- 公開日:2019.06.07
無駄な医療を省くための「チュージング・ワイズリー」とは?その活動における薬剤師の役割について
薬剤師として働く中で、「こんなに薬を必要とする治療なのかな?」「無駄に処方されているんじゃないかな?」と疑問に思ったことはないでしょうか。残念ながら、その疑問は的を得ており、現代医療では無駄な行為が行われている実態があります。患者さまの中には、過剰な投薬による副作用に苦しむ方もいらっしゃるのです。
もし、過剰な現代医療を少しでも疑問に感じるならば、「チュージング・ワイズリー(=賢い選択)」について少し学んでみるのはいかがでしょうか。この記事では、医療における賢明な選択を目指す「チュージング・ワイズリー」をご紹介します。さらに、その活動の中で求められる薬剤師のあり方についてもお話します。
「チュージング・ワイズリー」とは?
チュージング・ワイズリー(Choosing Wisely)を直訳すると、「賢く選択する」という意味です。医療行為の無駄を省くことを目的に活動するチュージング・ワイズリーは、世界的にも広まっています。まずは、基本的な概念と歴史について解説していきましょう。
「チュージング・ワイズリー」について
チュージング・ワイズリーとは、医師や薬剤師などが患者さまとの対話を通じて、患者さまにとって真に必要な医療を目指す国際的なキャンペーン活動のことです。患者さまにとって真に必要な医療とは、科学的な根拠があり、かつ副作用の少ない医療のこと。この実現に向けて、"賢明な選択"をすることが求められています。
現代医療は、様々な検査・手術・投薬の登場により、患者さまに提供できる選択肢は非常に広がっています。一方で、過剰な検査、不要な手術、過剰な投薬などが行われている問題も抱えています。
患者さまの多くは知識に長けているわけではありません。最善な選択が分からず、医師から勧められるままに無駄な検査や医療行為を受け入れてしまうことも多くあるのです。このような無駄を減らすべく、チュージング・ワイズリーはエビデンスに基づき最善の選択を行うことを推進しています。
「チュージング・ワイズリー」の沿革
ルーツは、米国内科学会、米国内科専門医機構 (ABIM)財団、欧州内科連合が主導して2002 年に公表された『新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章』にあります。その後、医師憲章の精神を実現すべく、 ABIM財団主催のフォーラムが開催。2011年には「Choosing Wisely」という言葉が誕生しました。
「ポリファーマシー(薬剤の多剤併用)」や「過剰診断」という言葉を聞いたことがある薬剤師の方は多いでしょう。こうした問題が世界的に広がる中で、医師や薬剤師などの医療者が原点に立ち返り、 "賢明な選択"をすることで患者さまのためになる医療を提供する。チュージング・ワイズリーは、そうした目的の実現に向けて活動しています。
この活動が行われているのは発足地・アメリカだけではありません。いまでは、カナダ、イタリア、スイス、イギリス、オーストラリア、日本など各国に活動が広がっています。
「チュージング・ワイズリー」の活動内容
こうした活動はアメリカで非常に盛んに行われています。70 以上の臨床系専門学会が、医師などの医療者と患者さまの双方が考え直すべき"5つのリスト"を作成。根拠文献と共に、インターネット上に公開しました。これは、自由に閲覧できるので、一度目を通すことをおすすめします。
"5つのリスト"の中には、無駄とされる医療行為などが記載されています。2017年3月時点で、その項目は約 450 項目。これらは、消費者団体と協働した上で、一般向けに分かりやすく書かれた説明書も作成されています。チュージング・ワイズリーの活動は、アメリカでは理想論ではなく、すでに臨床に即したものとなっているのです。
日本で推進を呼びかけている任意団体について
アメリカで発足した、「チュージング・ワイズリー」。日本ではどこまで活動が広がっているのでしょうか?現状について詳しくお話していきます。
『チュージング・ワイズリー ジャパン』とは
日本におけるチュージング・ワイズリーの活動は、「Choosing Wisely Japan(チュージング・ワイズリー ジャパン)」という任意団体が主体となっています。国内の活動を推進すべく、2016 年10 月に立ち上げられた任意団体です。発起人となったのは、医師、薬剤師、医学生、患者・市民など、様々な立場の 12 人になります。
この団体は誰でも参加することができます。もちろん薬剤師も参加できるため、 チュージング・ワイズリーの活動に興味があれば検討してみるのもいいでしょう。
沿革と活動内容について
ルーツは、2013年12月に行われた、ジェネラリスト教育コンソーシアム講演との討論です。その内容を検証し、2015年3月に日本プライマリ・ケア連合学会誌『General Medicine』に日本で初めて5つのリストが発表されました。
その後、ディスカッションを重ねて、2016年10月にChoosing Wisely Japanキックオフセミナー『医療における「賢明な選択」』を開催し、正式に発足しました。以降、リストを広めるべく、セミナーなどを開催しています。
最近も、『患者さまと医療者のための医薬品情報~くすりの適正使用に向けたChoosing Wisely~』という題目にて公開フォーラムが開催されました。
■5つのリスト■
1.健康で無症状の人々に対してPET-CT検査によるがん検診プログラムを推奨しない
2.健康で無症状の人々に対して血清CEAなどの腫瘍マーカー検査によるがん検診を推奨しない
3.健康で無症状の人々に対して MRI 検査による脳ドック検査を推奨しない
4.自然軽快するような非特異的な腹痛でのルーチンの腹部CT検査を推奨しない
5.臨床的に適用のないル-チンの尿道バルーンカテーテルの留置を推奨しない
過剰な検査や医療が減らない理由
現状、過剰な検査や過剰な治療が行われていることは確かと言えるでしょう。何故、日本では過剰な医療を減らすことができないのでしょうか?そこには、医師側、患者側にそれぞれ原因があると考えられます。
たとえば、医師側の原因は、「検査や治療を行うことでより多くの収入を増やしたい」 「検査/治療/投薬をしなかった場合のリスクを不安に思う」「検査しなかったことを理由に患者さまから責められるのを避けたい」などが考えられるでしょう。病院の懐事情によるものであったり、検査や治療を行わない不安であったり、様々な要因が過剰な医療行為に繋がっているのではないでしょうか。
一方で、患者側の原因は、「とりあえず検査をすれば安心できると思っている」「検査の種類や方法によっては有害なものもあると理解してない」「薬を飲むことのリスクよりも、飲まないことに対する不安の方が大きいから」などが考えられるでしょう。また、インターネットの普及により、情報が手に入るようになったことで、正しく理解せずに過剰な治療を望む方もいらっしゃいます。
薬剤師に求められている役割
チュージング・ワイズリーは、薬剤師も無関係な話ではありません。近年、ポリファーマシーに対する薬剤師の関与など、過剰な投薬を防ぐよう動くことが求められています。では、一体何をすれば良いのでしょうか?まずは現場で起きている問題を挙げてみます。
- 多剤投与/重複投与と思う処方せんが発行されている
- 残薬管理が行き届いておらず、飲み残しが起きている
- 症状に対して効果が見込めない薬剤が投与されている
- 過去の症状に対して漫然と同じ薬剤が処方されている
- 高齢者に対して過剰な量の薬剤が処方されている
- 患者さまに言われるまま医師が処方している
こうした問題と直面したとき何をすべきなのか。たとえば、薬剤師に処方権はありませんが、疑義照会を通して医師に疑問を投げかけることはできます。治療に必要な薬剤でなければ、処方削除を提言することも薬剤師の役目です。
医師に逆らえないと処方箋通りに調剤するのではなく、患者さまにとって有益な選択かどうかを考えることが、薬剤師が目指すチュージング・ワイズリーではないでしょうか。
医療に対する新しい知識を持つことが大切
「チュージング・ワイズリー」について解説した通り、仕事の中で少しずつ実践していくことは決して難しいことではありません。知識やスキルを深めることで、エビデンスに基づいた正しい判断ができるようになりましょう。そうして、少しずつでもチュージング・ワイズリーが広まれば、患者さまにより良い医療を提供できるようになるでしょう。
薬剤師も医療人の一人です。日頃の仕事を通して、チュージング・ワイズリーの実現を目指していきましょう。
ファルマラボ編集部
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