- 公開日:2022.12.19
HIV感染症の新薬!「カボテグラビル」「リルピビリン」を解説
HIV感染症治療における初の持効性注射薬として、2022年6月27日に「カボテグラビル」と「リルピビリン」が発売されました。国内の新規HIV感染者数およびエイズ(AIDS)患者数は減少傾向にありますが、臨床現場では感染の早期発見や薬学的管理などの重要性が増しており、薬剤師の役割にも期待が集まっています。
この記事では、HIVおよびエイズ(AIDS)の概要や感染者数の推移、使用可能となっているHIV治療薬の現状、薬剤師にできることについて解説していきます。
HIVとは?
ここでは、HIVやエイズ(AIDS)の基礎知識について解説していきます。主な感染経路や症状、病期についてもあわせてみていきましょう。
HIV/エイズ(AIDS)とは?
HIVとは、Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)の頭文字をとったもので、ウイルスそのもののことです。一方でエイズ(AIDS)とは、Acquired Immunodeficiency Syndrome(後天性免疫不全症候群)の頭文字をとったもので、HIVの感染により体の免疫機能が低下して、日和見(ひよりみ)感染症などのさまざまな合併症を引き起こした状態です。
HIV感染症の病期は、感染初期(急性期)、無症候期、AIDS発症期に大別されます。感染初期(急性期)では、HIVに感染して2~6週間経過したあと、無症状もしくは発熱や咽頭痛、倦怠感、筋肉痛などインフルエンザのような症状があらわれることが多く、いずれの症状も数週間で消失します。その後、無症候期では患者さま自身の免疫とHIVが拮抗した状態が数年~10数年にわたり続きます。しかし、その間にもHIVは増殖するため、やがてHIVと患者さまの免疫のバランスが崩れることで免疫不全状態に陥り、エイズ(AIDS)を発症してしまいます(AIDS発症期)。
HIVの感染力はきわめて弱いため、性行為以外の社会生活のなかで、人から人にうつることはほとんどありません。性行為による感染や注射器具の共用などによる血液を介しての感染、母親から赤ちゃんへの感染などが主な感染経路として知られています。
HIV感染者数、エイズ(AIDS)患者数の推移
2021年時点で、世界のHIV感染者数は3,840万人、新規HIV感染者数は年間150万人、エイズ(AIDS)に関連する死亡者数は年間65万人に上ると推計されています。日本国内では、HIVおよびエイズ(AIDS)の新規感染者数は減少傾向にあり、2020年はHIV感染者750人、エイズ(AIDS)感染者患者345人と報告されています。
知っていますか?エイズとHIV感染 | 公益財団法人エイズ予防財団
HIV/エイズ | 東京都性感染症ナビ
HIV/エイズの基礎知識 | 3 限られた感染経路
HIV感染症「治療の手引き」第25版
年次推移 | UNAIDS
表3-1 HIVHIV感染者及びAIDS患者の年次推移(国籍別、性別)
HIVの治療方法
HIV感染症に対する治療では、2剤または3剤以上の抗HIV薬を組み合わせる、抗レトロウイルス療法(ART)とよばれる多剤併用療法が原則です。用いられる抗HIV薬は、核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)や非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)、プロテアーゼ阻害薬(PI)、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)、侵入阻害薬(CCR5阻害薬)などがあり、配合剤も数多く発売されています。
国内で承認されている抗HIV薬(2021年11月時点)
2021年11月時点で、国内で承認されているHIV治療薬は下記の通りです。
一般名 | 略号 | 商品名 |
---|---|---|
インテグラーゼ阻害薬(INSTI) | ||
ドルテグラビル | DTG | テビケイ |
ラルテグラビル | RAL | アイセントレス |
インテグラーゼ阻害薬・非核酸系逆転写酵素阻害薬配合剤(INSTI/NNRTI) | ||
ドルテグラビル/リルピビリン配合剤 | DTG/RPV | ジャルカ配合錠 |
インテグラーゼ阻害薬・核酸系逆転写酵素阻害薬配合剤(INSTI/NRTI) | ||
ビクテグラビル/テノホビル アラフェナミドフマル酸塩/エムトリシタビン配合剤 | BIC/TAF/FTC | ビクタルビ配合錠 |
ドルテグラビル/アバカビル/ラミブジン配合剤 | DTG/ABC/3TC | トリーメク配合錠 |
ドルテグラビル/ラミブジン配合剤 | DTG/3TC | ドウベイト配合錠 |
エルビテグラビル/コビシスタット/テノホビル アラフェ ナミドフマル酸塩/エムトリシタビン配合剤 | EVG/COBI/TAF/FTC | ゲンボイヤ配合錠 |
エルビテグラビル/コビシスタット/テノホビル ジソプロ キシルフマル酸塩/エムトリシタビン配合剤 | EVG/COBI/TDF/FTC | スタリビルド配合錠 |
プロテアーゼ阻害薬(PI) | ||
アタザナビル | ATV | レイアタッツ |
ダルナビル | DRV | プリジスタ プリジスタナイーブ |
ダルナビル/コビシスタット配合剤 | DRV/COBI | プレジコビックス配合錠 |
ホスアンプレナビル | FPV | レクシヴァ |
ロピナビル/リトナビル配合剤 | LPV/R | カレトラ配合錠 |
リトナビル(※1) | RTV | ノービア |
プロテアーゼ阻害薬・核酸系逆転写酵素阻害薬配合剤(PI/NRTI) | ||
ダルナビル/コビシスタット/テノホビル アラフェナミド フマル酸塩/エムトリシタビン配合剤 | DRV/COBI/TAF/FTC | シムツーザ配合錠 |
非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI) | ||
ドラビリン | DOR | ピフェルトロ |
エファビレンツ | EFV | ストックリン |
エトラビリン | ETR | インテレンス |
ネビラピン | NVP | ビラミューン |
リルピビリン | RPV | エジュラント |
非核酸系逆転写酵素阻害薬・核酸系逆転写酵素阻害薬配合剤(NNRTI/NRTI) | ||
リルピビリン/テノホビル アラフェナミドフマル酸塩/エムトリシタビン配合剤 | RPV/TAF/FTC | オデフシィ配合錠 |
核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI) | ||
ラミブジン | 3TC | エピビル |
アバカビル | ABC | ザイアジェン |
アバカビル/ラミブジン配合剤 | ABC/3TC | エプジコム配合錠 ラバミコム配合錠(※2) |
ジドブジン | AZT(ZDV) | レトロビル |
ジドブジン/ラミブジン配合剤 | AZT/3TC | コンビビル |
エムトリシタビン | FTC | エムトリバ |
テノホビル アラフェナミドフマル酸塩/エムトリシタビン配合剤 | TAF/FTC | デシコビ配合錠 |
テノホビル | TDF | ビリアード |
テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩/エムトリシタビン配合剤 | TDF/FTC | ツルバダ配合錠 |
侵入阻害薬(CCR5阻害薬) | ||
マラビロク | MVC | シーエルセントリ(※3) |
※1. 必ずほかの抗HIV薬と併用する。物動態学的増強因子(ブースター)として用いることも多い
※2. ジェネリック医薬品
※3. 本剤の適応はCCR5指向性HIV-1感染症であり、選択にあたっては指向性検査を実施すること
引用:日本エイズ学会 HIV感染症治療委員会『HIV感染症「治療の手引き」』
新薬「カボテグラビル」「リルピビリン」とは?
2022年6月27日、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)-1感染症の治療薬として、「カボテグラビル」と「リルピビリン」が発売されました。この2剤の併用療法は、HIV感染症治療薬としては日本初となる長時間作用型注射レジメンで、1か月に1回もしくは2か月に1回の筋肉内注射で済むことから、患者さまへの負担が少ないものと考えられます。
なお、カボテグラビルとリルピビリンの併用による長時間作用型注射レジメンは、同日に発売されたカボテグラビル経口剤(商品名:ボカブリア錠30mg)を、リルピビリン経口剤(商品名:エジュラント錠)とともに、1ヵ月間(少なくとも28日間)を目安に経口投与し、カボテグラビルとリルピビリンに対する忍容性が確認された患者さまを対象に実施されます。
カボテグラビル
カボテグラビル(CAB、商品名:ボカブリア水懸筋注400mg、同水懸筋注600mg)は、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)に分類される抗ウイルス剤です。HIVインテグラーゼの活性部位に結合し、レトロウイルスの複製に必要な酵素の活性を阻害することで、ウイルスDNAのヒト免疫細胞DNAへの組み込みを抑制する働きがあります。
>添付文書:「ボカブリア水懸筋注400mg」|Pmda
リルピビリン
リルピビリン(RPV、商品名:リカムビス水懸筋注600mg、同水懸筋注900mg)は、非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)に分類される抗ウイルス剤です。逆転写酵素を阻害し、ウイルスの複製を抑制します。
>添付文書:「リカムビス水懸筋注600mg」|Pmda
抗HIV療法における初の持効性注射薬|日経メディカル
ヴィーブヘルスケア 抗HIV-1薬で初の注射剤、カボテグラビルを承認申請|ミクスOnline
抗HIV薬のボカブリアとリカムビス 6月8日に薬価収載へ 初の注射剤レジメン|ミクスOnline
「カボテグラビル」|KEGG DRUG Database
持効性注射剤のHIV治療薬 『ボカブリア水懸筋注 400mg/600mg』『ボカブリア錠』および『リカムビス®水懸筋注 600mg/900mg』新発売のお知らせ|ヴィーブヘルスケア株式会社
HIV治療において薬剤師にできること
HIV感染症の治療は、薬剤の投与が中心です。しかし、用いられる治療薬には副作用や相互作用に注意を払わなくてはならない薬剤も多くあるため、高度な薬学的管理が求められます。薬剤師には医療チームのなかで医薬品の専門家としての役割が期待されており、治療全般に関する説明や副作用・相互作用などの確認、処方提案、TDMの提案、院外薬局との連携など、業務は広範囲にわたります。
HIV感染症に対する医療はめざましく進化しており、薬剤師のなかでもとくに専門的な知識が求められるため、日本病院薬剤師会が認定しているHIV感染症専門薬剤師やHIV感染症薬物療法認定薬剤師といった専門資格の取得も検討しましょう。これらの資格の理念と目的については以下の通りです。
HIV感染症専門薬剤師は、HIV感染症治療における薬物療法に関する高度な知識、技術、倫理観を備え、患者の意思を尊重し、最適な治療に貢献することを理念とし、HIV感染症に対する薬物療法を有効かつ安全に行うことを目的とする。
また、HIV感染症専門薬剤師は以下の通り定義されています。
HIV感染症の知識を身につけ、患者さまに寄り添える薬剤師を目指そう
新たに発売された「カボテグラビル」と「リルピビリン」は、HIV感染症治療薬としては日本初となる長時間作用型注射薬です。1か月または2か月に1回の投与で済むため、患者さまの治療負担は大きく軽減されます。
HIV治療薬の多くは、一般的な薬局で調剤されることは少なく、専門知識を有した薬剤師はまだまだ少ないのが現状です。HIV感染症専門薬剤師などの資格取得を通して、知識の向上を目指してみてはいかがでしょうか。
監修者:青島 周一(あおしま・しゅういち)さん
2004 年城西大学薬学部卒業。保険薬局勤務を経て2012 年より医療法人社団徳仁会中野病院(栃木県栃木市)勤務。(特定非営利活動法人アヘッドマップ)共同代表。
主な著書に『OTC医薬品 どんなふうに販売したらイイですか?(金芳堂)』『医学論文を読んで活用するための10講義(中外医学社)』『薬の現象学: 存在・認識・情動・生活をめぐる薬学との接点(丸善出版)』