について最新の知識を身につけて患者さまに適した服薬指導ができるようにしよう

    記事内では降圧薬の基本的な情報から、第一選択薬として考慮されることが多い薬剤の特徴、使用上の注意点や禁忌、今後の展望などを紹介しました。

    降圧薬の種類とその作用機序、第一選択薬の選定理由、副作用や禁忌について理解することで、より効果的な高血圧治療が可能となります。今後も薬剤師として、これらの知識を活用し、患者さまに合わせた服薬指導を目指しましょう。

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学:存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2024/12/02

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