- 公開日:2024.07.12
漢方薬の考え方、気血水や証って何?西洋薬との使い分けは?
漢方薬は作用機序が明確で、特定の疾患や症状に対する治療効果が期待できる西洋薬とは異なり、体質改善による治療を得意とする薬です。
西洋薬で効果が得られなかったときに漢方に切り替えるケースもあり、薬剤師としては「漢方薬はどう効くの?」と患者さまから質問を受けることもあるのではないでしょうか。
本記事では漢方への理解を深めて患者さまへ正しく説明できるようになるために、体質改善の考え方である「気血水」や「証」について解説します。
漢方の質問にうまく答えられなかったことや、困る場面があったという薬剤師の方、漢方薬の基礎知識を深めたい薬剤師の方は、ぜひ参考にしてください。
漢方医学の基本概念「気血水」とは?
漢方医学では、生命を維持するための栄養成分として「気・血・水」の3つの要素で捉えます。これらは体内のエネルギー、血液、(血液以外の)体液を指しているものであり、そのバランスが健康に大きく影響すると考えられています。
漢方の基本的な性質を理解するためにも、「気・血・水」の各要素がどのような役割を果たしているのかおさらいしていきましょう。
気(き)
漢方医学における「気」は、体や脳の活動を支える目に見えないエネルギーのことです。
呼吸や毎日の食事から得られる「気」が体内を巡ることで、体の各機能を調整するとされています。
また気の流れが滞ることを「気滞(きたい)」といい、精神的なストレスやうつ状態を引き起こす原因となると考えられています。そして、気が逆行することを「気逆(きぎゃく)」といい、咳、不安感、動悸、頭痛などの症状があらわれると言われており、とくに発作性の症状がみられると考えられているのも気逆の特徴の1つです。気が不足する「気虚(ききょ)」では、疲れやすく、体がだるくなるなどの症状が見られるとされています。漢方ではこれらの気に関する症状を改善するために、気の巡りを整える処方を用いていきます。
血(けつ)
「血」とは字の通り、血液のことを指します。血は全身に酸素や栄養を運び、体を潤す役割を果たしているものです。
血の流れに障害をきたす状態を「瘀血(おけつ)」といい、月経異常や肩こり、冷えなどの症状を引き起こすとされています。また、血の量が不足した状態を「血虚(けっきょ)」といい、眼の疲れや皮膚の乾燥、顔色の悪さ、こむら返りなどの症状があらわれるとされています。漢方薬では、血を補ったり血流を改善する効果が期待できる漢方を用いて、これらの症状を緩和する治療を行っていくのが血に関する基本の治療法です。
水(すい)
「水」とは血液以外の体液のことを指す言葉です。そもそも体内の水分は、消化液やリンパ液など重要な役割を担っています。水分代謝の不調は、むくみや乾燥、消化不良などの症状を引き起こすとされており、水分代謝を整えることは漢方医学だけでなく西洋医学でも重視されている考えです。
水が偏在した状態を「水毒(すいどく)」または「水滞(すいたい)」といい、めまい、頭痛、動悸、浮腫、下痢、尿量の変動などがあらわれると考えられています。漢方では、水分のバランスを整える処方を用いて、これらの症状を改善する効果が期待されていますが、水の不足や流れの滞りは乱れた食生活や冷たいものの取りすぎが要因とも考えられることもあります。そのため漢方の処方だけでなく、食生活の指導も漢方による治療と合わせて行われていくケースも考えられるでしょう。
漢方医学における証(しょう)とは?
漢方医学では「気・血・水」の状態に加えて「証(しょう)」と呼ばれるものを用いて、患者の体質や症状を総合的に判断します。
次に「証」について詳しく解説します。
証の種類
そもそも漢方はその人の体の状態や体質に合わせて処方を行っていくものです。
証はそれぞれの患者さまの体質のようなものを指しており、証によって処方を変えたり検討したりします。
証には虚(きょ)・実(じつ)の2つの分け方があります。虚(きょ)と実(じつ)は、体力や抵抗力によって判断されるもので、それぞれの特徴は下記の通りです。
虚(きょ) | 実(じつ) |
・体力がない・下痢をしやすい・細くて小さな声・寒がり・華奢で細い | ・体力がある・便秘になりやすい・太くて大きな声・暑がり・筋肉質(必ずではない) |
上記のような特徴から虚と実のどちらの証か判断していき、それぞれに当てはまる人を虚証・実証と呼びます。体力がある実の人に効果が期待しやすい漢方薬や、一方で虚の人に効果が期待しやすい漢方薬があるため、証を判断して処方を検討するのは漢方医学において重要なポイントです。
証の診断方法
証の診断は、望診、聞診、問診、切診という四診を用いて行っていきます。
望診は患者の外見や姿勢を観察する診断方法で、聞診は患者の声や呼吸音、匂いなどをを確認するものです。問診では患者の症状や生活習慣について詳しく聞き、切診では脈拍や腹部の触診を行います。これにより、患者の状態を総合的に把握し、最適な治療法を決定していき漢方を処方します。
※医師によっては四診を行わない場合もある
漢方における体質改善に重要な気血水と証の関係性とは?
気血水のバランスと証の関係性を知ることは、漢方における体質改善を理解するのに重要なポイントです。
ここでは気血水と証の関係性や重要性についてそれぞれ解説します。
気血水と証が漢方における体質改善に重要な理由
漢方医学において、気血水と証は体質改善のための重要な指標です。気血水は生命を構成するのに欠かせない成分を示し、気、血、水それぞれのバランスが健康に直結しています。一方、証は患者の現在の体質を評価する方法であり、これに基づいて最適な治療法や漢方薬を選択します。
証に基づく治療法は、個々の患者の具体的な体質や生活習慣を考慮した治療法となるため、より効果的な体質改善が期待できるといえるでしょう。
証を把握して治療をしていく漢方医学では、単に症状を治すだけでなく根本的な体質改善を目指すために、気血水と証の両方を重視します。このように、薬剤師の方々による気血水と証への理解が深まることで、患者さまへの服薬指導において、漢方薬は根本的な体質改善を目的とした治療であることを理解していただけるようになるのではないでしょうか。
気血水と証から考える漢方薬の例
気血水のバランスが崩れること、また患者さまの証から漢方薬を考える方法について気になっている方もいるかもしれません。ここでは気虚と血虚が同時に起こる場合を考えて例をあげていきます。気虚と血虚が同時に起こると、疲労感や無気力、顔色の悪さ、ふらつきや冷えなどの症状があらわれると考えられるでしょう。また気虚と血虚が同時に起こっているという状況から、体力がない虚証の方であるとも考えられます。このような患者さまは、気と血を補う漢方薬を使用していく必要があると考えられるため、虚証の方へ効果が期待できる漢方である十全大補湯、加味帰脾湯や人参養栄湯などが選択肢として考えられます。
西洋薬と漢方薬それぞれのメリットと使い分け方
冒頭で西洋薬による治療から漢方薬への治療へ切り替えられるケースもあると解説しましたが、それぞれの薬にはメリットがあり、使い分け方があります。
最後に西洋薬と漢方薬それぞれのメリットと、使い分けについて解説します。
西洋薬の特徴とメリット
西洋薬はピンポイントでの症状緩和、症状のコントロールに優れている薬です。
また、西洋薬は高血圧や便秘、疼痛などの特定の症状に対する強力な効果が期待されている点から、医療現場では急性症状の緩和に適している薬としても扱われています。しかし西洋薬の中には、併用することで効果が減少したり副作用のリスクが増強されたりするものも存在するため、西洋薬の併用には十分な注意が必要です。また、西洋薬は対症療法が基本であり、飲み続けても根本的な改善に至ることは少ないでしょう。
後述しますが、このようなメリットから、主に急性期的な治療を要する場面で西洋薬が選ばれるケースが多いでしょう。
漢方薬の特徴とメリット
漢方薬は根本的な体質改善や全身のバランスを整える作用が期待できる効果であり、内服におけるメリットとされています。漢方薬は長期的な健康管理に役立つのはもちろん、西洋薬と比較すると副作用が少ない点もメリットと考えられるでしょう。
漢方薬は慢性的な不調や全身の調和を重視している、自然由来の成分の薬です。その点から体に優しい治療法とも考えられていますが、西洋薬より即効性は低いものももあるため医療現場では、長期的に内服しながら体の変化を少しずつ感じていくものと捉えられています。
西洋薬と漢方薬の使い分け方
西洋薬と漢方薬にはそれぞれメリットと使用上の注意点があり、それぞれの特性を踏まえて使い分けていく必要があります。西洋薬で急性症状を緩和しつつ、漢方薬で体質改善を図ることで、総合的な治療効果が期待できるというのが、よく用いられる使い分け方です。
また西洋薬と漢方薬の併用において相互作用を及ぼす薬も存在するため、基本的には処方元の医師や購入元の薬局の薬剤師に確認をした上で併用をしてもらう必要があります。
西洋薬と漢方薬の違いが難しく感じている患者さまもいるため、患者さまへ服薬指導をする際には、それぞれの内服している薬はあるか確認したり詳しく説明する必要があるでしょう。
気血水|日本臨床漢方医会 漢方の基礎知識|ツムラ 私に合う漢方薬の見つけ方|ツムラ 漢方Q&A-その他⑤漢方でよく言う「証(しょう)」とは?|日本臨床漢方医会 薬局・薬店で購入した漢方薬について|日本漢方生薬製剤協会
漢方の気血水や証を理解して患者さまに説明できるようになろう
本記事では、漢方の気血水や証とは何かという漢方医学の基本や、漢方の気血水や証の関係性から漢方が体質改善に用いられる理由、漢方薬と西洋薬との違いや使用における注意点などを紹介しました。
患者さまの中には、西洋薬と漢方薬の間にはどんな違いがあり、どのように効いているのか不安という方もいるかもしれません。患者さまが漢方薬の性質を理解して、症状改善や体質改善のために内服し続けられるように、薬剤師として漢方についての知識を身につけておくと良いでしょう。
監修者:杉山卓也(すぎやま・たくや)さん
漢方薬剤師/漢方アドバイザー。「こころと漢方の専門家」として神奈川県座間市にある「漢方のスギヤマ薬局」でメンタルを中心とした漢方相談をするかたわら、東京都世田谷区に漢方専門店「成城漢方たまり」、1年間で中医学や薬膳、経済まで学べる「tamari中医学養生学院」の経営や漢方業界唯一のオンラインサロン「タクヤ中医学オンラインサロン」を運営し、600名を超える会員を集めている。
神奈川中医薬研究会会長、星薬科大学非常勤講師、合同会社Takuya kanpo consulting代表