- 公開日:2019.06.10
「公務員薬剤師」になるには?仕事内容・メリット・生涯年収などを徹底解説【薬剤師のお仕事ガイド】
薬剤師と聞くと、調剤薬局やドラッグストアで働く薬剤師をイメージする方が多いでしょう。これらはほとんどが営利目的の民間企業で働く薬剤師です。
一方で、都道府県などに所属して、公務員として働く薬剤師も一定数います。生涯年収や福利厚生が優れるため人気の高い働き方ですが、実態はあまり知られていません。
そこでこの記事では、【公務員薬剤師の仕事内容・メリット・生涯年収】などについて解説していきます。
公務員薬剤師の働き方は3種類
公務員薬剤師とは、国(厚生労働省)や地方自治体(都道府県や市区町村)に所属して働く薬剤師です。薬局や製薬企業などの民間企業で調剤をメインとする薬剤師とは異なり、薬事、行政、食品安全などの多面的な仕事に携わります。
公務員薬剤師の働き方は大きく分けて3種類。【国家公務員薬剤師】【地方公務員薬剤師】【麻薬取締官】です。次の項から、これらの働き方についてみていきましょう。
①国家公務員薬剤師
国家公務員薬剤師は、主に厚生労働省など国の機関に所属し、薬事行政を中心に多方面な仕事に携わります。他省庁や専門家と関わることも多く、官庁・民間を問わずたくさんの人と関わりながら仕事を進めていくことが特徴です。
具体的には、薬価の算定や診療報酬・調剤報酬の改定、医薬品メーカーなどに対する医薬品の製造管理や品質管理の監視指導、薬剤師国家試験の在り方の見直しや資格取得後の研修制度の検討などがあります。
【国家公務員薬剤師になるには】
薬剤師国家試験に合格し、薬剤師免許を取得すると受験資格を得ることができます。その後、厚生労働省の総合職として採用されるべく「国家公務員試験」を受験し合格しなければなりません。
国家公務員試験は、第1次試験・第2次試験・英語試験などから構成されており、学術的な知識だけでなく人物評価や教養が問われることもあります。合格率は高くないため、しっかりとした準備が必要です
③地方公務員薬剤師
地方公務員薬剤師は都道府県や市区町村などの地方自治体に所属する薬剤師のことをいいます。その仕事内容は、働く職場によって様々なことが特徴です。
ここでは、代表的な職場についてみていきましょう。
①公立病院
都道府県や市町村区などの地方自治体が運営する、公立病院が職場です。私立病院など民間病院と同様に、外来調剤や病棟業務が主な仕事となります。公立病院は、規模の大きな病院であることが多いため、高度な医療に携われる機会に恵まれることもあるでしょう。
②保健所
市区町村にある保健所に勤務します。地域の施設に対する新規開設許可や立ち入り検査などが業務の中心です。訪問する施設はドラッグストアや調剤薬局をはじめ、大衆浴場・美容院・飲食店など多岐にわたります。
③役所
市役所や地方厚生局などに勤務し、薬事衛生や医薬安全に関する検査や指導を行います。製薬企業など医薬品を扱う民間企業の立入検査や製造販売許可などを行うこともあるでしょう。他、デスクワークが多いことも特徴です。
④衛生研究所
衛生研究所とは、地域の衛生について研究を行う施設であり、そこで働く薬剤師は衛生に関する研究に携わることになります。例えば、食品や医薬品などの安全確保、食中毒や感染症の予防などです。地域住民の健康に関わる課題に対して調査や研究を行います。
【地方公務員薬剤師になるには】
国家公務員薬剤師と同様に、薬剤師国家試験に合格し、薬剤師免許を取得すると受験資格を得ることができます。その後、地方自治体が実施する採用試験を受験し合格する必要があります。
採用試験は、教養試験、専門試験、英語試験、面接や小論文などです。各自治体によって実施要項は異なるため、受験を希望する自治体のホームページなどは確認するようにしましょう。
国家公務員試験に比べると合格率は高い傾向にあります。しかし、応募者数が多いため、合格するためにはしっかりとした準備が必要です。
②麻薬取締官
麻薬取締官は、厚生労働省 地方厚生局麻薬取締部で働く薬剤師をいいます。主な業務は麻薬や不正薬物の取り締まりで、薬物犯罪の捜査や麻薬流通の防止を目的とした立ち入り捜査などを行います。住民への薬物乱用防止の啓発活動や相談対応なども大切な役割です。
また、捜査は危険を伴うため、逮捕術訓練や拳銃射撃訓練なども行う特殊な仕事です。
【麻薬取締官になるには】
厚生労働省の地方厚生局麻薬取締部が実施する採用試験に合格しなくてはなりません。採用試験の応募資格は、①または②の条件に該当すると得られます。
①国家公務員試験の一般職採用試験(大卒程度試験)「行政」または「電気・電子・情報」の合格者。
②薬剤師、または薬剤師国家試験の合格見込み者で、①の受験資格を満たす者(年齢などの制限あります)
国家公務員薬剤師や地方公務員薬剤師と同じように合格率は高くありません。また、採用数は若干名であることから、非常に狭き門であると言われています。
引用元:厚生労働省 地方厚生局麻薬取締部
[メリット]生涯年収や待遇が魅力!公務員は安定性あり
国家公務員薬剤師や地方公務員薬剤師などの公務員薬剤師になるメリットとは、どのようなものでしょうか。順にみていきましょう。
【メリット1】安定した働き方である
『薬剤師』は資格職のため、安定して長く働けると言われています。その中でも、国家公務員薬剤師や地方公務員薬剤師など公務員薬剤師は安定性が抜群と言えるでしょう。
所属先は厚生労働省や地方自治体などで、民間企業のように倒産の心配はありません。さらに、基本的に解雇はされないため、安定して働き続けることが可能です。
【メリット2】福利厚生が充実している
長く働き続けられるように、福利厚生が整備されている点もメリットと言えるでしょう。
例えば、公務員薬剤師の場合、育児休暇は3年間も取得することが認められています。民間で働く薬剤師は、原則1年間(条件付き2年間)であるため、ライフイベントともしっかりと向き合える点が魅力です。
【メリット3】収入が安定している
公務員薬剤師では初任給こそ低めに設定されていますが、定期昇給やボーナスの支給も安定しているため、生涯年収は民間企業と比べて遜色ありません。むしろ、民間企業に比べると退職金が手厚いため、定年退職後の生計が立てやすいという利点もあります。
前述の福利厚生など、額面に表れない部分においてもメリットがあるといえますね。
【メリット4】独自の仕事で経験が積める
民間で働く薬剤師は、調剤や服薬指導などが主な業務です。
一方で、国家公務員薬剤師は薬価の算定や診療報酬・調剤報酬の改定など、地方公務員薬剤師は食中毒や感染症の予防など、麻薬取締官は麻薬や不正薬物の取り締まりなど様々な経験ができます。公務員薬剤師でなければ学ぶことができない知識を身につけられるでしょう。
[注意点]公務員薬剤師独自の仕事内容や制度は要チェック!
公務員薬剤師になることのメリットは数多いものですが、注意点もいくつかあります。こちらも順にみていきましょう。
【注意点1】患者さまと接する仕事でない場合がある
必ず臨床の現場で働けるとは限りません。薬事行政を中心とした仕事に就く場合は、デスクワーク中心となることもあります。「患者さまと接することで医療に貢献したい」と考える方には、最適な選択肢とは言いにくいかもしれません。
【注意点2】一定周期で異動があり環境が大きく変わる
基本的に、病院・保健所・役所などの様々な部署を一定周期で異動することになります。異動の度に、仕事内容を覚えなおす必要があったり、転居を伴い環境が大きく変わったりするなど、変化を乗り越えていく必要があるでしょう。
【注意点3】初任給は民間企業に比べて低い
ドラッグストアなど民間企業に勤める薬剤師に比べて、公務員薬剤師の初任給は低い傾向にあります。一方で、公務員は定期昇給やボーナスなどが安定しており、退職金も保障されているのが特徴です。そのため、最終的には民間企業よりも平均年収が高くなるでしょう。
【注意点4】副業が禁止されている職場が多い
国家公務員法や地方公務員法により副業は禁止されています。民間企業に勤める薬剤師が副業をする傾向にある中では、マイナス要素と言えるでしょう。副業が可能な自治体は増えているので、将来的に解禁される可能性も見込めます。
思い描いたように働けるかどうか見極めよう
公務員薬剤師の仕事内容などを解説していきました。
公務員薬剤師という働き方は特殊であり、一般的な薬剤師とは異なるキャリアを積むことになります。患者さまと接する仕事ができないままキャリアを終えることもあるため、自身の描く薬剤師像に合っているかどうか、しっかりと吟味しなくてはなりません。
また、生涯年収は高い傾向にあるものの、初任給は民間企業よりも低く設定されています。場合によっては、奨学金の返済などで苦労するケースもあるでしょう。
どんな仕事にも一長一短があります。公務員薬剤師に興味のある方は、この記事を参考に情報収集してみてください。
ファルマラボ編集部
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