業界動向
  • 公開日:2023.01.11

【薬剤師向け】新型コロナの中和抗体薬「エバシェルド筋注セット(チキサゲビマブ及びシルガビマブ)」とは?

【薬剤師向け】新型コロナの中和抗体薬「エバシェルド筋注セット(チキサゲビマブ及びシルガビマブ)」とは?

エバシェルド筋注セット(以下、エバシェルド)は、新型コロナウイルス感染症に用いられる抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体で、2022年8月30日に特例承認されました。同薬は、新型コロナウイルス感染症の治療と発症抑制の2つの効能効果で承認を取得しています。とくに曝露前の発症抑制を効能効果とする医薬品は国内初であり、ワクチンを接種できない患者さまに安定した投与機会を提供するため、現時点では発症抑制の目的に限って使用されています。

この記事では、エバシェルドの概要や効能効果、対象者、投与方法、注意点について解説していきます。国内における新型コロナウイルス感染状況や治療薬についても、あわせてみていきましょう。

国内における新型コロナウイルス感染状況や治療薬

国内における新型コロナウイルス感染状況や治療薬

新型コロナウイルス感染症の拡大が続くなかで、収束までにはさらに大規模な流行が生じることも懸念されています。しかし、7回の感染拡大を経るなかで、我が国全体としての対応力は強化されてきました。また、諸外国では社会・経済活動を正常にしようとする動きが進んでいることもあり、高齢者や重症化リスクのある方に対する保健医療の重点化と、患者さまの療養期間や全数届出の見直しを行うなど、withコロナに向けたさまざまな取り組みが行われています。

新型コロナウイルス感染症のワクチン接種も着実に進められており、同感染症の重症化リスクも大きく低減しました。さらに、4回目のワクチン接種が2022年5月25日から、オミクロン株に対応した2価ワクチンの接種が9月20日から始まるなど、さらなる予防効果が期待されています。

治療薬についても、抗ウイルス薬や中和抗体薬、抗炎症薬など、使用できる薬剤が増えています。国内においては2022年11月時点で、レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレルビル/リトナビル、カシリビマブ(遺伝子組換え)/イムデビマブ(遺伝子組換え)、ソトロビマブ(遺伝子組換え)、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)、トシリズマブ(遺伝子組換え)、バリシチニブ、デキサメタゾン、エンシトレルビル フマル酸の10種類が、治療の適応を有しています。

エバシェルド(チキサゲビマブ及びシルガビマブ)とは?

エバシェルド(チキサゲビマブ及びシルガビマブ)とは?

エバシェルド(成分名:チキサゲビマブ/シルガビマブ)は、新型コロナウイルスによる感染症及び発症抑制を目的とする薬剤として、令和4年8月30日に特例承認された中和抗体薬です。中和抗体薬は、ウイルスの表面にあるスパイクタンパク質に抗体が結合して、細胞に付着するのを防ぐことで効果を発揮します。

エバシェルドには、新型コロナウイルス感染症から回復した患者さまより提供されたB細胞に由来する2種類の長時間作用型抗体(LAAB)が用いられており、単回の投与で約6か月にわたり、感染の予防に有効であることが示されています。

ただし、現状では安定的な供給が難しいことから一般流通は行われず、厚生労働省が所有したうえで、対象患者がいる医療機関からの依頼により配分されます(医療機関においても一定の要件を満たす必要があります)。また、2022年11月現在では供給量に限りがあること、治療薬についてはほかの選択肢があることなどから、ワクチンを接種できない患者さまに安定した投与機会を提供するため、発症抑制目的での投与に限り使用が可能です。

エバシェルド(チキサゲビマブ及びシルガビマブ)の効能効果は?

エバシェルド(チキサゲビマブ及びシルガビマブ)の効能効果は?

エバシェルドに期待される効能効果や臨床報告は、以下の通りです。

効能効果

エバシェルドの効能効果は、「SARS-CoV-2による感染症及びその発症抑制」で、治療と発症抑制の2つの目的での投与が承認されています。このうち、曝露前の発症抑制目的での投与を対象とした医薬品は、国内では初めての承認となっています。

臨床報告

軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症の外来患者910人(重症化リスク因子の有無を問わない)を対象としたランダム化比較試験では、発症から7日以内にチキサゲビマブ/シルガビマブの単回投与を行った結果、プラセボの投与と比較して、新型コロナウイルス感染症の重症化または全死亡のリスクが50.5%減少しました。

また、新型コロナウイルスワクチンの免疫獲得が不十分な方、ワクチン接種が推奨されない方、感染リスクが高い状況にある方5,197人(解析人数5,172人)を対象としたランダム化比較試験では、同ウイルス感染症の発症リスクが、プラセボの投与群(1,731人中17人)と比べて、チキサゲビマブ/シルガビマブの単回投与群(3,441人中8人)で76.7%減少しました。

なお、新型コロナウイルス感染者と接触の可能性があり、同感染症の発症リスクがある1,121人を対象としたランダム化比較試験では、チキサゲビマブ/シルガビマブの感染予防効果は示されませんでした。同研究で新型コロナウイルス感染症を発症したのは、キサゲビマブ/シルガビマブの単回投与群で749人中23人、プラセボ投与群で372人中17人でした。

エバシェルドの「投与対象者」と「投与方法」

エバシェルドの「投与対象者」と「投与方法」

エバシェルドの投与対象者と投与方法は、以下の通りです。

投与対象者

投与対象者は、エバシェルドの添付文書において以下のように記載されています。なお、前提としてエバシェルドの中和活性が低い新型コロナウイルス変異株に対しては有効性が期待できない可能性があり、最新の流行株の情報をふまえて検討することとされています。

<発症後に使用する場合>

臨床試験での結果をふまえ、新型コロナウイルス感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者さまに投与する

※ほかの抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体が投与された高流量酸素や人工呼吸管理を必要とする患者さまでは症状が悪化したという報告があります
※重症化リスク因子は、『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き』| 厚生労働省などで例示されているものが想定されています

<曝露前の発症抑制に使用する場合>

(1) 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が推奨されない患者さま、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種で十分な免疫が獲得できない可能性がある患者さまに投与する

▼対象範囲
  • 抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者
  • B細胞枯渇療法(リツキシマブ等)を受けてから1年以内の患者
  • ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者
  • キメラ抗原受容体T細胞レシピエント
  • 慢性移植片対宿主病を患っている、又は別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント
  • 積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者
  • 肺移植レシピエント
  • 固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから1年以内の患者
  • 急性拒絶反応でT細胞又はB細胞枯渇剤による治療を最近受けた固形臓器移植レシピエント
  • CD4Tリンパ球細胞数が50cells/μL未満の未治療のHIV患者

  • 引用:『COVID-19 に対する薬物治療の考え方第14.1版』 | 日本感染症学会

    (2) 感染症患者の同居家族または共同生活者など濃厚接触者でない患者さまに投与する

    投与方法(用法・用量)

    <発症後に使用する場合>

    通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)及びシルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射する。

    <曝露前の発症抑制に使用する場合>

    通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)及びシルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ150mgを併用により筋肉内注射する。なお、SARS-CoV-2変異株の流行状況などに応じて、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)及びシルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射することもできる。

    引用:『COVID-19 に対する薬物治療の考え方第14.1版』| 日本感染症学会

    その他の注意点

    <共通>

    (1) エバシェルドの有効性が減弱する可能性のあるオミクロン株(BA.4系統及びBA.5系統)は、ほかの治療薬が使用できない場合に投与の検討をします。また、エバシェルドは曝露前の発症抑制目的での投与は国内初の承認であり、同様の対象者に使用できるほかの薬剤はありません。投与の際は慎重に投与を検討しましょう。

    (2) エバシェルドの添加物「ポリソルベート80」は、「ポリエチレングリコール(PEG)」と構造が類似しています。そのためポリエチレングリコール含有の新型コロナウイルス感染症のワクチンとの交差過敏症のリスクが指摘されているため注意が必要です。

    <発症後に使用する場合>

    エバシェルドを治療目的で用いる際には、新型コロナウイルス感染症の症状があらわれてから速やかに投与する必要があります。症状発現から8日目以降に投与開始した患者さまに対する有効性については、効果を裏付ける研究データが報告されていません。

    <曝露前の発症抑制に使用する場合>

    エバシェルドはワクチンに置き換わるものではありません。新型コロナウイルス感染症の予防はワクチンによる予防が基本とされています。

    今回の特例承認で何が変わる?

    今回の特例承認で何が変わる?

    エバシェルドは、新型コロナウイルス感染症の治療薬としてだけでなく、曝露前の発症抑制に適応を有する医薬品として国内で初めて承認され注目を集めています。また、手技料は患者さまが負担する必要があるものの、薬剤費については国が負担し、自己負担額を3,100円以下にするなど、エバシェルドの投与が過度な負担とならない仕組みも構築されています。

    経済的負担は軽減しつつ、ワクチン接種では十分な免疫獲得が期待できない方やワクチン接種が推奨されない方に対して、発症リスクの低下や重症化を防ぐ効果が期待されているのです。

    新たな薬剤の知識を増やし、患者さまに最適な医療の提供を

    エバシェルドは、曝露前の新型コロナウイルス感染症の発症抑制に適応を有する国内初の医薬品です。ただ、薬剤供給量が限られていることから、現状では使用される施設は限られています。しかし、ワクチン接種では十分な免疫の獲得が期待されない方において、新たな選択肢として検討できるでしょう。

    新型コロナウイルス感染症の流行から数年、続々と新しい医薬品が登場しています。薬剤師として新しい情報へのアンテナを張り、患者さまに適切な医療の提供ができるよう知識をつけていきましょう

    青島 周一さんの写真

      監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん

    2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。

    主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学: 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』

    記事掲載日: 2023/01/11

    あわせて読まれている記事