- 公開日:2022.08.17
医療的ケア児に薬剤師ができること。小児特定加算と現状の課題
高齢出産の増加や新生児医療の発達により、医療的ケアを必要とする子どもが増えています。そうした背景から2022年の調剤報酬改定では、医療的ケア児に対する薬学的管理や指導を行った場合の評価として、「小児特定加算」が新設されました(小児とは7歳以上15歳未満の児を指します)。
この記事では、医療的ケア児の現状や問題点を踏まえながら、薬剤師ができることについて解説していきます。
医療的ケア児とは?
医療的ケア児とは、「日常生活及び社会生活を営むために恒常的に医療ケアを受けることが不可欠である児童(18歳以上の高校生等を含む)」と定義されています。
医療的ケアは、「日常生活に必要とされる医療的な生活援助行為」。具体例には、気管切開部の管理や人工呼吸器の管理、吸引、在宅酸素療法、胃ろう・腸ろう・胃管からの経管栄養、中心静脈栄養などがあげられます。
医療的ケア児の現状
近年では、新生児医療の発達やNICU(新生児集中治療室)の整備がすすんだことにより、超未熟児や先天的な疾病を持つ子どもの命を救えるケースが増えています。これにより、医療機関を退院したあとも引き続き人工呼吸器や経管栄養などの医療的ケアを日常的に必要とする子どもの数が急増し、その数は2020年度時点で全国に約2万人(在宅)を超えると推計され、過去10年で約2倍に増加しています。
これらの子どもたちが医療やそのほかの福祉、保育、教育、社会サービスを利用することは容易ではなく、従来は病院や施設の医療ケアを利用することがほとんどでした。しかし、今回の医療報酬改定により、今まで主に高齢者が利用していた在宅医療の仕組みを医療的ケア児も利用しやすくなり、地域包括ケアシステムの恩恵を受けることが期待されています。
医療的ケア児の抱える問題
医療的ケアを必要とする子どもやその家族等の負担は大きく、社会全体で支えていく必要がありますが、既存のシステムでは様々な問題があります。その一つが、医療的ケア児に対する受け入れ施設の少なさです。保育園などにおける障害児の受け入れは進んできていますが、医療的ケアに対応できるスタッフ(主に看護師)の確保が難しく、医療的ケア児が通所できる施設は限られてしまいます。
預け先が見つからなければ、家族の負担は肉体的・精神的に非常に大きなものとなります。とくに、医療的ケア児が既存の障害類型に当てはまらない場合、国の十分な補助を受けられないことも多くあります。家族の負担がさらにかさむなど大きな問題となっているのです。
また、小児に対する薬物療法は約7割が適応外使用といわれており、原則として公的保険は適用されないことや、医学的見知から最善の治療を実施するには適応外使用をせざるを得ないことなど、薬剤師には保険制度の把握や高度な医学・薬学的知識が求められます。さらに医療的ケア児の多くは薬剤の経管投与が必要であり、錠剤の粉砕や脱カプセルなど手間もかかるため、現状では医療的ケア児に対応できる薬局は多くありません。
薬剤師の積極的な関わりを期待し、2022年度の調剤報酬改定では、医療的ケア児に対する薬学的管理や指導を行った場合の評価が新設されました。外来は「服薬管理指導料小児特定加算(350点)」、在宅は「在宅患者訪問薬剤管理指導料小児特定加算(450点)」です。
医療的ケア児に薬局や薬剤師ができること
医療的ケア児の多くは薬物治療を必要としており、"くすりの悩み"を抱えているケースも少なくありません。薬の専門家である薬剤師は医療的ケア児やその家族に対して何ができるでしょうか。具体例を紹介します。
医療的ケア児の薬剤管理・指導
小児に対する薬物治療は、小児用量や小児の薬物動態に関する知識が必要となります。さらに医療的ケア児の多くは複数の薬剤を服用しており、薬物相互作用のチェックが欠かせません。また、経管投与を行うケースなどでは薬剤の粉砕や混合が必要となり、配合変化等の知識を身につけなければなりません。
また、意思疎通の難しい医療的ケア児では、家族等に対して典型的な副作用症状を説明し、疑わしい症状が現れたらすぐに連絡するように指導するなど、家族と協力して副作用の早期発見に努めることも重要となります。
医療的ケア児の家族へのケア
再々述べてきたように、医療的ケア児に対する社会的インフラの整備は十分でなく、負担がかさんだ家族等のQOLの低下や精神的ストレスが問題となっています。薬剤師はチーム医療の一員として他業種と連携を図り、本人を含む家族のケアも行うことが期待されています。
医療機関と薬局・薬剤師の連携
医療的ケア児の薬物治療は、複雑かつ特別な配慮が必要であることから、薬局と医療機関との連携がとくに重要となります。
2022年度診療報酬改定(医科)では、「退院時薬剤情報管理指導連携加算(150点)」が新設されました。これは、医療的ケア児の退院に際して、入院医療機関の医師または薬剤師が退院後の服薬等に関する必要な指導を行ったうえで、保険薬局に対し調剤に必要な情報などを文書により提供した場合のもの。医科でも積極的に調剤薬局との連携をすすめることが求められています。
小児在宅医療への積極的な参入
医療的ケア児への調剤は、通常よりも複雑かつ特別な配慮が必要なことが多く、1件あたり数時間を要することもあります。採算性も決して高いとはいえないため、医療的ケア児に対する小児在宅医療に参加する薬局や薬剤師はごく一部にとどまるのが現状です。
しかし、医療的ケア児の日常生活・社会生活を社会全体で支援できるように、薬剤師の小児在宅への積極的な参入が求められています。しかし、小児医療分野についての知識を有している薬剤師はまだまだ少ないため、知識や技術の習得などのスキルアップも必要です。一つの方法として、「小児薬物療法認定薬剤師」「妊婦授乳婦薬物療法認定薬剤師」などの資格を取得することにより、専門性の向上が期待されています。
医療的ケア児に薬剤師ができることとは - DI online
医療的ケア児を社会で支えていくために
この記事では、医療的ケア児に薬剤師ができることについて、現状や問題点をふまえながら解説していきました。医療的ケア児に対する社会的インフラの整備はまだまだ十分とはいえず、家族等の負担は非常に大きなものとなるため、社会全体として支えることが必要です。
令和3年には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が公布されるなど、医療的ケア児をとりまく環境は少しずつですが、改善されつつあります。医療的ケア児に対して薬剤師は何ができるのか、今後の動向に注目していきましょう。
監修者:松田宏則(まつだ・ひろのり)さん
有限会社杉山薬局下関店(山口県下関市)勤務。主に薬物相互作用を専門とするが、服薬指導、健康運動指導などにも精通した新進気鋭の薬剤師である。書籍「薬の相互作用としくみ」「服薬指導のツボ 虎の巻」、また薬学雑誌「日経DI誌(プレミアム)」「調剤と報酬」などの執筆も行う。