業界動向
  • 公開日:2020.09.18

薬剤師のスキルアップ「持てる知識は患者さまのために」<三上彰貴子インタビュー 第1回>

薬剤師のスキルアップ「持てる知識は患者さまのために」<三上彰貴子インタビュー 第1回>

迫り来る高齢社会、そしてAI時代に向けて、薬剤師は対物業務から対人業務へとシフトしていくことが方針として固められています。それに合わせて薬剤師も今までとは違ったスキルを備えていかなければならない時代に突入しました。

「わかっていてもなかなか勉強する時間がない......」
「どのように勉強をすればいいのかわからない......」
「そもそも何を学べばいいのかわからない......」

そんなふうに悩む薬剤師は、意外にも多いのではないでしょうか。そこで今回お話を伺ったのは、かつて製薬会社のMRとしてご活躍され、その後メディアでの執筆や経営コンサルタント、登録販売者講師、経営者などを幅広く手がける三上彰貴子【みかみ・あきこ】さん。連載第1回では、その多彩なご経歴から学ぶ【情報のキャッチアップ法/スキルを磨くことへの意識/これからの薬剤師が身につけるべきスキル】などについてお話を伺いました。

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知識は必要とする人に届いてこそ意味がある

三上彰貴子先生

ご自身でスキルアップのために日頃どのような情報のキャッチアップをされているのか教えてください。

定期的に流れてくるメルマガを見たり、もちろんWebニュースを見ることもあります。しかし多くの場合、Webなどの情報は表面的で腑に落ちない部分が出てくるんです。ですから、必要に応じてセミナーなどに足を運んだり、現場の薬剤師の知り合いに電話をして実際の話を聞いたり......。フィールドワーク的に情報をインプットすることで、実際の現場にすぐ生かせるよう情報収集を行ってきました。

なるほど。そうした情報のキャッチアップのために、具体的にどのようなことをされたのでしょうか?

何もしないと情報は入ってこないので、誰かと会ったり、話したりすることが大切だと思っています。たとえば色々な情報を発信している友人と会ったり、自分が興味のある情報を発信するFacebookや薬剤師のグループFacebookなどを見たり......。そこから「みんなこういうことに悩んでいるんだな」「最近こんなセミナーがあるんだ」とヒントを得て、現状の課題や現場の悩みをキャッチアップします。

「フィールドワーク」という言葉が印象的です。勉強や情報収集というと、本を読んだり、ビデオ学習の動画を見たり、「座学」という概念がありました。

もちろん大学時代は座学がメインですし、本を読んで色々な人の人生や知見を知るのはとてもためになります。でも、たとえば『薬局のつくりかた』という本を読んでも、そう簡単にはいきません。実際にやった人に話を聞くとドロドロと苦労した裏側が見えてくる。しかし、そういう本当に必要になる部分は、本には載っていないことがほとんどです。

座学とフィールドワークで実践的に学ぶのとでは、情報にも差があるのですね。

そう感じています。薬剤師はとくに座学が多い職業だと思いますが、果たしてそれが患者さまにそのまま使えるのかどうかは考えなければいけません。時々薬局を手伝っていますが、持っているはずの知識を活用できていない薬剤師の多さに愕然としました。最近では副作用や薬の飲み合わせについて説明することもありますが、患者さまから質問を受けた時も一辺倒な答えが多い印象です。

たとえば、「子どもが薬を飲んでくれない」と相談してきたお母さんに対して、教科書通りに説明してしまいます。それで患者さまが納得されているならよいですが、「それでも飲まないんです」と言うお母さんに「でもこうなので」や「医師と相談してください」とそのままにしてしまう。そういうとき、患者さまの大変な気持ち、辛い立場を理解した経験や体験談が知識としてあると、患者さまに寄り添ったより深いコミュニケーションが取れますし、そこで得た信頼は、感謝のみならずお金やキャリアとしても返ってくるでしょう。

大学までは自分の関心のために勉強をしている場合が多くを占めるので、どうしても自身の好奇心が勝りがちです。しかし、社会に出てからは、今まで自分のために頑張ってきた勉強を、今後は「いかに人のために使うか」というマインドチェンジがポイントになるのかもしれません。

「ふたつの柱」が薬剤師の強みになる

そうした情報収集のほかに、若手薬剤師はスキルアップのためにどのようなことをすればいいのでしょうか?

まずは、そもそも何のためにスキルアップをしたいのかを考えるところからはじめましょう。漠然と続けているだけでは形にならないと思います。

5年後、10年後に、自分のなりたい薬剤師のロールモデルを学会やネットなどで見つけるのもひとつです。ロールモデルは複数人いてもいいでしょう。その人のすべてを真似ることは難しいので、具体的に参考にしたい部分をあげて、どのようなスキルを身につければその人に近づけるかを考えます。そのスキルが分からない場合には、今はFacebookなどもありますし、直接憧れの人に聞いてみてもいいかもしれません。

もしそうしたロールモデルが見つからない場合は、どうすればよいでしょうか?

私なら、まずはニーズを知るために患者さまや医師と話をします。これは実体験ですが、20代前半のMR時代、開業医の先生に「この薬を使ってください」と宣伝したときに、「患者がいないから使えない。どうやったら患者が増えるのか考えてみて」と言われてマーケティングの勉強をするようになりました。そもそも患者さまが増えなければ、この病院も薬局も無くなってしまうでしょう。だからこそ、私がマーケティングを勉強して、一緒に発展する方法を考えたいと思ったんです。入り口はどうあれ、自分が「こうしたい」「こうなりたい」というものをみつけて、逆算すること。そうすれば自分が目指す方向が見えてくるはずです。

マーケティングなど、薬とはまた違う分野でもいいのですね。

もちろんです。「キャリアはつくるものではなく、振り返るとできているものだ」と恩師にも言われました。キャリアというのは、色々なことがあって、色々な経験をして、気づいたらキャリアができているものではないでしょうか。薬剤師は資格がある分、一定のキャリアがはじめからあるので、それに甘えてしまっている部分が大きいと感じています。資格があるとそればかりになってしまいがちなので、「薬にこだわらないで違う角度から何かをやれる」というのはとても大きな強みになるはずです

たとえば、"薬と経営"で売れている薬についての記事を書いたり、"薬と食"なら医食同源の記事を書くことで役に立てたりするかもしれません。資格だけだと金銭的な面でもそこを頼らざるを得ないので、2本以上の柱があると自分の幅を広げていけるし、自分自身も楽しむことができるでしょう。そのためにも色々な人と話して、人生には様々な道があると知ったり、行き詰まったときに「ほかの道もある」と視野を広げたりすることが大切です。

スキルアップに必要なのは、"強い想い"

三上彰貴子先生

若手薬剤師のなかには「仕事が忙しくて勉強をする時間がない」という方も多いと思います。三上さまは働きながらどのようにして勉強時間を捻出しているのでしょうか?

私も27歳くらいの頃、製薬会社でMRの仕事をしながら、MBA取得に向けて勉強をしたり塾に通ったり色々していました。でもそれは本当にやりたかった目標だったからできたのだと思います。本当にやりたいなら、その時間を捻出できるのではないでしょうか。

ドラマは撮り溜めして2倍速で観る。数時間の睡眠でもなんとか乗り切れるものです。「やらなきゃ」「やりたい」と本気で思っていたら、隙間時間は絶対に無駄にできません。

なので、「時間がなくてできない」なら、そもそも本当にやりたいという"想い"があるのかを考える必要があるかもしれません。やはり想いがないと、私も「今日は寝ちゃおう」となってしまうので、想いを強くもつことはとても大切です。

三上さまは想いを強くもつために、どのようなことをされていましたか?

当時私の目標はMBAのために勉強をすることでしたが、勉強がただのタスク(作業)になってしまうと、どうしても優先順位が下がりがちです。ですから、何のためにやるのかを整理して、前日の夜や週のはじめに自分のなりたいものや目標を紙に書いていました。

それから、ひとつ私にあるのは「引け目」。周りの方がすごくキラキラして見えたり、自分が叱られたりすると「自分ももっとやらないと」「悔しい」という想いで頑張ってしまいます(笑)。私のような引け目のほかにも、「褒められてやる気が出る人」や「目標があってできる人」もいるでしょう。そうした自分のやる気となるトリガー(やる気スイッチですかね(笑))を早いうちに知っておくといいかもしれません

ありがとうございます。最後に、スキルアップを考える若手薬剤師にメッセージをお願いします。

私は一度、人生を逆算して考えてみたときに、すごく怖いと思いました。人生80年と考えて、60歳まで働くとしても大学卒業から35年くらいしかありません。それに、もし自分に「40歳までバリバリやって、あとはゆっくり仕事がしたい」「〇〇歳で子どもを産みたい」「自分の薬局をもちたい」などの目標や理想があったら、さらに時間がありません。だから皆さんはまず、自分が30歳になったとき、35歳になったときにどうなっていたいのかを考えて、今何をすべきなのかを一度立ち止まって考えてみるといいですね。

ぜひやってみて欲しいのは、「イメージトレーニングノート」。自分のやりたいことや欲しいものを100個書き出すというものです。私は27歳くらいからやっていて、そのときに言っていたことはだいたい実現しています。ポイントは、年に数回は見直すこと。実現していくと描いていた方向性や欲しい物が変化するからです。ぜひ、具体的に思い浮かべて、実現させちゃいましょう(笑)。20代や30代は色々な人と出会って色々な経験をして、ときには無駄に思える時間もあるかもしれません。しかし、それも振り返ればきっと意味があるはず。「今」の時間を大切に過ごして欲しいなと思います。

まとめ

「キャリアはつくるものではなく、振り返るとできているもの」と語る三上さんご自身も、様々なキャリアを通過点に現在のご活躍があります。薬剤師のキャリアアップは、これまでのような専門性を高めるだけにとどまらず、様々な個性や独自の強みをもち成し得ることができるようになりました。

次回、第2回目の連載では、ふたつの柱をもつ薬剤師をテーマに"薬剤師と「もうひとつの柱」の見つけ方"についてお話を伺います。これから活躍の幅を広げる薬剤師として自分の価値を高めていきたい方は、ぜひチェックしてみてくださいね。

▼▼ 三上彰貴子さんのインタビュー一覧


第1回 薬剤師のスキルアップ「持てる知識は患者さまのために」
第2回 薬剤師と「もうひとつの柱」の見つけ方
第3回 女性薬剤師のキャリア「ライフステージの変化は"強み"になる」
三上彰貴子さんの写真

    三上彰貴子(みかみ・あきこ)さん

外資系製薬株式会社勤務後、慶應義塾大学にてMBA取得。 卒後、朝日アーサー・アンダーセン(現PwC)にて主に医療分野のコンサルティングを手がける。 2005年より独立し、株式会社A.M.Cの代表取締役となり、製薬会社・化粧品会社関連のマーケティング、人財育成セミナーなどを行う。 現在は、薬科大学博士課程にて研究も行う。 その他、薬局薬剤師、登録販売者向けの講師、薬科大学非常勤講師にも携わる。

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記事掲載日: 2020/09/18

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