- 公開日:2022.12.26
薬剤師が将来なくなる?その理由とこれから必要とされる薬剤師の姿【転職コンサルタントに聞く】
薬剤師として働くうえで、気になるのが「将来性」ではないでしょうか。近年では、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)技術の急速な発達もあり、「薬剤師の仕事に影響が出るのではないか...」と心配する声も聞かれます。
この記事では、「薬剤師が将来なくなるのではないか」と言われる理由や期待されている業務について、詳しく解説していきます。また、転職コンサルタントに聞いた「企業から求められている薬剤師像」についても、あわせてみていきましょう。
「薬剤師は将来なくなる?」不安の原因は
薬剤師になるためには6年制の薬学部を卒業し、国家試験に合格する必要があり、難易度の高い職業として知られています。専門性の高い職業でありながら、「薬剤師が将来なくなるのではないか...」と不安を抱く理由にはどのようなものがあるのでしょうか。
薬剤師は飽和状態に向かっている
薬剤師の将来性に危機感を覚えるのには、近年の薬剤師数の推移が関連しています。令和4年3月17日に公表された『令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』によると、令和2年12月31日時点での薬剤師数は32万1982人。前回(平成30年)調査と比較すると1万693人(3.4%)増加したことが報告されています。
以前から薬剤師の数は年々増加傾向にあり、「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」が2021年6月30日に公開した資料では、2030年頃までは薬剤師の需要と供給のバランスは釣り合うものの、将来的には薬剤師の数が過剰となることが指摘されています。
また、同時に薬剤師業務の充実と資質向上に向けた取り組みが行われなければ需要が減少することも予想されており、薬剤師の業務内容の見直しが重要な課題です。
ICTやAI技術の発達による薬剤師業務の減少
薬剤師の将来性が懸念される理由に、ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)技術の急速な発達があります。薬局におけるロボットの活用が進み、調剤過誤や患者さまの待ち時間の短縮につながるメリットがある一方で、薬剤師業務の減少が懸念されているのです。
さらに近年ではモバイル端末(スマートフォンやタブレットなど)やクラウド技術の普及により、オンライン服薬指導やオンライン資格確認が導入されるなど、薬局のDX化(デジタルトランスフォーメーション)も急速に進められています。こうした背景も後押しし、「将来、薬剤師の仕事がなくなるのでは...」と危機感を感じている方は少なくありません。
2020年の厚労省統計、薬剤師数は32万人に増加|DIオンライン
時代の変化により求められる役割が変化
薬剤師数の増加やAIの進出により、薬剤師業務の減少を懸念されている方も多いかもしれません。しかし、薬剤師には今後「対人業務」を中心とした薬剤師にしかできない業務への転換が求められており、薬剤師のさらなる活躍が期待されています。こうしたことからも、「薬剤師が将来なくなる」というのは考えにくいでしょう。
とくに過去に例をみない高齢化問題に直面している日本では、持続可能な医療・介護制度をつくるための仕組み「地域包括ケアシステム」の構築を急務としています。各分野で薬剤に関する高い専門性をもつ薬剤師は、この仕組みを維持するため患者さまの相談窓口としての役割を担っていく必要があるのです。
また、薬剤師は増加傾向にあるものの、病院薬剤師をはじめとする地域偏在の問題は解消されていません。薬剤師が不足している地域は、まだまだあるのが現状です。
「地域包括ケアシステム」における薬局と薬剤師の役割は?~課題と解決事例まとめ~
今後の薬剤師に期待されている業務とは
ここでは、今後の薬剤師に期待されている業務について、具体例をあげながら解説していきます。
かかりつけ業務
2015年10月に厚生労働省が公表した「患者のための薬局ビジョン」によって、対物業務(薬中心の業務)から対人業務(患者中心の業務)への転換が求められるようになりました。その中でも重要な役割に位置付けられているのが、かかりつけ業務です。かかりつけ薬剤師には、服薬情報の一元的・継続的把握とそれに基づく薬学的管理・指導、24時間対応・在宅対応および医療機関等との連携などの役割が求められています。
在宅医療
少子高齢化が顕著な日本において、在宅医療のニーズは今後も増え続けることが予想されています。薬剤師には、患者宅への医薬品・衛生材料の供給だけでなく、薬歴管理や服薬指導、副作用等のモニタリング、在宅担当医への処方支援、残薬管理などの役割を担う必要があります。
セルフメディケーションの推進
急速な高齢化や生活習慣病の増加などを背景に、自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てをする「セルフメディケーション」が注目されています。調剤薬局やドラッグストアで働く薬剤師には、身近な薬の専門家としてとしての役割が期待されています。
セルフメディケーションの時代、薬剤師の仕事や役割はどう変わる?
転職コンサルタントに聞く「企業から求められる薬剤師像」
近年では、薬剤師数の増加やAI技術の進歩、新型コロナウイルスの感染拡大により、薬剤師の転職市場は大きく変化しています。ここでは転職コンサルタントに聞いた「企業から求められている薬剤師像」についてご紹介していきます。
1.「コミュニケーション能力の高い薬剤師」
現在では対物業務から対人業務への転換が求められており、薬剤師資格の有無だけでなく、コミュニケーション能力の高い薬剤師が求められる傾向にあります。調剤経験がなく年齢が高くても、人柄が評価されて採用につながるケースもあるほどです。
2.「かかりつけ業務や在宅業務にも柔軟に取り組める薬剤師」
かかりつけ業務や在宅業務など、これまで以上に薬剤師が担う役割への期待が膨らむなかで、求められている業務に抵抗感なく取り組める薬剤師は企業からも重宝されます。経験があれば尚良いですが、経験がなくてもチャレンジする姿勢や意欲は評価につながりやすいです。また、在宅業務を行うにあたり、車の運転に抵抗がないかどうかも重視されるケースが増えてきました。
3.「キャリアプランが明確な薬剤師」
新型コロナウイルスの感染拡大や薬剤師数の増加により、採用に対して慎重になる企業が増えました。これまでのような経験重視の採用は減り、企業が求める薬剤師像と近いかどうかを判断されます。将来どのような薬剤師になっていきたいかというキャリアプランを明確に持つことが重要となるでしょう
4.「長期的に働ける薬剤師」
どの職場でも長く働ける人材を求めているため、職務経歴や退職理由は注視される傾向にあります。短期離職や職歴が年齢に比べて多い場合は、お断りされるケースも。ただし、複数回の転職経験がある場合でも、年齢と職歴が比例している方や、出産・配偶者の転勤など納得できる退職理由であれば選考に支障をきたすことはほとんどありません。
5.「専門薬剤師などの資格取得に積極的な薬剤師」
認定薬剤師や専門薬剤師などの資格取得が評価につながることもあります。必要な知識を得るために自己研鑽ができる人物かどうかは、採用にあたり重要なポイントです。自身のキャリアプランとあわせて今後取得予定の資格をアピールすることで、自らの目指している薬剤師像をより明確に伝えられるでしょう。
6.「マネジメント経験のある薬剤師」
管理薬剤師や店長、マネージャーなどのマネジメント経験は優遇される傾向にあります。今後コミュニケーションスキルがさらに注目されるようになり、若手薬剤師への教育なども企業にとって重要な課題です。また、経験がなくても意欲があり、上司からの打診に柔軟に対応できる方も好印象を得やすいでしょう。
【基礎編】薬剤師に求められるコミュニケーションスキルとは?
薬剤師として研鑽を積み、市場価値を高めよう
薬剤師が将来なくなるのは考えにくいものの、資格保有者が増えている今、ただ与えられた仕事をこなしていくだけで選ばれる薬剤師になるのは難しいかもしれません。
ICTやAI技術が急速な進歩を遂げるなかで、とくにコミュニケーションやマネジメントといった人間にしかできないスキルが重要視されています。自己研鑽を積み、自らの市場価値を高めて将来的に必要とされる薬剤師を目指しましょう。
ファルマラボ編集部
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