- 公開日:2020.03.31
調剤報酬改定から読み解く、「薬剤師に求められる役割」とは?-ファーマシーセミナーレポート-
2020年2月7日、中央社会保険医療協議会の総会にて診療報酬改定の方向性が出され、薬剤師の対人業務への適切な評価と、対物業務への評価の見直しが示されました。診療報酬は、国が薬局・薬剤師に求める業務に対し正当な点数をつけることで、薬剤師のやるべき業務を明確化しています。そのことを理解し、実際に生かせるかどうかが今後、生き残る薬局・薬剤師となれるかの岐路なのです。
今回は、2020年2月16日に開催された株式会社メディカルリソース主催の『保険薬剤師のための調剤報酬改正セミナー』の内容を一部ご紹介します。講師は、日本調剤株式会社の後藤大輔さん。「患者のための薬局ビジョン」が示された2015年からの動向を復習しつつ、2020年の調剤報酬改正についてお話を伺います。
国が求める「薬局・薬剤師の姿」を紐解く
日本は少子高齢社会です。2025年には団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、医療や介護などの社会保障制度が増大する未来が控えています。国は、「社会保障と税の一体改革」で税収の確保を目指し、同時に社会保障費をおさえるために地域医療構想を打ち出し、地域包括ケアシステムの構築を進めています。厚生労働省が出した『地域包括ケアシステムの実現に向けて』には、以下のような記載があります。
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2025年を目処に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。
▼引用元はこちら:『地域包括ケアシステムの実現に向けて』
地域包括ケアシステムで求められる薬局・薬剤師の主な業務といえば、在宅医療でしょう。在宅医療では、かかりつけ医師、かかりつけ歯科医師、訪問看護や介護職の方々との連携が不可欠。そこで必要となるのは、薬剤師による地域ケア会議や他職種連携会議への参加です。また、病院での加療(入院)に比べると、在宅医療のコストの方が約1/10に抑えられるということも在宅医療が推し進められる理由です。
基本方針について<これまでの動向>
厚生労働省は、2015年10月23日に『「患者のための薬局ビジョン」〜「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ〜』を策定し、健康サポート薬局に関する省令を公布しました。2016年の改定には「かかりつけ薬剤師指導料」が、2018年には「地域支援体制加算」などが導入されています。
これらの取り組みに共通するのは、対人業務による評価項目がここ数年で多数新設されたこと。加えて『調剤業務の在り方(0402通知)』が発出され、事実上、非薬剤師が簡単な調剤業務を行えるようになりました。この発令により、薬剤師が本来力を発揮すべき対人業務に専念できる環境が整えられたのです。
その後、改正された『医薬品医療機器等法(薬機法)』では、「専門医療機関連携薬局」と「地域支援連携薬局」を導入。薬機法改正の議論では、薬剤師に対する要望が多数寄せられ、『薬剤師が本来の役割を果たし地域の薬局を支援するための医薬分業の今後の在り方』という特別なとりまとめが示されました。
2020年度診療報酬改定について
2020年2月7日に示された診療報酬改定は、前回の方向性はそのままに対人業務を評価し、対物業務への評価を見直すこととしています。ここでとくにおさえておくべきなのは、「地域支援体制加算」です。これからの薬局は、「かかりつけ薬剤師による適切な薬学的管理の提供」、「あらゆる処方箋に対していつでも調剤業務を提供できる体制」に加え、「安全性向上に資する事例の共有」なども含めて地域支援に貢献していくことが求められています。これらをふまえ、地域包括ケアのなかで地域医療に貢献する薬局を評価し、「地域支援体制加算」として申請することとしています。
「地域支援体制加算」では、調剤基本料1の薬局に求める要件が厳しくなりました。具体的には、「麻薬小売業者の免許を受けている」、「かかりつけ薬剤師指導料に係る届け出を行なっている」、「在宅患者薬剤管理の実績12回」の3項目を必須要件とし、「文書での服薬情報提供が12回」もしくは「研修を修了した薬剤師が他職種連携会議の参加実績1回以上」の場合に算定可能となります。しかし、調剤基本料1以外は、新設項目として「会議の参加実績5回以上」が加わり、9項目中8項目の要件を満たさなければ算定できません。
このように、様々な対人業務の実績が必要な「地域支援体制加算」は、薬局の業績にも大きな影響を与えます。そのため、「地域支援体制加算」の各項目は避けて通れない取り組みとなるでしょう。
生き残る薬局・薬剤師になるために
対物業務から対人業務への構造的変換は、これからの薬局・薬剤師が果たすべき社会的要請と受け取るといいでしょう。調剤料に依存して近隣医療機関の処方箋を応需するのではなく、医療の担い手として患者さまに寄り添い、ポリファーマシーや重複投与、残薬問題などへ真摯に向き合える薬局・薬剤師が求められています。
国民が最も薬局・薬剤師に期待する機能を充実させ、対人業務のメニューを増やしていくためには、病院薬剤師はもちろんのこと、地域かかりつけ医をはじめとした他職種や専門医療機関、訪問看護ステーション、居宅会議支援事業所、行政機関などとの連携を進めていかなければなりません。健康サポート機能をあわせもつ「かかりつけ薬局・薬剤師」となることが、今後生き残っていくための重要な責務となるでしょう。
調剤報酬改定は、「あるべき薬剤師の姿」を示すもの
国は地域包括ケアシステムの構築を目指しており、これからは地域包括ケアのなかで地域医療に貢献する薬局・薬剤師を求めています。調剤報酬改定は、今後の薬剤師のあるべき姿を示した加算であり、地域に貢献する薬局・薬剤師を評価する制度であることをしっかりと認識しておきましょう。国からの要請をしっかりと理解し、いち早くそれに取り組むことこそが、薬局・薬剤師に必要とされていることなのです。
- 実践ファーマシーセミナー
- -ポリファーマシーと減薬提案-
- 2020年2月16日(日)
- 講師:日本調剤株式会社 薬剤本部
- 後藤大輔様
ファルマラボ編集部
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