業界動向
  • 公開日:2020.10.16

女性薬剤師のキャリア「ライフステージの変化は強みになる」<三上彰貴子インタビュー 第3回>

女性薬剤師のキャリア「ライフステージの変化は強みになる」<三上彰貴子インタビュー 第3回>

ここ数年では、ライフステージが変化しても働くことを選択する女性が増えています。しかし、そうしたライフステージの変化に備え、今後のキャリアをどのようにつくっていくか悩んでいる薬剤師の方は多いのではないでしょうか。

お話を伺うのは、1児の母として、薬剤師として、経営者として精力的に活動される三上彰貴子【みかみ・あきこ】さん。連載第3回目では、結婚、出産、転勤、そして離婚などの様々なご経験をされてきた三上さんから【女性のキャリアの考え方/キャリア分断/ライフステージの変化】などについてお話を伺いました。

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女性薬剤師のキャリアはどう描く?求められる薬剤師になるには

三上さまは結婚や出産と様々なライフステージの変化をご経験されたかと思います。その中で、女性薬剤師はキャリアをどのように描いていくことが望ましいと考えていますか?

薬剤師が余る時代にも、「あなただから欲しい」と言われるようなキャリアを築いていく必要があると思っています。しかし、女性はライフステージの変化で、仕事を辞めたりパートに転身したりすることも多いでしょう。そうした環境下でも、求められる薬剤師になれるよう努力することが大切だと思います。

ただし、女性の場合は、キャリアプランを描いても必ずしもその通りに行くわけではないことを念頭においておくとよいかもしれません。私も20代の頃、自分の人生計画として1年ごとにどうなっていたいかを紙に描いていたことがあります。でも、32歳で結婚したあとからは、全部崩れました(笑)。

理想は色々あっても、すべてその通りに進むかといえばそうではないですよね。

はい。令和の時代でも、男性の場合はそうしたライフステージの変化で転居や退職を迫られるなど仕事に影響が及ぶことはあまりないと思います。だからこそ目標を定めていないと厳しいですが、女性の場合は何があってもフレキシブルに対応できるようにしておく必要があるんです。専門性を高めたり、日々の積み重ねで周りからの信用を得たり、前回のインタビューでもお話しした「ふたつの柱」をもつのでもよいでしょう。しかし、無理にふたつの柱を見つけなくても、薬剤師としてのキャリアを極めればいいだけ。それには研究や地域活動など様々な形があると思います。もちろん、主婦としてのキャリアも薬剤師の業務に生きてきます。

デジタル化が加速するアメリカをみてきましたが、薬が工場で一括調剤され配達されてしまうようになれば、薬剤師は今の半分くらいでも足りてしまいます。そうなったときに、やはり周りから求められる薬剤師でなくては、薬剤師として安定的なキャリアを築いていくことは難しいのです。

女性のキャリアプランの描き方。自分の理想を叶えるために

三上彰貴子先生

三上さまは、プランを立てたときに結婚や出産の時期も計画していましたか?

予定とは変わりましたけど、もちろんです。色々な別れや出会いなどの巡り合わせがあってなんとか出産に至ったので、結果的に想定より10年以上遅れて子供を授かりました。超高齢出産です。でも、こうしたイベントをあらかじめプランしてイメージしておくことも大切だと感じています。私も出産こそ希望のタイミング通りにはいきませんでしたが、結婚はXX歳までにはと想定していた年に一応することができました(笑)。

そのとき思ったのは、目標達成の期限を決める事。「いつか〇〇したい」という「いつか」では願望はいつまでも叶わないでしょう。たとえば「28歳までに結婚する」と期限をある程度設定していたら、逆算して遅くても1-2年前ぐらいの26歳頃から行動しはじめるのではないでしょうか。これは結婚に限ったことではなくて、「英語ができるようになりたい」「資格を取りたい」という場合にも同じことが言えます。期限の設定が目標達成には重要です。

出産は自分の意思だけではできないのを、不妊治療を経験して感じました。でも、結婚や資格、留学、独立のようなことなら自分の意思でもできると思います。自分の意思でできることには期限を決めて取り組む。もし将来、結婚や出産を視野に入れているのなら、きちんとプランの軸に入れておいたほうがいいですね。

人生100年時代とは言え、出産にはリミットもあります。そこで愕然としないためにも、20代で産婦人科に通って自分は妊娠できる身体なのかどうかをチェックすることも大切です。それもせずに欲しいと思ったときに「あれ?」となってしまうのを防ぐためにも、前段階で考えて対策しておくことも重要だと思います。

働きたい女性が「キャリア分断」を乗り越えるために

結婚、出産を考えていても働き続けたいと考える女性は多くいます。しかし、出産などによるキャリア分断は、女性にとって大きな悩みのひとつになるのではないでしょうか。

そうですね。私自身も自分のこれまでのキャリアがなくなってしまうのはとても怖かったし、社会と断絶されてしまうのがすごく怖いと感じていました。だから妊娠前から、在宅でできるような執筆や調査関係の仕事を経験させてもらえるようにしました。妊娠したときには、会社に相談して在宅でできる仕事にほぼ全面的にシフトしました。実は、その後アメリカに2年ほど滞在する機会がありましたが、スカイプで会議したり、日本での仕事をそのまま米国でもできるようにして、仕事を継続することができました。時差があるなかで、今のリモートワークを早々と経験してましたね(笑)。クライアントの会社には感謝してもしきれないぐらいです。

それから私の場合は、仕事がなかなかできなくなると考え、時間のコントロールが自己責任になる大学院に行ってキャリア分断をしないようにしてきました。

学び直しを妊娠・子育て期間にするのですか?

そうです。アメリカでは女性が妊娠すると、MBAや大学院に入り直す方がよくみられます。妊娠・出産期間はキャリア分断ではなく、新たなキャリアを伸ばすチャンスだと考えているようです。それからヒントを得て、妊娠・子育てをしている期間にいかに自分のスキルを伸ばせるかについて考えていました。

一般的に、休みを取るべきとされるタイミングであっても、自分自身に投資できることは意外とあると思います。会社や家庭がそれを許してくれるなら、たとえばプログラミングを習ってみてもいいですし、英語を勉強してみてもいいかもしれません。子育てをしているとそれだけで疲れてしまうし、眠くもなるんですけどね。

どのようにして子育てと勉強を両立されていたのでしょうか。モチベーションの源もお聞きしたいです。

たとえば子どもが寝ているときなら、ポッドキャストで世界ニュースを聴いたり、家事をしながらオーディオブックを聴いたり......。もちろん眠いときには子どもと一緒に寝ますけど、子どもと一緒に英語の絵本を読んだり、動画を観たり......。これはやってみてわかったことですが、赤ちゃんなら6ヶ月頃までは腕と膝のうえで寝かせてパソコンを打てます。7ヶ月以降は動き回ってしまうので、子どもが寝ている時間を勉強にあてたりしていましたね。

でも、これには根本的な体力が必要になるなと改めて思います。やはり両立を頑張っている方を見ると、とても元気な方が多いんですよね。体力があると集中力も続くので、日頃から体力をつけておくことをオススメします。

それから、子育てって思っていたよりも心に負担がかかることが多いんです。自分の犠牲のうえに成り立っていて、子育てだけしているのが辛く感じることもあって......。私も仕事をしていて子どもに「申し訳ない」と思うこともあったけれど、その分子どもと向き合える時間もつくれたと思っています。反対に子どもばかりになってしまったときは仕事の時間をつくったりして、そのバランスが私にはちょうどよかったのかもしれません。

ライフステージの変化は "強み"にもできる

三上彰貴子先生

現状では男性社員が育休を取りにくいという話もSNSなどで見かけることがあります。働く女性は増えているものの、両立をするにはまだ難しい課題が残っているのも感じます。

そもそも会社は男性社会のなかでつくられてきた組織形態です。従来の働き方は、がむしゃらに体力が続く限り働いて、今もその風潮が残る会社は薬剤師業界に限らず多くあります。今は過渡期なので女性は専業主婦にもなれるし、子育てに注力した働き方ができますね。でも、今後は男性も子育てを当たり前にする時代になって、男女関係なく様々な選択肢が取れるようになっていくはずです。そうしたときに、やはり個人だけではなく、企業側も同じように変わっていく必要があると思っています。それでなければ、女性のキャリア形成は難しいでしょう。

アメリカでは、女性のキャリアアップのために、男性が一定期間主夫になっている家庭も普通に目にしました。また、夫婦でどちらが働くかスキルアップするか、子育てをするかと数年間交互に役割分担をしているみたいですね。

ただ、もしキャリア中断のようになっても諦めないで欲しいのは、私たち薬剤師の仕事は、健康や薬というところで必ず人生のなかに入ってくるものなんです。ライフステージがいくら変わっても、必ず薬剤師のキャリアにつながっていくはず。それがたとえば身内の介護なら「高齢者にはどんな薬を使えばいいのか」「どうやったら薬が飲みやすくなるか」という気づきを得たり、子育てなら薬で悩んでいるママ友の悩みを聞いて日頃ママたちがどんな悩みを抱えているのかを理解することもできたり......。ライフステージの変化というと悪いものと思われがちですが、それによって知見や経験が広がっていくことがたくさんあります。

大切なのは、薬剤師として世の中の悩みや課題を見る視点だと思います。たとえば結婚を控えた友人がストレスでニキビができやすいのを気にしているのであれば、私たちは医家向けのニキビ薬の存在や、「結婚式の前にはビタミン剤を摂るとよい」などというアドバイスをしてあげることだってできるんです。そうした日常に起きること一つひとつを薬剤師という立場から見ていくことで、自分のやるべきことに自然とつながると思っています。

日常のなかにこそ、薬剤師としての経験を積める場面がたくさんあるのですね。では最後に、これからキャリアをつくっていく女性薬剤師にメッセージをお願いします。

男女問わず不確実な時代なので、色々な不安を抱えて過ごしていると思います。女性はホルモンバランスの影響で情緒不安定にもなるし、組織はいまだ強い男性社会のところもあってぶつかる壁は多いかもしれません。でもだからこそ、今の時代では女性の柔軟性がとても重要だと思っています。

私たちはどこに行っても求められる薬剤師になれるように、自分で興味好奇心を維持しながら続けていくことが大切です。不安に思って考えてしまうときこそ、目の前のことに集中しましょう。そして、その先自分がやりたいことができたときに思い存分打ち込めるよう、体力をつけておくこと。

それから絶対に覚えていてほしいのは「困っているときは周りの人に助けを求める」ということ。周りを動かす力も重要です。薬剤師の特性として、自分がやった方が早い、自分でやろうと抱え込む人が多いので、「抱え込まない」というのはひとつのキーワードだと思っています。子育てや介護などにも言えることですが、自分だけでできることには限りがあるもの。上手に周りを頼って自分だけのキャリアを築いていって欲しいと思います。

まとめ

結婚、出産、転勤、介護......。自分の人生を考えるうえで、こうしたライフステージの変化はどこかのタイミングでやってくるもの。そうした状況も薬剤師としての経験や個人の強みを育むひとつの武器となり、育児に専念する時間は両立によって自分への投資の時間として活用することもできます。女性の柔軟性を生かし、求められる薬剤師になっていくためには、日々の生活のなかでのちょっとした心構えや考え方を少し変えてみることが大切なのかもしれません。

▼▼ 三上彰貴子さんのインタビュー一覧


第1回 薬剤師のスキルアップ「持てる知識は患者さまのために」
第2回 薬剤師と「もうひとつの柱」の見つけ方
第3回 女性薬剤師のキャリア「ライフステージの変化は"強み"になる」
三上彰貴子さんの写真

    三上彰貴子(みかみ・あきこ)さん

外資系製薬株式会社勤務後、慶應義塾大学にてMBA取得。 卒後、朝日アーサー・アンダーセン(現PWC)にて主に医療分野のコンサルティングを手がける。 2005年より独立し、株式会社A.M.Cを代表取締役となり、製薬会社・化粧品会社関連のマーケティング、人財育成セミナーなどを行う。 現在は、薬科大学博士課程にて研究も行う。 その他、薬局薬剤師、登録販売者向けの講師、薬科大学非常勤講師にも携わる。

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記事掲載日: 2020/10/16

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