- 公開日:2023.01.25
かかりつけ薬剤師の勧め方!患者さまへの声かけ、同意の取り方【ぺんぎん薬剤師解説】
患者のための薬局ビジョンの中で「かかりつけ薬剤師・薬局」が明記され、調剤報酬の中では「かかりつけ薬剤師指導料」「かかりつけ薬剤師包括管理料」として評価されています。しかし、かかりつけ薬剤師の認知は低く、実際に利用している患者さまも少ない状況です。
その背景には、薬局でかかりつけ薬剤師を十分に勧められていないことがあげられます。かかりつけ薬剤師の必要性については多くの方が理解していても、「どのように勧めればいいのかわからない」という方は少なくないでしょう。
そこで今回は、患者さまのかかりつけ薬剤師になる同意をいただくためにはどのようにすればいいのか、ぺんぎん薬剤師が経験をもとに解説します。患者さま・薬剤師にとってプラスになるかかりつけ薬剤師を目指しましょう。
「かかりつけ薬剤師」とは?
「かかりつけ薬剤師」と似た言葉に「かかりつけ薬局」という言葉があります。かかりつけ薬局とは、その患者さまにとって"行きつけの薬局"です。では、かかりつけ薬剤師はというと、かかりつけ薬局のなかでいつも薬の相談をする薬剤師を指します。いわばその患者さまにとって専属の薬剤師がかかりつけ薬剤師です。
相談を重ねていくことで、その患者さまの健康情報を把握できるだけでなく、しっかりとした信頼関係を築けます。患者さま本位の医薬分業を進めるため、かかりつけ薬剤師は2016年の診療報酬改定で「かかりつけ薬剤師指導料」と「かかりつけ薬剤師包括管理料」として評価されるようになりました。
実際の普及率は?
一般社団法人 日本保険薬局協会・医療制度検討委員会の『調剤報酬等に係る届出の調査報告書』(2022年8月)によると、かかりつけ薬剤師の施設基準の届出を行っている薬局は2022年7月時点で57.9%になっており、政府目標値の60%には達してはいないものの半数以上の薬局にかかりつけ薬剤師が所属しています。
では、かかりつけ薬剤師の存在は患者さまにどの程度浸透しているのでしょうか?内閣府が実施した『薬局の利用に関する世論調査』(2020年10月)によると、かかりつけ薬剤師・薬局を決めていると回答した患者さまは全体の7.6%でした。
少し古いデータになりますが、平成30年度診療報酬改定の説明資料によると、平成29年3月の「かかりつけ薬剤師指導料」の算定件数は全処方箋枚数7,629万枚の1.28%とかなり低くなっています。これらの数字を整理すると、薬局側の準備も十分ではないにしろ、それ以上に、患者さまに対するかかりつけ薬剤師の周知・理解が進んでいないことが見えてくるでしょう。
かかりつけ薬剤師になるためには?
かかりつけ薬剤師になるためには施設基準を満たす必要があるほか、薬剤師個人と薬局に求められる要件があります。かかりつけ薬剤師として活動するためには、「保険薬剤師として3年以上の薬局勤務経験があること」、「当該保険薬局に継続して1年以上在籍していること」、「医療に係る地域活動の取組に参画していること」、「薬剤師認定制度認証機構が認証している研修認定制度等の研修認定を取得」などを満たし、施設基準の届出を行う必要があります。
『かかりつけ薬剤師』って何をするの?仕事内容や要件、求められる役割を解説【薬剤師の資格入門】
さらに、「かかりつけ薬剤師指導料等」を算定するためには、対象となる患者さまの同意を得る必要があります。具体的には、「かかりつけ薬剤師の業務内容」、「かかりつけ薬剤師を持つことの意義、役割等」、「かかりつけ薬剤師指導料の費用」、「当該指導料を算定しようとする薬剤師が、当該患者がかかりつけ薬剤師を必要とすると判断した理由」について説明を行ったうえで、患者さまに同意書へ署名をしてもらいます。
ところが、この"同意の取得"がかかりつけ薬剤師を勧める障壁となっています。
かかりつけ薬剤師の勧め方!3つのポイント
POINT1.かかりつけ薬剤師を本当に必要とする方への声かけを!
かかりつけ薬剤師になるためには同意を取得することが必須ですが、これに抵抗感をもつ薬剤師は少なくありません。その理由には、「費用が発生すること」に加えて「かかりつけ薬剤師が行うサービスが目に見えるものではない」ため、患者さんに納得してもらいにくい印象があるのでしょう。
抵抗感を乗り越えて声かけを重ねていけば、同意を取得できることもあります。しかし、それでは薬剤師側が疲弊してしまいますし、本当に必要とする人に対して行っているとは言えません。ですから、かかりつけ薬剤師を必要としている人に絞って声かけをすることが大切です。
POINT2.かかりつけ指導料に相当する業務を行ったタイミングが声かけのチャンス
先ほど紹介した内閣府実施の『薬局の利用に関する世論調査』(2020年10月)の中に参考になるデータがあります。「かかりつけ薬局を決めているのにかかりつけ薬剤師は決めていない人」(358人)にその理由を聞いたところ、一番多かったのが「かかりつけ薬剤師を決める利点がわからないため」(24.6%)、次が「かかりつけにしたい薬剤師が見つかっていないため」(22.1%)でした。
逆に言えば、かかりつけ薬剤師を決めるメリットをしっかり理解してもらったうえで、「この薬剤師に任せよう」と思ってもらえればいいということです。メリットを知ってもらうためには、実際に体験してもらうのが一番です。つまり、かかりつけ薬剤師指導料に相当する業務を行ったときがチャンスです。
たとえば、かかりつけ薬剤師指導料で求められている服薬指導等には「24時間相談に応じる体制」、「ほかの保険薬局等での調剤情報の入手」、「調剤後フォローの医師との共有ならびに処方提案」、「いわゆるブラウンバッグの利用や患家訪問による服用薬整理等」、「血液・生化学検査結果を元にした服薬指導」があります。これらを行う必要があると判断した・行ったときがかかりつけ薬剤師の声かけをするチャンスです。
実際に、上にあげた『薬局の利用に関する世論調査』では、「かかりつけ薬剤師・薬局を決めている人」(147人)に決めていてよかったことを聞いたところ、一番多かったのが「生活状況や習慣などを理解してくれたうえで、薬についての説明などをしてくれたこと」(52.4%)、次が「服用している全ての薬の飲み合わせについて確認してくれたこと」(46.3%)となっています。
POINT3.大切なのは患者さまとの信頼関係
最後にもう一つ決め手になるのが、患者さまとの距離感です。「かかりつけ薬剤師」として服薬管理を任せてもらうためには、患者さまとの信頼関係が構築できているかが大切です。薬局外で出会ったときに話しかけることができる、薬歴を見なくとも処方内容や併用薬、既往歴、家族情報を思い浮かべることができるなど当てはまる方がいれば、その患者さまは「かかりつけ薬剤師」を提案すべき候補と考えて良いでしょう。
調剤薬局で薬剤師にされて嬉しかったことは?【患者50人にアンケート】
「かかりつけ薬剤師」の先にあるもの
誰かのかかりつけ薬剤師になるというのは、それだけ大きな責任を伴います。算定要件として必要とされることを行うだけでなく、患者さまが負担するコストに見合ったものにできるよう努力を重ねていかなければなりません。
しかしその結果、患者さまとの信頼関係を深められれば、それが薬剤師にとってのやりがいにつながります。努力を続けていくことで、かかりつけ薬剤師の対象となる患者さまは増え、薬剤師としても成長していけるはずです。
まとめ
かかりつけ薬剤師指導料・かかりつけ薬剤師包括管理料は、薬学管理料として評価されているだけでなく、その算定実績は地域支援体制加算の施設基準の一つになっています。また、『患者のための薬局ビジョン』においても患者本位の医薬分業のためにかかりつけ薬剤師・薬局を目指すことが必要とされています。
つまり、薬剤師としてキャリアを重ねていくうえで、かかりつけ薬剤師を経験し、さらに多くの患者さまを担当できるようになることが重要になっていきます。
もし、まだかかりつけ薬剤師として「患者さまを担当できていない」、「できているけど少ない」のであれば、まずは声かけができそうな患者さまを見極め、適切に声かけを行っていきましょう。そして、一人でも多く担当できるよう、かかりつけ薬剤師として努力を続けていきましょう。
調剤報酬等に係る届出の調査報告書(2022年8月)|一般社団法人 日本保険薬局協会 医療制度検討委員会
「薬局の利用に関する世論調査」(2020年10月)|内閣府
平成30年度診療報酬改定の概要 調剤(平成30年3月5日版)|厚生労働省保険局医療課
執筆者:ぺんぎん薬剤師 さん
4年制薬学部を卒業後、大学院の研究で特許を取得。その経験を患者さんの身近な場所で活かしたいと考え薬局に就職。薬局では通常の薬局業務に加え、学会発表、研修講師、市民講座など、様々な形で「伝えること」を経験。自分の得た知識を文章にし、伝えていくことの難しさと楽しさを学ぶ。 薬局での仕事が忙しくなる中、後輩に教える時間がなくなり、伝える場としてブログ「薬剤師の脳みそ」の運営を開始。その後はX(旧Twitter)、Facebook、Instagramなどの各種SNSも開始し、現在では複数のメディアで連載を行っています。