業界動向
  • 公開日:2020.08.13

「発信」を武器にする。これからの就職・採用活動のかたち ― 薬学生✕薬局経営者✕ファルマスタッフ 座談会 ―

「発信」を武器にする。これからの就職・採用活動のかたち ― 薬学生✕薬局経営者✕ファルマスタッフ 座談会 ―

企業説明会に行き、大人数が入れるホールで会社説明を受け、エントリーをして面接に行って......。そんな従来の就職活動のかたちは、連日メディアでも騒がれている新型コロナウイルス感染症の影響を受けて変わりつつあります。企業説明会は東京を筆頭に、軒並み中止。刻一刻と迫る卒業に不安と焦りを感じていた学生は多くいたでしょう。

しかし2020年3月、こうした状況に危機感を抱いていた大阪の薬学生・松村歩美さんが動きました。彼女はオンラインでの合同説明会の実施を呼びかけ、薬局経営者である竹中孝行さんとともに薬学・薬局業界でははじめてとなる「全国薬学オンライン合同説明会」を成功させたのです。

今回は、そんな危機的状況に負けずに新しい就職・採用活動をかたちにした2人に、当時の心境や実施にいたるまでの背景、これからの就職・採用活動の在り方についてオンラインでお話を伺いました。

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はじまりはX(旧Twitter)、きっかけは「面白そう」だから

松村歩美さん

今回、お二人が中心となって成功させた「全国薬学オンライン合同説明会」の発端を教えてください。

松村:X(旧Twitter)で、学生千名規模・企業は数百社規模のオンライン合同説明会への参加を募る他業界の方のツイートを見かけたのがきっかけです。それを見て、単純に「面白そうだな」と思ってツイートをしたのがはじまりでした。

でも正直なところ、まだそのときは「薬剤師業界でもできたらいいな...」と思うくらいで、実際にやるのは難しいだろうな......と思っていたんです。でも、私のツイートに竹中さんが「面白そうですね」と返してくださいました。竹中さんの「面白そうですね」は、「行くよ、GO」というサインだと感じたので(笑)、「これは乗っからないと置いていかれる!」と思って決意をしました。

竹中さんの心境としては、どのような思いがあったのでしょうか?

竹中:単純に松村さんがぽつりと呟いたのが「面白そうだな」と思ったのと、「やるなら今だな」というタイミング。それから松村さんがやっていた『薬学生ドラフト』というイベントで、以前から彼女を知っていたこともひとつの理由です。僕自身も学生のときに「逆求人」という採用イベントを主催する学生団体をやっていたこともあって、共通点があったんです。それに、自分自身が企業側の人を知っている分、人を集められる自信がありました。

イベント開催まで、どのような準備をされたのでしょうか?

竹中:開催までは一週間くらいしかなかったので、ほぼ毎日打ち合わせをしました。やらなければいけないことをタスク化して、二人で潰していった感じです。そのときはまだ世間にzoomが今ほど知られていなかったので、そもそもzoomでできるのかも検討すべきもののひとつでした。

松村:日程などの情報を公開したのは、最初のツイートから1日ちょっとしてから。そのときに公開した情報も、「なぜやることになったのか」「どんな想いがあるのか」「いつ開催して何人くらいの人に届けたいと思っているのか」という骨格だけで、それしか決まっていない状態で......(苦笑)。

竹中:そうですね。でも、最初の目標設定では10社集まったらすごいと思っていたんです。でも1日で10社、学生も50人くらい集まりました

それだけの人数を集められた要因は、どこにあると思いますか?

松村:学生に関しては、X(旧Twitter)での広がりが強かったと感じています。あとは運営スタッフの募集をして、広報のサポートをしてもらったことが大きかったです。そのなかには社会人の方と学生の方が半々くらいで、私たちを含めて21名の方が関わってくださいました。

オフラインからオンラインへ。活発化するSNSの活用

今ではオンラインでイベントが行われることも主流になりつつあります。それにより変わったことはありますか?

松村:やはり「SNSやオンラインの有用性にたくさんの方が気づいたこと」だと思います。今までは電話というツールもありましたが、「会いに行く」のが一般的でした。今回「会いに行けない状況」ができたからこそ、SNSやビデオ通話がこんなにも浸透し、オンラインに価値を見出す方が増えたのだと思います。

薬学生全体として大きな変化はありましたか?

松村:私の周りに限られるので偏りがありますが、強く感じるのは「自分から動かないと何もできない」と気づいた子が多かったです。今まではオフラインで直接会って、世間話をするなかで情報交換ができていましたが、完全なオンラインの世界では時間を設けないと話せません。自分からアンテナを張っていたとしても、「アンテナに触れる機会を自分でつくらないと情報に出会えない」ことに多くの学生が危機感を覚えたはずです。

薬剤師や薬局経営の立場からは、いかがでしょうか?

竹中:結果からいうと、企業や薬剤師という個人でX(旧Twitter)をはじめた人がものすごく増えました。私自身は自分のやっているイベントや活動に生かせればと思ってX(旧Twitter)に力を入れていましたが、結果的には企業のブランドイメージを伝えられる点で採用活動にも効果的なツールだと感じています。普段何気なくつぶやいているだけで、とくにPRという意識はなく伝えたいことが伝わっていることもあります。

withコロナ時代、これからの就職・採用活動

竹中孝行さん

withコロナ時代、就職活動で薬学生はどのように動くべきでしょうか?

松村:やはり「自ら主体的に動く」ことが重要だと思っています。そのために、自分が会社を選ぶ軸をより明確にしておくことが大切です。これまでと大きく違うのは、対面で会ってお話しする機会が圧倒的に減るという点。自分の理想とその会社で働く自分の姿がどれだけマッチするかどうかを、今までとは質問を変えて確かめる必要があるし、もっと雰囲気を感じたいなら見学を申し出てもいいと思います。そういう意味で主体的になることがこれからは求められるのではないでしょうか。

今後、企業側からのアプローチとして有効な手段には、どのようなものがあると思いますか?

竹中:最近学生と話すことが多いのですが、「今までの合同説明会だと、大体どこも同じような説明で違いがわからない」という声が多くありました。それから、学生は実習でお世話になったところに就職するパターンが非常に多い。それはなぜかというと、実習で行った先ならどんな人が働いているのかがわかるからなんです。つまり今後は、経営者や幹部が日頃どんなことを考えているのかを積極的に発信していくことが、採用を進めていくうえで重要になってくると思います。そうした人たちの活動や思いに共感した人が、企業説明会に足を運ぶ。なので、X(旧Twitter)で会社アカウントの運営はすごく難しくて、中の人を見せた方がスムーズにいく場合が多いです。

それから企業側として、オンラインイベントのあとには何かしらのコミュニティに招待する必要があると思います。今回のイベントのあとも、企業のLINE公式アカウントやオープンチャットがすごく盛んになりました。オンラインではコミュニティのなかですぐに相談できる環境をつくって、だんだん興味を持たせて育てていく......。こういう仕掛けがあると、よりオフラインにつながりやすいと思います。これからの就職・採用活動では、『オンライン』と『オフライン』、それから『コミュニティ』の3つがキーワードになっていくと思います。

なるほど。そういった説明会後も、コミュニティをつくって運用している企業は多いのですか?

竹中:そうですね。割と多いと思います。個人的にもこのオンライン文化はずっと残っていくと感じるので、オンラインとオフラインのそれぞれのメリットを理解して両者を使い分けていく必要が企業側にあると思っています。今回を機に、地域に縛られている学生は案外少ないことがわかりました。ですから全国対象の学生にアプローチできるという意味でも、SNSを通して出会いの場を持ち、オンラインで説明、そのあと興味があればリアルで見学、インターン......という流れになっていくでしょう。オンラインだけだとお互いの人間性まではわからないので、「リアルで会いたい」と思えた企業や人材が自分にとって一番いい選択になるはずです。そうした流れで採用が決められると、お互いにとってよいと思います。

薬学生/薬剤師/薬局経営者へ伝えたいこと

竹中孝行さん、松村歩美さん

最後に就活生や、採用活動に関わる薬剤師/薬局経営者の方にメッセージをお願いします。

松村:やりたいことがあっても、踏み出せない薬学生は多いと思います。でも、もっと自分の気持ちに素直になって、ワクワクする楽しい毎日を過ごしてほしいです。私がワクワクするものを見つけられたのは、自分自身の興味関心を素直に受け止めて、そのうえで勇気を持って一歩を踏み出したからだと思っています。

自分の気持ちに素直になることで世界が広がることがあります。何からすればいいのかわからない人は、まず自分の気持ちに素直になることからはじめてみてほしいです。そこからチャンスがあったら、迷わずにチャレンジしてほしいと思います。

それから現役薬剤師の方に伝えたいのは、薬学生のなかには「このままでは薬剤師業界としてよくないのでは」「私たちが働くころには薬剤師業界ってどうなっているんだろう」と危機感を感じている人が一定数います。学生の思いを現場にいるからこそ受け止めて返せる言葉もあると思いますし、現場の声をもっと聞きたいし知りたいです。なので、ぜひ現場の声を発信して学生に届けてほしいです。

竹中:そうですね。私は薬局アワードをやっていることもあって、色々な薬局の取り組みを見てきました。そのなかで思うのは、「素敵な活動をされている薬剤師さんはたくさんいる」ということです。ただ『情報発信』という部分ができていないだけなので、謙遜せずに日頃の活動を発信してほしいと常々思っています。

それから学生さんに対して。今回の全国合同薬学説明会やオンラインイベントを通して感じたのは、思いを持った学生さんが非常に多いということ。逆に企業や薬局側もすごい取り組みをしているところが多いので、今後の薬局業界や薬剤師業界全体の未来はものすごく明るいと思います。そういう明るい未来があることを伝えたいし、今がチャンスになるということを知ってほしいです。

松村:竹中さんが言った、「謙遜せずに」という言葉が重要だと思っています。就活でもそうですが、自分の魅力を自分で語る自己PRはとても大切ですよね。でも、面接官の前では謙遜せずに話すけど、相手が大勢になった瞬間に「自分はまだまだそんなことなくて...」と前置きをつけてしまいがちです。だから企業の魅力や人の魅力を自分で発信することと、発信したときに受け入れてもらえる環境・コミュニティをみんなでつくっていくことがこれからはとても大切だと感じています。

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まとめ

オンラインが当たり前に介入してくるこれからの時代。『自己発信』は今後、企業のブランディングとしての役割から、現場の声を集め、学生自身を知ってもらう機会をも創出するとても重要な手段となりそうです。

これからは今までの就職・採用活動とは異なり、より主体的に行動を起こしていくことが求められます。様々な想いを持って就職活動をする薬学生、それから様々な素晴らしい取り組みを行う薬局・薬剤師が自ら"発信"を武器にすることで、薬剤師業界・薬局業界の未来はとても明るいものになるはず。

withコロナ時代。不安定な日常はこれからも続いていくかもしれませんし、一時休息の日が来ても、また同じようなことが起こる可能性もあります。そうしたときに、今回の松村さんや竹中さんが行動に移したことは、どれだけの人に希望を与えたでしょうか。誰でもはじめてのことは怖いもの。でも、行動した先には必ず結果があり、状況を変えるためには行動をしなくては変わらないのだという気づきを与えてくれたお二方のお話でした。

竹中孝行さんの写真
  • 竹中孝行(たけなか たかゆき)さん

一般社団法人薬局支援協会 代表理事。株式会社バンブー代表取締役。外資系製薬会社にMRとして勤務後、調剤薬局勤務を経て、2012年に株式会社バンブー設立。2016年に一般社団法人薬局支援協会を設立し、2017年4月に第1回「みんなで選ぶ薬局アワード」開催。薬局や美容などメディア事業を運営する他、WEB制作やコラム執筆なども行う。

松村歩美さんの写真
  • 松村歩美(まつむら あゆみ)さん

関西の大学に通う薬学6回生。学内活動に明け暮れる1〜3回生時代を経て、学外に飛び出し薬学に限らずさまざまなイベントを主催・開催。主な開催イベントには『近未来カンファレンス』『薬学生ドラフト』『全国薬学オンライン合同説明会』などがある。

ファルマラボ編集部

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記事掲載日: 2020/08/13

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