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業界動向
  • 公開日:2020.11.27

病院薬剤師とチーム医療「知識よりも大切なこと」<柴田ゆうかインタビュー 第2回>

病院薬剤師とチーム医療「知識よりも大切なこと」<柴田ゆうかインタビュー 第2回>

医師が中心となっていた時代から、それぞれの分野のスペシャリストが集まり医療を行うチーム医療の時代へ。そのなかで、薬剤師は「薬の守り人」として患者さんはもちろん、医師や看護師をはじめとする医療人をサポートし、職能を発揮していかなければなりません。

では、実際に病院で薬剤師は、どのような問題に直面しているのでしょうか?また、どのような役割をもってチーム医療のなかで仕事をしているのでしょうか?

広島大学病院 医療安全管理部に所属し、チーム医療や病棟業務などの臨床現場をご経験されてきた柴田ゆうか【しばた・ゆうか】さんにお話を伺う、連載第2回目。今回は、柴田さんのご経験を軸に、病院薬剤師の前に立ちはだかる壁やその乗り越え方、さらには病院薬剤師として働くうえで大切にすべきことを伺いました。

私たちは薬剤師である前に人である。患者さん対応のヒント

薬剤師は、患者さんにとってどのような存在であるべきだと考えていますか?

ドラマ『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』の冒頭に流れるナレーションに、とても印象的な言葉がありました。

「みんなそれぞれの大切な日常があって、これからもそれぞれの未来が続いていく。それを守っていくのが私たち薬剤師の仕事だ」

ドラマ『アンサング・シンデレラ〜病院薬剤師の処方箋〜』より

このドラマがいいなあと思うのは、「私たちは薬剤師である前に医療人であり、医療人である前に人である」ということに立戻らせてくれるところです。日々の業務に追われていると、薬にとらわれて大事なことが見えなくなってしまいがち。でもそうではなくて、本来私たちは"薬剤師である前によき人として患者さんと関わる気持ち"を忘れてはいけません

たとえば患者さんに関わるところでいうと、服薬指導に悩まれている薬剤師さんは多いように思います。"人として患者さんと関わる"ためには、どのようなことを意識するとよいでしょうか?

服薬指導がうまくいくポイントは、「患者さんが困っているのは何か」を理解することなんです。ドラマ『アンサング・シンデレラ』のワンシーンで、慣れない子育てをするお父さんの話がありました。

お父さんが自分に処方された薬を子どもに飲ませていることに気づいて、相原くるみちゃんがやめるよう訴えた。でも、お父さんは「じゃあ何日ならいいの?少しだけならいいでしょう」って全く受け入れてくれなくて・・・。ところがそのあとで「慣れない育児で大変だと思うけれど、小児科でちゃんと処方してもらってほしい」と言ったら、お父さんは頷いてくれました。

これも結局、お父さんは「じゃあ何日ならいいの?」ということを知りたかったわけではなくて、大人の薬を子どもに飲ませない方がいいことくらいわかっていた。でも小児科に連れていく余裕がないくらい育児で大変なことに寄り添って欲しかったんですよね。

今は"患者さん中心の医療"というけれど、患者さんは言いたいことがあってもなかなか言えない思いを必ず抱えています。ですからまずは、薬の知識云々の前に患者さん特有の環境や背景があることを理解しなければいけません。このシーンは、薬剤師である前に人として試されているいいシーンだったなと思います。

「お金がかかるならいらない」。服薬指導を断られた経験から学ぶこと

柴田ゆうか先生

患者さんと関わる機会が多い病院勤務だからこそ、コミュニケーションでの悩みも多いと思います。ご自身が実際に業務を行うなかで、患者さんと壁を感じるようなご経験はありましたか?

15年ほど前はじめて病棟に行ったときに、「お金がかかるならいらない」と服薬指導を拒否される経験をしました。その患者さんからしたら、治療費などで家族に迷惑をかけているという思いからの拒否だったのでしょうけれど、そのときの光景は今でも鮮明に覚えています。

今思えばそのときは、薬剤師の役割が患者さんに見えていなかったし、同じ医療職である医師や看護師からも「何を任せればいいのかわからない」と言われていたほどでした。当時とは比べ物にならないほど薬剤師の役割は明確化されてきているわけですが、今でもその名残は残っているかもしれません。

確かに今でこそドラマで認知されてきましたが、それまではなかなか薬剤師さんが入院時に何をしているのかは見えていませんでした。その患者さんには、そのあとどのように対応されたのですか?

そのときは逃げるように薬剤部に戻り「もう二度と病棟に行けない」とすら思って、落ち込んでいました。半年くらいして病棟回診に同行したとき、その患者さんと会う機会があったんです。白髪が一気に増えて弱々しく「先生、助けて」と言われて......。その言葉が本当に胸に刺さりました。

その患者さんは抗がん剤治療をしていましたが、感染を防ぐために個室に移って先のみえない不安で心細かったのだと思います。それからは何度も病室を訪れて、「辛い」と涙する患者さんに寄り添いました。

長期の治療で腎機能が低下してきたので、胃薬の減量を提案しました。でも、「患者さんが嫌がるから減らせない」と医師に言われ、そこでも自分の力のなさが情けなくて......。

しかし、翌日思いもかけず患者さんが「先生、私のためにありがとう」と薬の変更をわざわざ私のもとに報告しに来てくれました。医師が、「薬剤師さんが、副作用がでないようにお薬減らした方がいいっていってたけど減らしてみないか」と患者さんに伝えてくれていたんですね。腎機能が悪くなったら薬を減らすなんて薬剤師なら誰でもできる提案だけど、それが今でもとても印象に残っています。

柴田さんの患者さんに寄り添う姿勢が、患者さんの心に響いていたのでしょうね。

そうだと嬉しいですよね。でもそこで思ったのは、ひとりで対応しようと思ったら難しかったということ。医師や看護師らチーム医療の一員として、病棟回診、カンファレンス参加、薬学的管理体制をひとつずつ積み重ねることでその患者さんにも受け入れてもらえたのだと今は思います。多分最初は誰でも不安で、うまくコミュニケーションも取れないし、壁にぶつかることもあるでしょう。しかし、そこで諦めてはいけません。

薬剤師の病棟配置の歴史から考えたら、医師や看護師は医療現場の大先輩です。ですから、薬剤師はルーキーとして先輩たちの胸を借りて伸びやかに仕事をすればいいと思います。お話したエピソードはもう10年以上も前のことですが、今でも職種間で理解し合えていないと感じるシーンはきっとあるはず。だからこそ、チーム医療の重要性をもっと伝えたいです

「医師や看護師にとっても、薬剤師は "絶対的な薬の守り人"でなければならない

薬剤師は患者さんにとって薬のスペシャリストであることはもちろんですが、医師や看護師にとってはどのような存在であるべきだと考えていますか?

2010年に今後のあるべき医療の枠組みとして、『チーム医療』が国策で掲げられました。これは"各医療職の高い専門性を連携し再統合してより質の高い医療を実現しましょう"という制度。薬剤師の対物業務から対人業務への転換、その後の全病棟薬剤師配置を診療報酬として評価する『病棟薬剤業務実施加算』。私たち病院薬剤師が、はじめてチーム医療の一員として認められた歴史的瞬間です

今まで私たち薬剤師は裁判で訴えられることもなく、したがって裁判の場で責任を取ることもなかったわけですが、薬剤師を取り巻く背景が急激にかわっているのは確かです。同時に医師や看護師の立場からみると、これまで単独で薬の責任を負わざるを得なかった状況から、「チーム医療における責任体制」へとリスクを共有できるようになった大きな転機ともいえます

医師は外来で多忙のなか病棟に呼ばれたり、院内の雑務に急かされたりして、いつ大きなインシデントの落とし穴に落ちるかわかりません。看護師も一緒で、看護師は医療の最終行為者になることが多く、ものすごいリスクを負っているんです。ですから薬剤師は、「薬のリスクは自分たちで絶対に防ぐ」という強い気持ちが必要で、医師や看護師にとっても"絶対的な薬の守り人"であるべきだと思っています。

そもそも医療職は、それぞれに法律で役割が決められていますが、薬剤師はほかの医療職とは違って「医師の指示の下」とか「診療の補助」という記載がありません。つまり、薬剤師だけが医師から独立している存在ということ。その意味を考えて、薬剤師の方たちには自分の仕事に誇りを持ってほしいと思っています。

「患者さんのためにできること」を日々模索し続ける

柴田ゆうか先生

病院薬剤師はとくに、医師や看護師とも連携しながら治療に参加していかなければいけませんが、過去のしがらみから業務の中で悩みを抱えたり、葛藤する場面もあると思います。チーム医療のなかで、薬剤師が自分の能力を発揮していくコツはありますか?

ドラマのセリフにもありましたが、「医師に処方提案してもどうせ聞いてもらえない」と思っている薬剤師は少なくないと思います。興味深いことに私の病院では、新人薬剤師と専門認定薬剤師だったら、処方提案の受け入れ率は専門認定薬剤師の方が低いんです。

なぜなら新人薬剤師は、明らかな確証があるときだけ提案するのに対して、専門認定薬剤師は議論を恐れずにどんどん提案するから。結果として提案の受け入れ率はそんなによくない。でも、そういう経験のなかで薬剤師レベルが果てしなくあがっていくし、ディスカッションしている医師もとても楽しそうなんです。経験からスキルは磨かれていくので、「聞いてもらえない」のを恐れるのではなく、患者さんのために必死に薬の勉強をしてどんどん提案していく姿勢はとても大切だと思います。

新人薬剤師も、朝病院に来て一番に自分の気になっている患者さんのカルテを確認して安心したり心配したりしているんですよね。それは前日に処方提案した薬の影響が気になるからで、自分の仕事とその結果に責任を感じているんだなって思います。そうやって「患者さんのためにできることを自分にできる範囲でやるというのが「仕事に責任をもつ」ということだと思います。

病院薬剤師を検討する方のなかには、「忙しいなかに自分も入っていけるのか」「自分に務まるのか」と敷居を感じていらっしゃる方もいると思います。最後に、柴田さんからアドバイスがあればお聞かせください。

そうですね。私もすごく落ち込んで、頭から布団をかぶってふさぎ込むような失敗をたくさんしてきました(笑)。でも具体的なことは思い出せないんです。きっとそれって、人はひどく落ち込んでも忘れるようにできている......ということだと思います。恥ずかしい過去は忘れて、やり直せるように人ってできてる。あまり敏感に反応してしまうとストレスで続かないし、努力してもどうにもならないこともあるし。

だから『アンサング・シンデレラ』のくるみちゃんみたいに、「ちょっと体験に来ました、嫌になったら辞めます」って軽い気持ちからのスタートでもいいんです。働いているうちに、急に使命感が湧いて続けられることもあるでしょう。小野塚くんみたいに、「病院薬剤師なんて必死で面倒くせえ」なんて斜に構えていたけど、急に薬剤師としての役割を自覚させられるのでもいいと思います。

私もそうですけど、最初から高い志を持っていなくても、目の前に患者さんがいることでなんとかしたいという気持ちが自然とわいてくる。だから若手の薬剤師さんには、気負うことなく、伸びやかに働いてほしいと思っていて。

働くことって、辛いことでも我慢することでもなく、「喜び」だと思うんです。私たちは薬という分野で、患者さんの役に立つことができる。そのことを誇りに思って、目の前の患者さんのためにできる限りのことを尽くしてほしいです。

まとめ

薬剤師の仕事で大切なのは、「薬剤師である前によき人であること」、そして「患者さまのためにできることを考え提案し続けていくこと」。とてもシンプルなようで、実際に業務を行うなかで見失ってしまうことは、薬剤師に限らず様々な職種の方が経験しているのではないでしょうか。

次回、第3回目の連載では、薬剤師としての業務をこなしながらも、臨床薬学研究も並行して続けられる柴田さんに「臨床で磨く薬剤師のキャリア」について伺います。

▼▼ 柴田ゆうかさんのインタビュー一覧


第1回 病院薬剤師の仕事とキャリア「病院でジェネラリストの基盤を確立する」
第2回 病院薬剤師とチーム医療「知識よりも大切なこと」
第3回 臨床で磨く病院薬剤師のキャリア「私たちが薬物療法を変えていく」
柴田ゆうかさんの写真

    柴田ゆうか(しばた・ゆうか)さん

広島大学病院医療安全管理部。大学卒業後、製薬会社、保険薬局勤務を経て病院に勤務。薬剤師業務の傍、患者志向で基礎および臨床薬学研究も続ける。2008年度ファイザーヘルスリサーチ財団若手研究者助成、2010年度日本薬学会課題論文優秀賞、2011年度、2012年度厚生労働省チーム医療実証事業助成、2019年度日本医療薬学会Postdoctoral Award、2019年度日本薬学会中国四国支部奨励賞受賞。

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記事掲載日: 2020/11/27

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