業界動向
  • 公開日:2019.05.09

『フリー薬剤師本舗』を通して薬剤師業界の価値を高めたい。溝呂木俊介さんインタビュー【薬剤師+起業】

『フリー薬剤師本舗』を通して薬剤師業界の価値を高めたい。溝呂木俊介さんインタビュー【薬剤師+起業】

薬剤師としてのお仕事以外でも活躍される方にお話しをお聞きする、インタビュー連載企画。第4弾となる今回は、薬剤師の仕事をしながらフリー薬剤師本舗の代表を務める【溝呂木俊介さん】にお聞きしました。

やりたいことを叶えるために。ドラッグストアから調剤薬局へ

薬剤師の仕事に興味を持ち、薬学部に進学を決めたのはいつからでしょうか?

高校では理系を選択していたので、はじめは医学部を目指していました。しかし、仲間と勉強するうちに、「患者さまとの最後の接点は『薬』。そこに関わる道も面白そう」と興味が湧いたんです。身近な人を守ることができる薬に魅力を感じて、薬学部への進学を志しました。

友人たちは医師を志し医学部への進学を選びましたが、私は医学部に強い思い入れがあったわけではなかったので、周りと違う選択に迷いはありませんでした。

進路を選択する際は迷わずに決断されたんですね。ファーストキャリアでドラッグストアを選び、その後どういった経緯で調剤薬局に転職されたのでしょうか?

地域に密着している仕事に興味があったので、ファーストキャリアにはドラッグストアへの就職を決めました。最初の1年半は、調剤がなく物販のみの店舗に配属。当時は登録販売者制度がなかったので、薬剤師の先輩がたくさんいましたね。

働いている中で、お客さまから薬の相談をいただくことがありました。この時に疑問に思ったのが、「なぜ、ドラッグストアで聞くんだろう?調剤薬局や調剤併設店の薬剤師のほうが詳しく教えてくれるだろうに...」。ドラッグストアで働くには薬剤師の資格が必須ではないため、薬について詳しくないスタッフもいらっしゃいますから。

また、プライベートで友達や家族に薬について聞かれた時に、うまく答えられなかったことにもショックを受けました。「薬剤師なのに、この状況ってどうなんだろう?」と思うように。そこで、まずは調剤ができる店舗に異動しました。

異動先は地域密着型の店舗。『地域一番の店』『お客さま第一』を目指す姿勢に共感して働くことができました。しかし、吸収合併によって、コンプライアンス遵守を第一とする経営方針に変わってしまったんです。「やりたいことと合わない」と思ったのが、転職のきっかけとなりました。

転職先はドラッグストアで探していました。同時に、調剤薬局が何をやっているのか気になっていたので1~2社の選考も受けてみました。すると、とある社から内定をいただきまして、これもご縁だと思い調剤薬局で働くことにしたんです。

調剤薬局では管理薬剤師と店長に。NPO法人など個人としての活動の幅も広げる

ろくろを回す溝呂木俊介さん

ドラッグストアからの転職後は7年間調剤薬局で働かれていますね。ドラッグストアの時に比べてモチベーションの変化はありましたか?

ドラッグストアで働いていた時は、目の前のお客さまや後輩に対して熱量を注いでいました。そんな私が、調剤薬局で働くことになってから、「転職するからには店長になりたい!」と思うようになったのが大きな変化だったと思います。

転職後は中途の薬剤師として働くことになります。その時点で、すでに活躍されている薬剤師の方には勝てないんですよね。そこで考えたのは、まずは薬剤師として認めてもらい、店長を任せていただけるようになろう。そして、将来的に会社に好影響を与える存在になろうということ。そうすれば、会社の一員だと胸を張れると考えていました。だからこそ、管理薬剤師や店長を経験したいと考えたんです。

転職をした時にすでに管理薬剤師や店長をやりたいという思いがあったのですね。実際に経験されてどうでしたか?

新しいことにドンドン挑戦していたので、部下は大変だったと思いますよ。一人ひとりを丁寧に見ることが出来なかった時期もありましたしね。それでも、何かあった時は、どんな仕事も途中でやめて必ず話を聞くことを徹底していました。

挑戦した取り組みは様々です。たとえば、薬局の近くにあったマンションのモデルルームでセミナーをしたり、街のイベントとコラボしたりしました。ほかにも、美容師の方と一緒に、髪と健康について考えるセミナーも開きましたね。そこでは、美容師の方に髪についてお話しいただき、薬剤師からは髪に必要な栄養や食事についてお話しするといったような内容でした。

「何のためにやっているのか」と周りから言われることもありましたね。でも、転職先の条件に、『店長なれたら新しいチャレンジができる会社』と決めていたんです。もちろん、通常の業務をこなした上で、自由に取り組めたと思います。

薬局では様々な取り組みをされていたんですね。さらにご自身でその他の活動もされていたそうですが、どのように両立されていたのでしょうか?

NPO法人に参画したり、地域の見守りネットワーク事業『みま~もすえよし』の副代表を務めたりしていました。平日の夜間や休日などに活動していましたね。店舗のシフトに都合がつけば、平日の昼間を休みにして活動するようにしていました。

薬局や薬剤師のためにもなると考えていたので、仕事もプライベートも区別することなく取り組んでいました。活動を通して出会った人は薬局に来てくれますし、取材などで露出が増えてイメージアップにも繋がったのは嬉しかったですね。

個人としても、活動を通して得た学びはたくさんあります。特に、普段の関わりの中では生まれない気づきがあったことが一番大きかったです。今後もいろいろな人との関わりを大切にしていきたいと思っています。

『フリー薬剤師本舗』設立。今後は個人と薬剤師業界、両方の価値を高めていきたい

事業を語る溝呂木俊介さん

2018年には『フリー薬剤師本舗』を設立されていますね。具体的にどのような事業を行っているのでしょうか?

1つ目は予防医学に関するセミナーやコンサルティングです。予防医学の相談を受けたり、PR商品とタアップしたセミナーを開催したりしています。たとえば、乳酸菌飲料であれば、「腸内環境を整えることがどれだけ大切なのか」。予防医学の観点から説明をするといった内容でお話をしています。

以前、『理想の薬局を考える会』という集まりにおいて、健康とはどういうことなのかを考えるワークショップを経験しました。そこで予防医学の師匠に出会えたことが、今に繋がっていると思います。

2つ目は、薬局と薬剤師が業務委託を結ぶ際、契約の斡旋や仲介を行う、『フリー薬剤師事業』です。対象となるのは、薬剤師の資格を持つものの、資格を必要としない健康系のビジネスやコンサルタントなどの仕事をしている方。ほかには、保険薬剤師以外の仕事をしたいため、単発で薬局などで働きたいと考えている方。彼らに対して、業務委託で働ける薬局をご紹介しています。

最近では、同様の事業を手がけたいと考える薬剤師に、業務委託を受け入れている薬局をご紹介することもあります。既に何かしらの事業を手がけている方にご案内することが多いですね。

以前に出会った方がきっかけで現在予防医学をビジネスにされているんですね。2018年に起業に踏み切ったきっかけは何だったのでしょうか?

薬局でも自由に取り組んでいたのですが、会社で働いているとできないことにもチャレンジしたいと思うようになったんです。会社にいる以上、意思決定は会社に委ねることになりますよね。やりたくてもやれないことが増えたので、「だったら、自分で起業しよう!」と思い会社を卒業することにしたんです。

起業を躊躇うことはありませんでした。「やりたくてやっている」「好きでやっている」ことが何よりの原動力なので。新しいことも大好きですし、興味の幅もとても広いので、むしろワクワクしたくらいです。周りから見たら、いつも何かやっているなと思われているかもしれませんね。

ラジオのパーソナリティーやボードゲームの活動といった活動までされていますよね!さらにチャレンジを続けていく上で、今後のビジョンについてはどのように考えていますか?

個人としては、薬剤師としての影響力を高めていきたいと考えています。

将来的には処方箋が電子化されて、どこの薬局に処方箋を飛ばしても良くなったり薬局に行かなくてもメールオーダーで薬を貰えるようになったりするかもしれません。誰にでも薬を頼めるようになったら、薬局の役割・機能・立地だけでなく、人との繋がりが選択の基準となるでしょう。

そうした時でも選ばれるよう、SNSや地域の中の繋がりを深めていきたいと考えています。たとえば、予防医学の領域であれば、今の私がサポートできるのは年間約100人です。100人にサービスを提供するには、約1万人に伝えるべきかと。約1万人に伝えれば、100人ぐらいは共感して任せてくれるだろうと考えていますね。

薬剤師全体としては、恩返しの意味も含めて業界をもっと盛り上げたいです。そして、薬剤師の役割や社会的意義を高めていきたいと考えています。

薬局の外に出て、街の人たちに頼ってもらって、活躍できる場があると気づいたからこそ言えるのですが、薬剤師ってどんな仕事をしているのか世間に知られていないんですよね。「薬をもらう場所で働いている人」といったイメージを抱いている方が少なくないというのが現状です。

薬剤師について、一般の方に知ってもらう活動をしていきたいです。そして予防医学に興味がある薬剤師の方がいれば、ぜひ一緒に業界を盛り上げていきましょう。

薬剤師の価値はさらに広がっていく。今後の自分のキャリアを前向きに考えて欲しい

最後に、今後のキャリアを悩む薬剤師に向けて一言お願いします。

今はまだ、素晴らしい活動をしている方がいても、世間からすると知られていないのが現状です。こうした現状を変えるために、薬剤師の働き方や意義などが定義されるなど、業界そのものが大きく変化しています。そういった変化の中で働くことは大変だと思いますが、ぜひ薬剤師業界をつくり変える楽しさを知って欲しいと思います。

また、6年制で学んだ考え方やエッセンスは積極的に発信して欲しいです。新入社員も知識はあるので、服薬指導などに挑戦していくと良いと思います。また、処方箋を突き詰めるのも良いですが、あなたが考えている以上に薬剤師の価値は広がっていくということを覚えておいてください。

「このままでいいのかな...」と悩む若手薬剤師の方も多くいらっしゃると思います。しかし、今の状態だけを見て、薬局や薬剤師に魅力がないと思わないで欲しいですね。また、やりたいことがわからないといった悩みを抱えているならば、自分の人生を振り返ってみる時間を持つことも大切です。それでも見つからなければ周りの人に相談してくださいね。

  • 溝呂木俊介(みぞろぎしゅんすけ)さん

『フリー薬剤師本舗』代表。大学卒業後、ドラッグストアにて3年勤務し、転職後は調剤薬局にて管理薬剤師や店長の経験を積みながら、NPO法人のメンバーや『みま~もすえよし』の副代表を兼任。 2018年にフリー薬剤師本舗を設立。契約薬剤師事業、セミナーやコンサルティングといった事業を行う。

記事掲載日: 2019/05/09

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