- 公開日:2021.09.03
<国試対策コラム>化学の勉強法
CBT対策から薬剤師国家試験対策まで支援している、薬学生の学習塾「薬進会様」監修!国試対策に活かせる科目別学習方法や過去問解説をご紹介します。今回は、学問的な勉強法ではなく国試的な点数の取り方を踏まえて学ぶ「化学編」!
科目別勉強法
「学問的な勉強法」と「国試的な得点法」
国試の勉強を始める時によく聞く言葉、「国試の勉強は物・化・生から始めよう。そうすると後から勉強する他の科目にも応用がきく」。確かに、この言葉自体は正解ですが、全ての学生にあてはまるわけではありません。
そもそも物・化・生が好き。さらにCBTのときも、【有機化学】【無機化学】【分析化学】【医薬品化学】【生薬・漢方薬】から逃げずに取り組んだ一定レベルの知識を持つ学生には当てはまる言葉です。
学問的に物・化・生は、衛生、薬剤、薬理、病態・薬物治療の基礎的部分をおおいに担っているので、物・化・生のあとに他の科目を勉強するという順番は理にかなっています。しかし、CBTのゾーン1が苦手だった学生やゾーン1を捨て科目にしたような基本知識がほとんどない学生が物・化・生から取り組んでしまうと、莫大な時間を費やしてもほとんど得点化されていないとに後々気づくことになります。
では、物・化・生が苦手な学生は、国試的にどう勉強を進めていけばいいのかを解説していきます。ここで、説明するのは、学問的な勉強法ではなく国試的な点数の取り方になります。物理と生物に関しては、『<国試対策コラム>物理の勉強法』『<国試対策コラム>生物の勉強法(9月上旬公開)』を読んでみてくださいね。
そもそも、国試の問題は345問で、化学の出題数はたったの20問です。全体の5.79%しかありません。たとえ、化学を満点取ったとしても、衛生(衛生の出題数は40問)の半分の得点しかないのです。そんな、得点効率が悪い「化学」に膨大な時間を費やしてもしょうがないので、まずはこの3つをやってみましょう。
範囲 | 勉強のコツ |
---|---|
有機化学 | 理解できない範囲や難しい反応等は、一旦飛ばして、基礎的・標準的な部分は理解できるように2~3周まわしましょう。 ①IUPAC命名法、②立体化学、③アルカン、アルケンの反応、④芳香族性(命名、反応)、⑤アルデヒド・ケトン・カルボン酸の反応、⑥酸・塩基の強弱の6項目は重要項目なので必ずマスターしましょう。 |
分析化学 | 1H-NMRの原理は物理で出題され、1H-NMRのスペクトル解析は化学で出題される頻出範囲なので重点的に勉強しましょう。 |
生薬学 漢方薬 |
基原植物、薬効・効能、構造、生合成経路など出題バリエーションが多く、覚えることも多いです。毎日すこしずつ覚えていくと知識が定着しやすいです。コツコツ覚えていきましょう。 |
他科目との紐づけ
「化学」は、単独で勉強すると苦行ですが、他の科目と一緒に紐づけて勉強していくと、"案外おもろいやん"になりやすい科目です。
例えば、①生体高分子を生化学と有機化学で紐づけ、②医薬品と生体分子の相互作用を有機化学と紐づけ、③プロドラッグの医薬品構造を薬物動態学と有機化学で紐づけ、などが挙げられます。苦手な科目・範囲ほど自分が得意な範囲と紐づけて勉強していくと忘れにくい知識になりますし、何より学ぶことが楽しくなります。是非、実践してみましょう。
合格へのアプローチ
① モノからヒトへの正しい考え方
たまにいるんです。『薬理は好きだけど、有機は嫌い』という薬学生。
確かに、ここ2~30年間で薬剤師の働き方は、対象がモノ(医薬品)からヒト(患者さん)へシフトしています。患者さまを中心に考えると、強化すべき科目は薬理や病態・薬物治療であって有機化学ではない。しかし、患者さんが服用する医薬品には、構造があって骨格があって官能基があって薬効があるわけですから。有機化学が苦手な薬剤師はちょっと危ないといいますか、大事なコアな部分が足らないといいますか、正直不安に感じます。
薬学生だからこそ、大学では有機化学の授業やテストがあるでしょう。苦手を得意に変えていけると、薬剤師として将来的に活躍できるのではないかと思っています。そんな有機化学の範囲を色々な角度から切り込んでみましょう。
② よく出る薬を多科目で攻める
[例題]第98回 薬剤師国家試験問題 問97
※引用元:第98回 薬剤師国家試験問題 1日目(2)薬学一般問題
異なる科目の知識を使って、正答までのアプローチを試みる!
1)モルヒネの構造から判断し、正答を導き出す(有機化学の知識を活用して解く)
※引用元:第98回 薬剤師国家試験問題 1日目(2)薬学一般問題
構造中に示されている①②より酸性や塩基性の性質を再度確認する。
①より ・脂肪族Nを含む構造を有している。 ・メチル基(電子供与性を有する)が結合している→塩基性は強い
②より ・フェノール性OHを有する→弱酸性の性質を有する 酸の強さ:カルボン酸>炭酸>フェノール>アルコール
①②とともに把握しておくこと →塩の形成について ・酸性官能基を有する化合物は強塩基と塩を形成し、塩基性水溶液に可溶となる ・塩基性官能基を有する化合物は強酸と塩を形成し、酸性水溶液に可溶となる ・弱酸と弱塩基では塩を形成しない。←今回の解答ポイント
実際に解いていく↓
ルート1 | ①よりモルヒネの構造中には強塩基性の官能基があるため、酸性物質(酒石酸)と塩を形成し、酸性水溶液に可溶となる(水層へ) |
---|---|
ルート2 | ②よりモルヒネの構造注には弱塩基性のフェノール性OHがあるため、強塩基(NaOH)と塩を形成し、塩基性水溶液に可溶となる(水層へ) |
ルート3 | pH9(弱塩基性)のアンモニアとは塩を形成できないため有機層へ |
結果 | このことより有機層4での回収が最も多い! |
2)スタス・オット(Stas-Otto)法から正答を導き出す(衛生薬学+物理の範囲を使って解く)
※引用元:第98回 薬剤師国家試験問題 1日目(2)薬学一般問題
スタス・オット法とは、難(不)揮発性薬毒物を抽出によって分離する方法です。
薬毒物ごとに性質が異なるため、溶媒の液性により薬毒物の抽出される層が変わります。その違いを利用し、各薬毒物をそれぞれ抽出することができます。分子型として水溶液中に含まれる薬毒物は、有機溶媒を用いると、水溶液中から有機溶媒層へ移行します。この原理を利用すると、下表のようになり、解答は有機層4が該当するということになります。
薬毒物の性質 | 【選択肢1】 NaHCO3液層 強酸性物質 |
【選択肢2】 NaOH液層 弱酸性物質 |
エーテル層③ 中性物質 |
エーテル層③弱塩基性物質 | 【選択肢3】 塩基性物質 |
【選択肢4】 フェノール性物質 |
---|---|---|---|---|---|---|
酸性 | 分子型 | 分子型 | 分子型 | イオン型 | イオン型 | イオン型 |
弱酸性 | 分子型 | 分子型 | 分子型 | 分子型 | イオン型 | イオン型 |
弱アルカリ性 | イオン型 | 分子型 | 分子型 | 分子型 | 分子型 | 分子型 |
強アルカリ性 | イオン型 | イオン型 | 分子型 | 分子型 | 分子型 | イオン型 |
例 | サリチル酸 安息香酸 |
バルビタール | ブロモバレリル尿素 | アンチピリン アミノピリン |
コデイン ジヒドロコデインリン ニコチン 覚せい剤 ストリキニーネ |
モルヒネ |
上記のように、衛生薬学と物理を融合した考え方ができると、このような解法も可能になります。日頃から一つひとつのキーワードと科目ごとのポイントを押さえて学んでいけば、いろんな切り口で解答することが可能になります。
③ よく出る薬の傾向をまとめる
プロトンポンプ阻害薬、β-ラクタム系抗菌薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬と薬理ではおなじみの薬が、近年では医薬品合成の範囲でも出題されています。
プロトンポンプ阻害薬、β-ラクタム系抗菌薬、HMG-CoA還元酵素阻害薬の3系統の薬物に関しては、国試に既出されており過去問から合成の流れを推測することは可能です。しかし、新問で上記3系統以外の医薬品合成の問題が出題されると、有機+薬理マニアではない限り初見で解答するのはなかなか難しいと思います。今回は、PPIの問題をピックアップし、解法の流れを確認してみましょう。
[例題]第105回 薬剤師国家試験問題 問206
※引用元:第105回 薬剤師国家試験問題 2日目(1)一般問題(薬学実践問題)く
【解法】
薬物アはプロトンポンプ阻害薬であるラベプラゾールだから...
腸溶錠であるラベプラゾールは、腸管吸収後、酸性条件(胃酸存在)下で、活性化を受け、プロトンポンプ(H+,K+-ATPase)の構造中のSH基とのジスルフィド結合を不可逆的に形成する必要がある。腸溶錠にしている理由は、吸収される前にAのイオン化反応が進行すると作用が減弱する ためであり、粉砕するとAの反応が加速するため、PPIの作用が期待できない ためである。このことより選択肢1が、粉砕後服用すると問題が起こる理由の一つだと推察されます。
選択肢 | 確認事項 | 確認内容 |
---|---|---|
2 | ラベプラゾールの不斉中心はどこか? |
スルフィニル基(S=O) 反応Bでその特性は消失 (本問の解答とは無関係) |
3 | 反応Cで起こっている反応はなにか? |
イミダゾール環の窒素原子の有するHと硫黄原子の有するOHとの間で脱離反応が起こっている(脱水反応) |
4 | 反応Dの過程で起こっていることはなにか? |
PPIとプロトンポンプが有するチオール(SH)基間で生じるジスルフィド結合形成 ※PPIの作用発現に必須の反応 |
5 | 反応A~Dの反応はどこで起こっているのか? |
胃酸による活性化作用が認められるのが反応Aであることから、それ以降の反応も胃酸分泌が行われる壁細胞上で起こっている。 |
薬学生の学習塾「薬進会」(株式会社薬進会)
2009年創立。薬剤師国家試験対策の学習塾。講師は、教室での一斉授業に加え個別指導も行い、現場で薬剤師としても絶賛活躍中。 「わかるまでやる!できるまでやる!」を企業理念に、社会に貢献でき、そして人に優しい薬剤師を輩出することを目指し、その実現のために日々取り組むプロ集団。 現在は自社での講義に加え、大学での講義、企業内定者フォロー、薬学生の学習サポートとして学習コンサルティングなど種々のかたちで薬剤師国家試験対策に携わっている。2020年より「全ての学生が自由に学べる」をコンセプトに「YouTube薬剤師国家試験大学」を運営・配信している。