業界動向
  • 公開日:2020.10.02

薬剤師と「もうひとつの柱」の見つけ方<三上彰貴子インタビュー 第2回>

薬剤師と「もうひとつの柱」の見つけ方<三上彰貴子インタビュー 第2回>

「もうひとつの柱」をもつ薬剤師の活躍が目覚ましい昨今。そうした様々な強みをもつ薬剤師の活躍の幅は、従来の薬局や病院、製薬会社だけにとどまりません。これまでのように、ひとつのことを極めるキャリアだけではなく、様々なことにチャレンジして活動の幅を広げていくこともまた、キャリアアップのためのひとつの方法です。

第2回目の連載では、「薬剤師×MBA」という異色のキャリアをもつ三上彰貴子【みかみ・あきこ】さんに、薬剤師と「もうひとつの柱」の見つけ方についてお話を伺いました。

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ふたつの柱をもつ意義とは?必要なのは「話の引き出し」と「ちょっとした好奇心」

もちろん薬剤師としての専門性を高めるのもひとつのスキルアップだと思いますが、三上さんはふたつ以上の柱をもつことについて、具体的にどのようなメリットがあるとお考えですか?

ふたつ以上の柱があると、薬剤師としての側面だけでない多角的な視点でものごとを見られるようになります。私の場合は薬剤師と経営を軸にしたことで、薬局経営という視点でもものごとを捉えられるようになりました。

それから今は主婦や子育てという軸もできたので、子どものいらっしゃる患者さまの服薬指導では、より踏み込んだ対応ができます。「そうですよね。大変ですよね、私もそうでした。お気持ちは分かります」と同調できることで、お母さんたちから信頼されたり分かってもらえて嬉しいと感謝されたりすることが多くなりました。これは教科書通りの対応ではなく、きちんと患者さんの立場に立って治療や薬のことを考えられるようになってきたからだと思います。

こうして多角的な視点で見られるようになると、人生の幅も広がりますし、仕事の幅や見え方、感じ方も変わってきます。例にあげた育児だけではなく、たとえば介護の経験なども該当します。

なるほど。薬剤師以外の柱というのは、そうした"経験"でもよいのですね。

そうですね。私の場合は「薬剤師と経営」を軸にしていますが、何か自分がもうひとつ自信を持てるものがあればその軸をより太く、自分の強みにしていくようにしてみるのも手ですね。たとえば「話をするのがうまい」とか「食事や運動に詳しい」、「相互作用や副作用の対処法に詳しい」などでもよいのです。こうした強みは、患者さまだけでなく医師と話すときにも話題にできるもの。多角的な視点で見られるということは、様々な面から人の役に立てるということです。心にも余裕ができるので、世の中が広がってとても面白いものになるはずですよ。

三上さんはMBAを取得されて仕事の幅は広がりましたか?

そうですね、広がったと思います。でも、MBAをもっていなくてもコンサルティングファームで働くことで幅は広げられたのかもしれません。ただ、MBAを取る過程でも取得後でも、色々な職業の方とお話できる機会に恵まれ、お仕事を任せてもらえることもありました。話の引き出しが増えたことで色々な出会いがあり、仕事の幅も広がったのだと思います。

どのようなかたちであれ、スキルを培ったあと大切なのは、「できない」と思うことでも挑戦してみようとする気持ちです。私も以前ある会社から「ホームページ(webサイト)をつくって欲しい」と依頼があったときに、「ホームページはつくれないけど、イメージ画面ならつくれると思う」ということで、自分だったらこうしたいと思う企画を提案したんです。それを気に入っていただいて、更に大きな仕事につながりました。深い知識はなくても、ある程度の知識とやる気があれば、自分の枠を超えた提案が受け入れてもらえることもあります。そのときは、経営的な視点をもっていたからこそ声がかかったのだと感じているので、こうした「話の引き出し」と「ちょっとした好奇心」で自分のキャリアの幅はますます広がっていくはずです。

自分だけのキャリアを築くために。意のままに動く20代、振り返る30代

三上彰貴子先生

三上さんのようなもうひとつの軸を見つけるために、20代、30代ではどのようなことをすべきでしょうか?

やはり20代くらいまでは、やりたいことをどんどんやっていくことだと思います。基本的には自分がやりたいと思うのであればやれるでしょうし、それが強みになります。やりたいことを強みにできるようセミナーへ通ったり、資格を取ったりするのもひとつの方法です。それからさっき言ったように、子育てや介護といった経験を強みにできる場合もあります。やりたいことを27歳くらいまで積み上げていくと、30歳くらいには強みになっているでしょう。

今、やりたいことがなければ、他業界でも頑張っている人の話をたくさん聞くのもいいかもしれません。そこから時代はどう動いているのか、自分はどう動くべきかなど何かヒントが得られることもあります。

30歳からは今までやってきたことの振り返りも必要で、「自分ができること」と「やりたいこと」を整理します。そのうえで、「自分にできて、やりたいこと」を見つけて強化していくといいかもしれません。自分にできることを考えていくと、意外とそのあとどう動けばいいか自分の方向性が見えてくるでしょう。

これは変わった事例ですが、薬剤師でガンダムがとても好きな方がいます。その方は今薬局を経営されていますが、室内はガンダムだらけ(笑)。そういうのも面白いですよね。患者さまから見たら「この薬局面白いな」となるかもしれないし、好きなことを突き詰めていけば大体30歳くらいにみんな芽が出てきているように思います。

本当に多種多様ですね。とは言っても、なかなか好きなものを極める......というのも難しいように思います。

大切なのは、自己暗示です。私には幼稚園の子どもがいますが、「絵がうまいね〜。特に鯛が良く描けたね」と褒めていたら本物の鯛を買ってほしいとねだられ、よく観察してどんどん上手な絵になっていきました。今では「鯛の絵なら任せて!」と、誇らしげです(笑)それは大人も同じだと思うんです。「自分はパソコンに強い」と思っていたら、自然とその類の情報を自分のアンテナで拾っていくので、結果詳しくなることは意外と多いのではないでしょうか。

それから、多くの方は自己評価が低いと感じています。みんな本当は色々なことをやってきていて、気づいていないだけでたくさん強みを持っているはずです。思うのは、全然知らない0のことをハッタリで「できます」というのはダメですが、10%〜20%くらいの知識があってやる気があるなら「やらせてください」と言ってもいいのではないでしょうか。「専門家ではないけれど、やったことがある」「その楽しさや辛さも知っていて、ある程度ならできる」、そこで経験を培って自分の強みにしていけばよいと私は思っています。

「もうひとつの柱」を見つける方法

なかなか自分の強みを見つけられない人は、どのようにして見つけるとよいでしょうか?

以前私がやったのは、「自分のよいと思うところ」「強みだと思うところ」「課題だと思うところ」、この3つの質問を周りの人20人にアンケートを取る方法です。とても恥ずかしいですし、勇気のいることですが(笑)、親、恩師、先輩、友達などに聞いてみると、自分では気づかない強みがたくさん出てきました。ですから、必ずしも自分ひとりで考えるのではなく、人に聞いてみることも自分を知るひとつの方法です。

あとは、色々な強みを持っている人を知るのも参考になります。自分と似た経歴を持っている人や、自分の興味のある分野でふたつ以上の柱を持っている人を知って、道が開けることもあるでしょう。

たとえば、三上さんの知っているふたつ以上の柱をもつ薬剤師さんには、どのような柱をもつ方がいらっしゃいますか?

たとえば、薬剤師×弁護士、弁理士、私のもつMBAもそうですが、海外MBAで英語ができて海外と日本の医療ベンチャー企業をつなぐ仕事をしている方もいます。それからアナウンサー、医師などもいますね。男性薬剤師で看護師免許を取得した私の友人は、「薬剤師はいざというときに注射を打ったり、患者に直接触れることができないから」と言う理由でダブルライセンスを取りました。そうすることで何かあったときに、介護や介助、投薬も自らで行うことができるというわけです。

なるほど。そうしたふたつめの柱を自分で見つけている方々は、どのようにしてそうした柱を選択しているのでしょうか?

漠然とふたつめの柱を見つけようと思っても、なかなか見つからないと思います。「薬剤師ってこれでいいのかな?」「ちょっと考えていたのと違ったな」「もっと自分はこうありたい」という気持ちがあるからこうした選択肢へのアンテナが研ぎ澄まされるのだと思っています。今のままで満足していたら、そこからさらにもっと違うかたちにしようとは思わないはずなので......。

だから自分がどうなりたいのか、それは本当にやりたいことなのかを考えることが大切で、必ずしもふたつの柱をもつことが正解ではありません。ただ、「もっとこうありたい」「もっとこうすべきだ」という理想や希望が強くあるのなら、同じようなことに関心を寄せている人の真似をしてみてもいいと思います。人の事例を真似ることで、新しく自分の強みができていくこともあるはずです。

キャリア形成に悩む薬剤師の方へ。「薬剤師」という軸があるからこそ挑戦できる

三上彰貴子先生

三上さんが「薬剤師をキャリアとしてひとつの軸に選んでよかった」と思うことは何でしょうか?

薬剤師という絶対に崩れない基盤があるからこそ、様々な挑戦ができます。薬剤師という軸をもつからこそ、先の見えないことにも挑戦して可能性を広げていけると思っています。

三上さんははじめ、なぜ薬剤師を志したのでしょうか?

本当なら「薬局や病院で薬剤師さんが優しくしてくれて...」というべきなのでしょうけど(笑)、私の場合は手に職をもって経済的にも自立した女性になりたかったからです。ひとりの人間として、それがとても大切だと思ったので選びました。

実際に薬剤師という仕事は、人生の節目や環境が変わったときにも必ず助けてくれました。結婚や出産、大学院に通うときにもちょっとした働き口があったのは、やはり薬剤師という資格をもっていたから。薬剤師は私にとって、いざというときに助けてくれる守護神のような存在です。だからこそ、やりたいことや理想がある若手の薬剤師さんには、臆することなくチャレンジして欲しいと思います。

最後に自身のキャリアやスキルアップに悩む薬剤師の方へメッセージをお願いします。

私も結婚や離婚、出産、突然の米国生活などを経験して、「これからどうやって生きていこう」と悩んだ時期がありました。そして今も悩んでいますし、それはこれから先もずっと続いていくと思います。ある程度のプランを立てていても、想定外の出来事は生きていればいつでも起こりうるし、そうした出来事に一つひとつ対応していくなかでキャリアは培われているように思いますし、そう願いたいです。

将来のやりたいことが定まっていないときは、不安になるもの。でも、そういったときにも目の前のことと向き合い、いかに頑張れるかが重要だと思っています。将来を心配して今をおざなりにしてしまっては、素敵な将来はこないでしょう。ですから、まずは毎日出てくる疑問に対して、真摯に向き合って日々勉強していくこと。そうしてふと振り返ったとき、キャリアはできあがっているものだと思っています。

まとめ

人の志は十人十色。なりたい薬剤師の姿も、人によって違うでしょう。20代では自分の興味・関心に忠実にチャレンジをしてみましょう。そして、やりたいことが見つからなくても、毎日の何気ない疑問ややるべきことに真摯に向きあうことを忘れない気持ちが大切です。

次回で最後となる第3回目の連載では、「女性薬剤師のキャリア」についてお話を伺います。結婚、出産などでライフステージが大きく変わる可能性の高い女性は、どのようにしてキャリアを積んでいくべきでしょうか。 引き続き、三上さんにお話を伺います。

▼▼ 三上彰貴子さんのインタビュー一覧


第1回 薬剤師のスキルアップ「持てる知識は患者さまのために」
第2回 薬剤師と「もうひとつの柱」の見つけ方
第3回 女性薬剤師のキャリア「ライフステージの変化は"強み"になる」
三上彰貴子さんの写真

    三上彰貴子(みかみ・あきこ)さん

外資系製薬株式会社勤務後、慶應義塾大学にてMBA取得。 卒後、朝日アーサー・アンダーセン(現PwC)にて主に医療分野のコンサルティングを手がける。 2005年より独立し、株式会社A.M.Cを代表取締役となり、製薬会社・化粧品会社関連のマーケティング、人財育成セミナーなどを行う。 現在は、薬科大学博士課程にて研究も行う。 その他、薬局薬剤師、登録販売者向けの講師、薬科大学非常勤講師にも携わる。

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記事掲載日: 2020/10/02

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