- 公開日:2021.08.16
増え続ける薬局数。"生き残る薬剤師"になるために必要なこと
薬局の数はコンビニエンスストアよりも多く、2019年度末には6万軒を超えたことで話題を呼びました。一方で、近年では増え続ける社会保障費を抑えるために調剤報酬は減算傾向にあり、新型コロナウイルス感染症の影響により処方せん枚数が大幅に減少していることから、長らく売り手市場であった薬剤師の就職・転職市場に変化があらわれはじめています。
この記事では、現在の薬局数や薬剤師数の動向に触れながら、今後も生き残る薬剤師になるために必要なスキルやマインドについて解説していきます。
薬局数の推移や動向
日本の医療制度を支える「医薬分業」の普及に伴い、薬局の数は年々増え続けています。医薬分業のはじまった1974年には約26,000軒であった薬局の数は、2006年には倍の約52,000軒となり、2019年末時点には60,171軒と、はじめて6万軒を超えました。内訳としては、個人薬局や1店舗のみの法人薬局の割合は減少傾向にありますが、20店舗以上ある法人薬局の割合は大きく伸びており、大手チェーンへの集約化が進んでいることがわかります。
薬局数の増加に伴って、調剤医療費も増え続けています。少子高齢化社会を迎える日本では、生産年齢人口が減少して労働力不足が深刻になるだけでなく、年金や国民医療費などの社会保障費も増大することは周知の事実です。増え過ぎた薬局は社会保障費の抑制を目指す政府のターゲットとなり、実際に調剤報酬の減算傾向も続いています。
内閣府が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2019(骨太の方針)」においても、「薬局における調剤の実態や報酬体系を踏まえ、調剤料などの技術料について、意義の検証を行いつつ適正な評価に向けた検討を行う」ことが明示されました。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大による受診控えや処方日数の長期化が影響し、多くの薬局で処方せん枚数は減少傾向にあります。経営に打撃を受けた薬局も多く、ただ処方せんを応需するだけでは生き残れない状況になってきました。
今後は対物業務から対人業務への転換に加えて、かかりつけ薬局や地域連携薬局など、地域に根差した活動がいっそう求められるでしょう。
薬剤師数の推移や動向
次に、薬剤師の数について見ていきましょう。「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、2018年12月31日時点における全国の届出薬剤師数は311,289人でした。前回調査と比較すると9,966人(3.3%)増加しており、薬局だけでなく薬剤師も増え続けていることがわかります。
一方で、今後の薬局削減の動きや社会保障制度の見直し、薬価の引き下げ、AI化、非薬剤師の活用(0402通知)などを背景に、薬剤師の雇用環境は変化しつつあるのが現状です。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、経営余力の小さい薬局では、薬剤師の採用を控えようとする動きも出てきています。これまで売り手市場であった薬剤師業界ですが、今後は薬剤師の資格をもっているだけでは評価されない時代に突入しようとしているのです。
今後も生き残る薬剤師になるために
薬局の数は増加傾向にありますが、今後の見通しは決して明るいとは言い切れません。また、近年ようやく薬学部の定員を見直す動きが出てきたものの、今後しばらくの間、薬剤師の数は増え続けることが予想されています。
薬局や薬剤師にとって厳しい状況が続くなかで、今後も生き残る薬剤師になるためには、どのようなスキルを身につけていけばよいのでしょうか。ここでは、いくつか例をあげながらご紹介していきます。
対人業務のスキルを磨く
対人業務とは、患者さまやその家族への服薬指導や重複投薬・飲み合わせなどの処方内容チェック、在宅医療における薬学管理、服薬状況・副作用のフィードバック、残薬解消など、「患者さま中心」の業務をあらわしています。
今後はよりいっそう、秤量・混合・分割などの調製業務や薬剤交付、在庫管理などの「薬中心」の対物業務から、対人業務への転換が求められていくでしょう。対人業務を得意とする薬剤師が力を発揮していくと考えられています。
在宅医療のスキルを磨く
患者さまが住み慣れた地域で安全かつ良質な医療を受けるための方法の一つとして、「在宅医療」の重要性が高まっています。薬剤師は、患者さまの自宅や入居先を訪問して、服用方法や保管・管理における指導、副作用・飲み合わせの確認、多職種への情報共有などの役割を果たさなければなりません。
これまでの薬剤師業務とは異なる知識や経験が求められるため、在宅医療のスキルを磨くことでほかの薬剤師と差をつけることができるでしょう。
コミュニケーションスキルやマネジメントスキルを磨く
前述の通り対人業務や在宅医療が重視されるようになると、患者さまやその家族はもちろん、医師や看護師などの多職種と接する機会も増加するでしょう。円滑なコミュニケーションにより信頼を獲得できる薬剤師は、今後も多くの職場で必要とされます。また、マネジメントスキルや経験は、管理薬剤師や薬局長、エリアマネジャーとして即戦力が期待できるため、転職市場においても有利です。
業務で役立つ資格を取得する
薬局薬剤師において代表的な資格である「研修認定薬剤師」を取得すれば、かかりつけ薬剤師として地域医療において力を発揮できます。薬剤師としての専門性を高めるために、上位の「認定薬剤師」や「専門薬剤師」資格を取得するのもおすすめです。
転職も視野に入れる
現在勤務している職場において、スキルアップを目指すことが難しい場合には、早いうちに転職を視野に入れて活動することがおすすめです。
かかりつけ薬局や地域連携薬局など、対人業務に力を入れている薬局や、在宅医療に前向きに取り組んでいる薬局で勤務できれば、今後の薬剤師業界において必要なスキルを身につけやすいでしょう。キャリアプランや研修制度が充実している薬局に転職することも、スキルアップの近道と言えます。
今後も必要とされる薬剤師になるために
この記事では、現在の薬局数や薬剤師数の動向に触れながら、今後も生き残る薬剤師になるために必要なことについて解説していきました。近年では対物業務から対人業務へのシフトが求められるなど、時代ともに薬剤師を取り巻く環境は変わりつつあります。求められる役割やスキルなどを意識しながら、日頃からスキルアップ目指すことが重要です。
現在の職場でスキルアップが難しい場合には、転職という選択肢が必要となる場合もありますが、1人で転職を成功させるのは難しいかもしれません。転職を考えた際は、これまでの経験や今後の目標を再確認しながら自身に合った職場を見つけられるよう、薬剤師専門の転職コンサルタントへの相談も視野に入れると良いでしょう。
ファルマラボ編集部
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