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  • 公開日:2022.12.12

災害医療で求められる薬剤師の役割とは?

災害医療で求められる薬剤師の役割とは?

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、津波による幹線道路の寸断やライフラインの崩壊により、医療の提供にも大きな影響を与えました。災害大国と言われる日本では、災害派遣医療チーム(DMAT)をはじめとした医療チームが結成されるなど、災害時に医師や看護師、薬剤師にも大きな役割が求められています。

この記事では、医療機関や薬局が行うべき災害に備えた対応や災害時に求められる薬剤師の役割について解説していきます。

日本と自然災害の関係

日本と自然災害の関係

私たちが暮らす日本は、海と山に囲まれ、豊かな自然に恵まれている一方で、世界のなかでも災害が多い国です。地球の表面は、プレートという十数枚の岩盤に覆われていますが、日本はそのうち4枚が衝突しているところに位置しているため、国土面積は世界の0.25%ながら、地震の発生回数は世界の約20%と高い割合を占めています。

また、日本の南東の海上では熱帯低気圧が発生しやすく、これが台風となり北上することから、台風の通り道としても知られています。国土の約70%を山地・丘陵地が占めており、降った雨が山から海へと一気に流下しやすい地形にあることから、梅雨や台風により大雨が降ることで、洪水や土砂災害が発生しやすい環境にもあるのです。

実際に近年でも、2011年3月11日に発生した東日本大震災や、2016年4月14日に発生した熊本地震など自然災害による大規模な被害が起きています。これらの背景から、薬剤師をはじめ医療従事者においても、災害時の対応について理解を深めておくことが求められています

医療機関や薬局がすべき災害への備え

医療機関や薬局がすべき災害への備え

災害発生時、医療機関や薬局が果たすべき役割は多岐にわたります。被災地で診療が可能な医療機関は、被災者を受け入れて適切な医療提供を行うことが求められており、薬剤師は診療を支える環境を構築する必要があります被災地外から受け入れた医薬品の管理や、他職種への情報提供も重要な活動の一つです。薬局においても、被災者に対する医薬品の供給や、医療救護所での支援活動をはじめとした多くの役割が期待されています。

こうした活動を円滑に行うためには、事前にあらゆる状況を想定し、薬剤師会や行政、地域のほかの医療機関、近隣薬局、医薬品卸などとの連携を図る必要があるでしょう。薬局の被災を最小限に抑えるため、ライフラインの確保や医薬品の備蓄、防災用品の確保などを平時に講じておくことも重要です。

災害時に求められる薬剤師の役割

災害時に求められる薬剤師の役割

災害時に薬剤師に求められる対応について、「自身が勤める医療機関が被災した場合の対応」と「救援活動を行う場合」に分けて、それぞれ解説していきます。

自身が勤める医療機関が被災した場合

被災状況により、それぞれの施設の判断において迅速な対応を行うことが求められます。なかでも優先すべきは、患者さまの安全確保と負傷者の救助です。薬局内の患者さまだけでなく、在宅患者への連絡と避難の支援も必要になるでしょう。

そのほか、自治体や関連団体などとの情報共有や、薬剤師の派遣、医薬品の供給についての支援要請を行い、地域の医療提供を継続させる役割が期待されています。

救援活動を行う場合

大規模な災害の発生時には、災害救助法に基づき医療救護所や避難所が設置され、薬剤師にもさまざまな役割が期待されています。

①災害医療救護活動(医療救護所での活動)

大規模災害時には医療救護所が設けられ、自治体や医療機関より派遣されたDMAT(Disaster Medical Assistance Team)などの医療チームにより、医療救護活動が行われます。災害時に使用される医薬品の種類が限定される場合や、専門科以外の患者さまに医師が対応しなければならない場合も多いため、調剤や服薬指導にとどまらず、幅広い活動が求められるのです。

また近年では、災害発生時における医療支援の一つとして、ライフラインが途絶えた状況下でも、調剤など薬局の機能を果たせる「モバイルファーマシー(災害医薬品供給車両)」の導入が各地で進んでいます。

②被災者への支援(避難所での活動)

大規模災害時には、自治体の指定した避難所に多くの被災者が集まり、それ以外にも多くの避難所が作られます。薬剤師には、一般用医薬品の保管、管理一般医薬品で対応可能な被災者への供給や被災者からの医薬品・健康に関する相談応需感染症対策などの衛生管理・防疫対策などの多岐にわたる活動が求められます。

③医薬品の安定供給への貢献(医薬品集積所での活動)

大規模災害時には、被災地外から医薬品や医療機器、衛生品が第一次集積所で仕分けや管理が行われ、保健所などの第二次集積所を経て医療救護所や避難所に運ばれます。これらの医薬品などの管理はもちろん、医療救護所や避難所からの要望に応じて医薬品の供給や発注といった業務も行います。

【事例】東日本大震災における薬剤師の活動

【事例】東日本大震災における薬剤師の活動

東日本大震災が発生した2011年3月11日、日本薬剤師会は災害対策本部を立ち上げ、被災地への安全・安心な医薬品の供給と使用を確保するため、岩手県、宮城県、福島県を中心に、約4ヶ月にわたり薬剤師を派遣しました。そこで実際に行われた活動について紹介します。

慢性疾患への対応

宮城県石巻市の石巻赤十字病院の医療班は、避難所の巡回を行った結果、慢性疾患の薬を求める被災者が多かったことから、医師と薬剤師が同じ車で避難所を回り、慢性疾患の薬に対応する薬剤師チームを編成しました。これにより、巡回医療班がその場で処方箋を発行し、薬剤師班が石巻赤十字病院や保険薬局で調剤した薬を被災者へ届けるといったスムーズな連携が実現しました。

お薬手帳の活用

被災地では薬の供給が安定しないため、短期間での投与が定められていました。また、DMATが離任する際に医薬品を救護所へ寄贈する場合が多く、銘柄の異なる医薬品が多数混在している状況でした。

患者さまへはその都度銘柄の異なる医薬品を渡したり、同薬効の別の薬を渡したりすることがあったため、見慣れない薬でも安心して服用できるよう、口頭説明と併せて医薬品の詳細をお薬手帳に記載する工夫がなされました。薬の銘柄変更や成分変更の経過を医師や薬剤師が確認できたため、患者さまに最適な薬を選択できるようになりました。

災害時に活躍する「災害医療認定薬剤師」とは

災害時における医療体制が充実していくなかで、薬剤師が果たすべき役割も大きくなっています。そこで、災害時に対応できる薬剤師の育成を目的に、2016年から一般社団法人日本災害医学会により、「災害医療認定薬剤師」の認定が行われています。

災害医療に関する基礎的な知識のほか、被災地で限られた医療資源を効率的に活用するための原則や医療救護所での情報収集多職種との連携などについての知識を習得することにより、実際の災害現場での活躍が期待されています。

被災地では薬剤師に重要な役割が求められる

この記事では、医療機関や薬局がすべき災害に備えた対応や災害時に求められる薬剤師の役割について解説していきました。

災害大国とも言われる日本では、次々に起きる自然災害を背景に、防災や緊急時の対応についての取り組みが進められています。地域の薬局で働く薬剤師においても、日本薬剤師会がまとめた「薬剤師のための災害対策マニュアル」などを参考にして、平時から災害に備えておきましょう。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2022/12/12

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