- 公開日:2021.09.06
<国試対策コラム>生物の勉強法
CBT対策から薬剤師国家試験対策まで支援している、薬学生の学習塾「薬進会様」監修!国試対策に活かせる科目別学習方法や過去問解説をご紹介します。今回は、「物理」や「化学」に比べると、とっつきやすいものの、なかなか得点化されない悪い意味で裏切られる科目No.1「生物編」!
科目別勉強法
裏切られる科目No.1
「生物」は、「物理」や「化学」に比べると、とっつきやすいものの、なかなか得点化されない悪い意味で裏切られる科目No.1 です。裏切られる理由の一つに、出題範囲が[①微生物学][②生化学][③遺伝子系][④機能形態学][⑤免疫学]と切り口が異なる科目の組合せで構成されていることが考えられます。例えば、機能形態学は得意だけど、生化学は苦手だとか。免疫学は得意だけど、他が覚えられないとか。上記①~⑤の各範囲をまんべんなく高いレベルで知識を維持することが難しい科目なので、効率よく勉強を進めるためには各範囲の特徴をつかんでおく必要があります。
ここでは、出題される項目の優先度と特徴をご紹介いたします(ほとんど出題されない範囲は項目から削除しています)。☆マークが多いほど優先度が高くなりますよ。
項目 | 優先度 | 特徴 |
---|---|---|
細胞の構造と機能 | ☆ | 単純に暗記の範囲です。まずは、細胞内小器官の特徴をマスターして全体像を掴んでおきましょう。 |
五大栄養素 | ☆☆☆ | 生化学のメイン範囲です。名称、構造、特徴を必ず理解し覚えておきましょう。エネルギー代謝で使っていきます。 |
酵素・タンパク質系 | ☆☆ | 薬物動態学との紐づけ学習をすると忘れにくい知識を構築できます。 |
遺伝情報系 | ☆☆☆ | 出題頻度は高いですが、遺伝子工学の実験系の問題は難易度が高いものが多いので、ひとまず後回しで。 |
エネルギー代謝 | ☆☆☆ | TCAサイクル、電子伝達系、β酸化など衛生をはじめ他の科目でも活用する範囲なので、正確にマスターする必要がある範囲です。 |
生体内の構造 | ☆☆☆ | 身体構造をビジュアル化して記憶することが重要です。 |
神経伝達 | ☆ | NAd、ACh、GABA、グルタミン酸などは生化学の範囲に紐づけて理解しておきましょう。 |
オータコイド | ☆☆ | アレルギーや炎症反応など病態との関連性が高い範囲です。病態を勉強するときに使える知識になるように系統立てて理解、暗記しておくことが大切です。 |
ホルモン | ☆☆☆☆☆ | 薬理、病態の範囲にも影響を及ぼす重要項目。分類、生理作用などほとんどのことが大事です。 |
生体防御反応、免疫系 | ☆☆☆☆☆ | 出題頻度も高く、薬理や病態・薬物治療にもリンクする範囲です。特に免疫応答の流れ、免疫を担当する細胞、サイトカインは出題必須です。 |
微生物関連 | ☆ | 他の範囲の勉強が終わって、暇な人がやる範囲です。 |
他の科目との連携を意識する
「生物」は他の科目と連携する範囲が多いため、生物単独の知識として覚えておくだけではもったいない。その上、他の科目と連携できる知識を持っていないと、そもそも意味が解らず単なる暗記になりがちです。
例えば、「衛生」で出てくる自然毒アミグダリンは、「青酸配糖体の一種で、腸内細菌β-グリコシダーゼによって分解されシアンが生成される。そのシアンがシトクロムオキシダーゼを阻害する」。といった説明になるのですが、「生物」と連携できないと"ふぅ~ん、そうなんだ、覚えとこっ"となるだけなんです。「生物」と連携できると、[シアンはシトクロムオキシダーゼを阻害する]とあるので、"電子伝達系の阻害だな、ってことは最終的にATPが作られなくなるので、呼吸麻痺になって、最悪死ぬことになるんだな。確かに青酸カリも同じ原理だったもんな"と忘れにくい知識を構築できるようになります。
「生物」が苦手な人ほど、他の科目との連携を意識して、自分の得意分野にひきずりこんでいくと理解しやすいでしょう。勉強に深みもでてくるはずです。他の科目と連携するため、「生物」を学んでいるぐらいの感覚でもいいかもしれませんね。
合格へのアプローチ
① 生物は薬理の土台
「生物」のホルモンの範囲は、暗記力に頼って構造や機能を覚えていく勉強の仕方だと苦行になりがちです。ホルモンの範囲は、薬理や病態と絡めながら進めていくのがベストです。国試の過去問を利用して解法の流れを確認していきましょう。
[例題]第98回 薬剤師国家試験問題 問219
※引用元:第98回 薬剤師国家試験問題 2日目(1)薬学実践問題
【解法の流れ】
まずはインスリンの構造と特徴を思い出してみましょう。「赤文字は、解答に直結する重要事項で、緑文字は機能形態学でおさえておく必要がある関連事項になります」。インスリンは2本鎖のペプチド性ホルモンであり、ランゲルハンス島B(β)細胞で合成・分泌されます。
生合成 |
---|
①インスリンは、アミノ酸21個からなるA鎖とアミノ酸30個からなるB鎖が架橋形成した2本鎖ペプチドである。3ヶ所のジスルフィド結合(-S-S-結合)を有し、そのうち2ヶ所のジスルフィド結合でA鎖とB鎖をつなぎ合わせている。 ②インスリンは、ラ島B細胞内でつくられたアミノ酸114個からなる1本鎖のプロインスリンという前駆物質から合成される。プロインスリンはラ島B細胞内で酵素により切断され、インスリンとC-ペプチドになる。必要時にβ細胞より分泌(それまではβ細胞内に蓄積) →設問1は誤、設問2は正であることが判明 |
分泌 |
食事摂取などにより血糖値が上昇すると、ラ島B(β)細胞からインスリンが分泌される ① 血中グルコース濃度上昇 ② グルコーストランスポーター(GLUT)によりラ島B細胞へのグルコース流入増加 ③ グルコース代謝によりATPを産生(細胞内ATP濃度上昇) ④ ATP感受性(ATP依存性)K+チャネル閉口 ⑤ B細胞内K+濃度上昇 ⑥ 細胞内脱分極 ⑦ 電位依存性Ca2+チャネル開口 ⑧ 細胞内Ca2+濃度上昇 → インスリン分泌促進 → 設問3は誤であることが判明 |
受容体 |
① インスリン受容体は、チロシンキナーゼ関連型受容体に分類され、細胞膜を1回貫通する。インスリン受容体は、α鎖(αサブユニット)2本、β鎖(βサブユニット) 2本からなる4量体構造をしており、3ヶ所のジスルフィド結合でつながれている。また、βサブユニット領域にチロシンキナーゼ活性をもつ。 ② インスリンがαサブユニットに結合すると、βサブユニット領域にあるチロシンキナーゼが活性化し、タンパク質をリン酸化することで生理作用を発現する。 |
生理作用 |
① 血糖低下作用:各組織へのグルコースの取込みを亢進(糖利用促進)、肝臓や筋肉でのグリコーゲン合成を促進・糖新生を抑制 ② 脂肪合成作用 ③ タンパク同化作用 ④ 血中カリウム濃度低下作用 |
適応 |
インスリン療法が適応となる糖尿病(経口無効) |
設問4・設問5は生物+薬理の考え方が必要になります。
続けて解法の流れをみていきましょう。生物+薬理の考え方で設問に関連する項目の俯瞰図は、以下のようになります。この俯瞰図を思い出せればゴールにかなり近づきますね。
【糖の吸収とインスリンの分泌形式】
従って、この問題の正答は、②④と導き出すことができます。機能形態学(内分泌)⇔薬理⇔病態⇔実務と多科目を相互移行できる学習が最終的に賢い学び方になるので、時間はかかるかもしれませんが、一つずつ項目を潰していきましょう。
③ "広く深く"と"効率化"のバランス
まずは、国試の過去問を解いてみましょう。
[例題]第101回 薬剤師国家試験問題 問15
※引用元:第101回 薬剤師国家試験問題 1日目(1)必須問題
ここでは、2つの解き方をご紹介します。
一つは、解答を出すだけの【シンプルな解法】。もう一つは、【広く深く考えた解法】になります。初めから、広く深く考えることはできないと思いますが、出来る範囲で意識して解答することを心がけてみましょう。
【シンプルな解法】
貪食能を有し、単球が分化したものは"マクロファージ"である。解答は、4番。
【広く深く考えた解法】
マクロファージは、血液中の単球が組織に移行して成熟した単核食細胞であり、肝臓ではKupffer細胞、骨組織の破骨細胞などが挙げられる。マクロファージは、自然免疫を担う細胞であり、その細胞表面にパターン認識受容体やIgGのFc受容体などを備える。活性酸素やリゾチーム、抗菌ペプチドなどの作用によって抗原や免疫複合体を消化・断片化する。また、マクロファージは、その消化・断片化した抗原断片をクラスⅡMHC分子に結合して細胞表面に発現し、ヘルパーT細胞(Th1)に対して抗原提示を行う、抗原提示細胞としても知られている。解答は、4番。
国試の勉強は、膨大な量の内容を限りある時間で進めていく必要があり、「効率化」だけを意識して勉強を行うこともあるかと思います。もちろん、「効率化」は重要ですが、何でもかんでも効率化すると、理解している内容が薄くなり、結果として遠回りになることも。じっくり時間をかけて、「広く深く」勉強することも重要です。「効率化」と「広く深く」のバランスを保ちながら、勉強を楽しく進めていきましょう。
薬学生の学習塾「薬進会」(株式会社薬進会)
2009年創立。薬剤師国家試験対策の学習塾。講師は、教室での一斉授業に加え個別指導も行い、現場で薬剤師としても絶賛活躍中。 「わかるまでやる!できるまでやる!」を企業理念に、社会に貢献でき、そして人に優しい薬剤師を輩出することを目指し、その実現のために日々取り組むプロ集団。 現在は自社での講義に加え、大学での講義、企業内定者フォロー、薬学生の学習サポートとして学習コンサルティングなど種々のかたちで薬剤師国家試験対策に携わっている。2020年より「全ての学生が自由に学べる」をコンセプトに「YouTube薬剤師国家試験大学」を運営・配信している。