- 公開日:2020.06.26
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』とは?『妊婦・授乳婦専門薬剤師』との違いも解説【薬剤師の資格入門】
妊娠中や授乳期であっても、薬物治療を必要とするケースは多く、薬剤師による専門的な判断と適切なアドバイスが求められています。
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』とは薬物療法に関する高度な知識、技術を持ち、母体の健康と母乳保育の利点に配慮しながらアドバイスやカウンセリングを行う薬剤師をあらわします。この記事では『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』に求められる資質や、資格を取得する方法、そして資格取得のメリットについて解説していきましょう。
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』とは?
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』は、一般社団法人「日本病院薬剤師会」によって認定される資格の一つ。妊娠および授乳期における薬物療法に関して高度な知識や技術をもち、胎児・乳児に配慮した薬物療法を有効かつ安全に行うことができる薬剤師を認定する制度です。2008年にスタートした比較的新しい認定薬剤師制度ですが、2019年10月1日時点において、174名(うち更新者66名)の薬剤師が認定を受けています。
また、『妊婦・授乳薬物療法認定薬剤師』の上位資格として『妊婦・授乳婦専門薬剤師』が設けられており、認定薬剤師が行う実務に加えて、教育や研究のできる薬剤師が認定されています。『妊婦・授乳婦専門薬剤師』になるためには、申請時に『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』であることに加え、所定の学会会員であることや規定数以上の学会発表・学術論文の実績、病院長あるいは施設長などからの推薦、妊婦・授乳婦専門薬剤師認定試験の合格が必要となります。
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▼参考記事はコチラ日本病院薬剤師会 「妊婦・授乳婦専門薬剤師」の理念と目的
▼参考資料はコチラ日本病院薬剤師会 「妊婦・授乳婦専門薬剤師」認定申請資格
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』に求められる資質
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』は、妊婦や授乳婦に対して単に薬剤の情報を伝えるだけでなく、信頼関係に基づいた薬物治療を提供していかなくてはなりません。医師やほかの医療従事者と連携する機会も多く、良好なコミュニケーションを形成する能力が求められています。
また、生殖医療において取り扱う薬剤の情報やエビデンスは、胎児の発育遅延や乳児の健康に影響を及ぼしかねません。母子保健福祉ならびに関連法規を十分に理解し、生命倫理に配慮したアドバイスやケアが行えることも重要な資質といえます。
『妊婦・授乳薬物療法認定薬剤師』の具体的な業務内容
妊婦や授乳婦に対する薬物治療は、薬物が胎児や乳児に影響を及ぼす可能性があることから特別な注意が必要とされています。『妊婦・授乳薬物療法認定薬剤師』は、妊婦や授乳婦の抱える症状に対して、妊娠月例や個々の状態に配慮した薬物治療を選択・提案するのが主な業務です。医師をはじめとした医療系職種と患者さまの双方にアドバイスを行います。
患者さまからは、「妊娠に気づかずに薬剤を服用してしまった」「喘息や精神科疾患などの現病歴があり、妊娠を希望する場合に薬剤の影響が心配」など、妊娠や授乳と薬剤に関わる薬学的なアドバイスを求められます。また、薬物治療に対して不安を抱える患者さまに対してカウンセリングを行い、精神的なケアを提供することも重要な業務の一つです。
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』資格取得によるメリット
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』の資格を取得することで、産婦人科や小児科のある病院やその門前薬局での活躍が期待されています。妊婦や授乳婦に対する薬物治療は、倫理的配慮から治験や臨床研究ができないため、臨床データに乏しいことがほとんどです。資格の取得を通じて専門知識を身につけることで、自信とやりがいを持ってアドバイスを行うことができるようになります。
また『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』を取得することにより、通常の薬剤師としての給与のほかに、認定薬剤師としての資格手当が上乗せされる場合もあります。キャリアプランを形成するうえで、資格が有利にはたらくことも期待できます。転職の際にはアピール材料になり、ほかの薬剤師との差別化を図ることも可能になるでしょう。
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』の取得条件
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』を取得するための条件や方法、また更新するための条件について解説します。
取得方法
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』の認定申請は、以下の通りです。認定申請書およびチェックリストに必要事項を記載して関連資料を添付し、指定の期日までに日本病院薬剤師会事務局宛に郵送することで「妊婦・授乳婦専門薬剤師部門認定審査委員会」による審査が行なわれます。認定の可否については文書で通知され、審査の合格者には認定の手続きに関する案内等の書類があわせて郵送されます。
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』の資格を取得するためには、以下のすべてを満たしている必要があります。
(1) 日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた見識を備えていること。
(2)薬剤師としての実務経験を5年以上有し、日本病院薬剤師会の会員であること。ただし、別に定める団体のいずれかの会員であればこれを満たす。
(3)別に定める学会のいずれかの会員であること。
(4)日病薬病院薬学認定薬剤師であること。ただし、日本医療薬学会認定薬剤師であればこれを満たす。
(5)申請時において、病院または診療所に勤務し、妊婦・授乳婦の薬剤指導に引き続いて3年以上従事していること(所属長の証明が必要)。
(6)日本病院薬剤師会が認定する研修施設(以下「研修施設」という)において、「模擬妊婦・模擬授乳婦とのロールプレイ」を含めたカウンセリング技術等や、情報評価スキルの確認トレーニング等の実技研修を40時間以上履修していること、または研修施設において3年以上、妊婦・授乳婦の薬剤指導に従事していること(所属長の証明が必要)。
(7)日本病院薬剤師会が認定する妊婦・授乳婦領域の講習会、及び別に定める学会が主催する妊婦・授乳婦領域の講習会などを所定の単位(20時間、10単位)以上履修していること。 ただし、日本病院薬剤師会主催の妊婦・授乳婦に関する講習会を1回以上受講していること。
(8)妊婦・授乳婦の薬剤指導実績が30症例以上(複数の疾患)を満たしていること。
(9)病院長あるいは施設長等の推薦があること。
(10)日本病院薬剤師会が行う妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定試験に合格していること。
引用:妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定申請資格(令和元年12月21日改定)
※2020年06月当時
更新方法
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』の更新は新規認定時と同様に、更新申請書およびチェックリストに必要事項を記載して関連資料を添付し、指定の期日までに日本病院薬剤師会事務局宛に郵送することで、「妊婦・授乳婦専門薬剤師部門認定審査委員会」による審査が行われます。認定の可否については文書で通知され、審査の合格者には更新の手続きに関する案内等の書類があわせて郵送されます。
『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』の認定期間は5年間であり、引き続き資格を維持するためには、認定の更新が必要です。更新を受けるためには、以下の条件をすべて満たしている必要があります。
(1)認定期間中継続して、日本病院薬剤師会の会員であること。ただし、別記1に定める団体のいずれかの会員であればこれを満たす。
(2)認定期間中継続して、日病薬病院薬学認定薬剤師であること。ただし、日本医療薬学会認定薬剤師であればこれを満たす。
(3)更新申請時において、日本薬学会、日本医療薬学会、日本臨床薬理学会のいずれかの会員であり、かつ、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本先天異常学会のいずれかの会員であること。
(4)認定期間中、施設内において妊婦・授乳婦に関する専門的業務に従事していたことを証明できること。
(5)更新申請までの5年間に、別に定める妊婦・授乳婦に関する講習単位40単位以上(特段の理由がない限り、毎年最低3単位以上)を取得すること。ただし、40単位のうち日本病院薬剤師会の妊婦・授乳婦に関する講習会あるいは妊娠と薬情報センター(国が国立研究開発法人国立成育医療研究センターに設置したもの)が実施する講習会で12単位以上を取得すること。
(6)更新申請までの5年間に、妊婦・授乳婦の薬剤指導実績が15症例以上を満たしていること。
(7)更新申請までの5年間に、関連する国際学会、全国レベルの学会あるいは日本病院薬剤師会ブロック学術大会において妊婦・授乳婦に関する学会発表が1回以上(共同発表者でも可)、または複数査読制のある国際的あるいは全国的な学会誌・学術雑誌に妊婦・授乳婦に関する学術論文が1編以上(共同著者でも可)あること。
※所定の理由書を提出することにより、最長3年間まで更新を保留することが認められています。保留期間中は、妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師を呼称することはできません。
引用:妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定の更新条件(令和元年12月21日改定)
※2020年06月当時
まとめ
この記事では『妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師』に求められる資質や取得するメリット、取得する方法などについて解説しました。
近年では、女性の初産年齢の高齢化にともない、持病や合併症を有する妊婦や授乳婦も増えてきています。そのため、変化する女性のライフスタイルにあわせ、適切なアドバイスを行える薬剤師は今後ますます重宝されるでしょう。
資格の取得を通じて特定分野の知識を深めることは、自分の強みをつくるだけでなくスキルアップにもつながります。不安を抱えるお母さんと小さな命を守るサポートができる薬剤師を目指し、挑戦してみてはいかがでしょうか。
ファルマラボ編集部
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